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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第18話 水空環奈はリベロが上手い

「高さ……ですか?」


 思いもしていなかった指摘に面食らってしまいます。だってそれは自分が唯一持っているもの。それまで駄目だと言われたらもう自分にはなにもありません。


「大海さん、木葉さんの最高到達点っていくつでしたっけ?」

「入学時点でスパイク303、ブロック292センチ」

「対して翠川さんはスパイク288、ブロック271センチ。今はもう少し上がってると思うけど、それでも身長で勝る木葉さんに高さで負けているのが現状よ」


 『高さとは身長じゃない。打つ瞬間、守る瞬間、誰よりも高く宙にいることよ』。ビーチバレーの時に雷菜さんに言われたことを思い出しました。

 自分は木葉さんより数センチ身長が高いです。でもいくら高いからといって、それはイコール最高到達点ではない。


「自分はもっと高く跳べるってことですか?」

「ポジティブで助かるわ。翠川さんは中途半端にできちゃうから気づかなかったけど、正しい跳び方をまだ知らない。助走、踏み切り、空中姿勢。これらの技術を学べばブロックにもスパイクにも活用できるはずよ」


 高さ……。そういった観点は胡桃先輩から全く学んできませんでした。『バレーボールは高さじゃない』が信念の胡桃先輩はおそらく意図的に高さに関する技術に触れてこなかったのでしょう。


「わかってたならもっと早く教えてやったらよかったのに?」

「いやあーしもさっき大海さんから試合の動画を見せてもらうまで気づかなかったんすよ……」

 動画……他の学校はベンチ外の方々が試合の動画を撮っていたりするのでしょう。天音さんの動画アカウントを共有させてもらえるようになったとはいえあくまで投稿されるのは紗茎と藍根の試合だけ。花美がこれから当たる無数の学校との試合を録画してくれる方はいません。これは少し考えなくてはならないかもしれません。


「近田さんと大海さんの意見もお伺いしたいのですが」

「私もブロックなら小内と同意見だ。跳躍力はもう少しほしいが、その他の技術ならうちの一軍連中にだって並ぶだろう。戦術的には加賀美や木葉よりも私好みだしな」

「あたしも異論なし。というか跳躍力よりも攻撃の技術を磨いてほしいと思うくらいブロックは優秀ですよ。水空さんがいる以上現状のトータルディフェンスが一番厄介ですしね」

 近田さんと大海さんも小内さんと同意見ですか。できれば別意見もほしかったですが、それだけ跳躍力がたりないということなのでしょう。


 思えば自分が今までやってきたスポーツは水泳とテニス。どちらも高さが重視されるスポーツではありませんでした。故に高く跳ぶ方法を自分は学んでこなかったのです。というか今はそれよりも、


「トータルディフェンスってなんですか?」

 大海さんが口にした謎用語が気になります。やっぱり上位の方々といますと自分の知識のなさが露呈しますね。


「小内……用語くらい教えておけよ」

「いやできてるからてっきり知ってるものかと……」

 自分のせいで小内さんが近田さんに怒られています。まだコーチ就任して二カ月ほどしか経ってないのに求めているものが多い気がします。改めてこの方厳しいです。


「いい? トータルディフェンスっていうのはネットディフェンスとフロアディフェンス……つまりブロッカーとレシーバーが連携して守備をすること。あーしたちがよくやってる翠川さんがクロスを塞ぎ、水空さんがストレートに待ち構えるってのがいい例ね」

 そう説明されたら確かに自分はできています。というか胡桃先輩はそれしか教えてくれませんでした。


「それがバレーの基本戦術なんですか?」

「まぁそうね。これが木葉さんのようなゲスブロックより翠川さんや真中さんのようなリードブロックが推奨される理由。多少遅れてもついてさえいければ拾える可能性が高まるわ」

 そういえば環奈さんが自分のブロックはレシーバーからしたら助かると言っていました。なるほどなるほど。


「じゃあ『自分』で間違いないじゃないですか!」

 自分一人で止めようとしてしまう『私』ではできない戦術。やっぱりしょせんは中学生ですね、高海さん。


「何を言ってるかはわからないけど、ドシャットしなくていいって意味じゃないわよ。むしろ花美的にはスパイクを止める方が効果的だと思うわ」

「でもそれじゃトータルディフェンスは……」

「トータルディフェンスはレシーバーが拾うだけじゃない。ブロックで仕留めるのも一種のトータルディフェンスよ。花美には圧倒的レシーバー、水空さんがいる。あの子が待ち構えてるってプレッシャーは、わかってる人からすれば百八十の壁がいることよりも驚異的なはず。だから水空さんがコースを塞ぎ、別コースに打ってきたスパイクをドシャット、っていうのが理想的ね」


 そう言われて思い浮かぶのは今日の一軍対二軍の最初の方のプレー。あの時は脚を怪我している設定の環奈さんがあまり動かず、そこ以外に狙いをつけた蒲田さんのスパイクを木葉さんがドシャットしてみせたはずです。あれが環奈さんを獲得した花美の理想的なプレー……!


「なんで今までそれをやらなかったんですかね?」

 これまでの試合では環奈さんが積極的に動き自分のブロックに合わせてボールを拾ってくれる場面ばかりでした。だから自分もそれに合わせたのですが、動かなくていい分環奈さんはそちらを選びそうなものです。

 そう声に出すと、小内さんは気まずそうに視線をそらしました。その先にはイカを口に入れている近田さんがいます。


「自分で言えよ。言いたくないことも言わなきゃいけないのが指導者だぞ」

「っすよね……。あー、翠川さん。あんま真に受けないでね。水空さんも悪気があったわけじゃないだろうし」

 悪気? どういう意味ですか?


「まぁつまり、水空さんはこう判断していたのよ。『ブロッカーに任せるより自分が拾った方が確実だ』、って」


 ブロックは無敵の技ではありません。ブロックアウト、フェイント、ワンタッチ。下手にボールがブロックに当たったせいで拾えなかったという場面を半年足らずのバレー経験ですが何度も目の当たりにしています。


「……まぁ自分がそう思われるのは仕方ないですが、胡桃先輩ならちゃんとしたブロックもできると思いますが」

「翠川さんでも真中さんでも、たりないのよ。水空さんのレベルには。それくらいの化物よ、あの子は」


 胡桃先輩でも……環奈さんが求めるレベルには至っていない……。


 その事実が自分の意志を揺るがせる。本当に胡桃先輩のやり方でいいのか。それで木葉さんに勝てるのか。もうとっくに答えは出ていて変えるつもりもないのに、どうしても考えてしまう。


「あれでだいぶ丸くなったよ、水空は。入ったころなんてあたし最強! って感じで上級生をみんな馬鹿にしてたからな。まぁ実際最強だからタチが悪いんだが……おかげでだいぶ嫌われたよ。矯正のためにだいぶ無茶言ってたからなぁ……」

 本来なら環奈さんの内緒にしたがっていた過去を知れてほくそ笑む場面ですが、生憎今の自分はそうできる余裕はありません。


「早く高く跳ぶ方法を教えてください」

 焦ってもいい。迷うな。胡桃先輩についていくと自分は決めたのだから。絶対に胡桃先輩のやり方で環奈さんに認めさせてやります。


「そうしたいけどあーしが教えられるのはあくまで基礎的な部分だけ。せっかくの機会なんだし教えてもらってきたら?」

 焦る自分を落ち着かせるためか、小内さんはやけに回りくどい言い方をします。そんなことを言われたってイラついて余計焦るだけなのですが。


「つまりどういうことですか?」

「餅は餅屋。レシーブの水空さんに並ぶ、跳躍のスペシャリストがいるでしょ?」

 環奈さんに並ぶスペシャリスト。そこまで言われたらもうそれ以上は必要ありません。


 身長百五十センチでありながら、百七十センチを超える胡桃先輩並のジャンプ力を持つ『金断の伍』。


「雷菜さん……!」


 高さのせいで四軍に甘んじている彼女に、高さのことを学ぶ運びとなりました。

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