第六章6-16シコちゃん
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
研究資料は学生たちに準備させてっと。
私は果実酒でひとやすみっと!(ソルミナ談)
6-16シコちゃん
ソルミナ教授は受講の最後にこう言った。
「それではそろそろ課題の精霊についてまとめに入ります。次回の『魔術総合実演会』までに研究結果発表となりますから残り半年ちょっと頑張りましょう!」
今回ソルミナ教授の研究は「精霊魔法の高効率化とその普及方法について」の研究となる。
取り扱いが著しく面倒な精霊魔法を如何に活用すれば一般生活でも有用になるかとか、その普及率を上げるとかが研究対象となっている。
実際農業や天候予測など自然界にかかわることが精霊魔法によって改善されると一般人の生活でも大きな恩恵が生まれるだろう。
本人はかなりやる気であるけど、その資料作成や検証、実験や魔道具作成などかなりあたしたちを頼りにしているのは内緒の話だが‥‥‥
「ソルミナ教授、課題研究の方は目途が立っていますけど、四連型の方はどうですの?」
ソルミナ教授は眉間にしわを寄せてうーんと唸っている。
「一番の問題は上級精霊の機嫌を損ねるようなことは決してしたくないってことですね。アンナさんの提唱する催眠効果でマシンドールアイミの意志を割り込ませて運用するというのはたぶんうまくいくと思います。ただ、何かの拍子に上級精霊が目覚め不本意な使役を受けていたと知ったらただじゃすまないってことです」
やっぱりそうなるか。
下級精霊と違ってただ魔力を供給すれば言うこと聞いてくれるというのとは訳が違う。
英雄級の魂で各精霊に連なる人がいて同意のうえで使役すればいいのだろうけど、そんな都合よく英雄級がごろごろしているわけがない。
「そうなるとやっぱりシコちゃんが必要かぁ」
ティアナはノートと教科書をまとめながらつぶやく。
「確かに『至高の杖』を介した強制制御なら精霊たちも、いくら上級精霊と言えどもその束縛からは逃げられないでしょう」
アンナさんはシコちゃんに関する古代魔導書を見ている。
結局コルニャに有ったこの書はティアナの尊い犠牲でアテンザ様が喜んであたしたちに寄付してくれた。
あの時はティアナには頑張ってもらっていたので本当に助かった。
ギリギリでティアナの貞操は守れたし、アテンザ様もいい夢見れたろうから良しとしよう。
そして黒歴史として記憶の奥底に封印しよう。
「そう言えば『至高の杖』はまだ目覚めないのですか?」
ソルミナ教授はあたしに向かって質問してくる。
あたしはため息一つ、回答する。
「残念ながらですわ。一応毎日数度呼びかけはしているのですが今の所反応は無いのですわ」
あたしは懐からシコちゃんを取り出す。
試しに呼びかけてみる。
そしてじっと見つめるも何ら変化はない。
やっぱり休眠状態のままだ。
「やはりだめですわね」
あたしは首を横に振る。
「仕方ないわね。お昼食べたら開発棟に行きましょ。ソルミナ教授も行けますか?」
「ええと、午後の実技講習が終わったらいけます。中等科の子たちもそろそろ試験ですからね」
そう言えばそういう時期かぁ。
あたしたちは分かりましたと言って教室を後にする。
* * * * * * *
「で、なんであたしもここに呼ばれるわけ?」
開発棟の四連型魔晶石核の前でシェルは文句を言っている。
「あんた暇でしょ? ソルミナ教授が忙しいから手伝いなさい」
ティアナに言われてシェルはむくれてる。
でも精霊の微妙な変化はやはりエルフが一番敏感なのでいてもらえば助かる。
「シェル、ソルミナ教授の分まで頑張らないと今晩のご飯抜きですわよ!」
「なっ! それは卑怯よ!! あたしのこっちの世界での楽しみなのに!!」
どうもエルフは人間界の食事がとてもお気に入りのようだ。
まああのずっと変わらない世界に閉じこもっていれば食事も命をつなぐ最低限のものになってしまうのも分かる。
自然とエルフ豆の塩ゆでが珍味なごちそうとか言う状況が発生するわけだ。
「ううっ、わかったわよ、やるわよ手伝うわよ!!」
半ばやけくそになっているシェル。
素直に手伝ってくれればいいものを。
「それでは始めましょう。教授たちもいいですか?」
「かまわん、始めてくれ」
マース教授たちはメモ帳を持ちながら答える。
「シェルさんも何か変化があればすぐに教えてください。特に上級精霊が機嫌悪くなりそうであればすぐに止めますから」
「わかったわ、流石に上級精霊だからまじめにやらないと凄いことになりそうだからね!」
シェルもアンナさんから先に説明受けてるので始めるとすると真剣に取り組む。
今から始めるのは上級精霊に対しての催眠効果。
うまく催眠に誘導できれば次はアイミの意志の割り込みだ。
それなのでこれからやることは細心の注意払わなければならない。
「始めます。【催眠魔法】!」
アンナさんの長々とした呪文が完成する。
そしてその魔法は魔結晶石へと達し融合された上級精霊たちに届く。
あたしたちはその様子を注意深く見守る。
「どうでしょう?」
「うーん、今の所問題無いみたい。全部大人しく寝ているみたいね」
シェルは瞬きもせずその変化を見守る。
アンナさんは安堵の息を吐き次のステップへと移る。
「ではまずは応答の有無から始めます。『我が声を聞きし者、わが声に応じよ!』」
すると各魔結晶石はわずかに輝きを増す。
「だ、大丈夫ね、まだまだ寝ているわ」
シェルは頬に汗を一筋流しながら猫のように髪の毛を緊張で逆立てる。
「今の所は上手く行っているようですね。アイミこちらへ」
アンナさんはアイミを呼び寄せ、アイミの背に手を付ける。
そしてまたまた長々として呪文を唱え始める。
そしてあと少しで呪文が完成するところで横槍が入った!
『ティアナ、エルハイミ! その呪文すぐに止めなさい!! 暴乱が始まってしまうわ!!!!』
いきなりシコちゃんの声がする。
「え?」
『いいから早く!!』
しかしアンナさんは呪文を唱え終わる。
そして最後の力ある言葉を発してしまう!
「【精神束縛魔法】!」
「【解除魔法】!!」
アンナさんの魔法が完成すると同時にあたしは解除呪文を飛ばす!
ぱんっ!!
アイミと四連型魔晶石核の間に見えない力どうしがぶつかり合って相殺され乾いた音がした!
その音にあたしとティアナ以外のみんなは驚き後ずさる!
「うひっ!」
「なっ!?」
「えっ!?」
シェルなんか脱兎のようにあたしの後ろまで退避して髪の毛を逆立ててふしゃー、ふしゃー言ってる。
「エルハイミちゃんどうして?」
「今シコちゃんが目覚めシコちゃんの指示で緊急にアンナさんの呪文を阻止しましたわ。シコちゃん、説明を聞いてもいいかしらですわ?」
あたしの要約した回答にとりあえずここにいるみんなは黙ってその答えを待つ。
『真横でへんな精神魔法なんかかけられてれば目も覚めるわよ。と、あなたたち上級精霊相手になんて綱渡りしてるのよ? どうやらアイミを介して【精神束縛】なんて魔法かけようとしたみたいだけど、そんなの使ったらイフリートであるアイミ含め対を成す水の上級精霊あたりが猛反発して暴れだし連鎖で他の上級精霊も暴れだすカタストロフが始まるわよ!!』
「どういうことですの?」
『相互関係の均等性バランスを崩す事は相互活性化ではなく爆発的な反発になるわ。爆発的な反発は最悪なことに四大精霊がみんないるから収拾がつかなくなるまでその力を放出して瞬間的に大爆発を起こす羽目になるわ。過去魔法王国でも同じような事をして当時半径五キロメートルのクレーターを作り研究施設どころか近隣の住民まで巻き込んだ大惨事が発生したのよ。今あなたたちがしようとしていたのはまさしくのその再現ね。ほんと、危なっかしたらありゃしない。危うくあたしも消し飛ぶところだったじゃない?』
あたしとティアナ、そしてなぜかシェルも脂汗だらだら流す。
そして今シコちゃんが説明した事をみんなに話す。
するとみんなもその場に座り込んだり手を目に当てて上を見上げたりしていた。
「「「あっぶなぁっーーーーー!!!!」」」
思わずみんなの声がハモる。
『ほんと、手間のかかる子たちね。でももう大丈夫よ! あたしが目覚めたからにはそんな失敗はさせないわよ?』
頼もしいシコちゃんが目覚めあたしは心底ほっとするのだった。
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