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至高のアルケミスト  作者: いちのじ
第3話 真実はカクありき
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第3話2節 かくすべくもなく

 この世界とタケシのこと、誰も覚えていない真実を知ったタケシ。

 東の空が微かに明るんでいた。


 深く寝付けないまま目を覚ました時には、まだ西の空に星が見えていた。気分転換にと街へと出かけ、石垣の上に張られた柵に腰かけている。また日が明け、時間が迫っているのを感じる。


 叩きつけられたいくつもの事実は、俺のお粗末な頭と脆弱な心で受け止められる容量を超えていた。先生の研究室を後にしてからもずっと考えていた。眠ろうと床についても、彼の話がまだ続いているような気さえした。


 つまりこの世界が、俺の元いた世界と「時」続きの世界であったのだ。確かにそれで納得のいくこともいくらかある。例えば俺が見たことのあるロステクがたまに出てきていたことだ。リオンと初めて会った遺跡のテレビとビデオデッキ、あれもまさしくそうだ。その一方で同じ映像技術でも、ホログラムなんて高等技術もあった。この世界には魔法があるから、科学の発展の仕方が俺の世界と異なっているのだろうかなどと思ったものだが、そうではなかった。この世界は俺のいた時代を経て、近未来を経験して、そして滅んだ。その後の世界だった。


 その実感はない。


 それでも今大事なことは、「カク」だ。もしもあれを修復してしまえば、世界が核の炎に包まれてしまうかもしれないということだ。


「だが、依頼を断ったところで……」


 何らかの理由をつけて依頼を放棄したところで、リオン以外にも修復の錬金術を使える者がいるかもしれない。そうなると、結局は同じことだ。それどころかその錬金術師が失敗して、うっかり暴発でもさせようものなら、それこそ大惨事だ。どれだけの被害が出るのか知れたものじゃない。


「リオンに話してみるか……いや、まだだ」


 俺はリオンにこのことを話せないでいた。いま話しても、彼女を戸惑わせるだけかもしれないから。


 どうするか。ウィンストンさんをはじめ、国の方を説得するか。……難しいだろう。なにせ彼らは何ひとつ間違ってなどいないのだから。国の為政者ならば、自分の国を守ることだけを最優先にするのが当然だ。例え世界が滅んでも、自分の国が亡ぶのが最後であるようにすることが、彼らの責務だ。他国から攻められた時に、民を守れる具体的な力を持っておくのは当然だ。


 俺は武力があるから戦争が起こるだなんて、そんな呑気な理屈を妄信しているわけじゃない。こちらが軍事力を持つと持たざるとに関わらず、敵は来る時、敵の理屈で攻め込んでくる。それに対する備えも必要だとは思う。ここは異世界。強き者が生き残り、弱き者が淘汰される世界だ。


「…………?」


 ふと視線を上げると、空に何か飛んでいるのが見えた。滑るように、そして自在に飛び回るそれは。


「人か?」


 箒に跨った人、それもおそらく女性が、直進、急停止、急発進、急停止、急上昇と、空を機敏に飛び回っている。しばらく見ていると、その手から光の粒がばら撒かれた。まだ仄暗さの残る空を、光を降らせながら滑る彗星のようなその姿が綺麗で、見とれてしまった。


 やがてその人は、俺のいる方に飛んできた。近づいてくるにつれ、その人物の特徴が見えてくる。肌の白い女性だ。ジャージを着て、髪は短い……というか、後ろに束ねているのだろうか。その色は桜色で、見覚えがある。


「イア?」


 向こうも俺の存在に気が付いたようだったので、手を振って呼びかけると、降りてきてくれた。


「タケシさん。おはようございます。朝がお早んいですね」

「イアの方こそ。さっきのは空を飛ぶ練習か?」

「はい。今度、友人と一緒に大会に出るので」

「大会……まず、イアが空を飛べたことが驚きなんだけど」

「私は魔法使いですよ? 箒で空くらい飛べますよ」

「そういうもんなのか」


 箒に括り付けられていたポシェットから飲み物を取り出し、彼女は喉を潤した。


「ふぅ。朝の澄んだ空気の中を箒に跨って飛ぶのは、他の何かでは得難い気持ちよさがあります」

「へー。いいなぁ。空を飛ぶのってどんな感じなんだ?」

「あ、やってみますか?」

「え?」




「うあああああ! 高い、高い!」

「ほら、遠くに海が見えますよ! 見えますか、あっちの方」

「指さしてるけど、片手放して大丈夫なの!?」

「なんなら両手放しても平気です。そうだ、せっかくなら雲を突き抜けてみましょう!」

「ぎゃああああああ! 上がるの速い! もっとゆっくり! もっとゆっくり!」

「ぐふっ! く、苦しいです! そんなに強く締めないでください!」




「…………」


 公園のベンチに寝転ぶが、未だに足がふわふわしている。


「大丈夫ですか?」

「ああ、落ち着いてきた」

「ごめんなさい。面白くて、ついやりすぎてしまいました」


 差し出された水を飲むと、俺は起き上がりベンチに腰掛けた。イアがその隣に座る。


「もしかして高い所ダメなんですか?」

「そういうわけじゃない。ただ、あまりに心細いというか」


 箒の二人乗りという思いがけぬ経験。イアの後ろで同じように箒に跨り、イアに抱き着く形で空へ。自転車の二人乗りに似ているが、この世界ではこれがひとつの青春イベントだったりするのだろうか。


 しかしその心細さは、例えるとするならばなんだろう。バンジージャンプか、もしくは高層ビルの屋上の縁を歩くとか、それくらいの頼りなさだった。足は浮いているし、体を支えるものは箒の柄とイアの体だけ。まあ……飛んでいる間は怖いばかりだったが、慣れたら楽しいかもしれない。イアは俺との遊覧飛行でも、魔法で手から光の粒を出して遊んでいた。そしてあれはとても楽しそうだった。聞けば「フラッシュライト」という魔法らしい。


「それにしても、タケシさんも男の子なんですね。私より弱そうなくせに、しがみつくときの強さと言ったら。内臓出るかと思いましたよ」

「すまん」


 俺ってイアより弱そうだと思われていたのか。俺からすると、イアの体は華奢で柔らかくて、乱暴にしたら壊れてしまいそうに思えたが。そう思ったのに、思わず強く抱き着いてしまったことは、とても申し訳ないと思っている。


「あまり得意ではないですが、防御力を上げる魔法を使いました。私だったからよかったですけど、他の女の子は本気で締められたら怪我すると思いますよ?」

「気を付けるよ」

「私も悪かったですから、おあいこということで」


 この寛容さも新人類の気質なのだろうか。それとも俺のような身元不明の異界人と気兼ねなく付き合えるような人間というのは、ある程度の懐の広さを持っているのか。


「そういえばタケシさんは、こんな時間に何をしていたんですか?」

「ん? あー、早く目が覚めたから、ちょっと散歩でもと思って」

「それならクエストボードは見ておいた方がいいですよ。最近、国から割のいいクエストがたくさん出ていますから」

「それってもしかして、特定の材料を集めるクエストだったりする?」

「なんだ。知ってたんですか」

「……イア、クエストについて訊きたいんだが」

「なんですか?」

「そのクエストを受けるとき、それが誰の役に立つとか、何のためになるとか、考えるか?」


 不思議そうな顔をしながらも、彼女は答えてくれた。


「そうですね……私はきっと考える方だと思います。その魔物に困らされている人がいるのか、とか、そのくらいですが」

「例えばそのクエストが、秘密裏に何かの企みの下準備をさせられていたとしても、気づかないってことだよな」

「一応、あそこに張り出されるクエストは審査された上で出されていますから、心配しなくてもいいと思いますよ?」

「そう、だよな」

「なにかあったのですか?」


 まさか正直に、核兵器を作らされそうだなんて言えるわけもない。


「もうひとつ訊いてもいいか?」

「はい」

「もしも。もしも仮にだ。目の前に、数えきれないほどの人間を一瞬のうちに殺せる大量破壊兵器があったとして。イアはそれが誰か他の者の手に渡る前に、破壊するべきだと思うか?」


 何の話かと思われただろう。彼女はゆるりと首を振った。


「そうは思いません。武器なんて次から次に生まれるものですから」

「それが、そこらの銃や剣と違って、一秒あれば街ひとつを葬り去ることができるような兵器だとしたら?」

「そんなものが存在するというだけでも恐ろしい話ですが……それでも同じです。包丁でも人は殺せますから」

「包丁って……次元が違うだろ」

「本質は同じでは? そうですね、例えば私が持っている魔力ではどうでしょうか。攻撃魔法を使えば人を傷つけ殺すことができます。だけど同じ魔法で誰かを守ることもできます。回復魔法を使えば、攻撃に使うものと同じ魔力で他人を治癒することもできます。タケシさんは、私の魔力はこの世にあってはならないと思いますか?」

「そういうことじゃない。イアの魔法はイアの能力そのものだけど、殺人兵器は人を殺すためにこの世に生まれたんだ。根本から違う」

「人類戦争が起きる前、新人類は原始的な魔法しか使えなかったと聞きます。いま私が勉強している魔法の多くは、より多くの旧人類を殺すために生まれ、発展してきた技術なのです」

「…………」

「技術そのものに良いも悪いもないんです。良し悪しの評価は使われた後、その使われ方で決まるものですから」


 イアにあって俺にないもの。魔法。持つ者と持たざる者。力を持つ者として、彼女は彼女なりに考えていたのだろう。魔法を持つ者としての責任について。


「技術の、使われ方……」

「たくさんの人を殺す力でも、たくさんの人を生かすための使い方ができるはずです。その逆も然り。そうでしょう?」

「……そうだな。そうだ、イアの言うとおりだ」


 簡単な話だ。ヒントなら既にあったじゃないか。それを難しく考えていたのは、他でもない俺だった。


「ああ、ありがとう、イア。今日会えてよかったよ」


 時計塔の方を見る。家に戻り、ある程度の身支度をしてから街に戻れば、ちょうどよい具合だろうか。


「リオンには相談しなかったのですか?」

「ん? ああ」

「そういうことはリオンに話してみるのがいいと思いますよ。彼女はぽやっとしてますけど、そういうところはしっかりしてますから」

「……そうか?」


 しかし俺は、まだリオンにこのことを話すつもりはなかった。その前に、思いついた「アイデア」を、クリストファー先生に相談してみることにした。




「あれ、タケシさん。どうしたッスか?」


 先生の研究室を訪ねると、そこに彼の姿はなく、代わりにラスタがいた。ソファに座り、新聞を読んでいるようだった。


「先生はいないのか」

「まだ見えてませんが、そろそろ来ると思うッスよ」

「待たせてもらってもいい?」

「どうぞッス」


 できれば早く話がしたいが、仕方ない。ただ待つのももやもやするから、ラスタの邪魔をしてやることにしよう。


「なあ、ラスタ。ラスタも新人類なら魔法とか使えるの?」

「ふぇっ? えっとー、まあ、その。使えるッスよ」


 ラスタはいやに歯切れが悪そうにそう言った。


「すごいじゃないか。リオンなんか新人類の癖に魔法使えないのに」

「全員が全員使えるわけじゃないッスからね。まあ、うちの魔法も……その、あまり可愛い魔法ではないッスけど」

「可愛い魔法ってなんだ? 強いとか弱いとかならわかるけど」

「気になるッスか? あわれ、うちのミステリアスに吸い込まれてるッスか?」

「そこまで気にならないからいいや。お茶ちょうだい」

「それはそれで悲しいッス!」


 なんて騒がしくしていると、ドアが開いて先生が入って来た。


「おやおや、朝からずいぶんと楽しそうじゃないか」

「クリストファー先生、お待ちしていました」

「そうか? ラスタ君と楽しく談笑しているように見えたが」

「それはもののついでです」

「ついで、か。それなら本題はあれのことかな?」

「もちろん」


 先生が促すままに、俺は「アイデア」のことを彼に話した。イアからヒントを貰って、俺がやりたいと思ったことを。静かに聞いた後、彼はしばらく考えていた。


「君の考えは分かったよ。その心意気も素晴らしいものだと思う。私もできるだけ協力したい」

「それじゃあ……!」

「ところで、どうしてここにリオン君がいないのかね?」


 その言葉の意味が、その意図が分からなかった。だが、正直に答えるほかにないように思えた。


「このことは、リオンに知らせたくないんです」


 できれば、彼女のあずかり知らぬところで事を済ませたい。最後まで、とはいかないだろうが、俺が彼女に解決までの道筋を示してやることができればと思う。


「そうか、ふむ」

「え……?」


 今、流れが変わった。そう感じた。致命的に、突発的に、そして不可逆的に。


「厳しいようだが、この件は君ひとりに協力することはできない」

「それは、どういうことですか?」

「理由が知りたければ、自分で考えなさい」


 理由。彼はなぜリオンがいないのかと訊ねたが、やはりちゃんと礼を尽くして、アポを取り、人にものを頼むにふさわしい態度を示すべきだったろうか。気持ちが逸ったばかりにとんだ失態を演じてしまったのか。

 先生は頑なだった。いくら頼んでもうんと頷くことはなかった。

 俺は仕方なく、研究室を後にする。


「タケシさーん! 待ってくださいッスー!」


 帰路を辿る途中、背中に声がかけられた。振り返ると、そこにはラスタの姿があった。


「どうしたんだ?」

「先生の物言いでは、タケシさんは意図を理解できていないと思って……伝えに来たッス」

「本当か!?」


 衝撃の一言だった。先生の態度がいくら頑なでも、とっかかりさえ掴めれば、どうにか交渉の場に立つことができるかもしれない。


「それで、先生はどういうつもりだったんだ?」

「無知が罪であるなら、知らせないこともまた罪と言えませんか?」

「え?」

「つまりリオンさんです」

「え? え? どういうこと?」

「うちなりの言い方をすれば、ふたりはとても仲良しさんですから、変な遠慮は必要ないと思うッス」


 彼女は「では!」と言って踵を返し、颯爽と去っていった。




 俺が店に戻ると、ウィンストンさんが来ていた。


「戻ったか」

「何かご用ですか」

「追加で修復を依頼したいものがあってな。可能かどうかを確認したい」

「それは、どのようなものですか」

「……君たちに修復を依頼した『カク』を効率よく使用するために必要なものだ」

「具体的には?」

「モノが大きい。できれば実際に見てほしい」


 先生からの協力を受けられない今は早いうちに依頼を断り、危機を遠ざける方が得策か。リオンに変な悩みを与えないことを最優先で考えると、それが手っ取り早い。


「ウィンストンさん。カクの方の依頼、断ることはできますか」

「なぜだ?」

「この錬金術はまだ未確定な部分が多いんです。失敗するとロステクが粉々に吹き飛びます。しかしカクの修復はかなりが難度が高そうに思えるんです。だから、いったん、依頼を断って、確実に修復できるようになってから――」

「ヤマダタケシ」


 彼が俺の名を呼んだときにはっとして、まるで刃でも突き付けられたような気持ちになった。


「私は説明したぞ。これがどれほど重要なものであるかを。私は君たちを見込み、そして君たちはできると言った。だから依頼した。それを今更断ることなど、あり得ないと思うが?」

「そ、それはそうですけど」

「それに、私は国王から直々に命を受けてこの件を進めている」

「国王……?」

「国王は私に『諸外国の脅威から国を守れる手立てを用意するように』と、面と向かっておっしゃった。私はこれをしくじるわけにはいかないことがわかるな?」

「それはあなたの都合です。俺たちの身の危険はどうなりますか」

「身の危険を案じるというならば、私に従うことだ。……国に逆らうとどうなるか、想像できないか? 我々は国家のためならば、手段を択ばない。この国で無事に暮らしたければ、我々を敵に回さない方がいいぞ」

「…………」

「それでは、次の依頼はまたの機会でいい。材料が揃ったら連絡をする。自分が何を言ったのかよく考えておけ」


 彼はそう言って店を去った。依頼を断る線は、もはや触れれば切れそうなほど細い糸だ。


「タケシ」


 リオンが俺を呼んだが、俺は答えずに家を出た。

 まるで運命が、リオンがこの世に大量破壊兵器をもたらすことを望んでいるかのように思えた。

 家を出てすぐの沢べりに腰かけて、俺は水の流れるのを見ていた。


「タケシってば」


 そのすぐ横にリオンは座った。俺が立ち去ろうとすると、袖を引かれた。


「どうして依頼を断ろうなんて言ったのよ?」

「…………」

「言いたくないんだったら、無理に聞くつもりはないんだけどさ」


 彼女も沢の流れに目を落とした。俺の袖をつかんでいた指を離して。伏し目がちな横顔が、なんだか悲しく映った。


「信じてほしい。リオンのためなんだ。必ず俺がどうにかする」

「ふぅん」

「ああ、必ず……」


 言葉が空を切ったのが分かった。まったく力もなく、どこにも届いてなどいない。そのまま時間が流れ、だんまりを決め込むが、リオンがそれを破った。


「タケシ、ずっと『悩んでます』みたいな顔してた。一緒に暮らしてるんだし、秘密の一つや二つあると思う。でもさ、それならそうと、もっとうまくやりなよ」

「俺、そんなに悩んでる顔してたか?」

「今まで気づかないフリしてきたけど、もう限界だよ。何があったの? 話してみて」


 彼女は俺が隠し事をしていると知り、話してみてだなんてあっけらかんと言う。

人の気も知らないで。

 俺がリオンになにか、酷いことを言おうとしたその時、リオンの手が背中に触れた。


「そんなにつらいなら、我慢しなくてもいいんだよ?」


 自分が背中を丸めていたことに気が付いた。


「教えてよ。どんなにつらいの? タケシは何と戦ってるの? 私にも話してみて」


 そんな優しさがたまらなくうざったく思えるくらいには俺は弱くて、ここでリオンに俺の思っていることをぶちまけたくなるくらいに俺は情けない。


「俺はそんなに強くないかもしれない」


 思えば俺が弱くなかったことなどないし、情けなくなかったことなどない。


「そうだね。タケシ自身にはこれといってなにかの才能があるわけじゃないしね」

「他人に言われるとむかつくな」

「事実じゃない。だけどタケシはこんな私を見捨てようとはしない。何やら私にない知識で状況を好転させてくれる。私はそう思ってるよ」


 肩の力が抜けるのを感じた。リオンがあまりにもバカで、そんな彼女に何を遠慮していたのか、自分自身がバカバカしく思えた。


「今回ばかりは俺の力が及ばないよ。……聞くか?」


 俺は話した。俺のいた世界がもう滅んでいることや、国からの依頼の正体などについて、隠さず彼女に打ち明けた。


「ふーん。それじゃあタケシは、私にそのカクを修復させたくないから、がんばって阻止しようとしてた、と」

「そうなる」

「何で悩んでたの? その先生のところに私が行けば解決なんでしょ?」

「表面上はそうだけど、また何か別の要求をされるのかもしれないぞ」

「とにかく行ってみようよ。なにかあったら、その時どうにか考えればいいし」


 そんなことでうまくいくなら苦労はないぜ。お気楽はいいけど、この世の中そんなに甘くはないぜ。

 と、思っていたのだが。


「そういうことなら、協力しよう」


 先生はリオンが頼むと、あっさりと了解してくれた。


「私は気に入らなかったのだよ。君のその、知識の扱いに対する傲慢さがね。知識はコモンだ。隠すものでも、操作するものでもない。……わかってくれたか?」


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