第4章 第9話 この話は読まなくてもいいです
「じゃあそろそろ寝よっか」
無駄に豪華な部屋でおしゃべりすること数時間。夜の十一時を回った辺りで天音さんがそう口にしました。
「えー、もっとおしゃべりしましょうよー。織華は特別扱いだから寮の部屋が個室だしー、こういうのひさしぶりなんですよー」
「だめだよ。明日も九時から練習だし早く寝なきゃ」
「ちぇー」
木葉さんはぶつぶつと文句を言いながらも歯磨きセットをカバンから取り出しました。そして天音さんも……と思ったら、取り出したのはなにかの缶。
「寝る前なのにアメですか?」
「これ舐めるとよく眠れるんですよ。最近はお世話になっています。みんなも舐めていいからねー」
へー、睡眠薬ですか。せっかくですし自分もいただきましょう。自分が手を伸ばすと、
「ぇへへー、おやすみぃー」
アメを口に入れた天音さんの顔が急に綻び、一瞬にしてベッドに倒れてしまいました。
『…………』
さすがにこの即効性はやばいです。自分以外の人も手を伸ばしていましたが、みんないっせいに止まってしまいました。
「……じゃん負けにしよっか」
「マジですか……」
このままやめてしまえばいいのに、流火さんが口火を切ったことでじゃんけんで負けた人が食べてみることになりました。
「さいしょはグー! ちっけっ!」
『たっ!』
結果。
「もうみなさんと勝負したくないです!」
自分がパーで、全員チョキ。なんでかこの方たちと勝負するといつも自分が一人負けするんですよね……!
「……では、いただきます!」
自分は意を決してアメを一粒口の中に放り込みます。ころころ。うーん……独特な味。少なくとも眠くなる成分は入ってない気がします。というかこれ……。
「ウィスキーが入ってますね」
「アルコール!?それいいのっ!?」
「大丈夫ですよ。未成年飲酒禁止法は飲料に限定されるのでアメになっていれば問題はありません」
ということは天音さんはアルコールに弱いんですね。私は特に異常なし。四分の一だけど海外の血が入ってるからかな。
「……私たちも食べてみようか」
「ぅえっ!?だ、だめだよお酒なんて……!」
「こんくらいなら大丈夫だよー。ほら、環奈ちゃんもー」
「う、うん。そだね……少し興味あるし」
私に続き、後の四人も次々とアメを口に入れていく。
「うぇーんっ! 帰りたいよーっ!」
その瞬間、環奈さんが脚を放り出してベッドの上でバタバタともがき始めた。
「梨々花先輩と一緒にできないならバレーなんてやる意味ないし! 歯痛いし! もうやだーっ! 梨々花せんぱーいっ!」
「泣き上戸だ……」
環奈さんもだいぶお酒に弱いな……。歯の治療中だということを隠したいから脚の怪我で通してるのに思いっきりばらしちゃってる。
「流火ちゃん……なんかここ、あついよね……?」
「はぁはぁ……。ぐへ……さそ、誘ってるの……? ぐひ、ぐへへ……」
流火さんと風美さんはなんか二人で勝手に興奮してるし。……やばいくらい気持ち悪いな、流火さん。
「木葉さんは大丈夫?」
「ふぇ?」
前の三人が相当弱いということがわかったので最後の一人を見てみると、木葉さんはなぜかベッドの上で四つん這いになっていた。
「何してるの? 木葉さん」
「ふぁ……べ、べつにー。ちょっと、立とうと思ってるだけだ……きゃっ」
身体に力が入らないのか、木葉さんの口元からは涎が垂れ、大きな身体を支えている手足はふるふると震えている。そしてしまいにはバランスを崩して仰向けに倒れる始末だ。
「ふーん。木葉さんってお酒弱いんだね」
「はぁー? ぜんぜ、よわくないけどぉー? ほら、ふつーに、たてるしぃ……ぁぅ」
ただベッドの上で立ち上がろうとしているだけなのに汗を垂らしてふらふらしている。いつもへらへらと余裕ぶっている木葉さんからは考えられない姿だ。
「弱み、みーっけ」
ずっと探していた帽子いじり以外の木葉さんの弱み。たっぷりといじってあげよう。
「ねぇ、木葉さん」
「な、なーに? なんでロープなんて持ってるのかなー……?」
「落ちてたから。縛らないとって思って」
「な、なにをしばるの……? なんで織華しばるのぉ……!?」
木葉さんの両手首、両足首と、ベッドの柵を縛りつける。これで木葉さんはI字状になり、ベッドの上から動けなくなった。
「木葉さんが悪いんだよ。いっつも私を馬鹿にしてくるから。ちょっとお仕置きしないとね」
「や、やめよきららちゃん……? 酔ってるんだよ、口調も変だし……。織華あやまるから……」
「だーめ。ほら、舐めて」
私が木葉さんの口元に持っていったのは、アルコール入りキャンディ。もっとふにゃふにゃにしてあげる。
「ん。んん……!」
「もう、ちゃんと口開けな、よっ」
「きゃっ……むぐっ!?」
木葉さんのネグリジェを捲り上げ、驚いて口を開けたところに指を突っ込む。ふーん、背が高い割にお口はちっちゃいんだぁ。かわいいね。
「ふぁ……ぁあ……?」
「何してるの? 早く舐めなよ」
ずっと指を口の中に入れられたままのことに顔をしかめている木葉さんに私はそのままアメを舐めるよう指示する。最初は嫌がっていたが、早く終わらせたいのか舌が動き始めた。アメを持っている私の指にも木葉さんの柔らかな舌が触れてくすぐったい。
「ぁあっ……ふぅっ、ぅぁっ……」
「……ふふ」
木葉さんの息遣いと唾液が立てる音だけが聞こえる。でも次第にアメを舐めることに慣れてきたのか舌の動きが活発になってきた。これじゃあつまらない。
だから私は指を少しずつ上げていく。すると連動するように何も考えられずただ舐めることしかできない木葉さんの舌がアメを求めて上がっていった。そして指が完全に出た時、
「はい、チーズ」
「っぁ!?」
唾液で滴っていない方の手で木葉さんの顔を撮影し、それを見せつける。
「あーあ。見なよ、このだらしない顔。恥ずかしくないの?」
「っぁ……あぁ……!」
写真に収められているのは、涙目になり舌を出す、紅潮している木葉さんの表情。自分の今の無様な表情を見させられさらに木葉さんの顔が歪んでいった。いい気分だ。
「ほら、もっと……って、あ、れ?」
再び木葉さんの口に指を入れたところで、なんだか、ねむくなって……あ……ぁ……。
「……あれ?」
いつの間にか眠っていたようです。とっても寝起きはいいのですが……指先がなんかどろどろしている……? って……え!?
「木葉さんっ!?なにしてるんですかっ!?」
「ぅぁ……あぁ……!」
なぜか自分は木葉さんの身体の上で寝ていたようです。しかも腕と脚を縛られ、口に自分の指を入れて……。それに乱れたネグリジェから覗く胸の谷間には自分の涎が溜まっています。
「どうしたんですかっ!?誰にやられたんですかっ!?」
「覚えてないんだ……ならいいや……スマホ出して……」
「え? まぁいいですけど……」
憔悴しきった様子の木葉さんは自分のスマホを奪い取ると、少し操作して自分に返しました。
「じゃあとりあえず織華シャワー浴びてくるから……」
「はぁ。いってらっしゃい」
うーん。一体何があったのでしょうか。天音さんはいないし、環奈さんは床で寝てるし、流火さんと風美さんにいたっては同じベッドで下着姿で寝ているし。それになんでスマホを……。
「……ん?」
返されたスマホを見てみると、画像フォルダが開いてあります。ていうか削除フォルダができている……自分基本的に画像削除しないのに……。とりあえず見てみますか。
「っ!?」
な、なななんで木葉さんのあられもない顔がっ!?ほんとになにがあったんですかっ!?ま、まぁとにかく完全に写真を削除しようとしましょう……。
「…………」
復元。
とりあえず別フォルダを作り、そこに木葉さんの写真をぶち込むことにしました。




