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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第二章 領主編 『素人領主、爆誕』

第二章、始めま~し~た~♪

灰色の空……降り頻る雨が感傷を呼び起こす。


仕舞い込んだ筈のどす黒い感情が、行き場を求めて吠えている。

負け犬らしく、ゴミを漁りに街を徘徊する……そんな風に自嘲に浸りながら時間を忘れかけた頃、古びた雑居ビルの片隅でそいつに出会ったんだ。


階段に腰掛けて雨宿りするその男の傍らにはギターケースが無造作に置かれていた。


ストリートミュージシャンか……同年代位だろうか?大成出来る訳もねぇのに夢にしがみつく、はっきり言って嫌いな部類の人種だ。


俺はただ、一服タバコに火を点けたかった……だけだ。


そいつから少し離れた上段に座り、ポケットから出した箱は少し雨に濡れてクシャついてたが、軽く揺するとフィルターの頭が出てくる。

それを口に喰わえて引き抜き、百円ライターにくべて吸う……。


灰色の風景に煙が揺れるのを暫く眺めていると。


「なぁ、お兄さん……一本恵んでくれないか?」


そいつは影のない笑顔で話し掛けてきやがった。

無視するのも面倒臭い……俺は凹んだパッケージを下手で投げ渡す。


「シケたやつで良かったらどうぞ。」


「悪い、丁度切らしちまった所でね……こんな時にこそ吸いたくなるもんなのによ。」


どんな時だよ?……とか思いながら、ぼんやりと今度はアスファルトを打つ雨の波紋を視ていると。


「………♪」


ハミング……か?何だろうこの旋律は。

視線を向けるとタバコを喰わえたまま、そいつもアスファルトを視ながら歌っていた。

俺は一服吸い込み、右手にタバコを挟んで離す。


「それ、何の曲ですか?」


「……ああ、ごめんね、うるさかったか……これ今作ってる歌なんだ。」


作曲途中の楽曲か……それにしても。


「哀しいカンジの歌に聴こえる。」


「それは……きっと今、あんたが聴きたいから……そう聴こえたんじゃないかな?」


俺は再びタバコを喰わえ、返事代わりに首を傾げてみせる。

……その仕草に男も笑ってタバコを吹かす。


「なんなら、出来た所まで聴かせようか?生憎とギターの弦が切れちまってて、ハーモニカだけど。」


面倒な地雷を踏んだかな……まぁ気になったのは確かだが。


「お代はさっきのタバコで。」


「気に入ったら、この最後の一本もくれよ。」


あっ、そういや残りを返してもらってなかったわ。


「気に入ったらね……。」


「………。」 「………。」


男は静かに雨空を見つめるながらハーモニカを取り出し息を吹き込む。

……緩やかに……止めどなく……雨音とハーモニカの旋律がやはり哀しく響き合う、灰色の景色はよりセピアに感傷を呼び起こして記憶を励起する。

だが正直、不思議と不快ではなかった。

三分の一程残ったタバコを深く吸い込んで、俺は名前も知らない男の演奏にじっと耳を傾けていた。


それは一~二分の出来事だったか、唐突に演奏が止んだ……未完成って言ってたしな。


「哀しい時には哀しい歌を……か。」


そう呟いた男が自嘲気味に笑った……気がした。


俺は無言でタバコを捻じ消して立ち上がると階段を降りる。


「……行くのかい?」


「ああ、そいつはアンタにやるよ。」


「そうか……じゃあーー」


男は最後の一本に火を点けてから、俺へジッポを投げて寄越す。


「それやるよ、この一本が俺にとって最後だから。」


それはドクロが立体的に彫られたデザインのジッポだった。


「くれるなら貰うけど……いいのかい?」


「ああ、もう必要ないし、それ中学の修学旅行で行った奈良で買ったんだよ。」


「修学旅行でドクロのデザイン!?それ完全に厨二病じゃん。」


思わず突っ込んだ瞬間、男は弾ける様に声を出して笑い……何故か俺も釣られて笑ってしまった。




瞼を開け、白んだ天井をぼんやり眺める……眩しいな。


「ベッド硬てぇ……身体が痛ぇわ。」


瞼を擦りながら、上半身を起こし、項垂れて欠伸を洩らす……。


それにしても……何気なく切り取られた記憶の風景はフッと忘れた頃に思い出すもんだな。

結局あれ以降、再びあの人と遭遇する事はなかった。

というか異世界に来ちまったからな、もう会う事も無いだろう。


「哀しい時には哀しい歌を……。」


今にしてみれば、俺だけでなくあの人も同じ心境だったのではと思う。

未完成だった曲はどうなったのか……もう知る術もないが。


さて、傍迷惑なお姉様イベントから王都に帰還して、二週間が経過した訳だが、色々と面倒だった。


まず、シオリさんのゴブリン達の監督と責任を負えというお言葉は本当に言葉だけでなく、カルパティーン洞窟と周辺の村を含む土地の領主に俺が勝手に無断で据えられていた。

というのも、元々あの土地は常に戦争で荒れている魔族領と隣接していたが為に、誰も領主になりたがらなかったらしい。

近隣の村も数えきれない程の被害を被っていた訳だが、生まれ故郷を捨てられないと結構な人数が残っているそうだ。

にしたって、何処馬の骨で素人で、尚且つ異邦人である俺を領主にするなんざ、この国の速効政治はどうなっておるのかね?

まぁ、シオリさんが議会というか元老院に根回ししたとか言って高笑いしていたが、何でもキュベレーヌ派の議員もそれに追随してきたらしい。

おまけに俺の身分が貴族に準ずるものであった事がより、事態に拍車をかけた。


「社交辞令も通用しないのね……お姉様ったら。」


因みに領主に為って、報酬というか防衛費を含む予算が国から支払われる様になった……その額、年間金貨二十五枚。

凡そ900万円足らずである……常に荒れているって言ったよね!?少なくない!?


超展開も甚だしい、ふざけているが時既に遅し……近々、カルパティーン近隣の村へ赴かなければならないだろう。

ゴブリン達の処遇も考えなきゃならないだろうし。


……今はまず朝飯だな。


洗面所で顔を洗い、食堂へ行く途中ですれ違う修道士達……皆、微妙な表情で挨拶をしてくる。

面倒事の其の二、修道院へ帰ってきた時に俺はギルドでの出来事を皆に話した。


結果、ティガーを除く全員の好感度が下がってしまったのだよ。


どうやら……みんな俺が勇者になる事を期待していたらしい、勝手なもんだな、おい。


ちょっとムカつきながら、ティガーに事情を聞いたが、なんか他派は勇者を擁立する事で信者を集めて盛り上がっていたらしい……んで大地のガルマ派は永らく勇者不在が続いてたせいで、ずっと落ち目だった訳だ。

最後に在籍してたガルマ派の勇者は20年前に引退したらしいが、俺の前にもアーガマに連れて来られたヤツが居たのか?……ティンにそこら辺を確認した所、居ないらしい。

じゃあ、そいつは異世界人でなく、スキルも持たずに勇者へ至ったのか……プロパガンダで擁立されたか、或いはこの世界が選んだ本当の意味で望まれた救世主だったのかもな。


それにしても、勇者に為って欲しいなら、そう言ってくれって話である!きっとそれでも為らなかっただろうけど。

とか思ったんだが、ティガーが無理強いしたくないと主張して箝口令を出してたらしい。

ティガーだけは好感度が下がらなかった様だし、何より盗賊に為ったと言ったらツボにハマったのか、大爆笑して困っていた程だ。

あくまで俺の自主性を尊重してくれたのだろう、有り難いもんだな。


「どうかなさいましたか?モンテ様。」


テーブルを挟んで食事を摂る俺へ腑に落ちない表情を向けるティガー。


「ん?いや、考え事をしてた……領主の件な、この国(世界)に来たばかりで右も左も分からないってのに出来るのかね。」


「トラビス嬢の思惑は計りかねますが、あの方は無理難題を吹っ掛けるだけの方ではありませんよ。」


「そうか?豪腕振り回して無茶ぶりする人じゃね?……ってかティガーは面識あるのか。」


「ええ、この修道院に暫く逗留なさっていた時期もありましたから、世話役として側に控えておりました。」


ふーん、だからアームベルンの街並みを気に入ってたのか……。


「てか、領主の件を通達しに来た特使って、キュベレーヌ派の人だったよね……シンボルを首に掛けてたし、みんな派閥争いとかで仲悪いんじゃないの?」


そう問うてみた瞬間、流石のティガーも苦笑いを隠しきれてなかった。


「それは誤解です……と言い切れないのが残念でなりませんな、一部で主流派や宗主を謳う者達が居ますが、本来の教義から逸脱しています、そもそもーー」


ああっ、どうやら地雷を踏んだらしい……朝食が終わっても、終わらない説法を長く聴かされた……。

まぁ、ざっくり要約すると世界を支える四大系譜の神々を信仰する特性上、各々が特化した役割を担い教義を守っているだけで、厳密には派閥ではないらしい。


大地母神アルガーママ→固定、吸着の象徴……地脈を策定し堅牢を以て人を守る


水秤の刻神ガデス→流動性(下)、保持の象徴……事象を詠み刻限を司って領域を育む


蒼翼の空神ウィズダム→拡散、揮発の象徴……あらゆる業を発展し広めてゆく。


天浄の火神フラムベール→上昇、結合の象徴……魔を払いのけ目映き光をもたらす。



四大元素が干渉、増減させる事象を以て自然界に人間の領域を確立する教えと言った所か……冷熱やら湿乾だの言われても小難しくて分からん。

更に、ここ300年でその役割がより明確になって、大地のガルマ派は建築技術と封印魔術。

水のキュベレーヌ派は産業と結界魔術。

風のサイラス派は流通網と錬金術(化学技術と魔術の複合)。

火のキシリア派は軍事関連と対魔族専用魔術。


といったカンジでギルドとはネンゴロの癒着関係であるとか……何それ。


とりあえずティガーからカルパティーン洞窟への再訪に帯道してもらう様に了解を取っておいた。


さて、後は竜車の手配か……修道院の人員と片道半日の道程で滞在中の物資、食料……ああっ、俺も飛空挺が欲しい。

無いものねだりは意味がないと分かっているが、考えてしまうものだね。


仕方ない、そこら辺も含めて改めてティガーに相談してみよう……運が良ければ丸投げ出来る筈だ。


いや~問題解決で気分が清々しいわ、腹ごなしでもするか。

俺は中庭まで出て、ベンチに身体を預けて眼を瞑る……決して昼寝ではないよ。


ネバーランドを起動し、仮想空間に切り替わると婦警コスプレのティンが出迎えてくれた。

重ねて言おう、決して俺の趣味ではないよ……違うと思いたい。


「ティン、いつものヤツを頼む……あと、それ可愛いな。」


『了解しました バトルシュミレーターを起動します。』


おや?クールな物言いとは裏腹に、今ちょっとはにかんだ様な……。

とか思いつつ、景色がカルパティーン洞窟に切り替わった。


「設定はMAXで……こちらのエモノは双剣で良い。」


次の瞬間、俺の手中にVRで再現された双剣が現れ……これまた同様に再現されたゴブリン100体が周囲に出てくる。


「さて……大分慣れてきたが、まだ目標タイムまではいってないんだよな。」


『シュミレート スタート。』


ティンの掛け声と同時に襲い掛かってくるゴブリンの集団!圧倒的な群れの暴力をその場で何とかいなし続け、少しづつ包囲網を狭めさせてゆく……。

今だ!俺は思いきって認識阻害のスキルを包囲網の一角へ発動して、囲いの薄い場所へと飛び越えようとした。

だが考えが甘かった、こちらが誘い込まれていたのか、即座に飛び越えた一点へ群れが殺到してくる。


凄まじい激痛に見舞われた……このシュミレーターにおいてダメージを受ける事はないが、攻撃を受ける度にスタンショックとダメージに相等する身体能力の減退負荷が掛かる仕組みになっている。

当然、負荷が限界を越えれば……。


『シュミレート オーバーです……撃退数8体 タイムは1分26秒でした。』


全然駄目だな……最近、日課として仮想空間内の体感で平均15時間はシュミレートを繰り返してるのだが、個体強度をMAX設定にしてからクリアが桁違いに難しくなった。


ん?そもそも何故バトルシュミレーターなんか出来る様になったかだって?……それはこれこそ好感度・邪を得て解放された専用スキルだからだ、えっ?……レアBGMのスキル獲得はどうしたって?

うん、確かに選択肢は増えたが……好感度が減退し過ぎて獲得には至らなかった。

いやはや、そうそう強力なスキルは獲得出来ないらしい。

だがこのバトルシュミレーターは俺にとっては都合がよかった。

何せ此処で得た経験は現実の身体へフィードバックされるからだ。

という訳で、最近はもっぱら非日常の中でひたすら鍛練を積んでいましたとさ……めでたし、めでたし。


「………。」


ゆっくりと瞼を開け、深く息を吐く……現実では1~2分が経過したか、しないか位だろう。

心なしか身体がダルいな、フィードバックの影響だろうか?


「モンテ様、こちらでしたか?」


ん?俺は背もたれに身体を預けたまま、首を後方へ傾ける……我ながら行儀が悪い。


「ああっ、どうかした?」


そこには壮年位のシスターが立っており、俺へ一通の封筒を差し出してきた。


「今しがた、バルロー子爵の使者がいらっしゃいまして……それをモンテ様にと。」


ん?何これ果たし状?……まだこっちの読み書きは覚えてないからな、ちょっとティンさん。

俺は蝋封を剥がし、中身を読むフリをしてティンに文面を通訳してもらう。


「お茶会の招待状?……わざわざ面識もない俺を呼びつけるのか、何のために?」


「……日付は明記されていないのですか?」


俺は改めて文面の下へと眼を通してゆく……確かに一番下に日時の指定が載っているな。


「二週間後の午後三時だって……また急なもんだね。」


「バルロー子爵と云えば、余り良い噂は聞きませんわ。」


何やら奥歯に物が挟まった言い方だな。


「まだ本決まりじゃないが、二週間後だとナボル村に滞在している頃だな……お茶会、無視するか♪」


「それはいけませんっ!?」


「ん……どうして?」


「バルロー家のお茶会には財界の有力者も来られます、正当な理由もなく欠席すれば、どんな謀略に嵌められるか!」


「領主としての公務は正当な理由にならないと?」


「………。」


さっきの口ぶりだと策謀に嵌めた前例があるんだな……面倒臭い。


「少し頭を整理したいから、外をブラついてくる……帰ったら話を詰めるとティガーに言っておいてくれ。」


思いっきり足を振り上げて、ベンチから飛び起きるとシスターへ礼を言って歩き始める。

ナボル村訪問とお茶会か……少し気になるな。

正直、貴族の世界なんてものは知らないし興味もない……だが俺の与り知らない所で、厄介事に巻き込まれるのは後免だ。

調べる必要がある……だがこれが異世界において、新たな受難の始まりだったとは、この時は気づかなかった。



つづく

かなり急な展開になってしまった……。


やはり夜中に変なテンションで書いてるからだろうか?


ああっ、また今夜も眠れない。

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