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つなガール! NEXT  作者: 松竹梅竹松
第4章 間違いの続き
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第4章 第15話 上級生たちの確執に下級生を巻き込まないでほしいです

「本日から二軍でお世話になります翠川きららです! よろしくお願いしますっ!」

 一軍の隣の二軍の部屋を開けた自分はめちゃくちゃ丁寧に頭を下げました。


二軍メンバーは紗茎三年の蒲田さん、陽炎さん。藍根三年の鰻さん、二年の矢坂さん。そして紅葉学園二年の茂木さんという五人。一緒に海合宿に行った一軍の方々とは違い、ほとんど初対面です。それに蒲田さんはとっても怖い方。失礼があってはいけないと思ったのですが、部屋にいたのは鰻さんと矢坂さんのお二人だけでした。


「こんばんはぁ、翠川さん」

「こんばんはです、鰻さん。他の方はどうしたんですか?」


「みんな自主練に行っちゃったわ。紗茎の人たちは練習熱心で偉いわよねぇ」

「そうですね、とても偉いです」

 とりあえず荷物の置いていないベッド……あるにはあるのですが、なんかすごい毛布が乱れてます。


「これ加賀美さんが使ってたベッドですか?」

「よくわかったわねぇ」

「まぁこの部屋を使ってたガサツな方ってあの方くらいでしょうし……」


 とりあえず軽く整えてベッドに腰かけます。んー、一軍のやつより硬いです。それに部屋も狭いし、装飾もない。まぁ高校生が使う宿泊所にしては十分上等なのですが、感覚が狂ってしまいました。


「待っていたわよぉ、翠川さん」

「ひぃっ」


 う、鰻さんが隣に座ってきました! この方確か変態だったはず! 流火さんは以前の合宿で同じ布団に潜り込んでくるレベルでしたが、あれよりひどかったらやばいです!

「そんな緊張しなくて大丈夫よぉ。私百六十センチ以下にしか興味ないから」

「そ……そうですか……」

 よかったー、百八十五センチで。こんなにこの身長がうれしかったことはありません。


「ところでお二人は練習に行かなくていいんですか?」

「別に身体を動かすだけが練習じゃないわよ。大海監督に撮ってもらっていた試合の映像を観たり、ボールに触ったりしてるわ」

「クールダウンもしなきゃ怪我や故障に繋がっちゃうから……」

 はー。一軍の方たちの一見遊んでるように見えるやつもちゃんと練習になってたんですね。


「それより一緒にごはん食べに行きましょう? 周りほとんど紗茎の関係者だからちょっと息苦しいのよ。これから国体まで何度か会う機会もあるでしょうし、私が翠川さんと仲良くなっておきたいのよ」

 そう言われてみればよく知らない紅葉学園の方々を除いて、紗茎と関わりがないのは自分と梨々花さん、それとこのお二人くらいですか。


「でも鰻さんたちは入れるかもしれませんが、自分が選抜メンバーに入れるかは怪しいですよ……?」


 合宿が終わる明後日までに二軍に入っていなければ選抜メンバーになることはできません。


 でも今日の試合でわかった自分の実力。単純な技量で考えたら三軍、四軍に入ることすらできないでしょう。


 なのに鰻さんはなにも気にしてない様子で相変わらずな妖艶な笑みを浮かべていました。


「大丈夫よ。あなたは身長が高いから」


 身長。努力もなにも関係ない、たまたま持って生まれただけの偶然の産物。


 そんなことで認められてもなんもうれしくないです。


「ずいぶん余裕だな、藍根は」

 少しムッとしていると、荒い息に混ざった低い声が部屋の温度を高めました。


「そちらはずいぶんと余裕がないんじゃない? 蒲田さん」

「当然だ。インターハイで結果を残せなかったからな」

 滝のように流れる汗をタオルで拭いながら蒲田さんが部屋に帰ってきました。ですが替えのシャツに着替えただけでまた出て行こうとしています。おそらく自主練をしていたのでしょう。


「我々の目標は全国制覇。全国ベスト八に入って満足している貴様たちとは違うんだ」

「誰か満足しているとでも言ったかしら?」


「態度が示している。少しでも上へ行こうと思っていたらこんなところでゆっくりしていられないはずだろう?」

「そうやって常に気を張りっぱなしだから負けたんじゃないかしら?」

 仲が良ければ軽口。でもこの二人は口撃。自分と矢坂さんがこの空気に耐えきれなくて目を伏せていると、次の鰻さんの一言が唐突にこのやり取りを終わらせました。


「いいえ、違ったわね。紗茎が藍根に負けた理由。単純に飛龍流火さんが怪我をしていたからでしょう?」


 荷物が飛んできました。


 蒲田さんのキャリーケースが自分と鰻さんの間に躊躇なくぶん投げられたのです。誰にも当たりませんでしたが、壁に激突してなにかが壊れたような音が遅れて聞こえてきます。


「あら怖い。実力じゃ勝てないから私を壊そうって算段かしら?」

「言葉を選べよ。私はそれでもいいと考えている」

「そ、それはだめです!」

 ただの暴言だったら自分も黙っていられますが、暴力は絶対にだめですっ!


 蒲田さんはおそらく自分より力は上ですが、試合をやった感じ身体を上手く使えていない。……私モードなら確実に封殺できるか。


「翠川きららか……。悪いが貴様と話すつもりはない」

 相手の出方を窺っていると、蒲田さんは急に荷物を持ち自分たちに背を向けました。そして一言、


「身長だけで選ばれた貴様を私は認めない」

 今までのやり取りの中で一番の凄みでそう吐き捨てると、ドアノブに手をかけました。


「……なんですか、それ」

 どいつもこいつも身長身長って。自分が今ここにいるのは身長のおかげ。それは事実かもしれません。でも。


「バレーボールは、高さだけではありませんっ!」

「貴様にだけはそれを言われたくない」


 心からの自分の叫びに最大限の侮蔑の視線を返すと、蒲田さんの姿が完全に部屋からなくなりました。


「…………!」

 なんで自分が身長のことを言っちゃだめなんですか。身長が高い人はバレーを語っちゃいけないんですか。才能のある人間は黙って悪役にでもなっていろというつもりですか。


「とりあえず、ごはん食べにいきましょうか」

 蒲田さんが去っていった扉を睨みつける自分に、鰻さんはそう声をかけました。

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