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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第一章 転生編 『初めての実戦にて』 後編

後編はかなり長くなりました。


拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

「……っく!!」


勢いに任せ、組み付こうとするゴブリンの口内へダガーを捩じ込み、そのまま岩壁へ叩きつける。


あれから五分と経っていないが、走っているせいか毒の回りも早く、致死率到達まで十分を切っていた……非常に不味い。


致命傷を優先して防御した結果、多少の裂傷を受けちまった、おまけに脇腹へ喰らった斬り傷も看過できない出血量になっていやがる。


先行しているシオリさんに追いつくために、洞窟最深部を目指してはいるが、とにかく内部構造が入り組んでて厄介この上無い。

おまけにゴブリン共に追いつかれたり、あまつさえバッタリと遭遇してしまう始末だ。


やはり効率が悪いのか、俺ではまだスキルを正しく使えてない……ならいっそ、ティン、お前に認識阻害の発動タイミングを任せたりって出来る?


『可能です スキルトリガーをリンクしますか?』


頼む、ティンならスキルを合理的に扱える筈だ、何度かの実戦でやっと理解した。

命のやりとりじゃ俺は素人以下……圧倒的に経験不足、路上のケンカなんて全く役に立たない。


壁に手を付き、よろける身体を支えながら何とか歩を進める。

息苦しい……頭がボヤける……出血と毒の影響か。

生き残るために俺が切れるカードといえば認識阻害のスキルとティン、言い換えればアンテナ……感度の広さだろう。

それは敵の死角を増大させるスキルと相性が抜群に良い。

何とかここまでやれてたのはこの切り札のおかげだ。

だが……おそらくあと数分でそのカードは切れなくなる、意識が朦朧とし、思考もままならなくなるからだ。


ゲームのイメージを引き摺ってたせいでゴブリンをナメていた……奴等の身体能力は人間を軽く凌駕している。

おまけに武器を使い、本能に根ざしているとはいえ戦略まで構築して襲って来るんだ。

ずぶの素人が勝てる道理等、最初からない。


「時間が惜しい……。」


確実に忍び寄る『死』……その重圧か、泥沼へ足を取られる様に一歩が重く苦しかった。



6時間前……アームベルン 特区直通門


「こ、これはっ!?」


凄まじい風圧で草原が波打ち、俺まで飛ばされそうに……ってか、め、眼が開けられねぇ。

だがローターの独特な音に混じって低い唸りが聴こえる。


圧倒的なまでの暴風を統べ中空にて、その白銀の流線型は主人を待ちわびて哭いていた!!


「か、カッケェ……まさか序盤でもう出てくるのか!?ロマンな飛行船!!」


「フフ……正確には飛行艇ドライマルセルを原型が分からなくなるまでカスタマイズした私の自慢の城だ!!」


おおっ……よく分からんがスゲェ事は伝わったよ、お姉様!!


アルパスト帝国第三世代型対ドラゴン強襲飛行艇ドライマルセル……その試作機は元々、蒼空の勇者の乗機であったらしいのだが、一悶着あってシオリさんが貰ったそうだ。


うん……絶対に何かやらかしたな、この人。


前の持ち主は機体色を深紅にして『3倍、3倍!!』と喜んでいたらしい……最早お約束を超えて、神話だわ、まさか異世界でまで聞く事になるとは。

しかし、シオリさんは火を冠する勇者である筈なのだが、この深紅の色がお気に召さなかったようで、速攻で白銀に塗り直したようである。


「……でだ、ついでだから居住区画とか諸々の施設やクルーの福利厚生を盛り込んだら、強襲艇としては速度も火力も足りない代物になってしまってな、今は空飛ぶ家として運用をしている。」


本末転倒な気がするが……それはそれでアリだな、むしろ嫌いじゃない!!

浄火の勇者が睨みを利かせる空の移動拠点、その名も飛行艇 ギャンビット号。

全長72.26m……重力低減推進魔導機関六基、最高速度695㎞、主砲グラヴィティ カノン 二門、突撃用強化衝角、 回転式多銃身機関砲 八挺。


「まぁ、実際に衝角でぶつかったら娯楽施設の電気系統が駄目になっちゃうんだけどね。」


「いや……その前に火力不足だって言ってなかった?ヤバそうなワード並んでたけど、この世界の科学技術って、みんなそうなの!?」


「ハハハッ!詳細は話せないが完全なオーバー テクノロジーだよ、重要な所は全部ブラックボックス化してある。」


ドヤ顔で、また何て物騒な事を言うんですかお姉様……羨ましいじゃねーか。


等と内心で思っていたが、違った意味で驚愕したのはこの後、なんだよね……正直、開いた口が塞がらなかった。

俺達は迎えの可動式四枚翅の小型艇へ乗せられて、ギャンビットに乗艇したのだが……ドッグから通路へ入ったまでは実に飛行艇らしいロマンでドキワクな内装だったのだよ。


しかし、ブリッジへの扉を開けた途端、様相が一変した。


大理石を基調とし、観葉植物が随所に配置されたブリッジ内部は高級感を遺憾無く発揮しているのだが、それに反し謀反を起こさんとするが如く、食い残しの食材や酒類の空き瓶等々、果ては雑誌やゴミ袋に至るまで……眼を背けたくなる光景と異臭が俺を迎えたのだ。


「こ、この惨状は一体?」


「うん……ちょっとこの間の戦闘で散乱しちゃってね~♪」


「いや、姉御の部屋からこっちまで侵食されたんでしょ。」


おおっと、冷静なツッコミが入りました!

操舵を握り、呆れた声音でこちらを一瞥する男……年齢は俺より少し上位だろうか?お姉様と同じコートを肩から羽織り、紫のバンダナを頭に巻いた野性味溢れるイケメン、両腕にフレアーラインのタトゥーが見えた。


「モンテ君、紹介するわ、副長のバラライズ・ドーンよ……バララ、こちらはモンテ・モンキーパイソン君、彼が今回の『討伐』の支援要員だからエスコートを頼むわ。」


あっ、ツッコミをスルーした……って、ん?何か一瞬、バララさんが生暖かい眼差しを俺へ向けた様な……。


「ひとつ忠告しておく、うちの姉御は予想のナナメ上を突く、スケールの御人(ガサツ)だぞ……!!」


「ハハッ、そんなに褒めるなよ、バララ……照れてしまうだろ?」


……いや、絶対に違うよお姉様、何なら( )の中身読めたからね……それガチの忠告じゃね?


「すまないね、本来なら私の私室でお茶菓子のひとつでも出したい所なんだが、先程も言ったが戦闘で、『戦闘で』私室が散乱してしまったんだ……だから、その、そうだっ!カジノルームにでも行かないか?バーもあるぞ。」


うん……ゴミ部屋なんだね、戦闘を二回も強調したけど、片ずけてないだけなんだね?


「姉御、パーティルームはその戦闘で電気系統がイカれたばかりでしょ……姉御の『突撃グセ』で。」


「………。」 「………。」


……場の空気が淀んでいるよ、重いよバララさん?


俺以上に苦々しく美貌を歪ませ、バララへ無言の圧力を掛けまくるシオリさん。

流石に居たたまれなくなったのか、眼を背けていたバララさんも溜め息を洩らしながら口を開く。


「支援要員なら、購買部へ案内したらどうです?その後でなら甲板で軽食を用意させるんで、遊覧でも。」


「おおっ!やはり出来る部下は違うねバララ!!」


「ただし、水の補給が出来てないんで大したものは出せませんから。」


ホントにデキる人なんだな……お姉様への対処と随所で釘を刺すのを忘れない抜け目なさ、ついでに所作というか物腰に隙がなかった。

正確には個人特有の癖と言った方が分かりやすいだろうか。

そしてそれを俺は知っている……身近に同じ様な人間が一人居た。


「バララさんは……もしかして軍人なんですか?」


「………!?」


その瞬間、静けさを称えたままのバララさんの代わりにお姉様の雰囲気が粟立った……気がしたんだ。

それを微笑みで制し、再び操舵を握るバララさん。


「君の言う通りだよ……元だがな。」


「すいません、無神経な事を聞きました。」


「気にするな、それより購買部へ行くならコレを持っていくといい。」


そう言いつつ、懐からくたびれた紙片を取り出し、無造作に俺へ手渡す……これは半券?


「うちの購買は辺境の国にまで出店しててな、コレを見せれば非正規の商品も見せてくれる、ただし使えるのは一度だけだから覚えておけ。」


エエもん貰ったっぽい?……気を遣わせて申し訳無い。

俺は改めて会釈をし、お礼を述べる。


「では行こう、モンテ君、私はバララに少々話があるから、先に通路で待っててくれないか。」


俺は二つ返事で扉へ振り返るが、途中で空き瓶に足を引っ掻けてつんのめる……いやはやお恥ずかしい。

苦笑いで誤魔化しながら通路へと出ていった。



「……本当に予想のナナメ上を突く御人だ……殺す筈の人間を此所へ連れてくるなんて。」


「ああ、最初はそのつもりだったよ……だが気が変わった。」


「気まぐれは過信を生む、それとも情が湧きましたか?」


「さぁな……が、彼は他の勇者達と何かが違う、勇者ですらないが、それを見極めるために支援要員になるよう焚き付けた。」


「確かに……俺の風体を視て、元軍人だと気付いたのは二人目ですからね。」



……そんなやり取りが有ったとか無いとかは露知らず、この時の俺はすっかり飛行艇に夢中になっていた訳で、運命ってな何処で転がるか分からない。


さて、合流した俺とシオリさんは通路脇の階段を一階層降りて、食堂兼購買部へとやって来た。

この階層は他にシャワー室や機関室、 回転式多銃身機関砲の砲手台なんかがあり、もうひとつ下の階は乗員の住居スペースらしい。


食堂は結構広く、カウンターの奥に厨房が見えた……備え付けの黒板には文字は読めないがどうやら日替わり定食やオススメメニューが書かれている。


ちょっと心惹かれるものがあるが、俺達の目的地はここではない。


食堂の奥の扉へ……ってかガラス戸だと?まさか。


そう思った瞬間、俺の前でガラス戸が開いた……コンビニかよっ!!


いやはや、驚きの連続でもうお腹一杯……疲れた。

一歩、中へ入るとそこはやはり見覚えのある陳列棚とレジカウンターがお出迎えしてくれた。

……懐かしい筈なんだが、並んでいる商品のラインナップが違い過ぎるな。

初めて百均と遭遇した様な、用途がまったく分からないモノばかりだ。

取り合えず、ここはひとつ、必要かつベターな話題を店員へ振ってみよう。


「すいません、薬草とか回復アイテムって、どの棚てすか?」


俺はレジに立つ派手な老婆にそう問うてみた……だが彼女の反応は『何コイツ?』みたいなものだった。


「傷薬や胃薬、風邪薬とかならあるけど……回復なんちゃらはないねぇ。」


「えっ……いや、だから、使用したら傷が塞がったり、体力が戻るヤツですって。」


おいおい、バァちゃんがシオリさんへ『コイツってイカれポンチ?』みたいな表情を向けているWhy?


「ああ~、モンテ君……勘違いしているようだから、言っておくが現実はゲームではない!よって薬草、ポーション、エリクサー等々の都合の良いアイテムはないよ。」


「でも俺が気絶してる間に治してくれたでしょ?」


嘘……だろ?お腹一杯って言った側から、今日一の驚きに襲われた。


確かに、リアルでそんなアイテムは無いけど……魔法はあるでしょこの世界。

なんか納得出来ない、そこで回復アイテムではなく回復魔法はどうなのか?という質問をお姉様にぶつけてみました。


「うむ……それは有ると云えばある、ただし、身体に激しい損傷を受けた者の自然治癒力を限界を越えて促進する魔法でな……因みに、君の時は見た目程酷い状態ではなかったから寝ていられたが、場合によっては狂死する人間が出る程に激痛らしいぞ。」


そ、そうだったの?(んな恐い魔法を掛けたんかい!!)……第一にそんな御都合アイテムを食すなり、患部へ塗布する時間が戦場で許される訳がない、そうお姉様に諭されてしまった。

しかしそうなると何を持っていけばいいのだろう……。

漠然とまた陳列棚を見回すとある物に眼が止まる。

異世界ではあり得ない形状……俺はお姉様へ疑惑の視線を向けると、顔を背けたよぉ。


「これは?」


「ああ……それなっ♪」


それなっ♪じゃねーよお姉様ぁ!!


……というやり取りをし、俺はこの謎の物体X(仮)を買いましたとさ。


さて、購買部でのイベントはもう済んだ……まぁ、此所でバララさんから貰った半券を使おうかとも思ったが、婆さんにそれを渡そうとしたら、勿体無いから止めとけと言われた。


婆さん曰く、アルパストかドミニオンの支店で使った方が絶対に得らしい。

なので俺達はこのフロアを後にして、メイン通路へ戻り、そこから甲板へ出る貨物用の昇降機に乗った。

本来なら通路へ戻らずに階段を上がって行けば甲板へ昇る梯子があるらしいのだが、お姉様がメンドいとかゴネて昇降機を使用する事になりました。


声が聴き取れない位のブザーが鳴り響く最中、機内のサークル状の地面がゆっくりと回転しながら競り上がってゆく……やがてサークルにペイントされた黄色のHの上部が所定の縁にある二本線と合わさる形で停止する。

続けて、三色の蛍光灯が各所の安全装置の作動を確認し、順番に点くとやっとケージが左右に開き、最後に分厚そうな隔壁が上下に開いた。


次の瞬間、外気と共に流れ込んできた光に俺は眼が眩んでしまう。


「フフフ……。」


どのくらい瞼を閉じていたか……恐る恐る薄目で感覚を確かめてから、意を決して眼を見開く。


「……これは!?」


そこに広がっていたのは……一面の雲海とローターの駆動音だった。

柵に走り寄ると下方の雲に機影が掛かっている……おおっ、プロペラの影が動いてやがる!!


「良い景色でしょ、世界は違えど人間は此所まで辿り着いた……いずれは更に高みへってね。」


敵わねぇなぁ……天を指差しながら、満面の微笑みでそう語ったシオリさんをこの時、俺は心底羨ましいと思ったんだよ。


思い返せば夢破れ、腐ってただけの自分を恥じなかった訳じゃない。


でも次に何をするか……そんな原動力さえ起きない位に俺は全てを懸けていた。

なぁ、夢ってのはそういうモノだろう?

だからこそ忌まわしい記憶や傷痕でさえ、誇りなんだと思った時期があった……でも、もうそれに縋るのは良くないか。

少なくとも、俺はこの異世界で何かをやり直すと、そう決めたんだから……。



現在ーーカルパティーン洞窟、深部



「あのお姉様ったら!!何処まで行ってんだっオラァ!!」


自身を叱咤激励しながらゴブリンからひたすら逃げる俺……支給されたダガーは二本共に砕け散り、残った柄はゴブリンの顔面へくれてやった。


『前方から複数の動体反応を検知 三秒後に曲がり角で接触しますので飛び越えて下さい スキルを範囲使用します。』


くっ、気になるワードがまたまた飛び出したが『ジャンプ』が先……っだ!!


ティンの予告通りに4~5匹のゴブリンと遭遇したが、その瞬間にスキルを行使したお陰で気付かれずに走り抜けられた。

マジでスゲェな認識阻害……スキルを掛けられたゴブリンにしてみれば背後を走る俺の物音さえ隠蔽されてるのだから、捜しようがないだろう……だが。


「………。」


余計な……こ、事を考えて……いる、場合じ、じゃないか。


よろけて膝をつく俺……堪らずネバーランドを起動する。


「やばいな……現実じゃあ身体も思考も回らなくなってる。」


タイムリミットは残り2分を切っている……もう詰んだのか?こんな所で。

例えシオリさんと合流出来たとして、現状を説明している時間がない、それどころか首なし騎士(デュラハン)と戦闘が続いていたなら、それだけでアウトだろう。


『いえ 助かりました。』


はぁ?何を言ってるのティンさん、しかもちょっと怒ってない?


そう思った瞬間だった。


『失礼致します。』


俺しか居ない筈の仮想空間に突如として、執事風のイケメンが現れた……なんかイラつく顔してる。


『お初に御目にかかります 私はシオリ様の執事をしております 神速演算思考検索サポートファミリア セバスチャンと申します。』


「なるほど、で、そのセバスチャンさんがどうして此所にこれるの?一応、此所って秘匿空間の筈なんだけど?」


平静を保ったフリをしたが、内心では荒れていた……というか内面世界であるネバーランドでは心が駄々漏れである。

普段ティンには思っただけで意思疎通出来ていたのだから、セバスチャンにも動揺として取られているだろう。


「クールなイケメンが人の心に土足で上がり込むなよ……ってか声だけじゃないんだ?」


『………。』


『重ねて申し訳ありません モンテ様のお身体に急を要する重篤が発生致しましたので マスターの命により馳せ参じました この姿に関してはアバターエフェクトで御座います。』


なるほど、最初の質問には答えてくれないんだ……で、確かに今たて込んでてね、どう助けてくれるんだい?


『既に処置は施しました。』


『確認しました シオリ・デストロイ・トラビスのサポートファミリアにより マスターの毒物耐性分解酵素が付与 及びワタシの制限が一部解除されました。』


ティンの報告を聞きながら、こちらへ優雅に一礼するとセバスチャンは何も言わずに消えていった。

何となく分かった……あのイケメン執事に苛立った訳。

人の姿をとりながら、ヤツには感情はおろか人間臭さがまったくない……まるで仄暗い井戸の底に引き込まれる様な感覚に似ている。


『………。』


「さっきから黙っているけど、どうしたティン?」


『申し訳ありません おそらく最初に呪術を掛けられた時点でこのネバーランドへのリンクを貼られた事に気付きませんでした。』


「それはしょうがないだろ、お前は誕生してから日が浅い……配慮に欠ける俺と組んでいるしな、自分を責めるな。」


『……ひとつ聞いても宜しいですか?』


「………ん?」


『マスターはワタシがアバターエフェクトを使用した場合でも 不快な気持ちになりますか?』


何だそんな事か、ならねぇよ……これは身内贔屓かもしれないが、もし今、目の前に人間の姿でお前が悩んでいたら、俺はきっとハグしてるね♪


次の瞬間、眩い閃光が仮想空間を満たす……ち、ちょっ、何が起きた?


俺の眼前に今……裸の女子が起っている……だと!?

しかも中学ン時の同級生にかなり似ていた……まさか。


『抱いてください。』


だ、抱いてください発言キタァッ!!!


ま、待て、落ち着け……ティンさんだよね?


『はい……だから抱いてください。』


いや、そのドキワクな発言を重ねるなぁ!!まず服を着たまえ!!いい若いもんがっ!?


『了解しました。』


あれ?ちょっとシュンとしてる?ティンが白く細い指で空間をなぞるとディスプレイが展開し、彼女はそこから幾つかの項目を選ぶと……裸体を覆う様に光が巻き付く……と。


「待てェェいっ!!それ中学の時の制服!!」


……だがアリだな。


何故に自分の内面世界でこんな気恥ずかしい思いをしなければいけないのか……ティンさんはこちらを上目づかいで視ている。


きっと、ティンは俺の無意識に望んでいる事を反映して、叶えようとしてくれてるのかもしれない……ちょっと昔に思っていた願望を思い出した。


えぇいままよ!!俺は覚悟を決め、ティンへにじり寄る……そして。


……ポヨン♪


触感までリアルじゃねーかぁァァァ!!!


俺は悼たまれず、ティンから離れると項垂れる様に四つん這いで倒れ込む。


『………。』


深く、余りにも深く深呼吸をする俺を見ながら……ティンさんが笑った……気がした。


うん、緊張感に欠けるね、まだ完全に討伐は終わってないってのに、まったく、いや俺が悪いのか。

しかし、ティンの急激な変化が気になる……俺の無意識の反映だけでなくセバスチャンが此所に来た事で制限の一部が何ちゃらって話も関係してるだろうな。


「ティン、今もセバスチャンとのリンクは繋がっているのか?」


『はい 正確にはこちらからのアクセス権限はないようです。』


「そうか、ならこの洞窟から出たら、リンクを切れ……あと出来る限りのプロテクトも有るなら掛けておけ。」


さて……タイムリミットの問題は無くなったが、シオリさんがただの『好い人』ではなくなった。

俺の甘さから高い貸しを作っちまったしな……でなけりゃ完全に死んでた。

けど途中でゴブリンに囲まれるとか、パーティのアタッカーがメンバーを置いてくとかありえねーだろ。

ソシャゲなら全員からブッチされてるレベルだ。


いや……ったく、クソが、まだ俺はゲーム感覚が抜けねぇのか!?今、確実なのはお姉様に俺自身を値踏みされたって事だけだろ。

合否は別として、簡単に信じるのは危険過ぎる。


俺はネバーランドを停止し、現実へ意識を戻してきた。

心許ないが懐から手ぬぐいを取り出し、脇腹を抑える。


「行くしかないだろうな……浄火の勇者。」


眼前に広がる最深部へと続く道、俺の直感が正しければ……。


「ティン、最深部までの動体反応は?」


「……確認しました 反応は53体 内2体は高速で交差しています おそらく浄火の勇者と首なし騎士(デュラハン)と思われます。」


「他の反応はゴブリンの非戦闘員だな。」


『疑問 何故そう思われるのですか?』


「大きな理由はセバスチャンが現れたタイミングだ……俺のピンチに馳せ参じたってのは信じられん、だがこれが試験だとしたら?ここまで辿り着き、試験をクリアしたから助けたんじゃないのか。」


『……答えになっていません。』


「後方から追っ手の気配が消えた……さっきまで執拗に殺しに来てたヤツらがだ、その理屈に合わないゴブリンの行動、そしてセバスチャン……ふたつがこの場所で起きた、なら必ず理由がある筈だ、少なくとも偶然で片付ける程に俺はお人好しじゃない。」


『……マスター 周囲に結界魔術の痕跡を発見しました。 』


それだ、シオリさんが結界を張っていたと考えるより、彼女が壊したと考える方が自然……なら張っていたのはデュラハンだろう。

では何を遠ざけたかったのか?


「ティン、他の動体反応はバラバラに点在しているのか?」


『いえ 1ヶ所に集められているようです 。』


「そこまでナビゲートしろ。」


まだ目眩と吐き気が残っていたが、壁づたいに歩きながら呼吸を整える様に努める。


ほんの4~5分程進んだ所でようやく息が楽になってきたが、代わりに奥からなんとも表現し難い悪臭が漂ってきましたよ……。

馬鹿野郎!こっちはもう口の中が酸っぱくて苦ぇーんだよ!

これ以上のストレスはガチで勘弁してほしい。


辟易しながら更に奥へ進んでいると……やがてそれは見えた。

ぼんやりと毒々しい色の煙と光が洩れる入り口。

間欠泉が噴き出す音に似たものが幾重も聴こえる。


『微弱な毒性を含んだガスです。』


「ここに居るんだな?」


最早、俺の身体に毒物は通用しない……だろう、ここは臆する事なく毅然と問題の空間へ入ってゆく。


「……!?」


先に言っておくが、想像以上の光景に俺はドン引きせざるを得なかった……寄生する様に洞窟を侵食し、岩肌へ広がる肉の壁はおぞましく律動を繰り返し、浮き出た血管の一部が破れて紫色の体液を垂れ流していたからだ。

注視すると、溢れた体液が岩を溶かして気化している……おそらくガスの正体はこれだな。


他に特筆するもの……空間の中央に垂れ下がった肉管の先に付いた卵?なのか、胎動を繰り返しながら淡く光を放っている。

禍々しい、コイツを誕生させる事は必ず災いを呼ぶ……そんな予感が過った。

だがおかしい、此所には約50の動体反応が、ゴブリンが居る筈なのだが……見あたらない。


改めて周囲を見回すが確かに肉壁しかなかった、おいティンさん?


『間違いありません 動体反応はこの空間で検知されています。』


この空間……この空間だと……まさか。

背筋が寒い……一際強いおぞましさに襲われ、戦慄で肌が粟立っている。

肉壁には不規則に凹凸が、いや、隆起と言うべきか、そうなっている部分が無数にあり、それは高所の部位にも視えていた。


俺は無言で四次元ホールからナイフを取り出す……これ、一応料理用で買っておいたヤツなんだよな、消毒液とかこの世界にはないし使い捨てにするか。

……等と考えながら、肉壁の隆起に切り込みを入れてみたのだが、またもや想像以上だった。

ネットリとした表面に俺の鼻をつく劇薬級の臭い、涙で手元が見えねぇ。

不意にナイフから煙が立ち、何か音がする……どうやら血管を傷つけたせいで刀身が僅かに腐蝕した様だ。

涙を腕で拭い、細心の注意を払って1m程切り裂いてから……力任せで一気に隆起部位を捲る!


「やっぱ、ここに居たか。」


そこには俺が先程まで戦っていた個体より更に小柄なゴブリンが裸で埋め込まれていた。


「駄目だな……コイツは死んでいる、しかも身体の一部が肉壁と融合、いや、取り込まれちまってるのか?」


『痕跡から推測出来るだけでも 少なくとも300体以上がここへ埋め込まれて 養分として吸収されたと思われます。』


あの卵の養分としてか?……こいつは一刻も早く、破壊しなきゃならない。

早速、購買部で買った謎の物体Xの出番という訳だ。

俺は嬉々として四次元ホールへ仕舞っておいた謎の物体Xをひとつ取り出し、気軽に手中で回してみる。


「さて、そうなると問題は他のゴブリンなんだが……みんな死んでいるのか?」


『動体反応の正確な位置へ生体スキャンを施行……少々お待ち下さい……出ました 19の個体に生命反応あり 予断を許しませんが生きています。』


俺を殺しに掛かった連中だ、助ける義理はない……諸ともにした方が後腐れないが……。



一方、同時刻


激しく散る火花、轟く打撃音……。

3m以上はある重装鎧の騎士はその身の丈に合わない俊敏さで自身よりも長大なハーケンを振り回し、シオリへと襲い掛かる。


幾度も繰り返される斬撃の連鎖は、しかし開戦から変わらずに空を裂くのみだった。


もし騎士に頭部が付いていたならば、多少は焦りの表情を見せたかもしれない。

だがそれは栓なき事であろう。

何故なら彼は闇の眷族に在って中位から上位にまで至る不死の怪物、首なし騎士(デュラハン)であるからだ。


ハーケンの連撃を銃身で滑らせる様に捌きつつ、もう一方のリボルバー 『神威 Dー77』を容赦なく撃ち込むシオリ……。

その弾丸は鋼を遥かに超えるデュラハンの鎧へ苦もなく穴を穿つが、穿ったそばから穴を塞ぎ何事も無かったかの様にまたハーケンを振るわれる。


(ダメージを通さず、疲れもしらない狂戦士……厄介だけど無敵ではないのよね。)


そう、無敵ではない……各地の伝承やギルドの交戦記録による研鑽により首なし騎士(デュラハン)の弱点は判明していた。

それは頭部である、当初、首なしの名に矛盾するその事実にギルド上層部は難色を示さざるを得なかったという。

この異世界の人類史を紐解くと、決まって戦争の表裏に首なし騎士(デュラハン)が登場する……人類を苦しめ、また多く交戦した不死の怪物。

多大なる犠牲の上で討伐を成しても、新たな首なし騎士が後の時代で猛威を奮う。

討伐は成されていなかったのか?そもそも殺しても死なないからこその不死であり、昔の記録の曖昧さも相まって情報は錯綜の一途を辿ってゆくばかりであった。


だが今から約百年前、運命の天秤は真実へ傾いた。


当時、神聖ウォルターナ王国領内で出現した首なし騎士(デュラハン)とその軍勢を討伐せんと出征した王国騎士団。

団長とそれを補佐する副団長の任に就いていたのは貴族出身ではない双子の兄弟であったという。

兄弟は伝承に則り、デュラハンを聖属性の広域結界へ追い込んで再生不可能になるまで塵も遺さぬ程に消滅させようとした。

追い込みに成功し、結界内部でデュラハンを消滅まで足止めする騎士団……壊滅的な損害の末に団長の一撃でついに討伐は成されたのだ。

歓喜に包まれる騎士達、だが異変はこの後に起きる。

結界の効力が切れた直後、団長が苦しみだしたのだ……瞬く間に鎧は変貌を遂げ、暴れ始める兄の姿に弟である副団長は戸惑うしかない。

が、双子の共感能力とも言うべきか……その時、兄の思念が語りかけてきたのだという。

自身が消滅寸前のデュラハンから呪いを受けてしまった事、もうすぐ完全に不死化が終わり、自我が消えてしまう事……そしてその前に自分の頭部を破壊し、人間として死なせて欲しいと託された。

徐々に首が裂け、黒き血に染まる鎧と怨霊たる死の雄叫び……弟は即座に指揮を再編し、デュラハンに変貌する前に兄を止めたのだ。


この事件がきっかけとして、今まで無いとされてきた頭部に着眼される様になり、同時にデュラハンは生粋の魔物ではなく元は人間であるというのが定説となる……それを示す様に、国家間の戦争とデュラハン出現の時期がいくつか符合していたのだ。


(騎士王物語……いままでの討伐はたまたま隠れた頭部を破壊出来てたか、或いは次の依り代へ潜伏してたかだったのね。)


後方へ銃の火力を解放し、自身の速度を倍加させて飛び込むシオリ。

迎え撃つハーケンの直前で上半身を低く仰け反らせ、デュラハンの股下を潜り様に銃弾をバラ撒く!


「キ、キ……サマ……人間……フ、風情ガガ、ガ。」


「あら、少しは喋れるの?自我がないって聞いてたけど?」


おどけながらも容赦なしにデュラハンを翻弄する浄火の勇者……だがその行為に意味等無いのは彼女も承知している。


(セバスチャン……いい加減飽きたんだけど、解析終わった?)


『はいお嬢様 滞りなく どうやら頭部は闇の衣で擬装し浮遊している模様です。』


(それで対策は?)


『No.11のフレグランスをお勧め致します。』


(OK丁度、火力のチャージが完了したわ。)


刹那、妖艶な微笑みを称え両腕のリボルバーの銃身が解放され、くの字に折れると周囲が淡く魔力の光を帯び始める。


だがデュラハンもただ黙ってはいなかった、只ならぬ雰囲気を察してハーケンをブーメランとして投げてきたのだ。

寸前、迫り来る死の(あぎと)を紙一重で見切るシオリ……僅かに頬を掠め、ハーケンは鮮血を拐ってゆく。


そして、怒りに眼を見開いた勇者は断罪の宣告を始めた。


「込めたるは『愚者の涙』 『蠱惑の密告』 『虹色の裏切り』 ……其はーー」


魔力の光に惹かれ、シオリの腰部に巻かれたガンベルトから三つの小さなガラス容器が浮き上がり、中身の液体ごと粒子となって二挺のシリンダーに込められてゆく。

次の瞬間、銃身が上がり装填完了と同時にシリンダーが回転、そして重厚な音色と共に撃鉄は起こされたーーこの間約二秒。


「紫煙の代償(クレイジーパープル)。」


放たれる閃光ーー高出力の夥しい魔力弾がデュラハンを包み込む。


「………?」


防御体勢で固まるデュラハン……だが何の変化も無い自身に気付き、戸惑いと共に防御を解く……前方には発射体勢のまま、銃口から硝煙を吹き上げているシオリが笑顔で立っていた。


しかし、彼は直ぐに致命的な事態に気付かされる。


周囲に漂う絶望的な数の魔力弾……それらはデュラハンを包囲する様にゆっくりと滞空しながら、その時を待っていた。


「闇属性の隠形術で弱点(首)を隠してたのでしょう……でも。」


次の瞬間、無数の魔力弾が凄まじい速度で空間内を弾け跳ぶ!!

互いに干渉しない軌道で、シオリを避けながら無間の跳弾を繰り返す魔力弾。


「……!?」


為す術もなく、文字通り即座に決着はついた。

上空のある一点で爆発が起こり、瞬時に残りの魔力弾も雪崩れ込むかの様に殺到したからだ……。


「火の前で闇は追い払われるだけなのよ、知ってた?」


静かに首なし騎士(デュラハン)の躯は崩壊を始め、苦悶の雄叫びを上げて塵へと還ってゆく……。


シオリは無慈悲に笑い、その様を眺めていた……がその時だった。


凄まじい地響きと共に、天井の岩肌から剥がれた小石がパラパラと降り頻る。

と、デュランが崩壊を続ける躯を推して歩きだしたのだ。


「モ、申シ訳……アリマセン、がーらんと様……。」


ガーラント……確かにデュラハンはそう言った、その瞬間、シオリは今までになく激昂してデュラハンへ詰め寄る!


「貴様ぁ!!何故その名前を知っている!!」


デュラハンのローブを引き掴みながら、昂る感情に任せて問い質そうとするシオリ……だが。


「………。」


沈黙の最中、シオリの手をすり抜ける様に完全に塵へと還ったデュラハンの躯は僅かな燐光を遺していった。


「………。」


『お嬢様……どうやら洞窟内で爆発が起きた模様です。』


「分かっている……モンテ君だろう、大方うちで買った手榴弾を使用したんだろう、道草が長いな支援要員だろうに。」


『今回の一件で 彼のお嬢様に対する印象は悪くなったのでは?』


醒めた眼差しでひとつ溜め息をつくと、乱れた髪に気付いて掻き上げる。


「それも……分かっているよ、しょうがない、彼を労いに行くか。」



一方、爆発と同時刻。



爆発を感じ、結界の消失に気付いたゴブリン達が最深部へ殺到していた……。

だが彼等の有蹄類の眸に殺気は感じられない、むしろ呆気に取られている印象すらあった。

まぁそれも仕方ないか、何せ爆発で煙を吹いてる最深部を尻目に、19体のゴブリンを安全な場所まで運び出し終わった俺がへたり込んでいたのだから。

正直、もう何もする気が起きない……今、コイツらが他の仲間を殺したのが俺だと勘違いされようが、されまいが、一斉に襲われたらお仕舞いなのだ。

思った以上にしんどかった上に、コイツらが来るのが早くて逃げそびれた。


さて事態はどう動くか……詰むか、詰まざるか。


「……。」 「……。」


一匹のゴブリンがおずおずと進み出て、倒れている仲間を抱きかかえた……生死を確認した瞬間、その眸に涙が溢れる。

触発された様に次々と駆け寄るゴブリン達。

どうやら、コイツらにも身内を想う感情は在るらしい。


と、何匹かのゴブリンが煙を吹いてる最深部へ入ろうと俺をすり抜けてゆく。


「行くなっ!!」


有りったけの声を絞り、一喝する俺に圧されて歩みを止めるゴブリン達……言葉は通じてはいないだろう。

だが静かに彼等の顔を見詰め、首を横に振る俺の仕草を見た瞬間、ゴブリン達は泣き崩れた。

助からなかった者の身内だったのか……確めたくもないな。


無言で壁を掴み、何とか立ち上がる……とりあえず、このまま空気に任せて逃げてみるか。

そう甘い事を考えた瞬間、進路というか退路を塞がれた……マジで勘弁してくれ。


だが彼等には襲ってくる気配が一向にない……ん?


Oh! success!! & burst!! & stylish!!!


これは……掛け声、というか効果音だと!?


『シークレットBGM解放 及びレアステータス 好感度・邪の取得に成功しました……これにより専用スキルの拡張とゴブリン族への思念伝達が可能となります。』


な、何だとっ!!魔物からも好感度を得るんか!?


『詳細ですが このBGMの解放条件は一定数の同時多発連鎖的に好感度を得る事です。』


いや、聞いてねぇし……とか思っている間にゴブリン達が俺に平伏してるじゃねぇか。


とりあえず、可能だと言うなら俺の意思を伝えてみるか。

ティンにレクチャーを受け、ゴブリン達へ思念を送ってみる。


【ゴブリンよ……聞こえますか……聞こえているのなら、皆で一斉に右手をお挙げなさい。】


ちょっとふざけて仏チックな物言いをしてみた……おおっ!?本当に挙げたじゃないか!!


【いいかぇ、私達の目的は首なし騎士(デュラハン)の討伐です……ゴブリンよ、そなたらとは行き掛かり上、交戦したが敵意はない……聞こえていますか?ゴブリン達よ。】


おおっ!?おおっ!?……みんな涙を浮かべて俺を拝んでいる……って、何か詐欺師になった気分で嫌だな。


【とりあえず、ざっくり言っとくけど、事情は知らんが生きてるヤツらは助けた……用が済んだら出てゆくから、道を通してくれ、あと人里に迷惑かけるなよ!人間達から刺客を送られるぞ!!】


ざっくばらんな物言いである……するとゴブリンの一匹が此方に答えを返してきた。

と言っても知能が低いせいか、思念も辿々しいものではあったが。

うん……それによると今までこの洞窟内で静かに暮らしていたらしいが、ある時、突如現れたデュラハンに女子供を人質に取られて結界まで張られ、ゴブリン達に隷属する以外の選択はなく、言われるままに人里を襲っていたらしい。


なるほど、要約するとこういう事か……ってかダラダラと要領を得ない話し方で、ここまで理解するのに時間が掛かったよ。

おかげでデュラハンを討伐し終わったシオリさんがやって来て、不審な目で俺を視てるじゃないか。


「君はゴブリン相手に、何をしているんだ?」


そう言うなり、物騒な二挺拳銃を抜こうとしやがった!?


「ち、ちょっと待てくれよ!シオリさん!!」


俺は必死に事情を説明するが、言ってる側からふざけて銃口をゴブリン達へ向けようとしやがる……ギルマスの言う通り、人間至上主義って訳かい。


「ふぅん……じゃあゴブリンが街を襲う事はないのね。」


「状況は話したろ、コイツらも脅されて仕方なく従ってたんだよ。」


(ゴブリンを餌に育てられてた卵……結界といい、あのデュラハンの個体でそこまでのお膳立てが出来るのかしら?)


「シオリさん?」


「分かった、幾つか疑問符がつくけど、今回の一件はこれでお仕舞いにしましょう……けど、今後は君がコイツらの監督と責任を負いなさい。」


うえぇ……マジで!?そんな心境が表情に出た瞬間、またも銃口が上がりかける。


「やらせていただきます。」


かくして、俺の初めての討伐クエストは幕を閉じた……ああ、そう言えば余談だが、俺が殺したと思っていたゴブリン達は生きていた。

彼等にしてみれば唾を付けてれば治るレベルらしい……それだけ俺の戦闘力がザルで、今回は運が良かっただけなんだろう。

今後も討伐に関わるなら、鍛練と実戦経験は必須である。


ともかく、色々と疑問が残る結果には違いない。



帰り際、見送りとして洞窟から出てきたゴブリン達の思念で俺は何とも複雑な気分になった。


ゴブリン一同【……主様!!】


おいおい、人を勝手に担ぐなよ……まぁ仕方ねぇか。


何はともあれ、終わり良ければ全て良し……であろう。




幕間 二日後、アームベルン王宮 応接間


白亜の大理石と黄金を基調とした荘厳な応接間……いや、もはやダンスホールとでも形容出来る程の空間の中央に、不釣り合いなテーブルとソファが二脚置かれており、そこに座る二人の人物は今まさに火花を散らす様に睨み合っていた。


「やはりこの国に居たんだな。」


そう呟きながらソファの肘おきをミシミシと軋ませる女性……浄火の勇者、シオリ・デストロイ・トラビス。


「敵が多くて困ってるのよ、だから公式には私はここに居ない事になってるから、他言無用でお願いねシオリちゃん♪」


冷たい微笑みを称え、わざとらしくおどけて見せる女性……。

白金の髪を背中まで流し、高位の神官服に身を包んだオッドアイの眼……シオリとはまた違った系統の美女は優雅にティーカップへ口をつけながら、眼差しだけでシオリを挑発している。


「相変わらず、人をおちょくる悪癖は健在か?碧渦の勇者よ。」


「いやね~昔みたいにサラちゃんって呼んでよ、シオリン♪」


「戯れるな……長居は無用なんでな、単刀直入に聞くが今回の一件、お前の差し金か?」


「どの事を言ってるか分からないけど……まぁ多分全部そうよ。」


その瞬間、ソファの肘かけが軋みを立てて千切れ飛んだ。


「落ち着きなさいな……確かに伝手を使って国の正式依頼にしたけど、私に儲けはないのよ、今回は善意だから。」


「善意?笑わせるな、お前の目的はなんだ。」


「真正面から話すと思って?お馬鹿さん。」


瞬時に二挺拳銃を抜き放ち、銃口をサラの瞳へ向けるシオリ。


「残念だよ、まだ私相手に交渉が通じると思っていたのか。」


「……撃ちなさいよ、王城内での狼藉を咎められるのは貴女だから。」


加速度的に張り詰めてゆく緊張に反した無に等しい沈黙……。


交差する殺気は互いの意志を揺らし、一線を越える瞬間を謀り始めた。

……だがそれらが臨界を越える事は結局の所、無かった。


碧渦の勇者 サラ・ストームが殺気を解いたからだ。


「シオリ……彼に会ったのでしょう?」


涼やかな瞳でそう問われ、殺る気を削がれる形に不本意ながら落とし所を見出だしたのだろうシオリもワザとらしく溜め息をついて銃を仕舞う。


「それがお前の目的か?」


「全てではないわ……でも、彼もまた神々の座興に選ばれし者だもの気にするわよ、だから貴女を引き逢わせた。」


「……お前の事だ、モンテ君の資質、予言を詠んだのだろう。」


「そうね♪確か貴女のは……『浄火、その本質は一切の不浄を焼き払い、世に光を照らす者……されどその揺らぎは清濁を併せ呑む事を赦さず、身近な者達を死地へ誘うだろう』だったかしら?」


刹那、微かに眉を吊り上げるシオリであったが瞳を閉じて腕組みをしながらソファへ座る。


「お前もな……『碧渦、その本質は淀みを追い払う者……されどその嵐は足下を破壊し、新たな災いの種を呼び込んで永劫に治世は為されないだろう』だったか?」


「嫌な言葉よね、でも私は予言を受け入れたわ……嵐だと言うなら、思う様に底を拐って壊すの、そして何時の日か私が死んだ後の時代が平和になればいい……貴女もいい加減吹っ切りなさいな。」


「知るか、私は自由に生きるだけだ。」


シオリのその言葉に今度はサラの方が溜め息をつき、首を横に振る。


「彼の予言は……『釈壁、その本質は小さき灯火を護り、世に広げて歩く者……されど其は全てを護る盾に非ず、必ず世を割るだろう』よ。」


「不吉だな……嘘を吐いてはいないだろうな?」


「どうでしょうね♪嘘かもよ……好きに取りなさいな。」


次の瞬間、弾かれる様に立ち上がり、シオリはサラに背中を向ける。


「やはりお前と会うと胸焼けがする耐えられん。」


そう言うなり、ツカツカとヒールを鳴らしながら扉へと向かう。


「選択は任せるわ。」


その言葉はシオリに届いてはいない……そんな確信に薄く笑いながら、ぶっきらぼうに扉を開いて出てゆく彼女へ視線を送るサラ。


(ふふ、ゴメンねシオリ……彼の予言、本当は一部改竄しちゃった♪貴女は私の手のひらで踊りたくはないんでしょうけど、貴女の性質上、彼の予言を疑いながらも確めざるを得ない筈、世界を破滅へと導くかもしれない存在としてね。)


一人残された応接間で再び優雅にティーカップへ口をつけるサラ……。


「幾重の選択を導き、また運命は私の望みに近づいた……もうすぐね。」


余りに愉快な気分に彼女自身、気付かぬ内に声を出して笑っていた。



つづく

どうだったでしょうか、主要人物の一部がようやく出せました。


これからモンテ君の苦難の日々やお姉様の冒険が展開される……かもしれません。


それではここまで読んでくれた皆様に感謝を……。

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