第五章5-6呪い
おっさんが異世界に転生して美少女になっちゃうお話です。
異世界で力強く生き抜くためにいろいろと頑張っていくお話です。
納豆オムレツって癖になるわね!(ティアナ談)
5-6呪い
ソルガさんの案内であたしたちは市が営業している宿に来ていた。
冒険者などがよく使うギルドの宿みたいなところで一階が食堂、二階から上が宿泊施設になっている。
あたしたちは女性陣の大部屋一つとロクドナルさんの小部屋を一つ頼んで荷物を置き、一階の食堂に集まっていた。
「とりあえずご飯でも食べながらお話を聞きましょう。ソルガさん、ユグリアの名物料理って何があるんですか?」
みんな集まってからティアナアは食事を注文しようとする。
「そうだな、エルフ豆を使った料理が多いが、最近ではイチロウ・ホンダが伝えたエルフ豆の発酵食品がうまいと思うのだがな」
ソルガさんの話だとエルフ豆は前世の枝豆によく似ているらしくて、採れたてを塩ゆでにするのが一番おいしいらしい。
と言う事は、ビールあたりがキンキンに冷えているとものすごく合いそうだなぁ。
そう言えばこの世界にもエールはあるはずだから【氷結】魔法を使えばキンキンのビールが飲めるんじゃ!?
そんな妄想をしていたらおすすめのエルフ豆料理が運ばれてきた。
そして驚く。
「エルハイミ、これって師匠のところでよく食べたスープとか?」
「そうですわね、みそ汁に豆腐、おからに厚揚げ、豆の煮ものに、これはまさか納豆!?」
「ほう、納豆を知っているのか?」
ソルガさんが感心する。
彼の話では最近米と言う食物がユグリアにも入り始め、藁からこの発酵食品、納豆を作っているそうだ。
「あ、あの、もしかして醤油とかもあるのですかしら?」
「ん? ボヘーミャには出回っていないのか? あのたれは万能で我々も重宝しているよ」
学園都市ボヘーミャにも醤油はあるのだが、海が近いおかげで魚醤が主流だ。
師匠あたりはどこからか普通の醤油を手に入れているからボヘーミャでも少量は生産しているのかもしれない。
「ボヘーミャとは海を隔ててすぐだが、あちらにもこういった食材があるのか?」
「いえ、多分これらって師匠たちのせいでしょう? もともとこちらの世界には無かったですわよね?」
ソルガさんはそう言えば昔はなかったな、最近、と言ってもこの四、五十年で広まったらしい。
それってやっぱり異世界人、師匠たちのせいだな。
「そうだったのか、これはイチロウ・ホンダ殿に感謝しなければな。我々エルフは肉や魚料理が苦手でね、食べて食べれなくはないのだがやはり植物を主とした食べ物の方が好まれるのでね。実はこの納豆は私の大好物なんだよ」
そう言ってにこやかにソルガさんはフォークで納豆をかき回し、醤油を垂らす。
そしてそれを旨そうに口に運ぶのだが、納豆食うエルフの絵ってとってもシュール。
ティアナたちもつられて納豆に挑戦するが、独特な臭いと粘り気ですぐにギブアップする。
「何これ、すごい臭い! しかもねばねばぬるぬるして口の中にまとわりつく!!」
「異文化とは言え、これはちょっと無理ですね」
「うむ、この臭みがきついですな」
みんなはそう言いながら一口でやめてしまうがあたしはウキウキしながらフォークで納豆をかき回せる。
ついでにネギのような薬味が無いかとか、からしの代わりにマスタードはないかお店の人に聞いて都合してもらう。
あたしはそれらをかき回して一口食べる。
おおっ!
懐かしの日本の味!
あたしがそれをおいしそうに食べているとティアナが不思議そうにしている。
「エルハイミ、なんでそんなのをおいしそうに食べれるのよ?」
「はい? 薬味と言って香りの強いハーブとマスタードを入れると味がガラッと変わるのですわ。ガーリックのように少し香りが強いですがこれを以前師匠のところで食べたお米と一緒に食べるととても合うのですわよ!」
「ほほう、そういった食べ方があるのか?」
「あ、エルハイミさん、私にも少し分けてみてください」
エルフの兄妹は興味を持ったようで、あたしが作った納豆を食べる。
「!!」
「これはすごい! 味が全く別物のようになってうまいぞ!」
エルフ兄妹の驚き様にティアナも興味を持ったようであたしの納豆を一口食べる。
「あれ? 臭みがかなりなくなって、ハーブとマスタードの辛みが際立って結構いけるかも!?」
「本当ですか? エルハイミちゃん私にも少し分けてください。」
「エルハイミ殿、私にも分けてもらえますかな?」
なんだかんだ言ってみんなもう一度味見する。
「!!」
「これは行けるかもしれませんな! ここまで変わるとは!」
「ええ、確かにまだわずかに臭みはありますが風味がかなり変わって強めの味は悪くないかもしれませんね」
おお?
意外と高評価!?
じゃ、じゃあ生前行きつけの飲み屋で無理やり作ってもらったあれやってもらうか!
あたしはお店の人に呼んで、薬味と醤油を入れた納豆にオリーブ油と卵を入れてオムレツを作ってもらうようにお願いした。
そして出来上がったオムレツにトマトソースと醤油を垂らし、レタスのような葉っぱにくるんで食べる。
うん、あの懐かしき飲み屋の味だ!!
あたしがおいしそうに食べてるとみんなも寄ってくる。
「エルハイミ、それっておいしいの?」
「その、なんだ、我々エルフも卵くらいなら問題ないぞ」
「兄さんが食べるなら私にもください!」
「見聞を広めるのは重要ですよね、エルハイミちゃん?」
「エルハイミ殿、私もぜひご相伴に与からせていただけますかな?」
はいはい、ちゃんとみんなの分もお願いしてますよ。
そう思っていると追加のオムレツが来た。
ただでさえオムレツの中はトロトロなのに納豆が加わると更にとろとろになり、薬味を多めに入れた味付けが卵のまろやかさと合い交じり、レタスのような植物の葉っぱのおかげで後味もさっぱりとなる。
本当はこれで冷たいビールが最高なんだけど、今のあたしはまだアルコールが苦手なんだよなぁ、残念。
そんな感じでひとしきり食事を楽しみひと段落する。
さて。
「エルハイミ=ルド・シーナ・ハミルトンのおかげで新しい納豆の食べ方も教えてもらい感謝する。あれは絶品だったな」
「ソルガさん、エルハイミで構いませんわよ?」
「そうか? フルネームで呼ぶのが人間の習わしと思っていたが。では、エルハイミ、ユカ・コバヤシの話だったな、少し長くなるぞ」
「はい、お願いしますわ」
そしてソルガさんのお話が始まった。
魔人戦争の終結後、英雄アノード=シュバルツは突如倒した魔人の王の剣を取り残った悪魔を引き連れて人間の世界を征服しようとしたらしい。
それを仲間であったエルフのマーヤと、師匠が止めるために彼の命を奪ったそうだ。
しかし、アノードと恋人だったマーヤはお腹に二人の子供を宿していた。
実はアノードを狂気に誘ったのは魔人王の魂であった。
魔人王はアノードとともに滅ぼされる時にアノードとそれに連なる一族へと呪いをかけた。
その呪いはお腹の子供を介してエルフのマーヤの本体である「命の木」までも浸食した。
「命の木」とはエルフの本体で、別世界にある樹木の事だ。
エルフはこの「命の木」が枯れたり死なないかぎり寿命を迎えることはない。
その呪いは別世界にある「命の木」に次々と伝染していった。
そして次々とその生命力を弱らせ「命の木」を枯れさせようとした。
それを救ったのが師匠だった。
師匠はその呪いの源を突き詰め、エルフの村に伝わる秘伝の術を使い断ち切った。
そう、おなかに宿した赤子を流産すると言う方法で。
こうしてエルフの一族はすくわれた、一人の女性の悲しみに上に。
あたしたちは絶句した。
英雄アノード=シュバルツの話は魔人王を倒したと言う所までしか伝えられていない。
その後に何があったか等は知らなかったのである。
「おかげで我々エルフの一族は助けられた。マーヤに大きな傷を負わせてな」
ソルガさんはそう言ってコップに注がれた果実酒を一気にあおった。
「そんな、マーヤにそんな事が有ったのですか?知らなかった‥‥‥」
「村のほとんどの者は知らんさ、しかしユカ・コバヤシがいなかったら誰もその原因に気付かず我々は全滅するところだったのさ。だから彼女には大きな恩がある」
ソルガさんはため息を一つ吐き、天井を仰ぐ。
そしてあたしたちを見る。
「ユカ・コバヤシの話はここまでだ。あまりいい話じゃないがな。それで、土の精霊を呼び出すと言う話だが?」
「ええ、それについては‥‥‥」
あたしたちは気持ちを切り替えて今回の一番の目的をソルガさんと話し始めるのであった。
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