第四章4-24北の侵攻
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
お引越し~、お引越し~!
4-24北の侵攻
あたしたちは新築の開発棟に引っ越しをしていた。
今までの研究棟に比べ設備も充実している。
なんと簡易ではあるものの食堂やお風呂までついていて、仮眠室もある。
まさしく缶詰出来る環境がそろっている。
あたしは真新しいそれらの部屋を見ながら生前一回だけ経験した修羅場の缶詰を思い出していた。
あれは地獄だ。
とあるソフトメーカーが土壇場で逃げ出したおかげでやっと見つけたほかの会社でデスマーチに付き合わされた時には本気で死ぬかと思った。
まあ、そんな嫌なことは思い出したくもないのでここまでにしておくけど、これもそんな感じのにおいがプンプンするのって‥‥‥
「あら、いろいろそろっていていいじゃない! お風呂までついている!」
「食事もここでとれるのですね、これは便利です」
ティアナもアンナさんもお気軽なこと言っている。
「ほほう、確かに仮眠室まであるのですか、これでは我々教員宿舎より良いのではないでしょうかな?」
ジャストミン教授も荷物を置きながら部屋を見回る。
棚に本を並べ始めたゾックナス教頭はここの説明をする。
「もともと今の研究棟が手狭でしたからな、学園長もおっしゃっていたように最近は大掛かりな依頼も多い。開発研究費もだいぶ投資してもらっておりましたからな。それに、施設的にも機密事項が多いものをとりあつかうから外部との遮断も必要じゃったのだよ」
そう言えばうちの国の技術もトップシークレットだっけ?
ここにいる人は全員そのことを口外しない契約書を書かされている。
この契約書には【束縛】ギアスの呪文がかけられていて他の人には話すことはもちろん、書き物もできないようになっている。
「しかし、自分たちもこちらに入れるというのは意外でしたな」
ロクドナルさんやアイミ、口の軽いはずのマリアもここにいる。
もともとガレントの関係者だし、名目上はティアナの護衛だからねぇ。
最近はティアナの護衛って必要なのか疑問に思うこともある。
そんなことを思いながら荷物を整理していく。
外から結構色々と搬入しているので、ロクドナルさんやアイミのように力仕事出来る人材は貴重だ。
もちろんあたしたちも念動魔法とか使っていろいろ運び入れるけど、微妙な置き位置や細かいところは人海戦術になる。
あ、ちなみに「戒めの腕輪」は師匠に稽古つけさせられている頃より外されている。
学園内ではひいきになるのでダミーをつけているけど、あれをいちいちつけたり外したりで教授たちのところに行くのは面倒だもんね。
高等科に入るとその人格も評価されるので外される人もいるので今は問題ないけど。
そんなわけで、いろいろと大きな機材を現在学園内で念動魔法で運搬中なあたし。
はたから見れば十歳くらいの女の子が大きな象さんくらいの荷物を引っ張っているように見えるのですれ違う人たちがみんな注目してくる。
うう、意外と恥ずかしいわね、これって。
ちょっと顔を赤らめさせ、あたしはとっとと荷物を開発棟に運び込む。
あと二回位すれば全部運び終わるので、こちらの方はティアナたちに任せてあたしは研究棟に向かう。
と、すれ違う学生ににらまれる。
あれ?
あの子らってホリゾンの新しい留学生だっけ?
ふとビエムの事を思い出す。
まさかこの子らも失態をしでかすとああなっちゃうの?
確証がないのであの事はガレント王宮には内緒にしているけど、もしホリゾンが黒の集団に直接かかわっていたら国際問題だもんなぁ。
にらまれたけどとりあえず無視して過ぎようとすると、向こうから突っかかって来た。
「お前、ガレント所の奴だな?」
「あら、よくご存じで、エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンと申しますわ」
そう言って一応正式な挨拶をする。
「ふん、学園内だから大目に見てやるが、今後俺たちの目に映るところにいるんじゃねーぞ! このちび!」
むかっ!
なんなのその態度!
確かに身長はまだ低いけど、何様よ!!!?
「あら、留学したての下級生の割には元気ですわね?」
平然を装って憎まれ口を言ってやる。
「なんだと、このガキ! 寛大なゴエム様が見逃してやるって言ってんのに、生意気な!」
は?
ゴエム?
なんかビエムみたいな名前だな?
「あら、寛大な割にはこんな年端もいかない女の子にご立腹かしら? ホリゾンの殿方はさぞ血気盛んなのでしょうね」
「なぁにいぃ!!」
「よせよ、ゴエム、こんなことで失態を起こしたらお前の兄貴、ビエムのようになるぞ!」
仲間の生徒に制止され、ちっ と言いながらゴエムは踵を返す。
「って、ビエムの弟さん!?」
ゴエムはあたしの言葉にびくっとしてこちらを見る。
「お前、兄貴の事知っているのか?」
そう言ってあたしの方に近づいてくる。
「あ、兄貴の事、その後どうなったか聞いていないか!?」
いきなり肩をつかまれて聞かれても、あたしが知っているわけ‥‥‥
「おい、よせよ、ガレントの人間に聞いたって分かるわけないじゃないか」
そう言われて他の子に肩をつかまれあたしから引き離される。
「‥‥‥ちっ、そうだな。余計なこと聞いた、忘れてくれ」
そう言って今度こそ本当にホリゾンの学生たちはその場を離れた。
どう言う事?
親族にさえ後について話が行っていない?
そうするとあの怪人キメラは間違いなくビエムってこと?
辻斬りまがいな事やっている時点で黒の集団は危険分子、テロ組織として国際的に問題視されている。
しかし確証がないからガレント王国もホリゾン帝国を非難できない。
しかもそのホリゾン帝国の国民もこの事は知らないだろう。
完全に闇の中での動きかぁ。
秘匿される事柄は時に残虐性をはらむ。
うちみたいに脅威に対して対抗策としてマシンドールを導入しましたと公明正大には言えない。
悪手を打ったとしか思えないのだけど、そんなに英雄の力を欲していたのだろうか?
あたしはそんなことを考えながら荷物運搬を行う。
そして、開発棟に戻ってきた時だった。
「エルハイミ! 大変よ!!」
ティアナの焦る声がする。
「何をそんなに慌てて、何がありましたの、ティアナ?」
「さっき伝書鳩が来てサージから連絡があったの、北が、北のホリゾンが南下して攻めてきたって!!!!」
「えっ!?」
あたしの驚きの声が響くのであった。
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