第十三章13-10大いなる誤解
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
お母様です!(コク談)
13-10大いなる誤解
あたしたちは馬車でユーベルトの実家を目指していた。
「エルハイミの実家に行くのは久しぶりですね」
「ティアナはもう何年も行ってませんものね」
馬車に揺られながら以前ティアナがあたしの実家に来ていたことを思い出す。
そう言えばティアナはササミーが作ったチョコレートが好きだったな。
また作ってもらおう。
と、あたしはイオマを見てイオマはチョコレートを食べていない事に気付く。
「イオマ、私の実家に着いたらチョコレートを食べさせてあげますわよ」
「お姉さま、チョコレートって何ですか?」
「ああっ! あれは美味しいわね! あたしも食べたいわ!」
あたしはあたしの実家が初めてのイオマにあの美味しいチョコレートを食べさせてやりたいと思った。
「ティアナ様、チョコレートとは何ですか?」
「ティアナ様は食べた事が有るのですね?」
セレとミアムもチョコレートに興味を持ったようだ。
「あれはエルハイミの実家のパティシエが作る王都にも無いお菓子です。とても甘く美味しいものです」
ティアナがそう言うとセレとミアムは歓喜の悲鳴を上げる。
ちょっとマテ、あんたたちに食べさせてあげるとは言ってないけど?
「エルハイミ、彼女たちにも少し分けてやってもらえませんか?」
ぐっ!
まるであたしの考えを読み取ったかのような先制攻撃。
しかしティアナに言われては断るわけにもいかない。
「わかりましたわ、ティアナの要望ならば仕方ありませんわ」
あたしは敵に塩を送る気分で仕方なしに了承した。
『ま、正妻の懐の広い所でも見せつけなきゃだもんね。マリアが聞いたらうらやましがるでしょうけど』
「そう言えば何故マリアはティナの町に残ると言ったのですの、シコちゃん?」
マリアはずっとティナの町にいる。
今はジルと一緒にいるらしいが寒いのが苦手なくせにティアナにくっついて来なかったのは何故だろう?
『あの時はマリアもティアナに近づきがたい雰囲気が有ったのよ。ゾナーもエスティマも自分の事で精一杯だったし、結局ジルが一番マリアの面倒を見てくれたのよ』
シコちゃんに言われあたしはマリアを思い出す。
あの天真爛漫な子でも流石にあの時は気が引けたのか。
ティナの町に行く時はマリアにもチョコレートのお土産を持って行ってあげよう。
そう思うのだった。
* * * * *
「見えてきましたわ! 私の実家ですわ!」
ユーベルトの街の郊外、小高い丘の上に立つお屋敷があたしの実家だ。
馬車は実家の門をくぐり広い庭を超えとうとう建物の玄関前に着く。
事前に知らせが入っていたので玄関の先には出迎えの使用人たちとパパン、ママン、バティック、カルロスが待っていてくれていた。
馬車が完全に止まり扉が開く。
そしてあたしは馬車から降り数年ぶりに実家に戻ってきたのだ。
「エルハイミっ!」
あたしが挨拶する前に涙を流しながらママンが抱き着いて来た。
「エルハイミ、エルハイミ! よかった、本当に良かったわぁ~!! お母様エルハイミがいなくなっちゃってどうしていいのか分からなくて~!! でも、でもっ! よかったぁ~、エルハイミが戻ってきたぁ~!!」
年甲斐にもなくわんわん泣くママン。
あたしはママンの背に手をまわしポンポンと叩きながらささやくように言う。
「ただいま戻りましたわ、お母様。ご心配をおかけしましたわ。エルハイミはこうして無事帰ってまいりましたわ」
「エルハイミぃ~! 本当に良かったわぁ~!!」
そうしてママンは気が済むまで泣き続けた。
* * *
「改めてお帰りエルハイミ。本当に良かったよ」
「姉さま、きっと無事戻って来るって信じてました」
「ほんと、姉さまったらみんなに心配ばかりかけるよね? でもよかった、戻ってきて!」
パパンやバティックにカルロスもそう言ってくれる。
あたしはうれしくなってみんなに抱き着く。
「ごめんなさいですわ、心配かけて」
「本当に良かったよ、エルハイミ」
「わわっ、ね、姉さま!」
「うわっ! 姉さまおっきい!!」
なんかバティックだけやたらとあたしが抱き着くのを嫌がるけど、久しぶりなのだ逃がさないわよ!
そんな事をしていたらティアナがこちらにやって来た。
「ハミルトン卿、お久しぶりです。この度は私がふがいないばかりにエルハイミに苦労をかけてしまいました。なんとお詫びしたらいいのやら‥‥‥」
「殿下、お久しぶりです。どうか頭をあげてください。あの戦争は仕方なかったのですよ。我妻ユリシアからも聞き及んでいます。これは殿下のせいではありません。どうかご自分を責めないでください」
ティアナはパパンに会うなり謝罪を口にして頭を下げた。
あたしの事で責任を感じていたのだ。
「ティアナ‥‥‥」
あたしはティアナを見る。
「お義父様、そう言っていただけると少し気が楽になります。しかしもう二度とこのような事が無いよう我が命に代えてもエルハイミを守り抜きます」
「ティアナちゃん、もういいのよぉ~、そんなに自分を責めないで~。もうエルハイミもティアナちゃんもいなくなっちゃうのはお母様耐えられませんからね~、孫の顔を見るまではお母様死んでも死にきれなくなっちゃうわよ~」
なんかママンもそんな事言っている。
「主様? この方たちが主様のご両親なのですか?」
そんな中コクがひょいっとあたしたちの間に入って来た。
「!?」
ママンの背景が真っ暗になって稲妻が走った!?
そしてふるえる手でコクの肩に手を置く。
「ま、まさか~」
「如何なさいましたか?」
コクは不思議そうに両肩に手を置かれてママンを見上げる。
「そ、そっくりだわぁ~ エ、エルハイミの小さい頃にそっくりだわぁ~!! お、お嬢ちゃん、お名前は~?」
「はい? 私はコクと申しますが?」
「コ、コクちゃんね~ エ、エルハイミ、とうとうなのね~!!」
そう言ってママンはいきなりコクに抱き着いた!?
「あなたぁっ!! とうとうエルハイミが孫を連れてきましたわぁ~!! コクちゃんよぉ~! 私たちの初孫、コクちゃんよぉ~!! ティアナちゃん、よくやってくれました~!」
なっ!?
ママンは思い切り勘違いし始めた!?
コクを抱きかかえながらくるくると廻りほおずり始める。
ちょっとマテ、ママン!
どう考えてもおかしいでしょうに!?
コクは見た目が五、六歳なのよ?
もし仮にあたしが生んだとしてもそんなに早く成長しないでしょうに!
あたしがあの戦争でイージム大陸に飛ばされてここに戻ってくるまでにまだ三年経っていないのよ?
どう考えてもつじつまが合わないでしょうに!?
「あ、あのお義母様?」
「もう、ティアナちゃんったらしっかりエルハイミを身籠らせていたのね~ がんばったのねぇ~!!」
ママンの爆弾発言にやたらと反応する人たちがいた。
「なっ!? エルハイミどう言う事よ!?」
「お、お姉さまいつの間にティアナさんの赤ちゃんを!?」
「ティアナ様! 何時そんな事が出来るようになったのです!?」
「そんな、私だってあれだけかわいがっていただいたのに! やはり正妻には勝てないの!?」
シェルもイオマもそしてミアムもセレも驚きの声をあげている。
おいこらオマエラ今まで何を見ていた?
「あ、主様? これは一体どう言う事ですか?」
「もう、コクちゃん、主様ではないでしょう~ ちゃんとエルハイミの事はお母様って呼ばなきゃだめですよぉ~ そして私の事はお婆様ですよぉ~」
だめだ完全に舞い上がっていて人の言う事を聞くどころか理性がぶっ飛んでしまっている。
しかしそんな中コクは瞳をぱちくりさせそしてにっこりとほほ笑んでからとんでもない事言い出す。
「わかりました、お婆様。コクは主様ではなく今後お母様と呼ぶことにします!」
「いいこですね~、コクちゃんは~!! あなた、今日はお祝いよぉ~ 初孫よぉ~!!」
もう完全に止める事が出来なくなってしまったママンがそこにいたのだった。
* * * * *
「ほら、コクちゃん~これもお食べなさい~」
にこにこ顔のママンは完全にコクにべたべたで世話をしている。
あの後パパンには事情を説明したが舞い上がったママンは全くと言っていいほど人の話を聞かない。
しかしパパンはそれでもいいだろうと言い出す。
「エルハイミよ、実はな、ユリシアはお前が失踪してから少し気がおかしくなってしまったんだ。かなりショックだったようでしばらく家から一歩も出れなくなってしまってな。今はだいぶ回復したのだがそれでも時折おかしな行動をとっていた。黒龍様には悪いがここはお前とティアナ殿下の子供と言う事にしてくれないか?」
「お義父様、私は喜んでお受けいたします。いえ、勿論本当にエルハイミを身籠らせるようその方法は探索を諦めておりません」
なんかティアナはものすごく乗り気だ。
しかしそうするとママンの為に話を合わせなければならない。
ふとコクがあたしたちに話しかけてくる。
「お母様、そうするとお母様の旦那様はお父様とお呼びしなければならないのですか?」
既にコクはあたしの事を「お母様」に呼び方が変わってしまっている。
そしてティアナの認識が父親になりつつある。
あたしは軽い頭痛を感じているが、ティアナを見る。
ティアナは冷静を装っているがその眼はキラキラと輝いている。
きっとあたしと二人きりになったらいろいろとされちゃうだろう。
頑張って本当にあたしたちの子供作りましょうとか言って‥‥‥
「コク、ティアナの事はお父様ではなく赤お母様とでも呼んでくださいですわ。女性に男性の呼び名はふさわしくありませんもの」
「わかりました、では今後は赤お母様とお呼びします」
あたしはティアナをちらっと見るとうんうんと頷いている。
それで良いと言う事なのだろう。
仕方ない、実家に滞在中はかりそめの親子を演じるしかないか。
あたしは有頂天になっているママンを見るのだった。
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