表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
9/138

第二章 領主編 『置き去りにされしモノ』

今回は諸事情により、早めの投稿となりました。

まぁ、遅くなるよりかマシって事で許してつかぁさい。

「………。」


「すみません、モンテ様……。」


「後ろ向きの発言なら聞かねーよ。」


「……はい。」


激しく打ち付けてくる雨の最中、俺達は暗闇の森を一歩一歩辿々しくはあるが進んでいる。

ぬかるみに足を取られ、体力を削られて身体は重い。


「待て、隠れろ。」


息を殺し、幹の後ろに隠れて様子を窺う……グール共の一団が俺達が来た道を通り過ぎてゆく。


静かに息を吐き、視線をティガーへ向けると座る形で背中を預けた幹が鮮血で染まっていた。

一瞬、絶望が思考を覆いそうになる……迷うな、今はどれだけ行動を積み重ねるかを考えろ!

ティガーを置いて一人で逃げ延びて、コイツをグール共の仲間にしちまったら……俺はこの先、人生を謳歌なんざ絶対に出来ねぇんだよ!!


ティン、この街道のMAPを俺の視界に表示しろ、グールの動体反応も忘れるなよ。


『了解しました 統率者(マスターグール)とアンノウウンは色ちがいで表示します。』


アンノウウン?あの馬鹿デカイ斧の持ち主か……確かに姿を現さないな、正確にこちらを狙いながら追ってきていないし、何がしたいんだ?


『推定される投擲地点の動体反応は検知出来ません。』


まったく動いてないなら、都合が良い……統率者とグール共の動向に注力する。

グール共のMAPマーカーはバラバラにさ迷っている、まだ暗中模索で追ってきてるんだろう。

少しでも奴等を攪乱出来ないだろうか?


「時間を稼ぎたい所だな。」


俺の呟きに沈黙を守っていたティガーが荒い息遣いで口を開く……出血で焦点が合っていないな。


「こ、これが役に……た、立つかも……しれません。」


そう言って腰にぶら下げた布袋を差し出してくる、これは結界に用いられた宝玉か?

苦痛で顔を歪ませながらも説明しようとするティガー。


「分かっているから、今は喋るな少しでも体力を温存しろ。」


ティンのサーモ機能でティガーの身体を診たが体温の低下が著しい……この豪雨も一因だろう、歩く事だけに集中させた方がいい。


ティン、この宝玉の概要は掴んでいるか?


『はい 地中に埋める事で宝玉内に蓄積された闇属性へ大地の魔力を供給し 結界術式を行使する簡易的なグール避けです。』


何それ?キャンプ用品的なノリで言うなよ……緊急事態だから、ギャグいらねーから、頼むわ。


『………一般的な冒険用具ですが。』


え?……ホントかよ、色々と複雑な気分だわ……てかゴメンねティンさん、疑ってたんじゃないから、ちょっとパニックだったから……。


『謝罪を受理します 話を戻しますが宝玉の使用方法ですがーー』



……俺は布袋から宝玉を掴み出し、確認してみる……残りは二つか。

説明によれば、このひとつで2m四方の結界が生成出来るとの事だが、埋めなくてもいいらしい。

供給量が低下し、隠密性と強度が更に下がってしまうが構わないだろう、結界が存在しているだけでグール共はそっちを優先し捜索してくれる筈だ。


「ーー大いなる福音を以て、揺りかごの安らぎを与えん事をエル・ハー・ザムド。」


呪文を唱え、淡く光ったふたつの宝珠を左右の森へ振り分け、なるべく遠くへ思いっきり投げる!!


「よし、待たせたなティガー、即行で此所から離れるぞ。」


そう、結界を(デコイ)として使うのはいいが、問題はこの近辺へグール共を呼び込んでしまう事だ……この周辺で足留めしている間に街道を越えなきゃならない。

最悪、呼び込んだ挙げ句に偶然から宝玉を踏み砕かれたりしたら、アウトだわ。


ともかく、このまま西へ森を抜けよう……ティガーの懸念通りにウエストバークがグール共の勢力圏に墜ちていたら、俺達の生還の目は限りなく薄くなる。

けど向こうにはキュベレーヌ派とキシリア派からの人員が俺達を待っている筈だ。

彼等を通じてグールの案件がギルドへ伝わっている事も考えられる。

どのみち余裕はない、ティガーの傷は一刻を争う。


思考を油断なく回し、MAPマーカーに注意しながら歩き続ける……。


「………!?」


どれくらいの時間が経過したのか、不意にティガーが脱力し両膝を着く……意識を失ったのか?思わず俺もコケそうになった。


「馬鹿野郎!!起きろ、甘ったれるな!!」


腹の底から吐き出した叫びが雨に掻き消されちまう……。

頼む頼む頼むっ!!起きろ起きろ起きろよ!!容赦なく頬を何度も張り飛ばし、襟首を掴んで振り続ける。

ふざけるな!?何度でもブッ飛ばすぞ!!


success♪success♪


脳に直接響く……BGM?


「お、起きて……ますから、そんな……に叩かないで下さい。」


「ばっ、馬鹿野郎!!叩かれて喜んでんじゃねーよ……次意識飛ばしたら、ブチのめすからな!!」


頑張れ、ティガー……お前が一片の疑いを抱かず、俺を信じてくれる様に、俺もお前を信じているんだぞ。


森を抜けるまであと2km……ティン、夜明けまでの時間はどれくらいだ。


『1時間36分28秒です。』


今のペースだとキツいな、図らずもグール共の包囲網が狭まってきている、こちらもマーカーの手薄な場所を縫って、すれ違う形でやり過ごしてきたが……下手すりゃ森の出口手前で交戦しちまう。

ティガーを守りながら戦えるのか?くそっ!


『マスター 結界反応がひとつ消失(ロスト)しました。』


舌打ちが口をついて出た……ツイてねぇ。


「キツいだろうが、急ぐぞ。」


半ば強引に足を速めるがティガーは苦痛を表情に出さなかった……だが一瞬だけ、俺の肩を掴む力が強まった。

きっとこいつは、その一瞬に力を込めてしまった事さえ後悔したかもしれない。


ここで俺が妙な手心を加える事はティガーに対する侮辱でしかないんだ。


自分をそう戒め、ひたすら前へ……一歩を積み重ねろ!



ぬかるみに足を取られ、俺がコケちまった……時間はっ!!


『夜明けまで58分を切りました。』


あと800m強か……。


「………。」


「………。」


あと600m……夜明けが近いからか?グール共の動きが緩慢になった……気がする。

前方のマーカーに隙が出来た、統率者も離れている。


イケる、希望が見えた!


頑張れティガー、あと少しだ……そう鼓舞しようとした次の瞬間だった。


「………?」


小さな電子音と共に、MAPに新たなマーカーが現れた……。

それは他と違い、明滅を繰り返している……すぐ傍に現れた反応。


嘘だろ……まさか、何かの間違いの筈だ……。

首に回したティガーの腕が冷たく、小刻みに震えていた。


次の瞬間、ティガーは腕を俺から離し、そのまま突き飛ばしてきた。

さして力も込められていないのに、放心状態の俺は情けなく尻餅を着いてしまう。


「て、ティガー……。」


「申し訳ありません……陸竜から落……ちた時、傷を受け……ていたようです。」


「諦めるなっ!!まだ方法はある筈だ!!」


ティン、何かグール化を防ぐ方法はないのか!?


『個体名称 ティガーの身体は侵食が進行し過ぎており 変態を終えようとしています 方法はありません。』


「そんな……都合の良……いものは在りませ……んよ。」


図らずも二人の言葉が重なった……どうしようもなく理不尽に。


「何でだっ!?何でそんなに冷たく言い切れる!!死んじまうんだぞ!!」


『………。』


嗚咽が止まらない、俺はまた、異世界に来てまで過ちを犯すのか?何が人生を謳歌するだ!?笑わせるなっ!!


繰り返し巡る壊れた思考と罪悪感が現実の直視を避けさせる……だがそんな呆けた俺を許さない男が居た。



「……顔を上げろ!!モンテ・モンキーパイソン!!」


「……!?」


それは初めて……初めてティガーから俺へ向けられた怒号だった。

我に返り、恐れを抱いたまま顔を上げる。


……血の気が引き、泥に塗れていたが、そこには変わらず、いや、一層強く穏やかな男の顔が在った。

何で……何でそんな顔が出来ちまうんだよ、お前は。


「私は……わ、私の希望を貴方に託、し……ているのだから、恐れないで……だから、こ、この間、話してく……れた切り札を……。」


切り札……その言葉で俺は唇を噛み締め、ようやくティガーの意図を理解した。


「分かった……お前をグールなんかにさせねぇ。」


上着のポケットに手を突っ込み、中で異次元BOXから手榴弾を取り出し……無言でそれをティガーへ差し出す。


「ピンを抜けば5秒で起爆する。」


「……ありがとう、で、ではお別れです……なるべく遠くへ、その時が来たら、ピンを抜きます、から。」


「ああ、こちらこそ世話になった!ありがとうな。」


俺は背を向け、声だけは努めて明るく振る舞ってみせた……顔向けは出来なかったが、それがせめてもの礼儀と手向けだと思ったからだ。

いや……ただ、泣きべそでくしゃついた顔を見せたくなかっただけかもしれない。


沈黙がここまで心を締め付けるのは何時振りだろう。


ようやく一歩を踏み出し、もう一歩……三歩目は降りきる様に駆け出した。


だが不意に……いや、踏み出す度にティガーの顔が過り、立ち止まりそうになる……だから足どりが遅くなったのだろう。

それをアイツは良しとする筈がないのに。


「振り返るなっ!!行けっーーー!!」


最期の……その最期の余りに清烈な一喝が俺の背中を押した。



……遠ざかるモンテを見送りながら、ティガーは満足気に微笑む。

正直に言えば、まだやらねばならない事が数え切れない程に在った。


モンテ・クリストフ・モンキーパイソン……神が遣わした選ばれし者、だが最初に彼を見た印象は自分の想像とはかけ離れていた。

世俗的でありながら、浮世離れした様に常識はずれで、自分達が眼を背けた事に心を悼め、悩み苦しみながらそれでも人として誰かの、自身の日常を大切にしようとしている。

そんな彼だからこそ傍に仕え、支えて……彼がこの世界で何を成すのかを見てみたくなった。

そしてもし叶うなら、自分が諦めた事を託したかった……。


もっと早くに話しておくべきだったのだろうか……全てはもう遅い。

だが不思議と悔いはなかった、きっと彼なら私達のーーー。



空が白み始め、夜を追いやってゆく……雨はいつの間にか止み、俺はそれでも止まる事を許さず走り続ける。


そして……その瞬間、後方から閃光と爆音、木々を揺らす衝撃が俺を追い抜いていった。


くそったれ……自然と口を突いて出た言葉に感情が爆発する。

森の出口が近い、そんな事より前方で彷徨くグール共へ憎しみが沸いて抑えられなかった。


「ーーー!!」


ダガーを両手で構えながら、俺は声に為らない絶叫を上げてクソ共の一団へ斬り込んで行く。


背後から闇雲に斬撃を浴びせ、蹴り飛ばし、一足跳びで頭部を踏み砕く!!

仲間が一体ヤられたのに気付き、俺を囲もうと殺到するグール共……だが。


「遅ェ!!」


足の遅い一画へ走り、斬り払いで二体の首を落として囲みを抜ける。

嘗めるなよ……森の地形を利用し駆ける、杜撰な包囲網を攪乱してひたすらダガーをブチ込んでゆく。

何度も何体も……腐肉を切り裂き、削いで、断つ、黒い返り血で汚れながら尚も斬りつける事を止めない。


ああっ、これは八つ当たりなのか……ティガーを守れなかった情けない俺の……。


そんな事を考えていたら、不意に死角からグールの拳が飛び出してきやがった。

咄嗟に左のダガーで受けたが、ガードごと飛ばされ茂みに突っ込んで拓けた場所へもんどり打って出た……。


「此処は……街道に出たのか?」


疲労で身体が重いが関係ねぇな……ついでにティンの警告が何度か聞こえたがこれも流しておこう。

おもむろに起ち上がり、周囲を見回すと夥しい数のグールに囲まれていた……。

次の瞬間、上空でけたたましい叫びが木霊する。


統率者か……醜い皮膜を羽ばたかせて、こっちを見下ろしてやがる。

いいね、丁度俺も会いたいと思ってたんだよ。


「なぁ、おいっ!ちゃんと見ると不細工なツラだなぁ、お前!!」


挑発されてキレたのか?態勢が変わった……直接降下してくる気か。


「来い!!来い!!来い!!来いよっ!!糞野郎がーー!!」


眼を限界まで見開き、思いっきりの嘲笑を浮かべてやりながら、俺は絶叫していた。

もうコイツの顔面にダガーをブチ込む事しか考えられねぇ。


徐々に押し寄せてくるグール共を完全に無視して、上空を睨み続ける……。

張り詰めてゆく空気?グール共の唸り声?ティンの警告?どうでもいい。


心臓の鼓動が時を刻む……一拍……二拍……そして。


凄まじい速度で降下してくる統率者ーー。


……実の所、俺はこの瞬間、奴に反応出来ていなかった。


もしそのまま攻撃されていたら、俺は死んでいただろう……だが。


「………!?」


中空で突如として停止し、阿鼻叫喚を上げて苦しみだす統率者。

身体を痙攣させながら、煙を吹き出し始めている……辺りを見回すと手の届く距離で、グール共から同様に煙が立ち上っていた。


統率者の背後……遥か遠くから山吹色の輝きが地平線に連なる様に現れる。


「………。」


呆然とする俺とは対照的に、グール共は潮が引く様に森の闇へと一斉に消えていき、統率者も絶叫を上げて飛んでいってしまった……。


静寂を取り戻した街道に一人取り残され……どうしようもない空しさだけが胸に去来する。

死んでもよかった……この怒りさえぶつけられたなら。


行き場がない……いや、行かなきゃならない場所は在ったか。

全ての感情がない交ぜとなって、今は凪の様に静かな感じだった。

どの位、立ち尽くしていたのか……俺は振り返って西を目指す事にした。


「MAPにナボル村までのナビを表示しろ。」


『……マスター宜しいですか?』


何だ……手短に話せ……。


『何故 再三の警告を無視なされたのですか?更に戦況を考慮せず統率者を迎え撃とうとした……これは自殺行為に該当します。』


「……じゃあ俺も聞くが……お前はあの時、ティガーの状態を知っていたんじゃないのか?」


『………。』


「沈黙は肯定だと受け取るぞ……!」


『前にも答えましたが 私はマスターの望まれる事 命をお守りしその思考に準拠したサポート権限しか有しておらず 万能の存在ではありません。』


「だとしても……俺の望みを助けると云うのなら、お前は話すべきだったよティン。」


『………。』


「もういい……今後、俺がいいと言うまで、俺に話し掛けるな……黙ってサポートだけしていろっ!!」


……暫くの沈黙の後、小さな電子音と共に視界MAPにナビが表示された……。


行くか……唇を噛みながら、纏まらない思考で俺は歩きだす。

グールとその統率者、そしてアンノウウン……何時か必ず、そのツケは払わせる。



つづく



………幕間。



妖しい香気が漂い、大小様々な骨格が張り付けにされた一室……。

その暗闇の中に在って一際異質な影が蠢く。


「とんだ失態よな……カルパティーンに続き、あの森の事まで露見するとはお前の管理が問われるぞ。」


『それについては申し開き出来ません ですが既にあの方を通じて統制が為されておりますので 大事にはいたりません。』


「ふむ……お前のお気に入りのグールは相変わらず命令を聞かんらしいが、それについてはどうだ?」


『使い所を選べばよいだけの話です……それよりも此度の一件で面白い拾い物をしまして。』


「ほう……聞こうか。」



ーー何処かの牢獄。


犇めくグールの群れの中、様々な叫び呻きが呪わしい大合唱となって牢獄内を響き渡っていく……。

その最中に一際損傷の激しいつぎはぎだらけのグールが虚ろな眼で笑っていた。


「もンて……モ……て……もんテ……モンテ様。」

えー、どうだったでしょうか?

今回の話はかなり迷いました……途中までは違う展開に向かって書いていたのですが、どうしようもない岐路に立たされて(汗)


ただ、結論だけ言うと主人公に易しいだけの世界にだけはしたくなかった……という事でしょうか。

これからもギャグとシリアスのバランスを取ったり壊したりするでしょうが、見捨てず読んでやってつかぁさい。

宜しくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ