第三章 盗賊領主はハンコウする編 「俺たちの喧嘩。」
「……早かったな童。」
だらんと脱力したガーチャを肩に担ぐロジャーの後に続く形で、俺たちはオアシスへ戻って来た……のだが?
「これは……どうゆう事?」
残っていたメンバーの周りを、オークや様々な獣人、あと大型の犬?コボルトか、初めて見た……ともかくガラの悪過ぎる集団に取り囲まれていた。
「えっ?何、ダロスさんの知り合い?」
一応惚けてみた……一応ね。
「我の知り合いに、この様に品性の欠片も無い輩がおると思うかね?ほれ、首謀者ならそこに隠れているだろう。」
そう言って集団の一画をこれみよがしに親指で指すダロス……そこには見覚えのある数人の鬼人がこっちを睨めつけていやがった。
と、その瞬間、寒気を感じる乾いた笑い声が陽炎の様に揺らめき立ち昇る。
鬼人の一人に、包帯を巻いた両腕の無い者を見つけ、ロジャーが洩らした声であった。
「逃さねぇよ……テメェらには、この腕のオトシマエをつけてもらう。」
典型的な悪役のセリフだ、しかも三下の……フラグ立てまくりだな、オイ。
尚も数を頼りに息巻く鋼鬼……だったか?取り巻きがヤツに刀身付の義手を装着させると、誇示する様に腕を広げて見せてきた、うんウザ絡み以外の何物でもないわ。
「我の威光も地に堕ちたものよな……。」
そう宣いつつ、またもや外套の内側が生々しく蠢く……魔王軍のお偉いさんがスゲーヤル気になってるじゃん、もうそっちの方が脅威だろ!?
が、次の瞬間、俺の前でロジャーが力強く一歩を踏み出して、一筋の砂煙を巻き上げるのが見えた。
黙して語らず、ただ静かにガーチャをオアシスの辺へ横たえると、彼のほつれた髪を直してから綺麗な所作を以て立ち上がる。
普段からロジャーの振る舞いには隙が無いと思っていたが……この瞬間のロジャーからは気配、もっと言えば生の動作、ブレや癖みたいなものすら感じ取れなかった。
そんな姿を見やり、ダロスの外套の蠢きが止まる……。
「待でよロジャー……ひとりで戦る気が?」
後に続く様にイチタロウが拳を叩き合わせて笑うと、肩越しにそれを見たロジャーも僅かに口角を上げた。
「おいおい、二人より三人、んにゃ四人の方が早く済むだろ……なぁモンテさんよ。」
ミシェルたんもやる気かよ……。
「ならば儂ら三人も助太刀をーー」
「いらねーよ。」
「っな……!?」
「こいつは俺達の喧嘩だ、お前らにゃ関係ねぇ……ダロスさんもそれで呑んでくれると有り難いんだけど。」
ダロスへ向き直して頭を下げ、一応の体裁を整えつつお願いしてみた。
……多分ロジャーはひとりでケリを着けたいと思っていただろうが、そこは身内として俺達だけは介入させてもらう、奴らにブチ切れてるのは俺達も一緒だからな。
「建前はいらん……小奴らの無礼は、まぁ我の沽券にも関わるが、そこのゴブリンに免じて呑もう。」
「あざーす!!」
「……ただし待つのは五分だけだ、良いな。」
おいおい、五分過ぎたら何が起きるってんだよコエーな。
「ヨシッ!!じゃあ気兼ね無くやろうか、一応殺すなよみんな。こいつは喧嘩だからな。」
その瞬間、俺達を取り囲む総勢五十名程の輩が一斉に大爆笑しだした……いやはや喜んで貰えて何よりだわ。
とか内心でげんなりしていると、俺の前に一人の鬼が無造作に近寄ってくる。
「喧嘩ね、微笑ましいな人間、そこに居る華火と良い勝負しちまって勘違いしたのかな?」
文字通り俺の眼前まで顔を寄せ、メンチを切ってへらへら笑いかけてきた……またかよ、ウザ絡みがしつこい事この上ないな。
こっちがシカトこいて黙っているのをいい事に、続け様に「ビビっちゃったかぁ?」とか宣って、今度は自分の左頬を膨らませ、指をさす。
「いいぜ、最初の一発目は殴らせてやるよお嬢ちゃん♪ほら♪ここだよ、ちゃんと狙え。」
「……良いの!?じゃあ遠慮なくイクよ、後悔しない?」
「イキがるな人間風情が!!テメェがハッタリ野郎なのはバレてんだよ。オラ来いや!!」
なぁんだバレバレか……俺はワザとあざとくにんまりとはにかんで見せ、無造作に鬼から距離を取る。
これもあざとく『助走つけるね♪』という意思表示に他ならない。
そして次の瞬間、俺は思いっきり助走をつけて、派手に身体を捻りこみながらジャンピングボレーを鬼の顔面に放つ!!
殴ると見せかけて蹴る!!意表をつく見事な蹴りは……顔面を掠める事なく外れてしまい、俺はそのまま無様に落下してしまう。
コイツ、殴らせてやるよと言っておきながら、寸前で避けやがった汚ねぇ!!
刹那、俺はいくつかの表情を目にした、一方は厭らしい笑みを浮かべ追撃のチョッピング・ライトを打ち下ろそうとするクソ鬼とその様を嘲りで眺める醜悪な顔、そしてもう一方は俺を信じて疑わないロジャーたちの顔だ……ミシェルたんは若干、呆れた様な表情だったけどね。
まぁそれも『正確』を期す為に、体感時間を引き延ばした結果、見えたんだが。
……そう正確にだ、コイツが避けるなんてのは最初から折り込み済みだ。
身体を捻ったのはヤツの足元へ確実に着地する為であり、事が上手く運んだ瞬間、俺は異次元BOXから両手に直接ダガーを出現させ、そして!!
「……アッ!?」
嘲りの表情を激痛で一変させ、鬼はその場で固まる……デカくて臭え両足の甲を地面へ釘付けにしてやった。
即座に立ち上がり、俺は力を込めてアッパーカットの構えを取る。
約束通り、顔面に一発カマしてやる為だ……が、その態勢は他所から見れば無防備この上ないだろう。
事実、俺の両サイドへ二人の鬼が一瞬で肉薄して来ていた、まさに必殺の詰めであり俺の死は確定であった……俺がひとりであったならだが。
次の刹那、攻守が目まぐるしく入れ替わる、俺の死角を突いた鬼の更に死角からイチタロウとロジャーが現れ、俺のアッパーカットと同時に打撃を放ち、敵を吹き飛ばす!!
「乱戦ならオラだちゴブリンの十八番だべ……。」
互いに背中を預け合い、三方向で敵を見据える俺、ロジャー、イチタロウ……その表情は視えないが、何となく歪に笑っているだろう事だけは解る。
「何だよお前ら三人だけでよぅ!?あたしも混ぜろよーー!!」
とか言いつつ、ミシェルたんったら既に敵群のド真ん中でエモノを振り回してんじゃん!?怖ッ!!
「ぷぷ……残り三分半を切ったぞ。」
「上等!!テメェら全員、死より辛ぇ苦痛をくれてやんよゴラァ!!」
おいおい乙女がそんな事言うなよミシェルたん!?最早バトルゴリラと化した彼女に続く様に俺達も渦中へと飛び込んでいった。
つづく




