第六章6-4マーヤ
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
やっとマーヤに贖罪が一つできますね・・・(ユカ・コバヤシ談)
6-4マーヤ
「あなた誰? マーヤに何か用?」
振り返ったあたしが見たものは一人のエルフの少女だった。
年の頃人間でいう十四、五歳くらいに見える。
エルフ独特の透き通るような白い肌に金髪、深い緑色の瞳はエメラルドの色。
エルフの中でもとびきりの美少女だ。
「あなた見ない子ね? 何処の子よ? ‥‥‥って、もしかしてあなたエルフじゃないの!? ま、まさかヒューム!?」
彼女はあたしを見てかなり驚いている様子だった。
「なんでエルフの村にヒュームが? って、あなたまさかハーフじゃないわよね? 聞いてた感じのヒュームよりずっとエルフっぽいし?」
確かにあたしは金髪碧眼だけどエルフじゃない、ハーフエルフでもない。
「私はエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン。英雄ユカ・コバヤシの同行者ですわ」
「英雄ユカ・コバヤシ!? じゃ、じゃあ今マーヤの家にいるの?」
このエルフの少女はそう言いながらこの家のドアを叩く。
「マーヤ、マーヤいる!? あたし、シェルだよ! いるなら開けて!!」
すると扉が開く。
「マーヤ、良かった‥‥‥ って、ファ、ファイナス長老!?」
扉を開けたのはマーヤとかいう人ではなくファイナス市長だった。
「騒がしいですよ、シェル。おや、エルハイミさんも来ていたのですか? ‥‥‥ふう、まあいいでしょう二人ともお入りなさい」
そう言ってファイナス市長はあたしたちを部屋へと入れる。
そこは小ぎれいに片付いたリビングだった。
リビングの中央には丸いテーブルがあって、そこに師匠と美人のエルフの女性が座っていた。
「シェル?」
そう言ってこちらを向いた美人エルフさん、ちょっと愁いを帯びている。
「エルハイミですか? どうしたのです?」
「い、いえ、なんとなく師匠が気になってついてきてしまいましたわ」
「まあ、いいでしょう、二人とも座りなさい」
ファイナス市長はそう言ってあたしたちをこの丸テーブルに座らせる。
「紹介しますね、こちらはマーヤ。英雄ユカ・コバヤシと共に魔人戦争を戦ったエルフです。この子はシェル。まだ成人を迎えてない若い木です。それと、こちらのヒュームはエルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトン。多分次の英雄候補ね?」
「わ、私が英雄候補ですの?」
言われて驚くあたし。
そんな話聞いてないよ?
そう思いながら師匠を見る。
「未来は分かりませんがその素質は十分にあります。エルハイミ、あなたがこの世界の安定を望むなら」
師匠はそう言って優しく笑った。
そしてマーヤさんに向かって話を続ける。
「マーヤ、この子が先ほど言った秘密結社ジュメルと戦ったのです」
「!」
マーヤさんはあたしを見る。
そして再び師匠に顔を向ける。
「そう、そうなんだ。でもユカ、そうすると全てはその秘密結社ジュメルとかいう連中のせいだというのね?」
「ええ、多分間違いないでしょう。魔人召喚もアノードが狂ったのも何らかの影響をその組織が与えていたと私は思います」
師匠のその言葉を聞いたマーヤさんは唇をかみしめて小さく震えていた。
その表情は険しく、今にも何かに噛みつきそうな勢いだった。
「ユカ、あなたはこれからどうするつもり?」
唇からわずかににじんだ血をぬぐい取りマーヤさんは師匠に尋ねる。
「私一人でどうにかなる問題ではないでしょう。私は北の動きに対してこのエルハイミたちを鍛え、ドゥーハンたちのように抑止力になってもらいたかった。しかし北ではなくもっと問題の有る組織、秘密結社ジュメルが表舞台に立ち世界各国で暴れ始めているらしいのです」
「なら、ユカ私と一緒に戦って!! あたしがそのジュメルとかいう連中を滅ぼしてやる!!」
「マーヤ‥‥‥」
ファイナス市長は頭を横に振りマーヤさんを落ち着かせる。
「マーヤ、あなたはあの呪いの為まだ完全に傷が癒えていないでしょう? あなたの『命の木』はかろうじてその命をつなぎとめている。貴女に何かあればユカにまで影響が出てしまうのですよ? あなたたちの命は常につながっているのですから」
そう言うとファイナス市長はマーヤさんの手をやさしく握った。
マーヤさんはうつむきやがて涙のしずくをこぼす。
「あいつらが私から何もかも奪った! アノードも私たちの子供も!!」
その悲痛な叫びはここにいる者の言葉を奪う。
あたしたちは誰一人として言葉を発せなかった。
しかし、重々しい空気を打ち壊したのは意外にもエルフの少女だった。
「マーヤ、マーヤにはあたしがいる! ずっとそばにいるから泣かないでマーヤ!!」
「シェル‥‥‥」
マーヤさんはシェルさんの手を握って泣き続ける。
そんなマーヤさんをシェルさんは優しく抱きしめ慰める。
「師匠‥‥‥」
「今は残念ながらジュメルには対抗する手段がありません。彼らの目的もはっきりせずその組織規模もわかりきっていない。防衛の要にもなる四連型魔晶石核の完成を急ぎ、ガレント王国の対抗力を上げるのが今の最善でしょう。私の見立てでは秘密組織ジュメルは北に本体を置くと見ました」
冷たい言い方かもしれないがそれが現実性のある回答だろう。
過去のこの人たちに何が有ったかはうすうす感じるけど今出来る事とやりたい事は別だ。
「マーヤ、私だってジュメルは許せない。しかし今はその組織に対抗できる力を蓄えるべきです」
そういって師匠はファイナス市長を見てからうなずき、小さな紙きれを渡す。
「ファイナス市長には了解を得ています。マーヤが落ち着いたら花を添えに行ってあげなさい。この紙に記された場所にあなたの子どもが眠っています」
「わた‥‥‥ しの‥‥‥ こ、子供‥‥‥?」
震える手でその紙を受け取るマーヤさん。
そんなマーヤさんにファイナス市長はこう言った。
「他の長老には内緒ですよ。と言っても、もともとメル様は反対はしないでしょう。メル様のお子様も精霊都市ユグリアの『ハーフエルフの墓』に祭られています。もともとユグリアは哀れなハーフエルフたちの安らかに眠る場所として魔法王ガーベルと最古のエルフメル様が作られた都市。『命の木』を持たない彼らは我々エルフよりずっと短命です。でも彼らだって私たちの一部だったのです。最後に安らかに眠る場所、それをメル様たちは作り上げていたのです」
そんな‥‥‥
精霊都市ユグリアの本来の目的は人の世に魔法を広め発展させるだけではなかった?
なんとなくファイナス市長がこの街で市長を務める理由が分かったような気がする。
「エルハイミ、行きましょう。長老たちが歓迎の宴を準備してくれてます。ティアナたちもそろそろ戻る頃でしょう」
「ユカ‥‥‥」
マーヤさんは顔を上げ師匠を見る。
「マーヤ、会えてうれしかった。私はエルフたちを守る為、あなたを守る為あの決断をした。後悔が無いわけではありません。それでもあなたは今生きている。ジュメルの事も生きていればチャンスはあります。あなたたちにはそれだけの時間が有るのですから」
師匠はそう言ってこの場を離れた。
「師匠、良いのですかしら?」
「今はやるべき事をするのが先です。私もマーヤがいる限り朽ちる事はありません。ショーゴさんご苦労様です」
そう言って師匠は物陰に声をかける。
「主の為、何でもないさ」
そう言ってショーゴさんは物陰から出てきた。
「ずっと付いて来ていたのですの?」
「我が主よ、俺は貴女の身を守ることを誓ったんだ、当然だよ」
あたしはふっと溜息を吐きショーゴさんと共に師匠の後を追った。
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