第七章7-10ガルザイルへ
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
ヒュームのそう言うお話、とくと聞かせてもらうわ!!(シェル談)
7-10ガルザイルへ
アコード様やライム様がティナの町を出てもう二週間になる。
あたしたちは可能な限りこの町の守りを固めて王都ガルザイルに向かう事となった。
「エルハイミ、アンナとの連絡は?」
「アンナさんは既にガルザイルに戻っているそうですわ。先日貸し出ししていたアイミたちもガルザイルに着いているそうですわ」
あたしはシコちゃんを磨きながらそう言う。
「なんかこの二週間バタバタしてたわね、いつも以上に」
シェルはマリアの服を作っている。
寒がりなフェアリーに天然素材の暖かい服を作っているみたいだ。
意外と器用でなかなか可愛らしいフェアリーにピッタリなデザインの衣服を作っているみたい。
「シェルぅ~、重ね着すると動きにくくてあっついよぉ~」
「あら、マリアさっき絹で作った下着を着た? あれならさらさらで動きやすいから気持ちいいわよ?」
既に何着か作っていた衣服を籠の中からごそごそと取り出す。
そしてきれいなシルクで出来た下着を渡す。
ん?
シルク、絹??
そんな素材何処からとってきたんだろ?
「シェル、シルクなんてどこから買ってきたのですの? 町の商店街では見た事無いですのに?」
「ああ、この前農地の開拓視察に同行したときに森で幼虫がいたから捕まえて育ててたの。結構この近くっているわよ?」
なにっ?
自前で絹を作ったのか??
しかもこの森の近くに結構幼虫、蚕がいるというの??
「シェル、後でその話詳しく聞かせてですわ! もしかしたらティナの町の新しい産業につながるかもしれませんわ!」
シェルはぱちくりと瞬いているけど「まあいいわ、分かった」とだけ言ってマリアを着替えさせる。
意外と面倒見が良いなこいつ。
「それでエルハイミ、明日には王城に戻ろうと思うの。あたしの祝賀会にアテンザ姉さまたちも来ているらしいからもっと詳しい事情を聴きたいの」
ここ二週間ティアナはちょっと苛立っていた。
多少は情報漏洩などあったとしてもまさかガレントの貴族や大臣に連なる者までもが内通者だったとは思いもしなかったからだ。
「わかりましたわティアナ、それではこの後ゾナーに引き継ぎの話をして明日にはゲートで王城に行きましょうですわ。メッセンジャーで先に連絡をしておきましょうですわ」
あたしはそう言ってうなずくとティアナは小さな声で「ありがと」と言ってくれた。
自分でもイラついているのは分かっていたのだろう。
最近は夜にあまりかまってもらえなかったからなぁ。
あたしはティアナに微笑んでからゾナーを探しに行く。
* * * * *
「それでは行ってまいります、後の事はよろしくお願いしますですわ」
「ああ、心得た。主も安心して行ってきてくれ。ティナの町は俺がちゃんと面倒を見る」
ゾナーのその言葉を最後にあたしたちはゲートで移動をする。
そして瞬時にガレントの王城に準備されたゲートの部屋に着いた。
「殿下、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
見るとアンナさんが出迎えに来ていた。
「ご苦労様、アンナ殿。ところでアテンザ姉さまやお父様はどちらに?」
お姫様モードのティアナは背筋を伸ばしおしとやかに質問をする。
アンナさんは頭を下げてから「こちらです」と言ってティアナを先導する。
あたしやシェル、ショーゴさんはその後について行く。
途中マリアが顔を出してほうふぅと言いながら上着を脱ぐ。
そして羽をパタパタしてからアンナさんの所に飛んでいく。
「久しぶり~アンナ! いやぁこっちはあったかいねぇ~」
「あらマリアちゃん、お久しぶりです。そうですか? 今日は少し涼しいくらいですが?」
「いやいや、ティナの町に比べたら快適ですよ。それより姉さまも一緒にいるのでしょうか?」
アンナさんはがらりと声が変わったマリアにぎょっとする。
この声、レイム様じゃないの!?
「レイム様ですの? どうしたのですの?」
あたしは慌ててマリアに近づきそして質問する。
「ああ、エルハイミさん、お久しぶりです。実は姉さまが全然報告よこさなくて僕がアガシタ様に怒られているんですよ。そちらに行っている間はどうやら毎日宴会していたようですがアガシタ様のお使いはどうなったってね」
あー、やばい。
ライム様ちゃんと報告してないの??
「ライム様は先にガレントのお城に来ていますわ、ジュメルの件について調べるために」
「ほう、姉さまちゃんと仕事してましたか。まあちゃんとしなけりゃアガシタ様から折檻されますからねぇ。わかりました、引き続きお願いします。では、マリアさんにこの体戻しますね」
そう言ってマリアは静かになるが次の瞬間はっとなって周りをきょろきょろする。
「あれ? あたし何してたっけ??」
「ちょっと気を失っていたのですわ、それよりアンナさん、ライム様もこちらにいらっしゃるのですの?」
かなり驚いていたがアンナさんはマリアが元に戻って安堵の息を吐く。
「驚きました、レイム様がマリアちゃんになるのですもの。マザーライム様はこちらにおられますよ。アコード様の所に今はいます。ちょうどお連れするところに今はいるはずです」
「あたしがレイム様? なにそれ??」
「気にしなくて大丈夫ですわ、たまにマリアの体をレイム様が使っているのですわ」
「げっ!! そうなの!? あたし何か悪いことした!!!?」
慌てるマリアに説明をしてなだめているとアコード様の所に着いた。
「お父様、アテンザ姉さま今戻りました!」
「あらティアナお帰り!!」
アテンザ様はティアナに抱き着く。
相変わらずの凶器がティアナの呼吸を困難にする。
「ぷはっ!! 姉さま、何度言ったら分かるんですか!? 窒息死させる気ですか!!!?」
「あらごめんなさい、そんなつもりは無いのだけどね。つい可愛くて抱きしめちゃうのよ!!」
「んんっ、ティアナ良く戻った。アテンザもそのくらいにしておけ。エルハイミ殿と、シェル殿、ショーゴ殿も一緒か」
アコード様はちらっと使用人たちを見る。
そして茶の用意をしてさがるように言う。
「ティアナにエルハイミよく来たわねぇ、待ってたわよ」
ふと声のする方を見ると昼酒かっ喰らってるライム様がいる。
良かったですね、マリアがレイム様じゃない時で。
こんな状況アガシタ様に知れたら折檻ですよ、ライム様?
「ライム様、先程レイム様から連絡が入ってますわ、アガシタ様のお使いの報告はどうしたのかって?」
「げっ! やばい!! 忘れてた!!」
‥‥‥
ライム様、一回折檻喰らった方が良いんじゃないの?
「とりあえず報告に一度戻るから、ちょっと行ってくるわ!!」
そう言ってそのまま虚空に消える。
良いのか酔っ払ったままで?
まあ、そっちは置いといて、今はアコード様やアテンザ様の方だ。
「ライム様、相変わらずのようですね? ところでお父様、人払いをしたと言う事はジュメルについて進展が有ったのですね?」
ティアナの言葉にアコード様はうむと言ってアテンザ様を見る。
アテンザ様は首を縦に振ってから話始める。
「事の始まりは魔晶石核を双備型魔晶石核に換装し始めたころになります。早期に交換した魔結晶核はまだ寿命が有りとある大臣の発案で他の研究に使うことになりました。しかしすぐに寿命が来るものもありその保管管理はかなりずさんなものとなっていました。結果そこから在庫数が合わなくなってきたわけです。」
アテンザ様はみんなの顔を見渡してから続ける。
「その後双備型に換装する作業でスペース問題が有りました。エルハイミ殿が指摘するまで詰め込むのに苦労をして作業現場が混乱しました。その折に双備型が二基紛失しました。現在分かっているのはそこまでですが、問題はどのようなルートで紛失しているかははっきりしていません。何故かというと精巧な偽物が紛れているからです」
偽物?
と言う事は外観上がそっくりなまがい物があると言う事か?
「アテンザ様、そうすると見かけの在庫って合っていると言う事ですの?」
「そうです、だから発見が遅れました。しかしその出元は特定しました衛星都市ユエナです」
衛星都市ユエナ、八大衛星都市の中で最東端にあるこの街は海が近い事も有り海産物が豊富な町だ。
工芸品も多く装飾品も有名な所だ。
そうするとそこが偽物を作ったか?
「姉さま、それではユエナのアマデウス伯爵が関与しているのですか?」
「どうでしょうか、まだそこまでの確認は取れていません。それともう一つの問題が大臣の中にも問題のある者がいると言う事です」
そう、国の中枢に関与するこちらも大問題だ。
ガレントと言う国は現在この世界で一番力を持っている。
生前でいうアメリカのようなものだ。
それに対してホリゾン帝国はロシアのような国と言えばわかるだろうか。
そんな国の大臣が謀反を起こせばたちまちパワーバランスが崩れる。
更に宗教が絡むと話はもっとややこしくなる。
ジュリ教は女神ジュリ様を祭る宗教。
この世界の宗教の一番の特徴は崇拝する女神様が実在していたという事だ。
なので神啓と言う形で本当にお告げが有ったりもする。
神官や司祭はその言葉が聞ける数少ない人物。
結果徳が高くなければなれないので強欲な人物は神官や司祭にはなれない。
ただ、各女神の教義は違うのでその解釈はまちまちになる。
それを悪用と言うか自分に都合の良いように解釈する輩はこの世界にもいる。
そしてそれは国と言う枠を超える。
「その大臣もジュリ教信者なのですの?」
あたしの質問にアテンザ様は首を振る。
「残念ながらそれはわかりません。信仰は個人の自由ですからね。ただ分かっている事はその大臣が積極的に魔晶石核や双備型魔晶石核に関りを持ちたがり、衛星都市ユエナの出身であると言う事です」
これでジュリ教信者であれば可能性は非常に高くなる。
ジュリ教と秘密結社ジュメル、全部では無いにしてもかなりの確率でつながりが有るようだ。
「そうするとその大臣とユエナのアマデウス伯爵が怪しいと言う事ですか、姉さま?」
「単純にそうとは言えませんがまずはこの辺が問題でしょう。この件に関しましては我が国の隠密が調査中です。その為ヨハンたちは今城にはいません」
アテンザ様はそう言ってからお茶を一口飲む。
そして一枚の紙を取り出す。
「これは換装が終わったマシンドールの資料です。全マシンドール中の二百八十一体が換装を終えています。残り四体中二体はノルウェンで大破、後の二体は旧型なので改装中です。」
「そうすると残り二体が完成すれば双備型魔晶石核は使い終わるわけですね、姉さま?」
「しかしその旧型二体は今ユエナの街に搬送されています。双備型魔晶石核と共に」
ちょっと待て、そうすると最大四基分の双備型魔晶石核がはっきりとしないって事?
しかも改装中のマシンドール二体も?
「最悪はマシンドール二体と四基の双備型が相手に渡ってしまっていると言う事でしょうか」
アテンザ様はため息をつく。
完全に軍事機密の漏洩である。
ブラックボックス化しているからすぐすぐには解析できないだろうけど、大臣が情報を流しているなら双備型くらいまでなら作れるかもしれない。
「それで対策は?」
ティアナが聞くが今度はアコード様が答える。
「既に陛下のお耳には入れてある。しかし事が事だけに公にはできず、隠密を使って証拠の確保をしているところだ。それとその先につながる国内のジュメル潜伏所の発見だな。この国の中の組織基盤を崩さない限りイタチの追いかけっこになってしまう。」
そう言ってからアコード様もお茶を口にする。
現状は証拠確保とこの国のジュメル潜伏場所の特定が先かぁ。
これは隠密部隊のヨハンさんたちに頑張ってもらうしかないか。
「あれ? そう言えばサージ君も一緒ですの?」
「ああ、サージは‥‥‥ ロクドナルの所です」
アテンザ様はなぜか深いため息をついた。
あたしはなんか嫌な予感がしてきた。
しかし聞かないわけにはいかない、その後のサージ君を!!
「ロクドナルさんの所と言いますと騎士団の所ですの?」
「ええ、そうなのだけど、サージはロクドナル専属になりたいと懇願してきてティアナ護衛の任務を学園で完遂したという事が評価されロクドナルの付き人として動いています、表面上は。しかしその、彼のロクドナルへの感情がその、何と言うか‥‥‥」
うぁーっ!!
サージ君やっぱりそうなってしまったかぁ!!!?
剣聖の付き人としては十分に役に立つだろうけどまさかそっちに走っていたとは!?
「サージがロクドナルの所行って何か問題なの?」
「‥‥‥分かりやすく言えば私とティアナの関係に近いかと思いますわ」
「え”っ!?」
流石に今の一言で理解したらしくティアナは驚いた顔であたしを見る。
アテンザ様もアコード様もアンナさんもうんうんと唸っている。
「じゃ、じゃあロクドナルにサージは妊娠させられちゃうの!?」
ぶっ!!
いきなり何てこと言い出すのよティアナ!?
そうだけどそうじゃないっ!
「ティ、ティアナ、まずはそこではなく確実にあの朴念仁のロクドナルさんは気づいていませんわ。多分サージ君の一方的なものでしょう」
「やはりそうですか。エルハイミさん、もう少しその辺の話を詳しく聞かせてくださいな!」
「サージ君がそう言った趣味があったとは! エルハイミちゃん、ロクドナルさんは知らないのですね!?」
「そうするとこの話はサージの片思い!? エルハイミ、どういうことか詳しく教えて!!」
「ヒュームにもそう言うのが有るの!? 聞かせて聞かせて!!」
その手の話が嫌いな女子はいない。
どこかで聞いた迷言があたしの脳裏をかすめる。
しかしあたしもこういう話は今では嫌いではない!!
お茶もあるし五人も女が集まってこういう話が始まるともう止まる事は無い。
「あー、ショーゴ君、マザーもいなくなってしまったから飲むのに付き合ってくれんか?」
「主もそう言う事が好きだったとは‥‥‥ アコード様、分かりました俺でよければ付き合いましょう」
男二人は追い出されるようにあちらに行ってしまった。
流石にこちらの話にはついていけないだろうから。
とりあえず今までのうっ憤を晴らすかのようにあたしは事の始まりから話すのであった。
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