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G・G SKILLで異世界奇譚!  作者: 下心のカボチャ
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第二章 領主編 『道草食ってる間にアオハルは浪費される。』

ナポリタン食べたい ナポリタン食べたい!!

「………。」


沈黙……静寂……見渡す限りののどかな大平原……人っ子ひとり居やしない、馬車も竜車も通りやしねぇ。


あれからどれ位の時間が経ったのか?

MAPのナビにはあの森林街道から30km地点と明記されているな……少なくともハーフマラソンはとっくに完走(歩き)している。

腹減ったわ、水も飲みたい……ブーツから立ち上る足の薫りで気付けにはなっているが、何時倒れてもおかしくないだろう。


ずっと同じ風景を地平線に向けて歩いている、変わらない光景ってのは案外キツいもんだ……。


街道に沿って歩いてきたが目的の村まではあと40kmあるぞ……ここからフルマラソンかよ。

竜車で半日ってデタラメじゃねーの?どんだけ速いんだよ。

……等と色々グチャグチャ考えつつ、街道脇にある木の下へ座り込んだ。

日陰はまだ涼しい……さてどうする?

大抵のファンタジーものなら、主人公が行き倒れになった所で美少女か爺さんに拾われて、温かい食事付きの家で目覚めるってのが定番なんだが……期待出来ねぇなぁ。


仕方ない、ナボル村に行く前に近場の人里を探すか。

うん、まぁ、最初から距離は分かってたよ……でもほら、意外とイケると思ってたんだよね、今諦めたけど。


視界に表示されたMAPを拡大し、現在地から人里を探し始める……拡大したら画像が3Dカラーに変わった?今まではレーダーマップみたいだったのに、便利だなこれ。


「………。」


検索の結果、5km先にある街道の分かれ目を南下してゆくと1km程で町があるようだ。

意外と近い……態勢を整えられる。


疲労が蓄積しているが、何とかなるだろう。

安心したら一服点けたくなった……。

ぶらぶらと喰わえタバコで街道を歩きだす(歩きタバコは止めましょう)。


日射しで風景が歪んで見える、たまらないので上着を脱いで肩へ掛けたが上半身裸なんだな俺……どこのロックスターだよ。


それからヒィヒィ言いながら、二又の道へ出て……途中、ジグザグに丘を降りてゆく道程に変わったが遠くに町並みが見える所まで来た。

おっ、石橋が掛かっているな、ちょっとテンションがアガったわ。


……と、駆け足で石橋まで来た時、ちょっと雰囲気が違うのに気付く。

何か壊れてない?この橋……いや、それ自体は問題なく渡れそうだが、柵の装飾や肝心のアーチ部分に幾つか傷が穿たれていた。

多分、経年劣化の類いでは無いと思うのだが……。

そう思考を巡らせた瞬間、グールの事が頭を過った。


……まさか、あの群れに襲われたのか!?


グール共が様々な町を襲って規模を拡大しているのなら、あの夥しい数に納得がいく。


俺は町が無人である最悪の事態を想定して向かった……のだが、結論から言うと、無人ではなかった。


アームベルン程ではないが、それでも立派な町だと思う……だが人通りが少ない、ってか活気が無さすぎる。

民家から生活の匂いや気配はするので、みんな外に出てこないだけか……まぁ、そこは元引きこもりとして敏感なのだよ。


偵察……というか手持ち無沙汰でウロついてただけだが、元の世界なら不審者でしかねぇ。

こんな時、どうしたらいいのか?経験不足で笑えてくるわ。


「………。」


……中心部にある噴水が眼に入り、フラフラと歩いてゆく。

流石にこの水を飲んだらアウトだよな~。

頭を掻きながら外縁の石垣に腰掛ける、側に水辺があるだけで若干だが涼しい。


ちょっと休憩したら、とりあえず飯が食えそうな店を探すか……ナボル村までの足もどうにかしたい所だし。


それから暫く一息ついて涼をとっていたが、ふと、噴水の近くって大体飯屋あるよね……とか思って見回してみる。


何かそれらしい店あるじゃん!?

縋る思いで近付くと……中から明かりが洩れているな、木組みのガラス扉を少し押し開いてみる。


「すいません、やってます?……てかここって飯食えますか?」


顔だけ覗かせ伺いをたててみると、店内にバーカウンターが見えた。


「……うちは酒場だよ、軽食ぐらいは出せるが、どうするね?」


カウンターの奥から出てきた爺さんが怪訝な表情でそう言ってきた……俺としては是非もない、やっと腹に何か入れられるのだ。


満面の笑みで爺さんの前に座り、メニューを聞いてみる……。


「テアマトのパスティなら直ぐに出来るよ。」


「テアマト?パスティ?何それ、美味しいの?」


「……兄ちゃん、見ない顔だけど冒険者かい?」


「ン~そんなトコ、途中でモンスターに襲われてね……徒歩でここまで来たんだよ。」


「そいつは難儀だったろう、しかも今此処に来るとはな、ツイてないぞ。」


ん……どういう事よ、爺さん?

「悪い事は言わんから、メシ食ったらこの町をすぐに出な。」


「……何かあんの?まぁ俺も厄介事は勘弁だから助言は聞くよ、んでさ、ナボル村まで行きたいんだけど……馬車とか牛車(笑)を手配出来ないかい。」


「ナボル村?ああっ、カルパティーン洞窟近くの集落か……物好きだね兄ちゃんも、良いぞ、後で行商人やってる従兄弟に話を繋いでやるよ。」


やった!メシも食えてアシもGETだぜ!!


いやはや、助かった……胸を撫で下ろし、一息つく俺へ笑顔で水を出してくれる爺さん。


「ありがとう、メシは食えるし水まで飲める。」


「あん?表に水場があったろう……あれ生活用水だから飲み放題だぞ。」


「ウソ……あれ飲めたの!?噴水だと思って我慢したよ……。」


呆気にとられ、そう呟いた俺の表情が余程面白かったらしい……爺さんは大爆笑で何度も俺の肩を叩いてから、厨房へ入っていった。


「………。」


ああっ……何かを待ち遠しく思う時間っていいな♪


ヒマなので、チビチビと水を啜りながら店内を眺めてみる。

アームベルンの街並みを初めて見た時も思ったが、内装や内壁はコンクリがザラだし、製鉄や鋳造技術なんかも高そうだ……元いた世界で比べるなら20世紀初頭くらいの水準じゃなかろうか。

軍事ではシオリさんとか先に来てる異世界人がやらかしてて、とんでもない事態になってそうだが、生活が便利なのは良いわ。

因みにアームベルンでは水路が象徴的なだけあって、下水道が整備してあった……と言っても、ちゃんとしていたのは二番街からだったが、トイレは水洗で飲み水とは別にポンプ式を屋内まで引いていた。


厨房から湯気が漂ってきたな……そういや、料理なんかの火力はどうしているんだ?

流石にガスとかじゃなさそうだが、修道院では薪だったーー。


「………。」


一瞬、修道士達の……ティガーの顔が過った……。


急に思考が停滞しちまう……仕方なかったなんて考えられねぇよ。

修道院に帰った時、みんなに何て伝えればいいんだ?

理路整然と話すなんざ多分出来ねぇ……俺自身が呑み込めてねぇんだから。


一気に水を飲み干して、コップをカウンターへ置くと乾いた音が微かに鳴った……。


嫌な気分を何かで誤魔化そうと分かりもしないのに今度は酒棚のラインナップをぼんやりと眺める。


「あいよ、有り合わせだが食いな。」


そう笑って、爺さんは片手に凄まじい湯気がたつ大皿を持ってきた……香ばしい、食欲が掻き立てられて今にもヨダレが垂れそうだった、ってか垂れてたわ。


「こ、これは……。」


眼前に置かれた料理……これ……もしやナポリタンでは?


俺は生唾を飲み込み、微笑む爺さんを見ると、奴は無言で頷く……ご、ゴチになりやす!!


即行でナポリタン本体の左右に刺さったスプーンとフォークを無造作に掴んでスクリュー状にコネくり回し、これでもかという程の量をフォークに巻き付けてスプーンで下から押さえる……ああっ、なんという至福の刻だろう。


口の周りを汚そうが構う事はない!!熱々のパスタをハフハフッ言いながら、かぶりつく!!


「うっ、美味い!美味すぎる!!」


その瞬間、思い出が走馬灯の様に駆け巡る……灰色の高校時代、授業を早退し行きつけの喫茶店でコーヒーをお供によくナポリタンを頼んだ。

その店のマスターは別段、珈琲にこだわりを持つ人ではなく、寧ろ店内の雰囲気に比重を置いていた。

80年代のゲーム筐体をテーブルにし、少年、青年を問わない単行本マンガを取り揃え、あまつさえウェイトレスのバイト採用もマスターの趣味趣向に添った水準で選んでいると噂される程であり、某マンガに出てくる喫茶店を目指したと本人も認めていた。


……そんな居心地の良さMAXである店で食べたナポリタンとこの爺さんが作ったナポリタンは酷似していたのだよ。

しゃきしゃき感を残したピーマンの柵切りと斜めに切られたウインナー、そして玉ねぎ……それらが酸味と甘みが濃縮されたケチャップを纏い……ううむ、ぱらりと振られたブラックペッパーに似たスパイスが効いてやがる!!


思わず涙と鼻水が同時に出る所だったぜ……。


「兄ちゃん、良い食いっぷりだね~料理も喜んでるよ。」


「おっ……あ?」


口一杯頬張り、パスタを垂れ下げながら応える……またしても爆笑されちまった。


取らないから落ち着いて食えと言いながら、爺さんは酒を注いで呑み始める。

お言葉に甘えてゆっくり堪能させて貰おう……とした矢先だった。


「………?」


突如扉が開け放たれ、明らかに胡散臭げな四人組が入ってきた。


「邪魔するぜジジィ、キツいヤツをロックで3つだ。」


何だコイツら……前を歩く三人はお世辞でも綺麗だと云えない不衛生な身なりで、腰から下げているのは銃か?えらく高圧的な態度だが、後ろのは女か……若いな、16~18歳といったところか、他の三人と違って動き易そうな軽装のハーフプロテクターを身につけている。


銃を携帯している様な身なりじゃないな……どちらかと言えば近接に向いたものだろう。


何故かって?……肘、脛、胸を守る最低限の装甲に加えて、彼女は左目に眼帯をしていた。

左側をカバーする様に拡大されたプロテクターを見る限り、ファッションで眼帯をしている訳じゃないだろう。

もしガンマンなら、視野にハンデを持つのは致命的だし装備が意味を成さない。

あの装備は距離を潰し、近接戦闘へ持ち込むためのものと考えるのが妥当だ。


そんな事をぼんやりと考えながら、肩越しに視ていると彼女と一瞬目が合った……てか睨まれた?

まぁ、ジロジロ見るのも失礼だな……向き直ってナポリタンをコネくり回そうか。


「帰えんな、溜まったツケも払えん奴等に飲ませる酒はないんでな。」


おいおい、爺さん……銃を持った奴等に対してハッキリ言うなぁ。


「あん?一体誰が魔物からこの町を守ってやってると思ってんだよ!?」


「ワシら町の人間は一人も頼んでないわ、お前らが勝手にやって来て押し売ったんじゃろうが!逆にお前らのせいで町が荒んだわ。」


なんかややこしい事情がありそうだ……思わずコネくり回すフォークが止まってしまったよ。


「爺さんが何を言おうが、俺達は領主代行のバルロー様からお墨付きを貰ってんだよ♪このフェデルの町を好きにして……おおっと、用心棒をやってくれってなぁ!!」


バルロー?……はて、最近どっかで聞いた名前だな。

代行って事は領主不在なのか……んん?


「誰が何と言おうがっ!!無法者に飲ます酒は置いとらん!!」


空気が変わった……爺さんの激昂よりも、背中から感じる気配の方が張り詰めている……マズイな。


「そうかい爺さん……残念だが仕方ねぇな。」


次の瞬間、爺さんの後ろにあるボトルが派手な音を立てて続けざまに粉々に弾け飛ぶ!!

至近距離で弾けた破片を顔に受けて、カウンターへ雪崩れ込む爺さん……顔を押さえた指の間から鮮血が滴ってゆく。


「どうする?これでも俺達に飲ませる酒はないってか……ホラ、言ってみろよ。」


酒場内に奴等の下品極まりない高笑いが響く、結構な至近距離で銃を抜きやがって……ビビって逆に動けなかったわ。


苦痛で顔を歪める爺さん……その眼には恐怖とそれを凌駕しようとする意地が見えた。


次に爺さんが一言でも口にしたら、おそらく容赦なく鉛弾をブチ込んでくるだろう……そんな予感がして、俺は動いた。


「………。」


余裕の面で二挺拳銃を構えた男へ振り向き様にフォークを投げつけたが……即座に反応され、銃のグリップで弾き落とされちまった。

スゲー反射神経だな……だがそれでいい。

銃を構えた男だけでなく、他の野郎二人もフォークに意識を向けてくれた。

この瞬間、毎度お馴染みの認識阻害を使って距離を潰し、異次元BOXから取り出したダガーで、両手人指し指を斬りつけた。


余裕の面はみるみる青ざめ、絶叫と共に男は拳銃を落としてしまう。

……この時、皮一枚でだらりと垂れ下がる人指し指を視ても俺は何の感傷も抱かなかった。

どうやらグールとの戦闘を経て、人間に斬りつけるという忌避感が薄れたらしい、ってか先にブッ放したのは向こうだ、構いやしないだろう。

続けて状況を把握しきれていない野郎の顔面へ躊躇なく膝をめり込ませ、前歯を派手に飛び散らせて黙らせた。

この間、大体5秒も掛かってない……残りの野郎はみぞおちへ一発入れてから顔面をカウンターへ叩きつけた。

とまぁ簡単そうに言ってみたが、実際簡単だった……なんせ奴等は俺を認識できないのだから、一方的にタコ殴り出来るわな~一人を除いて。


「どうする?お嬢さん、お仲間はこのザマだけど続きやる?」


「……何をした?今のお前の挙動、コイツらが反応出来ない動きじゃなかった筈だ。」


あらら、このお嬢さん、あの時視線を俺から切らなかったのか……手強いな。


「秘密だぉ(笑)言う訳ないじゃん。」


「あんたこの町の人間じゃないだろ……ゆきずりでアタシらペク・トー団に喧嘩売るのかい。」


まただ……この冷たい眼光、洒落にならねぇプレッシャーじゃねーか。


「ペク・トー団ねぇ……何それ、美味しいの?それに喧嘩を売ると言うならーー。」


俺はカウンターに突っ伏して悶絶する男の鼻先すれすれにダガーを思いっきり突き立ててから、ナポリタンを指差す。


そう……さっきの銃撃で俺の青春のナポリタンがガラス片を大量にトッピングされてしまったのだよ……笑って許せる範疇はとっくに越えていた。


「俺のナポリタンを返せ(泣)……!!」


「な、ナポリタン?……それパスティだろ。」


「ナポリタンだっ!!俺のアオハルが詰まった最高のご馳走だったんだ!!」


いかんいかん……思わず激昂して、まだ横で悶絶してる野郎のドテっ腹を蹴り上げてしまったよ。


「そいつは悪かったね……意味は分からないけど謝るよ、けどーー。」


刹那、お嬢さんの姿が消えた……!?そして。


「アタシらもナメられたらお仕舞いなんだ。」


一拍の間を突いて、耳元で囁かれた言葉の続きに戦慄が疾る!!

間合いに入られたっ!?そう思ったのと同時に鈍い煌めきが俺の首筋へ襲い掛かってきた。


「………。」


「へえ……やるじゃん、アタシの剣撃を捌くなんてね。」


捌く……馬鹿言うなよ、完全に死んだと思った。

瞬間的に避けられないと判断出来たからこそ、敢えて当たりに行ったんだ……。

防御とは呼べない稚拙な賭け、斬られるタイミングを少しでもズラして致命傷を避けられれば御の字っていう悪手。

運が良かったのは彼女の得物がダガーより小振りな短刀だった事だろう。

……俺に少しでも反撃の目があると感じて、退きやがった。


首筋にか細く、赤い筋が僅かに開いていた、何時でも殺せるって訳かよ。

ならば先手必勝!力で推し通す!


「………。」 「………!?」


ノールックでバーカウンターから引き抜いたダガーを彼女の死角である左側へ投げつけながら、逆へ低い態勢から踏み込んでゆく!!

案の定、左への攻撃に過剰な反応をし……っ!?


刹那、鈍い痛みに襲われ、俺の挙動が急激に停まる……視線を僅かに下げると、脇腹に彼女の膝が突き刺さっていた。

非常に不味い……敵を前にして停滞を晒すなんざ愚の骨頂、当然彼女がその機会を見逃す筈もなく、髪を引き掴まれて二発目の膝を食らっちまった!!


寸でで頬へ打撃をズラし、鼻っ柱への直撃は免れたが……もし鼻骨を陥没骨折なんざしちまったら、呼吸が儘ならなくなる。

そうなった時点で完全に俺の負けが決定するだろう。

だが今の膝蹴りで奥歯がグラつきやがった。


……不用意に認識阻害を使ったのが仇になった、詳細は理解してないだろうが俺から視線を外さない様にしているな。


「どうする?力量の差は理解したでしょ、命乞いして身ぐるみ置いてくなら……町を出る迄は見逃すけど?」


な、なるほど……そこから先はブッ殺しに掛かるってか!?


「に、兄ちゃん、悪い事は言わん……ここは命乞いをしてでも逃げろっ!!」


よろけながら、成り行きを視ていた爺さんが掠れた声で俺へそう呟く。


……いやなもんだ、『逃げろ』か……陸上にアオハル懸けてやってた時に散々、自問自答した言葉だわ。

知ってるか?天才ってのは才能に恵まれた奴の事じゃねーんだよ……。

才覚に胡座をかくだけの奴なら、腐る程追い抜いてきた。

……本当の天才は才能の上にえげつない鍛練を重ねる事を厭わない奴を指して言うんだ。


凡人が壮絶な鍛練の末に得られない高み……だが天才はそれが約束されている。

次の扉、次の階段、頂の先には更なる翼で空を翔ぶ……俺には進めなかったものだ。


目眩で片膝をつき、彼女を見上げる。

金髪に整った顔立ち、野性的な眼差しに華奢に見える体つき……間違いなく美少女であり

だがしかし、見た目に反した速度と技術そして戦闘感覚は天才と呼べるだろう。


だから逃げろ?だから避けろって!?確かに俺は既に一度、諦めちまった……。

けどな、俺にも天才と呼ばれる者達と共に走り、それでも尚、先にゴールテープを切る意地と是非と自負があったんだ!!


ああ……そうだよ、思い出したわ、仄暗い感情を燃やして走り続けた日々の中、どうやれば格上をブチ抜けるかをひたすら考えていた事を……。


「どうする?」


次の瞬間、俺はおもむろに立ち上がるが目眩で身体が左右に流れてしまう。


「選ぶ前にひとつ聞いてもいいかい?」


肩の力を抜け、少しでもダメージを回復させる。


「?……言ってみなよ。」


「あんたの名前を教えてくれないか?」


俺はわざと破調のリズムでフットワークを踏む……。

それが天才を削り、自身のパフォーマンスを最大限発揮せしめるイメージを構築するための俺唯一のルーティン。


「……ミシェルだ。」


「そうか、ありがとうミシェル、それじゃあ第2ラウンドと行こうか。」


瞬間、言葉が終るか否かの帳尻で再び踏み込んでゆく!


だが今度は攻撃に移る為の予備動作ではない……ミシェルの真正面に出るためだ。


「………。」


右逆手で構えたダガーで小さく虚空を斬ると、あざとくミシェルが嘲笑う。


「素人以下だな、武器はこう使うんだよ。」


次の瞬間、わざと短刀をダガーに合わせ、弾きにくるミシェル。

さっきはここで力推しを強行して痛い目に遭った……が、今回は違う。


最初のダガーのモーションは彼女の攻撃を引き出すためのブラフ、俺に攻撃の意思はない。

そんな俺の思惑を知ってか知らずか、流れる様な動作でありながら切っ先が見切れない程の凄まじい高速剣舞が襲ってきた。


「………。」



耐えるしかねぇ、防御は……最低限でいい。


そもそもミシェルの斬撃は見切れない、なら致命傷になる正中線の部位と頸動脈だけ守る。

その代わり、残った感覚の全てで彼女を観察するんだ、筋肉の動作、視線と表情の動き、脚の運びとリズム、纏う空気の匂い、それらが連動する事で浮き彫りになるものが在る……そう個人特有の『癖』がな。


「……!?」


放たれた刃に肉が斬り削がれて鮮血が飛び散る、新たな苦痛が意識を蝕むがそんなものは無視を決め込む……。


肉食獣を思わせる吊り上げられた笑みで、断続的に斬撃を繰り出してくるミシェル。

何度も肉を叩き、斬りつける感覚に酔いしれているのだろう、次第に斬撃の速度が増してきやがる!?


……緩急なんざ関係ねぇってか?終始オラオラで通すつもりかよ流石にキツい、最低限の労力による防御でも遅れが出始めた。

それに比べ、こっちは癖を看破する所か足掛かりさえない、癖を読ませない様にモーションの矯正をしているのか。


「………。」


(なんだコイツ……さっきとは雰囲気が違う、格段にやりづらくなった。)


やりづらくなった……そう、この時、ミシェルも焦りを感じていたのだ。

確実にダメージを与え、蓄積させているのは疑わない。

手応えもある……素人以下のお粗末な剣技、いや、そもそも技と呼ぶのも烏滸がましい挙動であり、結果的に相手は幾重も斬られて全身血塗れになっている。


……だがそれでも眼前の男は伏していない、尚も自分に相対しているのだ。


手心を加えているつもりはない、確実に殺しきる、そのための連撃を組み絶命必至の一撃まで流れは完璧だった筈だ。


(全てを見透かそうとするその眼……気に入らないんだよ!!)


より速度と力を乗せたトドメの一撃が男の心臓目掛けて放たれる。

刹那、今度こそ『殺った!!』ミシェルは勝利を確信し、暗い微笑みを浮かべる。


が、偶然という事象は時に、皮肉を演出してしまうものなのだろう。


この瞬間、出血多量によりモンテの片膝から力が抜けて身体を前に傾けた事により、トドメを焦ったミシェルの突きを掻い潜る形になった……。


「……!?」


不意に距離を詰められ、凄まじい形相でモンテを蹴り飛ばすミシェル。


「………?」


蹴り飛ばされ、バーカウンターに背中から激突しちまった……だが正直、そんな事はどうでもよかった。

なんだ?何故なんだ……?

身体がいう事利かなくてふらついちまった瞬間は完全に死んだと思った。

問題はその後だ……何故蹴り飛ばす必要があった?

俺に防御の余地は残されてなかった筈だ、そのまま刺し殺せただろう。

そう出来なかった理由でもあるのか……。

そう考えた時、俺は同様の出来事を思い出す……一番最初、頸動脈へ斬りつけられた時もそうだった。

俺は自爆覚悟で前に出て、彼女は退いた……反撃の目が残されていたから退いたと思っていたが、今考えれてみれば不自然だ。


「……。」


ミシェルの表情を無言で見据えると……彼女は余裕の笑みを称えている。


「まだやるの?」


刹那、そう宣った彼女の瞳が微かに揺れた気がした……。


「当然だな……今から逆転の一手を見せてやるよ。」


「は?……この状況で馬鹿なの?」


俺は仄暗い笑みで彼女を片手で制してから、懐からタバコを取り出し、食わえて引き出すとジッポを派手に鳴らして火を点ける……。


カチン♪カチン♪カチン♪


何度もジッポを弾いて鳴らし、一服深く煙りを吐き出すとミシェルは不機嫌な表情をこちらへ向けてきた。


「アタシもヒマじゃないんだけど?命乞いするの?しないの?」


「怖いよな……残った右目を失うのは。」


「……!?」


次の瞬間、わざと弛いモーションで彼女の右目へダガーを投げつける。


当然の様にミシェルは即座に『反応』してダガーを叩き落とした。


……がこの時、彼女は過ちに気づいていない、既に事態は急変していたのだと、俺の姿を見失い初めて理解する事になった。


焦りと恐怖の表情で辺りを見回すミシェル……すると不意に眼帯を剥ぎ取られて慌てて左目を隠す。


「か、返せ!?何処へ隠れた、卑怯な!!」


……彼女の謗りに対して、俺の返答は一言だ。


「俺の勝ちだな……。」


刹那、彼女の耳元でそう呟きながら、右目の寸前でタバコを差し出して見せた……。


その瞬間、彼女の視界には俺が突然現れた様に見えただろう。

赤灼としたタバコを視て観念したのか、短刀を手離して崩れる様にへたり込むミシェル……。


俺は再びタバコを食わえ、彼女を見下ろす。


「なんで……なんで……。」


「お前の敗因は……自分が抱えた『怖れ』に気付けなかった事だ。」


失なった視界をカバーし、攻め手を尖鋭化する戦闘スタイル……俺も最初はそう思っていた。

いや、本人も当初はその狙いでスタイルを構築したんだろう。

だがそれが無意識に右目を庇い過ぎて構築されたものであると気付けなかった。

思えばあの二度の不可解で消極的な行動は右側(目)へ踏み込まれる恐怖から、無意識にやってしまったんだろう。

わざわざ俺のダガーへ当て弾きにくる程、好戦的であるにも関わらずだ。


「だからこそ、俺が右目を意識させる言動をし、直接それを狙ってダガーを投げれば、お前は視線と意識をダガーへ向けざるを得ないって寸法さ。」


淡々と呟かれた俺の言葉に茫然自失としているミシェル……トドメを刺しとくか。


「俺の様な素人以下の男に負けた感想はどうだい?……随分と鍛練を積んだ戦士なんだろう、まぁ精神が脆弱だから負けたんだろうけどな(笑)」


BooBoo♪BooBoo♪


このBGMも久し振りな気がするわ~。


「ち、違う……お前が勝てたのは偶然だ、次やればアタシが……。」


か細く紡がれたその言葉を一笑に付して、俺は厭らしく笑顔を作ると、しゃがみ込んで剥ぎ取った眼帯をひらひらとミシェルの前で回して見せる。


「見苦しいなお前……殺し合いに次があるとでも思っていたのか?」


「………。」


次の瞬間、少女の碧眼から大粒の涙が流れ出る……俺は最後にミシェルの腕を掴んで無理矢理下げさせた。

仕上げに彼女の左目を醜いと蔑むつもりでいたからだ。


「………。」


BooBoo♪BooBoo♪ BAD!!


ん、なんか最後の方、ちょっと違うな……まぁどうでも良いけど。


涙で表情を歪めながら、抵抗虚しく左目を曝されて……ミシェルは必死に唇を噛んでいる。


それは火傷で爛れ、眼窩が窪んでおり、まるで眼球を潰されるのと同時に焼かれた様な傷痕だった……不意に少しだけ、タバコの火を使った事を後悔した……様な気がしないでもない。


「何だよ、大した傷じゃねーじゃん……全然可愛いよ、道端で見かけたらナンパするねマジで。」


次の瞬間、俺は両手を彼女の頬へ添えて真面目な面で見詰める……フリしてピヨピヨ口にしてやった♪ははは、ってか無抵抗なのをいい事に何やってるんだ俺。


何が起きたのか分からず、俺を瞬間的に押し飛ばすミシェル。

……いやはや思わず尻餅ついちゃったよ。


「頬が赤くなってんぞ、可愛いなお前……。」


「う、うう五月蝿い!?何するんだテメェ!!」


success♪success♪


何となくその反応を好ましく思いながら、痛む身体を引き摺り、何とか立ち上がる……ちっと血を流し過ぎたな。


「さて、ナポリタンの仇も取れたし……爺さん、お代はいくらだ?」


そう言って溜め息をつき、後ろへ振り返ったら……爺さんってば、ぽかーんと口を開けて放心状態でやんの。

まぁそれも仕方ないか、改めて店内を見回すと至る所が血でべっとり汚れてるし、椅子とかテーブルも何脚か壊してしまっていた。


「い、いやパスティは賄い同然だからお代はいらんよ……それよかお前さんは大丈夫なのか?」


「まぁな……じゃあコイツは迷惑料として払っとく。」


俺は異次元BOXから金貨二枚を取り出し、カウンターへ置くと……なんと金貨に今日一の驚愕リアクションを示す爺さん。

ミシェルや蹲って唸っていた三下共まで目を丸くしていた……てかそうか、首都であまり流通してなきゃ地方はもっと見る機会なんか無いか。


とか考えていたら、また身体がふらつきやがった……。


「爺さん、確認しときたいんだが……ナボル村とこの町は同じ領内か?」


「ああ、森林街道を含めて近隣四つの町村は同じ領土じゃよ。」


……今度からはちゃんと復習しておこう、そう改めて誓った瞬間だった。


さて、この後はどうするか……考えている事が無い訳でもないが、とりあえずケガの治療を優先したい所だな。


「おいミシェル……お前はほぼ無傷だろ、肩貸せや、診療所くらいあんだろ?爺さんのケガもあるし案内しろ!治療費はお前ら持ちだからな。」


嫌そうな面を浮かべるミシェルへ半ば強引に身体を預け……てか覆い被さりました♪


「これ、必要なら返すからよ……それと仲間のケガ、ちょっとやり過ぎたわ謝るよ。」


と馴れ馴れしく軽口を叩いて眼帯を渡しておいた。


「……おい。」 「あん?」


「負けは認めてやる……だから教えろ、一体どんな手品で姿を消したんだ?」


「教えねーよ、タネが分からねーから手品はオモれーんだろが。」


「分かった、もう聞かない……それと診療所に行くより、ウチ(逗留先)に来た方が治療術師も居て早い。」


治療術師……前に聞いたな、基本的にこの世界では回復魔法とか都合の良いものは無く、痛みを伴った自然治癒力を超促進する魔法だけとか言ってなかったか?



「ただウチの連中は気が荒くてね、爺さんの命はアタシが保証するがアンタまではしかねる……どうする?それでも来るかい。」


保証しかねる……の部分だけドスの利いた低い声で言いやがって。


「それで構わない、俺もお前らペク・トー団とやらに用事が出来た……ってか、お前らってどんな集団なの?」


酒場を出て、ミシェル達が係留してた馬に乗せられながら、俺は質問の答えを聞いた。

簡単に言えば傭兵の一団らしい……といっても主な構成員は地方のならず者で、元々はギルドに警備や巡回任務なんかを依頼する金の無い自治体が安上がりで結成した自警団を母体にしているとか言っていた。

そうした集団は各地方にも一定数あって、地域に根を降ろして良好な共存関係を築くものもあれば、コイツらみたく勝手に居座って好き放題やる者達も居るらしい。

……特にウエストバークはバルロー子爵が領主代行として長年、治安維持費をケチり続けて自警団を腐らせた挙げ句に放置してたらしい。


ミシェルの後ろで馬に揺られながら、途中からミシェルを遮って、止血の包帯を頭に巻いた爺さんが代わりに熱弁を振るってた……何でもいいが、コイツらの本拠地で余計な話をするなよ、頼むぜ。


それから、十分位は走っただろうか……町の郊外に位置する広大な丘陵地帯へ入り、何気なく下方の景色に目を向けるとファンタジー御用達の『映える』古城が鎮座しているのが見えた。

他にも点々とした家畜?の姿や遠くには葡萄畑なんかもあるな……そうやって馬上から景色の全容を楽しみつつ下っていると、不意にミシェルが馬を止めさせた。


「着いた、あれだ。」


……って古城を指差してるけどマジでかっ!?


「お前さんら……ここは町長の邸じゃろ。」


「だから言ったでしょ、逗留だって。」


とか言ってる間に格子状の城門が重厚な音を響かせて競り上がってゆく。

ミシェルが悪びれもせず馬を走らせ邸内へ進んでゆくと、これまた見事な庭木が並んでやがる。

ちらほらと目付きの悪いお兄さん達がこちらを睨んでいるな……接収に近い形で居座ってるのか、アウトローにも程があるがこんな所に住んでる町長にも問題があるんじゃなかろうか?



……ホントどうかしてるぞ町長、邸内の調度品を視て沁々とそう思う。

これ絶対に何か横領してるだろ……豪華絢爛が過ぎる。

ダンスホールと言っても過言でもないロビーにドでかい螺旋階段、心なしかゴロツキ共が集まってきてる?てか待ってたの?すげー居るけど。


「……。」


ロビーの奥に見えるサロン……そこで一人でワイン?を飲んでるオッサン、今一瞬だけミシェルと視線を合わせたな。

何食わぬ顔でコイツだけ俺達を視ていない。


「怪我人が出た、誰かジョーを呼んでくれ。」


「そいつらは?」


「爺さんはアタシらが怪我をさせちまったからね、ついでに連れてきた。」


「………。」


おっ、爺さんのヤツ、ゴロツキ共の視線に曝されて萎縮してんの?超固まってんじゃん、大丈夫か?


「もう一人の若造もか?」


人を舐め腐った態度で嘲笑を洩らすゴロツキ共……ざっと30人ってトコか。

銃やナイフをちらつかせ威圧しながらでしか会話出来ないヤツは大したことない、問題外だな。

螺旋階段の上、手摺に凭れてこちらを注視しているオッチャンは多分強い……何となくだが気配が違う。

こちらを洞察しながら、自分の手札(情報)は徹底して洩らさない、何なら弱くさえ見せてるだろう。

だがフラットな佇まいに反して、その視線は僅かな熱量を帯びている。

……才能以外で戦ってきた経験を持つ、俺だからこそ分かっちまうってのは悲しいがな。


勝負事の要は突き詰めれば、最小の労力で最大限の効果を得る事に集約されちまう。

それには相手の情報を掴み、真偽を操作してこそ無駄足を踏ませられるんだ……。


そう言った意味で、エモノをチラつかせて恫喝するだけの者は問題外……いや、例外もあるだろうが、そんなヤツは生まれついての強者か情報戦に特化した狂人ぐらいだろう。


さて……ざっと目星を付けたのが三人って所か。


「ちょっと通してくれ……。」


人だかりを押し退け、一人の男が俺達の前に出てきた、コイツが治癒術師か……。


「何があったんだミシェル!?ニコの指が切断されてるじゃないか!?」


ジョー……だっけか?三十代半ばに見えるオッサンは他のゴロツキ共と異なり、痩せ細った体つきと所作を視る限りではおおよそ戦闘向きではない印象を受けたのだが、然程時間を掛けず的確に重傷渡の高い者を見抜き、治療を始めるあたり適材適所なんだろう。

何気なくその様子を眺めていると、ニコと呼ばれた兄ちゃんと目が合った……が何か複雑な表情で顔を背けやがったよ。


「そこに居るアンちゃんに三人揃ってヤられたんだよ。」


その瞬間、場の空気が一気に殺気立つ……怒号やら恫喝やら、物騒な言葉が飛び交ってんな、おい!?火に油かよミシェルさん、爺さんが失神しかけているだろが。


「おいおい!?ちゃんと事実を話せよ~三人揃ってじゃなく、お前もきっちりヤってやったろ?」


そう言って、両腕と腰を前後に振る、高名でハッスルなポーズを披露してみた……。

ヤバ!?更に怒号が加速した……何人かはエモノを手にしてる、今にも飛び掛かってきそうな勢いじゃん。


まぁ、関係ねぇけどな……俺は惚けた面でタバコを取り出し一服点け、サロンで寛ぐオッサンの前へ進んで行こうとするが、二~三歩近づいた所で屈強そうな野郎共に進路を塞がれちまう、当たりだな。


「……やっぱり、アンタがここのボスか。」


刹那、完全に取り囲まれた……しかもあれだけ飛び交っていた物騒な野次が消え失せ、みんな殺し屋みたいに濁った眼でこっちを見てきやがった。


しかし最近囲まれるの多いな、手負いの状態でこの取り巻きを突破するのは骨が折れそうだ……そう考えていた矢先の事だった。


「……?」


後ろでニコとやらの苦悶に満ちた叫びが木霊する……。


「ああ~あ、これまた手酷くヤられたねぇ……で、何でモメたの?詳しく聞こうじゃないか。」


「こ、これはち、違、う……ジョー……。」


「何だよ?ちゃんと話せよ、気になって第一関節が上に曲がる様に『繋げ』ちゃうぞ。」


……ん?何か会話がおかしくね。

気になって、僅かだが視線を後ろへと向けた瞬間だった。


「殺すな……!」


ジョーは治療を続けたまま、微動だにせず確かにそう呟いた……そしてその呟きの意味を一拍の遅れで俺は理解した。

……何故なら、肉厚な刀身で容易く骨を砕くであろう重量感に溢れた鉈が 俺のこめかみ寸前で冷たい光を放っていたからだ。


臓腑を掴まれる様に恐怖が遅れて身体へ伝潘しやがる……はぁ?ふざけるなよ、ティガーを死なせた俺が恐怖で縮こまれると思ってんのか!?


歯を食い縛り足を踏み鳴らして、鉈を構えているゴロツキと睨み合う。


「すまないなニイさん、ウチの連中は気性が荒くてね……だが町の人間に迷惑を掛ける様に教育していない筈なんだが。」


治療が終わったのか、ヘタり込んでいるニコを冷たく一瞥し、立ち上がってこちらへ振り返るジョー……。


ヤツが腕を軽く挙げただけで取り巻き共が一歩退く、俺と睨み合っていたゴロツキも鉈を納める所作を見せない程の速さで離れていた。


「殺し合いの続きをやるかい?」


「まさか……俺を団長だと見抜けなかった程度の小僧を相手にすると思うかね?治療してやるから傷口を見せろ。」


その時、思ってもいなかったジョーの言葉に面食らってか、素直に受け入れている自分が居た……なんじゃそりゃ?


「……そうだな、確かに言い返せねぇや、お言葉に甘えるよ……だが先に爺さんを治してやってくれないか?」


「後でな、重傷渡はお前さんの方が上だ、気づいてないのか?ボタボタと血を垂れ流しやがって……フローリングが汚れるし、いい加減死ぬぞ。」


そう言えば……床を視ると足元から扉まで血の跡が続いているじゃん、何か意識したら頭がフラついてきた……。

と思ったら途端に膝から崩れた……もう駄目だ、眼が霞む、完全に緊張が切れた……もう好きにして。


仰向けに倒れて、ボヤけた視界でシャンデリアを眺めていると不意にジョーがボヤボヤの顔を近づけてきた。


「…………。」


何か言ってんな……よく分からねーよ、そう思ったのを最後に俺の意識は完全に闇へ呑まれていった。




『………。』 「……?」


真っ暗闇の中……何処かで聞いた声が啜り泣いている……のか?

何がそんなに悲しいんだ……教えてくれよ、俺も辛い事があったんだ……だから側にいてくれよ。


『………。』


お前の名前は……。



緩やかな思考の片鱗を掴んだ……その刹那に俺の認識は覚醒し、世界は閃光で白く塗り潰された。



「………。」


『ヘイ ボーイ……久し振りだな。』


気が付くと其所には……暑苦しい神様が起っていました。



つづく

そうだっ!!クリームソーダを飲みに行こう!!

と思った今日この頃です。

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