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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第二章 領主編 『再来、耳たぶの悲劇』

少し遅れての更新となりました。

これから新キャラとか、伏線を増やしてゆく予定であります!!


ネタやオヤジギャグを挟みつつ、ちょっとシリアスな展開で進んでゆくんで、数少ない読者の皆様、どうか見捨てないでつかぁさい。

アームベルン 特区



バルロー子爵の豪邸前に停まる馬車……なるほど、雅な貴族共は竜じゃなく馬に引かせるのか。

悪趣味な程に豪華絢爛な装飾の馬車で、こっちが引いたわ。

これで下民街を突っ切るんだから恥ずかしい、強盗に襲われたらどうするんだよ?

俺は辟易しながら馬車を降りてゆく。


「手筈は分かっているな?お前達。」


久々に靴下履いた……じゃなくて、ドレスコードばっちりの正装に身を包み(タキシード?)髪を撫でつけて歩く俺の背中に付き従う二つの人影。


「何時でも、如何様にも……全ては御主人様のために。」


小柄な体格でありながら、漆黒の執事服を一部の隙もなく着こなし、モノクルから覗く眼光は深い知性を想起させる……その異形たるゴブリンはまさしく主のために、万難を排し、命を捨てる覚悟を暗に述べた。


「頼もしいよロジャー……で、お前の方は大丈夫なのか?人間の街は初めてだろ。」


俺はもうひとつの人影へ肩越しに視線を向ける。


「この舘の人間共を皆殺しにすれば解決なのでしょう……何、造作もないわ。」


ふぅ……溜め息が止まらない。


そんな俺の様子に即座に反応し、ロジャーが飛び上がってこの残念な言葉のヌシの頭をハタいた。


「な、何をする!?小鬼風情がっ、わ、私は誇り高いーー」


その瞬間、睨みを利かせる俺に気づいて言い淀み、そいつは口をつぐんで泣きそうな表情になる。

緑がかった髪を揺らし、やはり素敵なメイド服(?)に身を包んだ長身の美女……だが彼女が他と違うのは残念な性格だけではない。

口元から僅かに覗く牙と額から生える二本角、そう……鬼人族(オーガ)と呼ばれる上位魔族だ。


「お前は何処の戦闘民族だ?ハナビ。」


まったく、バルローの茶会にコイツを連れてく事態に陥るとは……何故こうなったんだ?


苦笑いに顔を引き吊らせながら、俺は事の始まりを回顧してみる……。



二週間前、ギルド兼サルーン『エル・コンドル・パサー』



「こんちはマギーさん。」


「………。」


あれぇ……華麗にスルーされた、ってかそっぽ向かれたよ。

盗賊を選んだ一件をまだ引きずってんの?

苦笑いを浮かべながら、気を取り直してバーカウンターへ肘を預ける。


「よおモンテ、随分と御無沙汰だったじゃないか?」


「ちわっ、ギルマスは相変わらず激シブだね……所で俺の初クエの報酬ってどうなってんの?」


「ん?……払った筈だぞ、シオリが。」


「えっ?どういう事。」


おいおい、またあのお姉様かい。


「西方辺境の土地貰ったろ?勇者の接収権限を使ったって、高笑いしてたぞアイツ。」


なるほど、それで即効政治も甚だしかった訳か……んな背景知りたくねーし。


「はぁ……何か気付けになりそうなヤツくれ、あの人のせいで頭痛いよ。」


俺の様子に同情と皮肉の混ざった笑顔を差し向けながら、ギルマスはボトルを二本、軽やかに回してシェイカーへ注ぐ。


「ふふ、領主になった事でお前さんも爵位持ちか……そりゃバルローも面白くないわな。」


爵位ねぇ……ん?バルロー?


「ちょ、今バルローって言った?それバルロー子爵の事!?」


「あっ?それ以外ないだろう……何だよ、その事を聞きたくて此処に来たんじゃないのか?」


いや、初報酬の話を……。


「ああっ、その通りだ……流石だなギルマス、情報が早くて助かるよ……で、はよ続き言えや。」


「あん?話の腰を折ったのはお前さんだろう……まぁいいが。」


怪訝な眼差しでシェイカーを振りながら、ギルマスはバルロー子爵について話してくれた……のだが、聞いてて余計に頭痛がしてきた。


どうやら領主に為った者(貴族)には辺境伯という爵位を授与するのがこの国の慣習らしいが。

位で云えば子爵の上であり、西方領土のまとめ役として好き放題やってきたバルローにしてみれば、俺は新参者で嫌な上司といった所だろうか。

おまけにこのおっさん、旧態依然とした貴族主義で新参者は絶対に認めないらしい。


「ーーだからな、お前さんが茶会に出席なんかしたら良くて笑い者、最悪の場合謀略の餌食にされるぞ。」


他人事だと思って爆笑しやがって、まぁ命を取られる訳じゃねーだろ。

俺は差し出されたカクテルを一気に煽り、銀貨を置いてギルドを後にした。


さて、ちょっとブラつきながら帰るか……まぁいい気はしないが、忍耐で茶会には出席しよう。

直近の問題はナボル村の復興とゴブリン達だな。

素人の俺に何が出来るとも言えないし、ナボル村に下手に関わるべきじゃないと思うのだが、集落作りというか、作ろう系ゲームの影響でちょっと興味を惹かれてたんだよね……。

現実はゲームとは違うが、やるからには誰かの力になりたいと思うのが人情だろう。


「………。」


軽く息を吐き、街並みの中を走り始める。

石畳を蹴り、ピッチからスライドへ走りを変えて速度を出すと、途中で脇に置かれた樽に気付き、それを踏み台に土壁へ飛び付いて僅かな窪みに指を掛けて登り切る。


まだ握力(グリップ)が甘いか……この程度のボルダリングなら二秒で登らないと駄目だな。

息をつく間もなく再び煉瓦の上を一足飛びで走ってゆく。

そのままだ……そのまま屋根伝いで速度を落とさない、爪先に意識を集中しろ。


「………。」


不思議なものだ……身体と感覚は確かに錆び付いているのに、この心地良い疾走感だけは何年経っても覚えているんだな。

ちょっとドーパミン出てランハイかもしれん。

とか考えている内にもうすぐ屋根が終わる……俺は一気に腕の振りを最高潮まで上げて、走り抜ける様に宙へ飛び出した。


身体を捻り円軌道で落ちながら飛距離を稼ぎ、向こう側に建つ物見の塔へ取り付けた……と思った瞬間に手が滑ってドジっちまった。

壁から真っ逆さまに墜落して、情けない絶叫を洩らす俺。

十数mの落差で地面に叩き付けられたなら、重傷は必至だろう。

そんな一瞬の戦慄とは裏腹に身体へ掛かってきた衝撃は『ポスッ!』という間抜けなものだった。


柔らかい……呆気にとられながらも上半身を起こし、下を視ると其所は荷台に積み上げられた藁の山だった。


久し振りだった……久し振りに腹の底から笑いが込み上げて止まらない。

ぶっ壊れたと思う程に大声を出していたんだろう。


だが次の瞬間、不意に笑顔のまま表情を固めて黙りこくる……。

断っておくが、決して情緒不安定な訳ではないよ……ただ、頭に過っちまったんだ。


笑ってる最中で、俺を罠に嵌めたガキと傷だらけの少女の顔が……。

クソみたいな現実ひとつ直視出来ない俺が、人情を騙るかよ、そう思った。


「……。」


ぼんやりと呆けていると農夫だろうか?荷車の持ち主らしきオッチャンが怪訝な表情を俺へ向けている。

突然人が降ってきたら驚くよね、ごめんなさいである。


俺は懐から小さな紙箱を取り出し、初めて封を切って中身を視た……アーガマから貰った初回特典、てか毎日一箱ずつ送られてくるんだけどねタバコ。


「………。」


軽く振ってフィルターの頭を出してから喰わえて引き抜いてから一緒に世界を越えて来たジッポを点ける。


ん?……何か味が違うな……気になって改めてパッケージを視ると。


アーガマ印、『セブンズ ヘヴン』だと?注意書……あなたや周囲の人間の健康を害する成分は配合されていません、鎮痛、鎮静の薬効があります。


何それ……毒を肺にブチこむ背徳感がたまらないのに、分かってねーな。

てか転生して一ヶ月にも満たないけど、まったく気付かなかった俺も、俺か。


まぁいいや……呆けた面で藁山から飛び降りると俺は歩きタバコで下民街へ向かう。


なんとなく足が其所へ向いたんだ……。


このアームベルンという国の歴史は知らないし、別段知りたいとも思わない。

だがあの日、あのガキ共を目にし、ある決定的な出来事を以てティガーにストリートチルドレンの現状を聞いてみた。

多くは他国から流れてきた戦争孤児らしい……難民なら入国拒否もしくは排除されそうなものだ、だがそもそも二番街の周囲を覆う様に難民がコミュニティーを築いたのが下民街の成り立ちなんだそうだが、その特性上、誰でも居着けてしまえるんだろう。

必然的に下民街はあらゆる無法を孕んで混沌としてゆく。


当初は静観を決め込んでいた国も事態が悪化するにつれ態度を硬化させ、取り締まりに乗り出すのだが……それが最初に俺が行ったあの検問所だった訳だ。

政治に疎い俺でさえ、お粗末じゃね?と思ってしまう。


……不意に一瞬立ち止まり、下民街の一画を見つめる。


俺がティガーから話を聞く事になった決定的な出来事……それは今、目にしている場所で子供が死んでいたんだ。

衝撃が脳天に直撃する感覚だったのをよく覚えている。

痩せ細ってまで誰にも助けて貰えずに、その子は息絶えたんだろう……けど街の人間はそれを無視しながら行き交っていた。


酷くて凄惨な姿を晒して『死』が日常に陰を落としているのにも係わらずにだ、俺が脆弱であると言われればそこまでさ。

少なくとも住民にとっちゃ、これが日常茶飯事なんだろう。

到底納得出来ないし、呑み込めないが……ありのままの現実でしかないのも、また事実だ。


俺は吸殻を革袋(携帯灰皿)に押し込み、再び歩き始める。


しばらく歩く事、十分……の距離に其所は在った。


下民街の一画、無駄に拓けた殺風景な場所……何度も掘り返された土の跡。

子供に限らず、街中で転がる死体は腐臭を撒き散らす前に誰かが此所に埋葬する。

疫病が流行った時代の名残なのか、それとも死生観や風習?ともかく此所には墓石すらなかった。

死んだら衣服まで剥かれて裸にされる、最初からボロを着ている孤児は例外ってか。


ともかくだ、此所を見つけてからというもの……何度か足が向く様になって、気付けば散歩コースにしていたりする。


「もう一本吸うか……。」


一服点けてから、ジッポの上蓋を玩ぶ……乾いた金属音を何度も響かせながら、反芻する様にあの曲を思い出してみる。


俺は一体、この場所に何を求めているのか。

毎回足を止め、迷路みたいな自問自答を続けて……答えなんざねぇ、何処にも行けねぇ、分かっているだろ。


『浸るんじゃねぇよ』……決まって最後はその言葉で思考を中断し、足を踏み出す。


今日も此所から逃げ出して帰るか、ティガーと今後の事を話さんといかんし。

重い足取りで帰路につくが思考に靄が掛かっている……注意力散漫ってヤツだな。

小石に躓いてコケそうになってるし。


人生は選択の連続だ……と、何処かで聞いた記憶がある。

制限時間内で如何に選ぶか?一番不味いのは選らばない事だと……まさに現状維持に甘んじる俺がそうだろうな。

歩きながらまだウダウダと考えているのだから滑稽極まりない。


顔を上げると、遠くに下民街を見下ろす王城が見えた。

相変わらず荘厳で綺麗な景色に違いないが皮肉だとも思う。


俺は思わず吸殻をこの素晴らしい景色に投げつけてやりたくなった……まぁやらないけどね、ポイ捨ては止めましょうってか。


革袋に吸殻を押し込んで溜め息をつく……いやはや、油断大敵である。


ッパシィィン!!ヒヒィーン♪


ん?遠くで馬が嘶いてるな……。

次の瞬間、背後から逞しい腕が二本回り込み、身体をガッチリとホールドされた。

えっ、何が起きたの?……そう呆気にとられる俺の耳元で悪魔が囁く。


「みつけた……王子様。」


まっ、まさか!!……その刹那、凄まじい悪寒が背中を駆け上がるのと同時にみ、耳たぶ……耳たぶをまたしてもねぶられた。


「うあァァァァッ!!」


情けない絶叫を上げながら、強張る身体を必死に揺さぶる俺……だが脱出は叶わない。

しっかりとホールドされ、おまけにつま先が地面から浮いていた。

間違いない、あのおっさんだ!?


「ふふ、もう前回みたいな不意打ちは通用しないわよ。」


アゴ髭で頬擦りしながら『おっさん』はそう宣い、再び耳たぶから首筋へと舌を這わせてゆく……。


クソがぁぁッ!!決死の覚悟で尚も抵抗を試みるが腕が固定され、足を駄々っ子の様にバタつかせる事しか出来ない。

おっさんの体温、息遣い、そして臭いの全てが俺の精神を削ってゆく……このままではぁ、不味い、非常に不味い。


「赤ちゃんのように柔らかい耳たぶから白い首筋……はぁはぁ、癒されるわぁ。」


この、野郎……くぅっ!!


「助けて(離して)くれませんか……?」


「駄目よ、それは叶えてあげられない、だって逃げるでしょ。」


俺は深呼吸し、あざとく溜め息をつく……。


「……残念だよ、とても残念だ。」


「………?」


「あんたは背中を狙うだけの卑怯者なんだな……なら気の済むまでやるがいい。」


「煽っても無駄よ。」


「煽りじゃない、人を口説くなら、何故正面から抱きしめないんだ?確かに俺はあんたを拒むだろう……だけど正面からでなきゃ、人の心は絶対に動かない。」


「……貴方、ワタシの考える以上のナイスガイね。」


よ、よしっ!!あと少し……ホールドが弛んだ瞬間に左腕を抜いて肘をブチ込んでやるぜ!!


「いいわ、勝負しましょう。」


その言葉と同時に腕を離し、瞬時にバックステップで距離をとるおっさん……速い、目論みをかわされた。


「貴方が振り向いた瞬間、それが開始の合図よ……ワタシは全力で貴方を抱きに行く。」


ヤバい、何の勝負だよソレぇ。

背後でおっさんは態勢を低くとり、野獣の貌でテイクダウンを狙っている……火を点けちまったか。


ッパシィィン!!ヒヒィーン♪


くっ、どうする、どうしたらいいんだ……ティンさん!?


『問題ありません 32秒のカウントで振り向いて下さい。』


マジかっ!!信じるよ、マジで信じるからね!!


「………。」 「………。」


静寂が徐々に緊張感を孕んでゆく最中……ティンのカウントが進んでゆく。

おっさんの吐息、熱量、刺す様な眼差しの全てが俺へ注がれている。


やがてカウントが1から0へダウンした瞬間、俺は意を決して振り返った!!


刹那、俺達の間に割り込む様に竜車が走り込んでくる……そして。


一拍にも満たない空白……眼前に居る筈の俺の姿をまたも見失い、おっさんは凄まじい形相で固まっていた。


「ウソ……また……何処へ行ったの、王子様っ!?」


おっさんは当然、通り過ぎてゆく竜車をガン見していたが見える訳がない。


正直危なかった……正面きってやり合ってもやはり勝てなかったろう。

あの瞬間、竜車がおっさんの視界を遮った事で認識阻害のスキルに掛けられた、そして俺はそのまま竜車の側面に掴まって脱出していたのだ。


しかし……何か腑に落ちない、違和感がある、ティンさん何したの?怒らないから言ってみ。


『疑問です 何故ワタシが問題を起こした前提での質問なのでしょうか?』


ティンさん、じゃあ何もしてないのね?


『……竜車が通る事は予測出来ました ですから竜車の方を認識出来ない様にスキルを反転して使用しました。』


……またシレっと言いやがって、そんな使い方もあったのかよ!?だからおっさんも俺もギリギリまで竜車の接近に気付かなかったのか。

あれっ?でも何で俺まで気付かなかったんだ?


『スキルを範囲使用したので マスターにも作用したと思われます。』


何か色々と残念だわぁ……まぁ助かったから全然OKだけどね、むしろありがとうだわティンさん。


そんなこんなで竜車から流れる景色を眺めつつ、俺はほんの先の将来ってヤツに思いを馳せてみる……って何か格好つけてやだな。


ただ暗中模索で右往左往してるだけだよ、それでも何かをこの世界で掴めたなら……今度は離さずに信じ切りたいもんだ。



つづく

ええ~どうだったでしょうか?

おっさん二度目の登場でハッスルしてましたね。


第二章は今回の冒頭に出てくる新キャラ達との出会いを追いつつ、モンテを取り巻く世界を広く表現出来たならと思っております。

『何でこうなった?』と読んで頂けると幸いです。

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