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第5話

 目が覚めると、見覚えのある天井が視界に入る。

 寝たまま首だけを動かし、辺りを見渡す。


(俺の部屋か…。けど、ゴーレムに捕まって…)


 記憶を掘り返してもゴーレムに捕まったときの記憶しかなく、助かった覚えがない。


「ゴーレムと『相打ち』とは…情けない」


 部屋の入り口から渋い声が聞こえる。

 俺はその声に反応するように目を向けると、祖父が愚痴を言いながら部屋に入ってきた。


「相打ち…ですか?」


「あぁ、粉々のゴーレムとおまえが倒れていた。まさか覚えていないのか?」


「すみません…。あまり覚えてなくて…」


「…まあよい。剣は使いこなせているのか?」


 ベッドの隅に立てかけられた剣に視線を向けながら尋ねられる。


「いや、それがゴーレムに傷一つ付けられなかったんです」


「……なに?代々、受け継がれている剣なんだぞ?なまくらとでも言いたいのか!」


 祖父は興奮した様に声を荒らげる。


「では、斬ってみてくださいよ」


 俺が反発するかの如くその一言を発すると、部屋に沈黙が訪れた。


「どうしたんですか?」


「……ないんだ…」


「はい?」


「抜けないんだ!」


 祖父は啖呵を切る様に吐き出す。


「抜けない…?」


「そうだ!剣が『拒否』したかのように鞘から刀身が抜けんのだ!」


「そんなことは…だって俺は抜いたじゃないですか!」


 あまりにも信じ難い事を言われ、思わず剣を取り、何の不自由もなく抜いてみせる。

 そして再び鞘にしまって、祖父に手渡す。


「…ッ」


 祖父は力を入れ剣を抜こうとする。

 が、鞘と刀身が接着剤で固定されているかの様に、ビクともしない。


 鍛えられたゼストの観察眼は、相手が力を込めていなければすぐに見抜く。

 しかし、祖父にその気配はない。


「そんな…まさか」


 祖父は諦めた様に肩の力を抜き、剣を鞘にしまう。


「…原因は分からぬが、抜けるのはワシが知っている中でおまえだけだ」


 祖父の口から発せられた事実に、口が空いたまま塞がらない。


「鞘から抜けぬ剣は牙のない獣の様なものだ。だから鞘から抜けるおまえが持っていろ」


「でも…斬れないんですよ?」


「『剣舞神』が実際に使っていた剣だ。何か秘密がある筈だ」


 剣を俺に返し、祖父は部屋を後にした。


「…」


 部屋に残された俺は剣を数秒見つめ、鞘から抜き魔力を送り込む。

 刀身が毒々しい紫に光り、やがて視界がホワイトアウトする。


『やあ、また会ったね』


 夢の中で聞いた声がした。

 だが姿は見えない。


「この剣について教えてくれ」


 姿が見えなくとも会話はできるんだ。

 なら、と質問を投げかける。


『この剣?この剣はねー剣舞神が己の魔力を込めて打ったもので、その刀身の刃には剣舞神が使っていた全ての剣の欠片を溶かして造られて―――』


「そんな歴史的なことは聞いてねぇよ!」


 長々と語るけはいがしたので思わず突っ込みを入れてしまった。


『えーだって剣について教えろって言ったじゃんか-』


「おまえはバカなのか!?」


『あーバカって言った!バカって言った方がバカなんだもん!』


「あぁ!?子供じゃないんだからさぁ!」


 なんだこの子供のような会話は。

 息を落ち着かせて仕切り直す。


「…この剣、何も斬れないんだよ。それについて何か教えてくれ」


『んー、おかしいなぁ。この剣はちゃんと斬れるように造られている筈だけどなぁ』


「けど、実際に斬れなかったぞ?」


『それはキミのレベルがそこまで達していないからじゃないかなぁ?』


「俺の…レベル?」


 聞き慣れないワードに反復して聞き返す。


『そう。具代的なのはキミのことだからボクにも分からないけど』


「どうしたらレベルが上がるんだ?」


 急かす様に質問を重ねる。


『それも分からないなぁ。些細なことかも知れないし、壮大なことかも知れない』


「はっきりしないな。早くレベルを上げたいんだ」


『さっきも言ったけどボクにも分からないんだって。どうしてそんなに急いでいるの?』


「五日後、剣魔祭がある。そこで倒したい相手がいる」


『あぁ、あの暴力的で下品な魔力のやつねぇ。ボクもアイツ嫌いだな』


 どうやらこいつもレノシオの事は知っているらしい。


「どうにかならないか?」


『キミの頑張り次第だね』


「……そうか。わかった。最後に一つ、いいか?」


『どうしたの?』


「おまえはこの剣なのか?」


『……んふふー、どうだろうね。キミが剣を使っていればわかるよ』


 白黒はっきりつけない言い方で終わらせられた。

 俺は魔力の供給を止め、意識を戻す。


「残り五日。やれることはやる」


 自分に言い聞かせるように呟き、気合を入れる。


 時間は限られているのだから。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 剣魔祭当日。最初に試合会場に集まり、学園長によって再度ルール説明が行われる。

 試合会場はドームのような構造で、床にはコンクリートが敷かれ、観戦席は二階にある。


「ルールは事前に通達したように、相手に降参を宣言させるか再起不能にさせること。武具等は事前に申請したもので戦うこと。以上だ」


 初老の学園長が簡潔に説明し、降壇する。


『十分後に第一試合が行います。当該する生徒は遅れないようにお願いします』


 中性的な声をしたアナウンスが学園中に響く。

 一、二、三年生で試合会場が異なるが、広さ、構造等は全く同じだ。


 観戦は自由だ。

 だから一年生が三年生の試合を見に行くことが多い。

 普通は上級貴族同士の試合に人が集まるからだ。


 アナウンスが終わり、各々が自由な行動を取り始める。


 試合前の最終練習に取り組む者、呑気に友達と駄弁る者。


「ゼストくん、調子はどう?」


 移動しようと動き出そうとした瞬間、後ろからアリアの声が聞こえ振り返る。

 アリアは動きやすさを重視した急所しか守っていない鎧を着て、腰に剣を差していた。

 剣は俺のと同じ様に家から譲り受けたのか、鞘や柄に装飾が施されていた。


「やれることはやったつもりだ。アリアは?」


「私も同じかな、お父様が見に来るらしいから気合い入れないと」


 可愛らしく小さく拳を握る。


「お互い、良い結果を残せるように頑張ろうね」


「そうだな」


 俺たちは決意を改めて別れる。


 今、長い剣魔祭が幕を開けた。

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