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至高のアルケミスト  作者: いちのじ
第3話 真実はカクありき
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第3話5節 かくして世界は

 我儘を通したタケシのこれからの生活のこと。

 遠くの方で、灯りが点っているのが見える。王宮の方だ。天まで届くほどの強い光は、人工物の生み出す光量だ。あの後、リアクターから取り出した動力をいろいろな用途に使用する実験が行われている。今は街灯などに利用できないかということで、王宮では常夜灯を点灯しているのである。俺のしたことは、果たして未来にどのような形で影響するのだろうか。


 それはさておき、俺はリオンとイアを連れて旅の最中である。イアの魔物退治のクエストと、俺の店の採取とを兼ねたツアーということになる。リオンとイアが拠点の設営と夕飯の用意を行い、俺は魔物除けを設置していたところである。

 それから戻る途中、残っていた魔物除けを落としてしまい、拾おうと歩みを止めた。


「後はタケシさんが戻るのを待つだけですね」

「そうだね」

「……ところでリオン、訊きたいことがあるのですが」

「なあに?」

「タケシさんのどこがいいんですか?」


 え、なに? 俺の話?


「どこって言われても困るなー。だって、ほら、別に私、タケシのことが好きとか、まだそういうんじゃないっていうか」

「そっちの意味の話でもいいんですけど。どうしてリオンはタケシさんと一緒にいるんですか? 彼と一緒にいるということは、やはり何かしら理由があってのことでしょう?」


 割と重要な話だった。完全に出ていくタイミングを逸してしまった。


「タケシはね、私の錬金術を必要としてくれるの」

「そうですか……あなたを大切な友人だと思うから言いますが」

「なに?」

「男を見る目、なさすぎです」

「ええ?! イアも彼氏いないくせに!」

「たくさんの男性が私を口説こうとしてきましたし、何人かとはデートもしました。だから経験はある方です」

「自慢かよ」

「私の話はいいんです。それよりリオン、必要とされるから惚れるなんて……男性からいいように使われてしまいますよ。もっと毅然としていないと」

「そうは言っても、錬金術できればそれでいいし」

「私は、そんなの嫌です」

「イアは強いね」


 それにイアは答えなかった。あのふたりは、いろいろな面で対照的だ。


「タケシは私にいろんな予想外をくれたの。突然現れたと思ったら、彼の右手が私の錬金術を完成させた。彼は家に帰れるようになったのに、私のためにそれを投げ打つ。お金持ちになったと思ったら急に零落する。店を立て直し始めたと思ったら、国を敵に回す。いつも私に見えないものを見て、私じゃ思いもよらないことを考えてる」

「でも彼はリオンなしじゃ生きていけません。リオン、あなたはもっと自分を高く売るべきだと思います」

「私は今の状態でも満足だけどね」


 そのあたりで、俺は出て行った。


「戻ったぞ。そっちの準備はどうだ?」

「うん。そろそろ具材を入れるところ」


 鍋の脇の食材に目を落とす。今日拾ってきたのは主にキノコ類だ。俺には食べられるか否かが判別できないので、リオンとイアが拾ってくれたものになる。

 蓋を取ると、中で葉っぱが柔らかくなっている。そこにキノコを投入していく。


「じゃじゃーん。これは私が拾ってきたキノコだよ」


 リオンが手に取ったのは、紫色を基調としたマーブル模様のキノコだ。


「見るからに毒キノコだけど、食べても平気なのか?」

「平気だよ。これはドクナイヨマズイダケといって、味は酷いものだけど、毒はなくて、むしろ栄養満点の食材なの」

「味は酷いのかよ。それは入れないでおこう」

「なんでよ!?」

「なんでってなんでだよ!?」


 こうなればイアが拾ってきた食材に期待するしかない。彼女が出してくれたのは見た目は普通のキノコ。


「私が拾ってきたのはこれ、その名もカサトッテユデルダケです。傘の部分に若干の毒はありますが、そこは捨てて柄の部分を茹でるとそれなりに美味しいです」

「そういうの待ってた」


 イアのキノコだけを入れて、鍋で煮込む。


「やっぱり冒険者って、こういう野草には詳しいもんなのか、イア」

「人によりけりです。私は食あたりなんてごめんだからちゃんと勉強し――タケシさん」


 イアが何かに気づいたようで、杖を構えた。


「魔物に囲まれています。魔物除けは張ってもらったはずなのに、どうして……?」

「ああ、これだろ? ちゃんと言われたとおりに置いてきたぜ」


 俺がポケットの中から魔物除けの石を見せると、イアも頷いた。


「はい、その魔物除けです。ちゃんと置いてきてもらっ……なんで残ってるんですか!?」

「言われたとおり二〇メートルおきに置いてきたらなんか余ったぞ?」

「二〇メートル以内に置かないと効果薄れるって言ったじゃないですか!」

「俺の感じだと、あれは二〇メートル以内だったんだけど」

「うあぁ、けっこうな数いますよ。戦ってはみますけど、自分の身は自分で守ってくださいね?」

「お、おう」


 俺も仕方なく、棒切れを手にする。


「がんばって、ふたりとも! 私はふたりの後ろで食料を守ることにするから!」


 何の合図もなく魔獣は襲い掛かって来た。俺も応戦してはみるが、イアが主戦力であることに変わりはない。


「スターファイア! スターファイア! ……けっこう数が多いですね」

「この魔獣よく見ると顔が怖い! 牙も鋭そう!」

「わああああ! やめて! それは大事な食料だから!」

「リオン!?」


 思うようにいかなくて、騒がしくて、生きるのもひと苦労なこんな未来なんか捨てて、俺は過去に帰りたいだろうか。この世界には碌な思い出もないが、リオンがいる。そう思えるくらいには、俺の心はリオンに場所を譲っていた。


「ぎゃああああ! 噛まれた! 痛い! 痛すぎる!」

「タケシ大丈夫!? ポーション飲む!? 肉みそ味!」

「タケシさん、まずいです」

「おうよ、リオンのポーションはいつだってマズいぞ」

「違います! 騒ぎを聞きつけたのか、ゴーレムが現れました!」

「またゴーレム!?」


 肉みそ味とは名ばかりで、鉄くずのような味がするポーションを飲み干すと、俺はイアの指した方を見てみる。ゴーレムが一体、ゴーレムが二体、ゴーレムが三体……夢に出そうだった。


「作戦だ! 少し先に川があるはずだから、イアの氷の魔法で渡って逃げるぞ!」

「わかりました!」

「タケシ! 私は何かすることある?」

「リオンは転ばないように気を付けて走れ!」

「わかった!」

「いくぞおおお!」


 弱くて、不器用で、錬金術しか取り柄のないリオン。だけど俺は、だからこそ彼女が満足するところまで錬金術を続けてほしいと思う。彼女が高みへ至るまでの道のりは果てしなく遠く思えるが、どうせ俺にはこれといって夢や目標もない。ならば彼女に付き合ってやるのも悪くない。

 そんなことを考えながら、俺は走るのだった。


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