第4話
「ゼストくん…この剣はどこから…?」
震える声でアリアが問いかけてくる。
「じいさんから貰ったんだ。剣が持ち主を選ぶらしくて、暫くの間持っていろって言われて」
「剣が持ち主を選ぶ…?本当にそんな事が…?」
アリアは、にわかには信じられないと言った表情をする。
「でも魔力を流しても何の反応も示さないから、俺は選ばれなかったらしい」
「何も…反応がなかったの…!?」
驚きの声を上げる。
アリアは思った。
自分が魔力を流したら、あの感覚に襲われた。
仮にそれが剣の拒絶反応だとすれば…?
なら、魔力を流しても異変は起こらなかったゼストは剣に選ばれたのではないかと。
「何かあったのか?」
アリアは悶々と一人で悩んでいるので、聞かずにはいられなかった。
アリアは喉を詰まらせる。
暫しの沈黙。
そしてアリアの出した答えは―――
「いえ、なんでもないわ。思った以上に魔力を使ったから立ちくらみがしただけ」
否定。
この剣は危険な雰囲気がする。
触らぬ神に祟りなしと故人の教えを思い出したアリアは従う事にした。
「なら医務室で休むべきだろう。送ろうか?」
差し出されたゼストの手は取らず、自力で立ち上がる。
「大丈夫、自分で行ってくるわ。途中なのに教えきれなくてごめんなさい」
「いや、気にするな。こっちもありがとう」
そう言って二人は別れ、それぞれの行き先へと足を向ける。
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「結局一人か。素振りをしても剣の腕が上達するわけじゃないしな…」
困ったものだ、とゼストは腕を組んで唸りながら、この後の行き先を考える為頭をフル回転させる。
人に頼らず1人で没頭して修行することが出来るのは…。
「家のゴーレムでも使うか…」
正直やりたくなかったが、これしかないようだ。
最終手段とも言える。
小さい頃、ボコボコにやられて以来トラウマになっている。
なんというか、五メートルのゴーレムは小さい頃の俺には巨人にしか見えなかったからな…。
チビりながら相対していた記憶がある。
だがアリアに教えてもらえない今、手段を選んでいる場合ではないのだ。
腹を括って家に戻り、地下の訓練場へと向かった。
「ここに来るのも久しぶりだな…」
地下室のコンクリートに囲まれた殺風景な部屋を見渡しながら呟く。
広さだけが取り柄で、大暴れしても大丈夫な設計になっている。
「確か、この紙に魔力を流してっと」
魔法陣が描かれている羊皮紙を広げ、魔力を少し流し込む。
羊皮紙が淡く光を放ち、魔法陣から五メートルほどの岩石の塊が現れると、中からゴーレムが出現した。
目が赤く光り、俺を敵として認識する。
流し込まれた魔力の主を敵として認識するように仕込まれている。
ゴオオォォンッ!
現れるなり呻き声のような声を上げ、拳を振りかざしてくる。
元々ゴーレムは重いので攻撃自体は遅い。
が、当たれば致命傷は免れないだろう。
対抗しようと俺も鞘から剣を抜き、構える。
足に力を込め、地面を力強く蹴ると同時に大きく跳躍する。
懐に潜り込み足を切りつける。
が。
「なんだよ!これ!全く斬れねぇ!」
岩石を斬るどころか、傷一つ付けることができない。
模擬戦用の剣でも傷くらいは付けれると思うぞ…。
ゴーレムの反撃を躱しながら斬り付ける。
しかし一向に斬れる気配はなく、反動で俺の手が痺れ出す。
さて、どうやって倒したものか。
斬れない剣でどうやって倒せというのか。
このゴーレムは首筋に三センチほどの羊皮紙が貼られており、それを破壊すれば停止する。
しかし、五メートルも上にある羊皮紙を破壊するのは至難の技で、普通なら足を崩してか首筋まで駆け登り、破壊する。
でも、足を崩すことが出来ない。
なら手段は限られる。
俺はゴーレムの右膝まで上がり、しがみつく。
当然、ゴーレムはそれを振り払おうとする。
払いのけようとする手を躱し、ある機会を待つ。
何度も躱され、腹を立てたのか拳を握り振り下ろす。
これだ。
これを待っていた。
寸前のところで身を翻す。
ゴーレムは自身の足目掛けて攻撃したのだ。
拳と足、両方が砕け大きく体勢を崩す。
「よし、上手くいった!」
思った通りに事が運び、驚くが急いで駆け上がり羊皮紙を破壊しに行く。
首筋まで来て、結界が貼られている羊皮紙を見つける。
剣を立て、破壊しようとする。
次の瞬間。
もう片方の手で首筋にいた俺を掴む。
しまった、完全に油断していた。
反応が遅れた俺はゴーレムに掴まれる。
そして握り潰そうと力を込める。
ミシミシッ!
骨が悲鳴をあげ、体中に響く。
「うがぁぁぁあああッ!!!!」
ヤバい、本格的にヤバい。
小さい時だったら祖父が助けてくれた。
しかし、祖父はいない。
薄れていく意識。
ここで俺は死ぬと悟った。
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白い空間だった。
どこまでも白く、どこまで続くか見当もつかない。
そこに俺は一人立っていた。
辺りを見回しても誰もいない。
ここは天国か?覚えている最後の記憶でそう判断する。
『いやー君は本当に弱いね』
真後ろから声が聞こえ、振り向く。
その人物は中性的な顔立ちをしている。
十五歳程だろうか。
声も中性的でどっちとでも取れる。
「誰だ!?」
『そんなに警戒しないでよ、折角ボクが選んだんだから強くなってよね』
「さっきから何言っているんだ!?」
『まあ、今回のは貸しにしといてあげる。感謝してよね!』
一方的に物事を進め、会話が成立しない。
すると、俺の体がだんだんと透明になっていることに気付く。
「なんだこれ……」
『意識が回復するみたいだね』
「どういうことだ…」
こうしている間に体はほぼ透明になっていく。
それに伴い意識も薄れていく。
『あ、最後に一つ。キミ以外の魔力なんていらないから、他の人に渡しちゃダメだからね!』
その言葉を聞いた直後、俺の姿は跡形もなく消えた。