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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第16話 凡才の運命

「……ごめんなさいね、翠川さん。丹乃も。怖い目に遭わせたわね」

 食堂で提供された生姜焼き定食に舌鼓を打っていると、鰻さんがそう口火を切りました。


「あれ、焦ってるのよ」

 そしてコップに入った水を少し口に含み、遠い目をして語り始めます。


「今の紗茎の三年の代は外れ年って呼ばれていたのよ。部員は大勢辞めたし、スター選手もいない。不作の代だって私たちの学年では有名だったわ」

 そう言えば花美対紗茎の練習試合の時、天音さんが言っていました。高三を含めたチームより、中三もいたボイコット組の方が強いって。


「だから唯一クイーントリニティとして名を上げていた蒲田さんは努力した。外れ年と呼ばれていようと、他の代に負けない結果を残してやろうと」

 そして結果は、県予選ベスト八。自分たち弱小から見たら十分な結果ですが、藍根と共に二強と呼ばれ、近年ではほぼ一強状態にあったという紗茎からしてみれば最悪の結果と言えるでしょう。


「負けただけなら耐えられたかもしれない。でもきつかったのは周りの声でしょうね。よく聞く慰めの声は、飛龍流火がいなかったから。それに伴って蝶野風美が本調子ではなかったから。飛龍さんのことで試合中に監督と喧嘩し、双蜂天音が調子を崩したから。なんなら木葉織華と深沢雷菜が紗茎を辞めたから、なんて元も子もない話もあったわね。まぁ要するに紗茎の三年生はまったく期待されてなくて、実際期待に応えられなかったのよ」


 期待に応えられなかった。その気持ちは自分もわかります。


 だって自分も今、期待に応えられていないのだから。


「それに噂だけど、進路もまだ決まっていないようだし」

「進路、ですか」

 なんだか蒲田さんに親近感を覚えていたタイミングで自分にはまだ早い話が飛び込んできました。


「あれも私と同じで選手志望だけど、大学からもチームからもまだ声をかけられていないらしいのよ。たぶん前者よりもこっちの方が辛いんじゃないかしら。全国に行けないと中々目に留まらないのよね」

「鰻さんはもう決まってるんですか?」

「一応インハイの後声をかけられたわ。大学が三校とチームが一つ。でも二部リーグなのよねぇ。だからまだ色々考え中」

 へぇ……プロのバレーってリーグ制なんですねぇ……。それにしても、


「プロからお呼びがかかってるなんてすごいじゃないですか」

 素直な気持ちで褒めましたが、鰻さんの表情は複雑です。


「プロねぇ……。勘違いしている子も多いけど、バレーでお金を稼げていたらプロ、ってわけじゃないのよ。プロ契約しているのは一部の上位だけで、多くは会社員として働きながらバレー選手としても活動している。今色々改革もしているらしいけれど、現状日本はバレー選手として活躍するには厳しい環境なのよ」

「…………」

 ただ胡桃さんが正しいと証明するためにバレーをしている自分にとってはなんだか遠い話です。でも才能だけでプロになれると豪語していた自分にとって中々胸が痛い話でした。


「私からも一つ聞いていいかしら? 真中胡桃さんの進路はどうなっているの?」

「あの人は馬鹿だから今も必死に勉強してますよ。ていうかやらせてます」


 はっ! 胡桃先輩も鰻さんや蒲田さんと同じ県内最強の高校三年生、クイーントリニティの一人でした。たぶんそれ関連で訊いていたのに、ついいつもの癖で馬鹿にしてしまいました。


「ふぅん……やっぱりバレー選手は諦めたのね」

 そう反応した鰻さんは不思議と少し悲しそうです。


「仲良かったんですか?」

「別にそんなんじゃないわ。ただ凄いと思っていた選手が埋もれていくのは少し悲しいだけ」


 真中胡桃先輩。花美高校の三年生で、自分の師匠。そして既に引退してしまった人です。


 中学時代は高身長と超攻撃的プレーで有名だったそうですが、身長が伸び悩んだことで以前のようなプレーができなくなり、バレーから離れてしまいました。


「国体にも呼ばれなかったのよね?」

「そうですね、呼ばれたのは自分と環奈さん、梨々花さんだと聞いています」

「ふぅん……」

 そして鰻さんは「あの中学生も見る目がないわね」と小さくつぶやき、残っていた水を全て飲み干しました。


「ごちそうさまでした。では自分ちょっと自主練行ってきますね」

 鰻さんが語っている間適当に相槌を打っていたので早く食べ終わった自分は、食器を手に取り頭を下げます。


「あら、あなたも行っちゃうの? 日中あんなに試合したんだし、焦ってもいいことないわよ?」

「わかっています。でも自分には時間がないんです」


 早くしないと胡桃先輩が卒業してしまう。そうなってしまってはもう遅いんです。


「自分は胡桃さんの高校三年間が無駄ではなかったと証明しなければならないんです」


 胡桃先輩は昔の方が強かったのでしょう。中学時代から比べたら高校生の胡桃先輩は劣化してしまったのかもしれません。


 でも自分が今の胡桃先輩の戦い方で強くなれればそれが正しいと証明することができます。


 独りよがりな『私』と中学の胡桃先輩より、みんなを助ける『自分』と高校の胡桃先輩が正しかったと。


 でも今のままじゃ勝てない。ただ胡桃先輩の真似事をしていても時間が足りない。


 あくまでも『自分』を、胡桃さんをベースに、さらに別の要素をプラスする。それが強くなるための最短ルート。


 だから自分は基本に立ち返ってみることにしました。


「自分はどんな練習をすればいいですか、小内さん」


 わからなかったら大人を頼る。そしてできれば様々な視点からの角度がほしい。


「近田さんと大海さんも、自分を助けてください」


 我らが花美高校のコーチ、小内さん。そして強豪紗茎と藍根を指揮している近田さんと大海さん。


 自分は三人の指導者に教えを請うことにしました。

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