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第6話

 俺は第五試合に出場する。


 アリアは一つ前の試合に出場するそうだ。


 初戦は殆ど上級貴族対下級貴族で見所はなく、開始数分で終了を告げる審判のジャッジが入る。


『第四試合の選手は控え室に集合してください』


 アナウンスが入り、俺は目的の試合を見ようと観戦席に行き、空いている席に腰を下ろす。

 良い意味で有名なアリアの試合なだけあって、生徒もそこそこの人数が見に来ている。

 観客席が大体七、八割埋まった所で、再びアナウンスが入る。


『それでは只今より第四試合、アリア・アストリア対アウスト・オリオンの試合を始めます。両者、入場してください』


 次の瞬間、歓声が会場を包む。

 会場の両脇から選手が入場してくる。

 アリアの相手は気弱そうな少女だ。


 中央まで歩いた所で立ち止まり、互いに向かい合った。


『両者、準備はよろしいですか?』


「えぇ」


「は、はい」


 両者、頷く。


『両者、開戦の儀を』


 アナウンスに促され、お互いの武器を天に掲げる。


 アリアは刀身五十センチほどの剣を。

 相手は槍を。


 これは闘いの神に、正々堂々闘うことを誓う儀式らしい。


『それでは、所定の位置へ移動してください』


 俺の視線はアリアに釘付けになる。

 彼女の動きからは学ぶものが多い。


 二人は地面に引かれている線まで下がる。


 そして相手は槍を、アリアは剣を構える。

 その表情は真剣そのもので、下級相手でも全力を尽くす意思が感じ取られた。


『それでは、開始!』


「ふっ!」


 アナウンスと同時にアリアは駆けた。


 相手は慌てて防御の構えを取るが、次の瞬間にはアリアは視界から消えていた。


「ど、どこっ!?」


 周囲を見渡すがどこにもいない。


「遅いわ!」


 その言葉を言い終える前に、相手の選手はまるで糸の切れた人形のように倒れ込んだ。


 僅か十秒。


 勝敗は決した。

 観戦席にいた俺たちも理解が出来ず、暫しの沈黙。

 そして数秒遅れて歓声が会場を揺らす。


『勝者、アリア・アストリア』


 瞬間、会場が沸く。


「な、なんだ今の!?早くて見えなかったぜ!」

「ほんとほんと!全然見えなかったもん!」

「やっぱすげえよな、戦乙女の末裔なだけあるぜ!」


 凄い。


 そんな簡単な一言で片付けていいのか分からなかった。

 しかし、瞬く間に勝敗を決したこの試合に俺はこの言葉しか思い浮かばなかった。


 涼しい顔で退場していくアリア。

 歓声は止まない。

 未だ会場が興奮したまま、アナウンスが鳴る。


『第五試合の選手は控え室に集合してください』


 アナウンスを聞き、緊張が走る。

 次は俺の番だ。

 心臓が五月蝿いほどに鼓動を打つ。

 アリアのためにも勝たなくては。


 顔を一回叩き、気合を入れる。

 この試合、何としてもモノにするんだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 控え室に行く最中、アリアに会った。

 アリアもこちらの控え室だったようだ。


「次、ゼストくんなのね。頑張ってね」


「ありがとう。アリアもお疲れ様」


「これからが本番よ、ゼストくんはあんな奴に絶対に負けないでね」


 互いに言葉を投げ終えると、アリアは去って行った。

 入れ替わる様に控え室に入り、その時を待つ。


『それでは只今より第五試合、ゼスト・オルウェン対レノシオ・クロラールの試合を始めます。両者、入場してください』


 来た。

 アナウンスが聞こえ、震える足を前に進める。

 一歩ずつ。確かに進めて行く。


 会場に入るとブーイングが耳に入る。


『一分は持ってくれよ、剣舞神さまよー!』

『ぷぷっ、簡単に死ぬなよー!』


 飛んで来る罵声。

 悪意のある言葉を投げられるのは慣れっこだ。


 しかし、今は違う。ここは大舞台だ。


 負けた時のことを考えると、今すぐにでも引き返して帰ってしまいたい。

 しかし、勝たなくては。

 コイツにだけは必ず。


 震える足を抑えるように踏みこみ、中央まで歩く。

 そして先に来ていたレノシオを睨む。


「ふっ、よく逃げ出さなかったな。精々醜く足掻けよ」


 レノシオは俺の敵意を露にした視線を、軽く笑ってあしらう。


『両者、開戦の儀を』


 俺は剣を天に掲げる。


 レノシオはメリケンサックと革のグローブが一体化したかの様な武器を装備し、拳を天に掲げる。


『両者、所定の位置へ移動してください』


 落ち着け、平常心だ。

 ここで慌てても意味が無い。


 五月蝿い心臓の音を聴きながら、線まで下がる。

 そして醜き相手を視界に捉え、剣を強く握り構える。

 レノシオには構える様子もなく、ただ棒立ちしている。


『では、開始!』


 先程のアリアと同様、勢いよく駆け出す。

 恐らく、レノシオが油断している最初が勝負。

 速度に乗ったまま勢いを付け、正面から斬りかかる様に思わせる。

 剣を振り出す寸前のところで加速魔法を使い、素早くレノシオの背後へ移動する。


 油断している相手へのフェイントで、相手はそのまま正面から斬りかかってくると想定する。

 アリアほど早くはないが、それでも不意を突ける筈だ。


(ガラ空きの後ろを取れた!いける!)


 背後を取った俺は剣を振りかぶる。

 試合とは言え、相手を死に至らしめる事は禁じられているので、致命傷を狙い肩を斬る。

 しかし。


 本来肉を斬る感覚が伝わる筈だが、その感覚が来る事は無く、まるで刃が止められたかの様な―――。


(違う、防がれたッ!)


「なんだァ?ガキのチャンバラじゃないんだから真面目にしてくれよな」


 レノシオは後ろを向いたまま、メリケンの谷で刃を止めていた。

 俺の全身全霊の攻撃がレノシオにとっては『チャンバラ』レベルだったらしい。


「チッ!」


 舌打ちをして素早く後退する。


「あんな鈍さで不意を突けると思うなよ?アリア・アストリア並の速さじゃねぇとな」


 余裕綽々なレノシオを前に、俺は剣を構え直す。


「まさか、あんなのが全力じゃねぇよなァ?」


 今度はレノシオが正面から突貫してくる。

 そして、寸前で消えた。


(コイツ、俺と同じやり方で潰す気だ!)


 居場所が分からず、意識を高め警戒する。


(必ず何か前兆がある筈だ…)


 刹那、右横で殺意の塊の様なドス黒い空気が動いた。


 キイイイィィィィンッ!!


「ッ!」


 メリケンと刀身がぶつかる音が耳を劈く。


 咄嗟に防御の構えを取ったのが功を奏した。

 が、一撃が予想以上に重く、全身で受け止めたものの軽く足が地面にめり込んでいる。


 しっかりと視認して防御しなければ防御魔法は発動されない。


「これに反応できんならまだ楽しめそうだなァ!」


 二ィと口角を上げ、再び殴りかかってくる。


 ぶつかり合う瞬間、剣の防御魔法が発動し、重い一撃を防ぐ。


 防いでいる間にも次の策を練り出す。


 一発の攻撃が重く、これでは俺の身は長く持たない。


「防御だけじゃ倒せねェぞ!」


 重く、鋭い攻撃が絶え間なく降り注ぐ。


「ツッ…!」


 正直、手が痺れて殆ど感覚がない。


(このままじゃ…持たないッ!)


 俺は連打される拳を弾き、足払いをしてレノシオの体勢を崩した。

 完全に崩すことは出来なかったが、多少の隙を作ることはできた。


「クッ!」


 レノシオが背中から倒れ行く。


 ゼストはそれを見逃さず追撃し、レノシオの整った顔に向けて剣を突いた。

 しかし、ギリギリのところで躱された。

 とんでもない反射神経。それは躱す速度でわかる。

 が、レノシオの頬から一筋の血が流れる。

 レノシオはそれを手で拭い確認する。


「おい…テメェ…俺の顔に傷を付けたなァァァァ!!!」


 途端に激怒し、今まで以上に鋭く重い攻撃が降り注がれる。


「許さねェ!許さねェ!許さねェ!許さねェェェエエ工!!!」


(マズい!このままじゃ押し切られるッ!)


 その時だった。

 何かが砕けるような音が聞こえた。

 音の出処は俺の剣から。

 剣に描かれていた淡い魔法陣が、跡形もなく消えていた。


 そう。


 防御魔法が壊されたのだ。


「な……ッ!」


 声を上げたと同時に、レノシオの拳が剣にヒットする。

 今までなら防御魔法で俺への衝撃はゼロになっていたが、それがない今は衝撃が直で俺に伝わる。


「グハッ!」


 大きく後方に吹き飛ばされ、体勢を崩す。

 その隙を見逃さず、レノシオが追撃をしようと間近に迫る。


「死ねエッッ!!」


 防御するのが遅れ、腹部にレノシオのメリケンがめり込む。


「ガハッ……!」


 せり上がる吐き気に襲われ、血反吐を吐く。

 口の中が血の味で満たされていく。


(やべぇ…)


 意識が朦朧とし、視界の端がぼやける。

 ここまでの至近戦ならレノシオが圧倒的に有利になれる。

 朦朧とする意識を気合いで覚醒させ、距離を取ろうとする。

 が、ダメージが予想以上に大きかったらしく、体が思うように動かない。


 膝から崩れ落ち、四つん這いになる。


 視界が歪む。

 息が荒くなる。


 全身の鳥肌が立ち、体全体が危険信号を発す。


「ザコの分際で…!死にやがれッ!!」


 頭に血が登っているレノシオは攻撃の手を緩めることなく、サッカーボールを蹴るように俺の腹部を蹴り上げる。


「ぐはッ…!」


 再び血を吐く。


 腹部を守るように丸くなるが、今度は背中や首を狙って執拗に蹴られる。


 意識が遠のいてきた。


(意識が…俺はここで死ぬのか…)


 次第に目が霞んできて、瞼が重くなる。

 もう、痛みなどない。


『…呼んで。ボクの名を』


 瞬間、中性的な声が聞こえる。


 あの声だ。

 あの声が聞こえる。


(でも…名前なんて知らねぇぞ…)


『ううん、キミは知っているさ。さあ、呼んでごらん』


 ……俺は知っている。この剣の名を。


 手に取ったあの日から。


 見て見ぬ知らぬフリをしていた。

 何故だったか…。


 俺は最後の力を振り絞り、その名を叫ぶ。


「ラグナぁぁぁぁあああ!!」


 刹那、剣は禍々しいオーラを発し俺を包み込んだ。


『さあ…逆襲だ』


 何処か安心する様なその声は。


 静かにそう、宣言する。

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