第1話
初投稿です。至らぬ点が多いとは思いますが暖かい目で見守って頂ければ幸いでございます。
此処は聖都オリエント。十数年前、この都市にある上級貴族を対象とした学園には国が定めた最新の決闘システムが導入された。
古来より重視されてきた『知識を持ち賢く生きる』よりも『力の行使で生き残る術』を身に付けることが重視されるようになったのが大きな理由だ。
その内容は、生徒が己の剣技や魔法を用いて決闘するというもの。
それにより今まで没落していた貴族が国の重臣を担うまでに繁栄したり、その反対で剣技や魔法の才能がない上級貴族が没落したりすることもあった。
つまり、学園での成績の上下関係は、将来の貴族間での上下関係になりかねないのだ。
それにより親たちも一心に投資をしている。
しかし、ごく稀に才能が開花せずに、上級貴族でありながらも学園内で底辺になってしまう生徒がいた。
「ガハッ!」
模擬戦用の剣が鳩尾に食い込み、肺の中の空気が全て抜け酸欠に陥ってしまう。
途端に膝が笑い、その場に崩れ落ちる。
そして周囲から冷笑の声が漏れた。
「またアイツ下級貴族の娘にやられてるよ」
「ほんと、剣技も魔法の才能もない。あれじゃ模擬戦の練習相手にもならないな」
「アイツの家もこの代で没落したも同然だな」
「アイツが英雄の血を引いているなんて考えたくもない」
聞こえてくるのは貶す声ばかり。
言葉が向けられている少年は下を向いたままだ。
少年の名はゼスト・オルウェン。
英雄⋯⋯というのはこの国を他国の支配からの解放に大きく貢献した戦士のことで、俺に流れている血は解放聖戦で剣を舞うように操ることから『剣舞神』と称えられた英雄のものだ。
その舞いは味方を鼓舞し、敵には絶望を与えたと言われた戦士であった。
その活躍からして国の中では英雄として崇められ、今では半伝説化している。
他にも解放聖戦で活躍した貴族を英雄とし、今もその多くの末裔は繁栄を続けている。
「おい、あんな落ちこぼれは放っておいて模擬戦の続きやろうぜ。『剣魔祭』まで時間もねぇんだし」
誰かのその言葉で周囲の生徒たちの目つきが変わる。
『剣魔祭』
年に一度学園内で開かれる模擬戦の大会で、成績に大きく関わるイベントだ。
決闘システムにはランキングで成績が分かるように設定されており、ランキングが変動するのは学園公式の決闘に勝つか、剣魔祭で自分よりも上位の者を倒すしかない。
貴重なランキングが変動するチャンスなだけあって、生徒たちはより一層練習に取り組んでいる。
そうしてまた、模擬戦場内に金属同士がぶつかり合う重く甲高い音が各所から聞こえ出した。
蹲っていたゼストも模擬用の剣で体を支え、鳩尾を抑えながら立ち上がった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
少年、ゼスト・オルウェンには才能がない。
物心付いた時から剣を握らされ、国の将軍である祖父に毎日気が遠くなるほど剣技を叩き込まれた。
剣技が終わっても休息はない。魔法研究所にいる祖母から魔法について厳しく教えられた。
「なぜこの程度のことも出来ないのだ!」
「どうして低級魔法すら使えないのですか!」
何年経っても俺のレベルは一向に上がらず、祖父と祖母は愛想を尽かして俺に教えることを辞めてしまった。
「あんな出来損ないの親から産まれた子供だ。少しでも期待したワシらが馬鹿だったのだろうか」
諦められた日の夜、リビングで祖父と祖母が深刻そうに呟いているのを見た。
俺の親は英雄の末裔にも関わらず才能に乏しく、他の上級貴族に比べ見劣りしていた。
「英雄の血はどんどんと薄れていくのですね...」
心底失望したように祖母は言葉を漏らした。
「俺だって、こんな血⋯⋯望んでない」
この日、俺は初めて己に流れている血を恨んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数年が経った今、俺は貴族たちが通う学園へと進学していた。
上級貴族は剣技と魔法の試験が免除され、無条件で入学することができる。
そう、普通なら。
剣技と魔法の試験をしなくても合格基準を余裕で突破してしまうからだ。
しかし、すぐに上級貴族というメッキは剥がされ、俺の才能の無さが露呈した。
入学して最初の模擬戦。上級貴族の相手は下級貴族と決まっている。
格下の相手と勝負をし、勝つことで自信に繋げるという狙いがあってのことらしい。
だが、俺は負けた。学園始まって以来の失態で退学まで勧告されてしまったのだ。
しかし国の将軍の孫ということで退学が取り消され、そのまま学園に通うことが認められた。
いっそのこと、退学してもらえれば開放されるのに、と思った。
日に日に貶す声は大きくなるばかり。
「英雄の末裔なのに」
うるさい...!
「将軍の孫が下級に負けた」
うるさい...!!
「英雄の面汚し」
うるさい...ッ!!!
英雄がどうした!?
そんなに英雄の血が凄いのか!?
俺だって何も握れなくなるまで剣技の練習をした!
魔力切れで倒れるまで魔法の練習をやった!
でも上手く出来ないんだ!
こんな血⋯⋯継ぎたくて継いだんじゃない。
これが二度目に血を恨んだ瞬間だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ここは⋯⋯どこだ?」
目を開けると、白い天井が視界に入る。
次に、消毒液特有のツンとした匂いが鼻腔を刺激した。
そうか、模擬戦の時に倒れたんだったな⋯⋯。
段々と鮮明になってくる記憶で気を失う前の状況を思い出す。
模擬用の剣で頭を攻撃されてからの記憶が無い。
恐らく、脳震盪を起こしてしまったのだろう。
「大丈夫?」
ベッドのカーテンを開ける音が聞こえ、そこから白衣を着た先生が顔を出した。
黒縁のメガネを掛けており、白衣の胸ポケットにはボールペンを差している。
如何にも医務の先生、って感じだ。
俺は半ば無理矢理に上半身を起こすが、鋭い頭痛に襲われ顔を顰める。
「無理しないで。脳のダメージだから」
「いえ、大丈夫です」
「そう⋯⋯今日は大事を取って帰りなさい。許可は取ってあるから」
「すみません⋯⋯失礼します」
ベッドから降り、医務室を後にする。
時刻は昼を少し過ぎたくらいだろうか。
重い足取りで帰路につき、家に着くと祖父が玄関で仁王立ちしていた。
「ゼスト。ついて来い」
俺の返事を待たずして祖父は家の奥へ進んでいく。
雰囲気からして良い話ではなさそうだ。
着いたのは祖父の部屋。
中に入ると数々の功績に対する宝具や武具が飾られている。
祖父は部屋の奥にある革製の椅子に腰掛け、手を組み俺を睨みつけた。
「おまえ⋯⋯模擬戦で気を失ったらしいな。相手は下級貴族の娘だと聞いた」
「⋯⋯はい」
「貴様は『剣舞神』の末裔としての自覚があるのか!」
またその話だ。どいつもこいつも過去の英雄の話ばかり。
誰も俺個人を見ない。いつも『剣舞神』の末裔としてのゼスト・オルウェンを評価する。
「お言葉ですが、俺は模擬戦で手を抜いたことは一度もありません。全力を尽くし行った結果です」
「貴様はオルウェン家の男なんだぞ! 将来この家を担う男が下級貴族相手に負けるとは何事だ!」
「俺が幼少期から才能がない事は貴方が一番知っている筈です。正直、オルウェン家を継ぐ気もありません。是非養子を取ってください」
淡々とゼストの口から出てくる言葉には、感情がこもっていなかった。
「『剣舞神』の血を引く者にしかオルウェン家を任せることが出来ん! あの『剣』を扱えるのも『剣舞神』の血筋だけだ!」
「剣って何のことですか?」
「『剣舞神』が愛用していた剣だ。しきたりで当主が剣を持つことになっている」
「当主だったら父さんじゃないですか」
数年前までは祖父が当主を務めていたが、年齢的な問題で世代交代をして、今は父が当主をしている。
「⋯⋯剣が選ばなかったんだ」
小さく、低い声で祖父が唸った。
「剣が選ばなかった?」
俺は理解不能な言葉にオウム返しで聞き返す。
「あの剣は使い手を選ぶ。自身が選んだ相手でなければ振るうことも出来んのだ」
「そんな剣あるんですか?」
「『剣舞神』が妖魔をその剣に封印し、使役していたと言い伝えられておる。その妖魔を使役するのは『剣舞神』の血を引く者だけだ」
そして、いつ持ってきたのか祖父は件の剣と思われるものを机に置いた。
鞘には二匹の蛇がお互いの尻尾を喰らい合っている模様が施されており、柄の部分には小さな赤紫色のダイヤが嵌め込まれていた。
「そんな話、今までしなかったじゃないですか」
「潮時だと思っただけだ。手に取ってみろ」
「俺は才能がないんですよ?」
「それは剣が選ぶ。鞘から抜け」
なんだか気が進まなかったが、反抗する程でもない。
俺は言われるがまま手に取り、鞘から引き抜いた。
得体の知れない緊張感が走り、手に汗が滲む。
その刀身は禍々しい紫に塗られ、その上から漆黒の炎のようなものが描かれていた。
しばしの沈黙。
妖魔を使役した感覚もなければ何も起きない。
⋯⋯どうやら選ばれなかったようだ。
「何も起きません」
「⋯⋯⋯⋯」
「? どうしたのですか?」
「いや、なんでもない。しばらくの間、身に付けて様子を見てみろ」
「はぁ⋯⋯わかりました」
刀身を鞘に納め、腰に差す。
失礼します、と一礼して部屋を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ゼストがいなくなった後の部屋で、悩む老人が一人。
祖父は手を組み、何やら思案していた。
「ワシでも抜けなかったというのに⋯⋯剣はゼストを選んだというのか。歴代最弱のゼストを」
その言葉には驚愕と共に、ほんの少しだけ期待が込められていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、学園に行くと周囲が異様にザワついていた。
皆、俺のほうを見てコソコソ話をしている。
⋯⋯ああ、アレか。
黒板には剣魔祭のトーナメントが貼り出されているのでら、この騒々しさは恐らくトーナメント表によるものだろう。
皆に習い、黒板に張り出されているトーナメント表を見る。
端から自分の名前を探していくと、真ん中ら辺に俺の名前があった。
自身の名前を確認した後、対戦相手の名前を見ようと目を横に動かす。
「――ッ」
脳が対戦相手の名前を視認した瞬間、自分の顔が歪んだのが理解できた。
対戦相手の名前を見て、周囲がザワついている理由も察した。
その相手とは、俺にとって最悪の相手だったからだ。