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オネエさまはご機嫌ナナメ?

作者: 紅猫


「アナタねぇ……アタシ言ったわよね?

アレは脳みそ無いからやめときなさいって、ちゃーんと、ご親切に、言 っ た わ よ ね ?」


「だっで……だっでえぇっ!」


「もう、汚いわねぇ……」


「初めての彼氏だったのにぃっ!!」


「これに懲りたら、アナタの面食い病も治るかしらね。まぁ、良い薬と思って諦めなさい」


「うわぁあああぁんっ!」


「ああ、もうっ! 鬱陶しいっ!!

……ホント、なんでこんな面食いに育っちゃったのかしら」


「ぐずっ、イケメンにときめくイケメンな怜生(レオ)くんに言われたくない」


「アタシのあれはときめいてるわけじゃなくてモデル研究だし、アタシがイケメンなのは事実でしょ。アナタと違って不純な動機なんか無いもの。大体、なんの為に研究してると思ってんのよ……」


「へぃへぃ、稀代のモデル様は高尚な趣味をお持ちですねっ」


「だから趣味じゃないったら。

大体、あの脳みそ軽男のどこがそんなに良かったのか未だにわからないんだけど?」


「……茶髪がキラキラしてて綺麗だった」


「はぁ? あんな脱色ダメージプリンのどこがいいのよ。アタシの地毛の方がもっと明るいしキラキラな色してるじゃない」


「スキーで滑り降りてるのカッコよかったし……」


「……ねぇ、それスキー実習旅行よね? アタシと滑りながら余所見してたわけ? 隣にこんなイケメン連れながら?」


「怜生くんが、私の隣にいただけでしょ」


「スキー教えろって言ったのはドコのダレだったかしら?」


「最終日まで一緒にいなくても大丈夫でしたっ!」


「最終日まで尻餅ついてたのはドコのダレだったかしら?」


「最終日は一回しかついてないものっ!」


「その一回が、一番盛大でそのまま一番下まで滑り落ちて行った一番酷い尻餅だったわよね?

そのあと保健医センセにおっきな湿布二枚もらってたのはドコのダレだったかしら?」


「…………」


「なに、今度はダンマリ?」


「……怜生くん、どうしたの?」


「は? 何よ、急に」


「いつもは私の愚痴を『あぁそう、うんそうね、そうだわね』って、相槌打つだけで聞き流すのに……」


「……アタシだって虫の居所が悪い時くらいあるわよ」


「モデルの仕事で失敗でもした?」


「アタシがするわけないでしょ。って言うか、公私混同するほど落ちぶれてないわよ」


「ってことは、プライベート……彼女と別れた?」


「……あのね、そんなのがいないのはアナタが一番よくわかってるでしょ。彼女いたら、部屋になんて上げないわよ」


「じゃあ、おばさんかお姉さん達と喧嘩した?」


「家族仲はすこぶる良好よ。コスメ貸しあいっこするくらいにはね」


「じゃあ、一美先輩と何かあった……は、違うか。怜生くんと先輩との接点、モデルの時くらいしか無いものね。仕事じゃないのはさっきわかってるし……」


「ねぇ、さっきまでアナタの愚痴を聞いてたはずなんだけど、何でアタシの分析になってるわけ?」


「私の愚痴より、怜生くんが異常な感じの方が問題」


「アナタのその切り替わりの速さについて行けないんだけど?」


「さっきまでの愚痴で落ち着いたから」


「……アナタってホントいっつもそうよね、何においても飽きっぽいって言うか、感情が長続きしないっていうか……まぁ、いつまでも愚痴聞かされるよりはいいけど」


「それは置いといて……あ、言っておくけど私の面食いの原因は怜生くんだからね」


「は? え、なんでそこでアタシになるのよ。責任転嫁ならやめてくれる?」


「だって、怜生くん以上なイケメンって滅多にいないし、イケメン怜生くんをほぼ毎日見てるんだよ? 他の人たちが『カッコいい』とか言ってても、怜生くんで目が肥えちゃってるから全くもってカッコよく見えないんだよね……でも見た目気にしないとか聖人様みたいなことは言えないし、やっぱり彼氏はカッコいいに越したことはないし、ってことは必然的に怜生くんくらいの顔のいい人を探しちゃうわけで、でもそういう人って、何でかすごい欠点があるっていうか……なんでなんだろう」


「突っ込みたいところは色々あるけど……まぁ、要するに、天は二物を与えずってやつね」


「脳みそ軽男が脳みそ軽男で……一美先輩は超絶級のナルシストで……あとは、怜生くんは、オネエでゲイで」


「………………ちょっと待ちなさいよ。アタシがオネエ口調なのは事実だから別に良いけど、ゲイって何それ」


「うん? だって、怜生くん、ゲイでしょ?」


「アタシ、女の子としか付き合ったことないわよ?」


「今までの彼女との最長って三日も保ってないよね? んでもって最短記録って数時間だったよね?」


「それは、まぁ……そうだけど」


「ってことはさ、女の子が好きだっていう前提が間違ってると思うの」


「何がどうしたらそこまで飛躍するのよ」


「一度、男の人と付き合ってみたら?」


「いや、だから、あのね? アタシが好きなのは女の子であって、野郎なんかマジで願い下げよ?」


「でも怜生くん、イケメン好きだよね?」


「だから、それは、好きなんじゃなくて」


「ほら、最近ってそう言うの結構オープンになってきてるし」


「ちょっと、まっ」


「でも、やっぱりあんまりオープンにしない人達も結構な割合でいると思うから、最初は無難に出会い系なところで探した方がいいのかもね」


「ちょ」


「それに、私、怜生くんがゲイでも気にしないし」


「……想像逞しいのも大概にしろよ?」


「?」


「俺がいつ男が好きって言ったよ、言ってねぇよな。彼女が続かないのは、お前の面食いと一緒でちゃんと理由があるし、その理由もわかってるし、ゲイの人には悪いけど、男が好きだとかいう理由じゃないから、いつまでも野郎とくっつけようとするのやめろ、マジで、キレんぞ」


「あ、ぅ、ごめん」


「もう言わないな?」


「うん」


「なら良い」


「………………漢な怜生くん、久々だね」


「あー……ゴホンッ、ごめんなさい。ちょっと、カッとなっちゃったわ」


「ううん。私も、止まんなかったから……」


「ホント、久々に素が出ちゃったわ……アナタが変なこと言うから」


「? そんな変なこと言ったかな……ってか、怜生くんって、漢が素なの? オネエ口調、ワザとなの?」


「あ……」


「何で?」


「は?」


「いや、だって、普通に喋ればいいじゃん?」


「アナタが言う?」


「うん?」


「……忘れてる、これ、完全に忘れてるパターンだろ……マジかよ、ヲイ」


「漢に戻ってるよ?」


「あー……アナタ、ちっさい時にあった誘拐未遂事件、覚えてる?」


「怜生くんが攫われそうになったやつ?」


「いや、違うから。……攫われそうになったのは、アナタだから、それ」


「え? 私?」


「そう、攫われそうになったのは、アタシじゃなくて、アナタ」


「えぇ? 怜生くんみたいな子が隣にいて私を攫おうとするって、間抜けだね?」


「えー、それも覚えてないの……トラウマ的に忘れてるのかしら……え、これアタシが話して良いことなの? ってかその前にどんな苦行? 説明しろと?」


「……怜生くん?」


「まぁいいわ……忘れてるんだから、あんまり思い出させるのもよくないかもしれないけど、この際だもの、仕方ないわ」


「うん?」


「……アナタね、ちっさいときはマジで可愛かったのよ。メリッ○で洗ってるのに天使の輪はキラッキラだわ、結んだ髪ゴムが落ちちゃうくらいサラッサラだわ、笑えばどんな偏屈なジジババも落とし、泣けば心配してオロオロする大人を大量生産と、まぁ、近所では有名な美少女と言うか美幼女だったわけ」


「……怜生くん、大分盛り過ぎだと思うよ、それ」


「マジで事実だから。

続けるけどね……まぁ、だからか、怪しいオジサンやらオニイサンにしょっちゅう声かけられてたわけ。で、隣にいた幼馴染なアタシはボディガードも兼ねてたわけよ。アナタ、大分ぽけーっとした子だったから」


「それは、ご迷惑をおかけしました……」


「……で、あれは小学校上がる前の休みだったかしらね……アナタが、不審者の車に乗っていきそうになって、止めようとしたアタシがそいつに突き飛ばされて、まぁ、ちょっと怪我したわけよ。それ見たアナタが、そりゃあもう近所に響き渡るような大声でギャン泣きして、その時は助かったんだけど……その時からアナタ結構長い間、男性恐怖症だったのよ。自分のお父さんさえ怖がるくらいね。覚えてない?」


「全然記憶に無いです!」


「その感じじゃマジっぽそうね……嬉しいような、なんか、ムカつくような……まぁいいわ。

それで、幼馴染のアタシも怖がっちゃって、でもそれじゃあ側にいてボディガード出来ないでしょ。ただでさえぽけーっとしてるのに、未遂とは言え事件が起こったんだから、そのままじゃ危ないじゃない? で、苦肉の策としてのオネエ口調してみたら、何故かわかんないけど隣にいても怖がられなかったのよ。それからね、アタシがオネエ口調なのは」


「えっと、ごめん?」


「謝罪より感謝が欲しいわね」


「ありがと?」


「……まぁ、実感なんて無いんでしょうから、それでいいわよ、もう」


「でも、私こんなに育ちましたけど……もうボディガードの必要、無くない?

ってか、どっちかっていうと、今は私の方が怜生くんの虫除けになってる気がするけど」


「…………………自覚ないのも大概にしろよ?」


「うん?」


「今でも十分可愛いわよ、アナタ」


「……嘘つけ」


「目が肥えてるって自分で言ってたの忘れたの? 普通に可愛いわよ?」


「そ、そんな馬鹿な……」


「言動は残念極まりないけどね。

事実、今でもアタシ、アナタの虫除け結構してるわよ。って言うか、虫除けになるためにこうなったって言うのに、アナタ、あんな脳みそ軽男に自分から釣られて行ちゃうんだもの、アタシの努力が全部水の泡じゃない。そこにさっきの愚痴だもの。アタシだって荒れちゃうわよ。わかった?」


「はい、わかりました。

……ねぇ、さっきの話に戻るけど、美少女と美少年だったら、ボディガードとか、意味無くない? 両方連れ去られちゃうと思うんだけど?」


「……もう、ここまで話したから言っちゃうけどね、アタシ、ちっさい頃超太ってたのよ。それはもう、ぷよぷよのころころにね」


「怜生くんが? 嘘でしょ」


「こんな嘘ついてどうすんのよ。

アタシの父さん、物心つく前に死んじゃってるでしょ? 写真でしか知らないけど、メタボも真っ青なくらい超肥満だったのよ。死因も糖尿病からの合併症の何かだし。で、その血を引いてるせいか、姉さんもアタシも太りやすいわけ。その上、アタシ未熟児で保育器育ちだから、さらに太りやすかったの。ほんと水袋みたいにぷよぷよのぽよぽよのころころだったのよ。姉さん達もちっさい時は結構ぷくぷくしてたから、痩せる必要性を感じなかったせいもあるけどね」


「想像つかないんだけど……」


「どっかに写真あるから、見せてもいいけど……美幼女なアナタが、だんご三兄弟に挟まれてる写真しか無いと思うわよ?」


「すごい気になるけど……お姉さん達が後で怖そうだからやめとく」


「賢明な判断だと思うわ。

結局のところ、可愛い女の子の隣に太っちょな男の子がいたところで『俺の方が良い男〜』みたいなノリで近寄ってくる野郎がいるかもしれないしってことで肉体改造したわけ…………アタシ、なんでこんなこと説明してんのかしら……」


「…………あの、怜生さんや」


「なに?」


「自惚れかもしれないけど……私、大分、怜生くんに愛されてる?」


「はぁ? なにそれ」


「ごめんなさい、自惚れました、ごめんなさい」


「今更気付いてんじゃないわよ」


「………………え?」


「鈍感すぎるにも程があるでしょ!!」


「え、なんか、さっきから聞いてたら怜生くん優しいなぁとは思ってたけど……」


「あのねぇ、普通に考えてみなさいよ! 優しさだけで、ただの幼馴染のために十何年もオネエ口調維持したり、虫除けしたり、ボディガードするわけないでしょ! ちっちゃい時から好きだったわよ、ずっと! 試しに付き合ってみた女の子、何人もすぐに振っちゃうくらいにはねっ! なんでわかんないかしらね!?」


「えぇー、逆ギレ……」


「キレなきゃやってらんないわよ!」


「そんなぁ……」


「で? アナタは何逃げようとしてるのかしら? こんな告白を暴露させておいて、逃げるわけ?」


「いや、あの……ちょっと、気不味いです」


「何? アタシは脈無しってこと?」


「…………わかんない。なんか、驚きで、戸惑い中」


「あ、そう。わかんないなら良いわ」


「……良いの?」


「良いわよ。わからないなら教え込むだけだもの」


「ん? なんか、不吉な言葉が聞こえたような?」


「これから、アナタがわかるまで、アナタの体にも、心にも、わからせてあげるだけだもの。今はそれでいいわよ」


「……それって、逃げられ」


「逃がすはずねぇだろ? 何年待ったと思ってんだよ」


「あ、はい…………えっと、お手柔らかに、お願いします?」


「うーん、そうねぇ……まぁ、善処はしてあげる」


「あ、これ、ダメなパターンだ」






おわれ

「あぁ、一応言っとくけど、外堀は埋まってるからね。おばさんは応援してくれてるし、おじさんにはよろしく頼まれてるから、相談したところで無駄よ」


「…………退路は、始まる前に断たれていた」


「退路を断つのは常套でしょ」


「……これ、生き残れるのかな……」


「それはアナタ次第ねぇ」

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