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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

終末なのに仕事かよ

本編もこれぐらいすいすい書けるように頑張りたい所存


内容は終末に向ってずるずる進むだけ


さて、何から書いていくべきだろうか。

日記なんて生まれてこの方書いた事なんて無いから分からない。

仕事以外で文章書くってのもあんまりやらない類の人間だったから余計に困ってる所だ。


じゃあ、何でこんな事を急に始めたかって?

そりゃあ、世界が自分の預かり知らない所でもう終わっちまって、自分たちがあと僅かしかないロスタイムを生きてるっていう感覚が日に日に強くなってきてるからだろう。


とにかく、何でも良いから自分がいたっていう証拠みたいなものを残したいんだと思う。

こんな物を書いたところで残るかも怪しいし、これから先呼んでくれる奴がいるかもわからないけど、無意味だとしてもやってみたくなったんだ。



まずは、そうだな。

今の自分の立場とこうなる前の状況から書いていってみようか。


俺の名前はアラン、階級は伍長でだらしねぇからか一向に昇進する気配も無い万年警備員みたいになってる。

いや、なっていたってのが正しいなもう。


ベース・ホワイトって言われているこの基地で歩哨なんかをやっていて、今も前哨拠点の検問所として機能してるバンカー内でこれを書いている。

他にもやる事はないでもないが基本的にやる事と言えば基地の警備が仕事だった。

幸か不幸か前線に飛ばされる事も無く訓練が終わって配属されて以降ずっとここの勤務だ。


もう異世界から来訪者(ヴィジター)って呼ばれる侵略者どもが攻めて来てから十五年以上経つ、その時俺はまだガキだった。

テレビやネット中継のマスコミがロスアラモスに何かが来たって言ってる内に話がどんどん大事になっていったのをおぼろげながら覚えている。


軍の無人偵察機が何もない空間に開いた穴から空飛ぶ戦艦が出てくるのを撮影した直後に通信が切れたりだとか、調査に向った奴らが一向に帰ってこないだとか、周辺地域に未知の毒ガス兵器がばら撒かれてるなんて話がどんどん出て来てそれからしばらく学校でも近所でも大騒ぎだったのを覚えてる。


コロラドやオクラホマで我らが合衆国連邦軍が何度か全面対決して敗北したって聞いた時はなんかもう世界が終わるんだって家族で絶望したりもしたな。

核使っても連中、ピンピンしてたからな。


でもそうはならなかった、どういう訳か敵の進撃速度がナメクジ並に遅かったお陰で人間様は立て直しをする時間が手に入ったってわけだ。


世界がおかしくなる直前にはある程度まともに戦えるぐらいまでは敵の技術に追いついてたって話もある。



話を戻すと、この基地は敵の次元門のあるロスアラモスに一番近い前線、『ソードライン』って呼ばれてる所に後方から届いた物資や兵隊を送る為に物資の集積や修理なんかをやる中間拠点だった。

戦車や二足歩行兵器の整備工場や前線に物資を送る航空機の離発着をする為の飛行場なんかもある結構でかめの基地だ。



近いと言っても次元門まで200キロ近くは離れた北米大陸のど真ん中の片田舎、さびれた町と軍事拠点と幹線道路以外には何もない辺鄙な場所らしい。

剣の届かない場所って意味の単語を前線拠点に与える辺り、考えた奴は相当に捻くれてるってのが分かるな。


来訪者が東海岸のワシントンを目指して東進を続けているから西側のソードラインへの圧迫はそれ程でも無かった。

とはいえ、結構取ったり取られたりでこの基地の近くまで前線が下がってきた事も何度かあったらしい。


ともかく、前線もここも景色だけは大して変わらない、荒野なんだか砂漠なんだか分からないまばらに草と木の生えたただっぴろいアメリカらしい土地だ。


そんな基地の少し先に設置した検問所を兼ねた監視拠点で朝から晩まで前線と後方を行ったり来たりする車列を眺める日々、退屈じゃないと言えば嘘になるがまあ、前線に行くよりは全然マシだったから文句なんて無かった。


まともな装備なんて何両かの装甲車に人型兵器もどきの重強化外骨格(ウォーカー) が何機かある程度のささやかな拠点だ。


言っとくが、ロボテックの奴みたいなかっちょいいのを想像すんなよ?

腕にはマニピューターなんてついていなくて57mm速射砲が直でポン付けされてるし、人間を内部格納も出来ないぐらいに小さくて頭なんて機体の外にはみ出してるぐらいのしょぼい奴なんだからよ。

前線の連中はこれで奴らと殴り合ってるってんだから恐れ入るってもんよ。


他国じゃマトリョーシカだのコフィンだのと言われてるらしいが、俺たちはウォーカーって呼んでる。

ここはアメリカだ、例え基礎設計がロシア製だろうとアメリカらしい名前で呼びたいってもんだろ?



話を戻そう、まあそうやってたまに前線から聞こえる砲声と爆音にビビりながらも割とのんびり暮らしてきたんだが、事態が急変したのもう一月ぐらい前になる。


あの日はすげぇ騒音で目が覚めちまったからよく覚えてる。


なんといってもまだ日の出ない内から検問所の前の幹線道路を大量の戦車や装甲車やウォーカーが自走したりトレーラーで運ばれていくし、空も似た様な状態でごった返してた。


見た事がねぇ、敵の飛行戦艦みたいな奴も混じっててただ事じゃねぇってのが分かった。

基地の連中も次から次へと到着する戦闘機や爆撃機に燃料だの武装だの積むのでてんやわんやだった。


で、そいつらは朝日が昇るころには皆、ソードラインの方に消えて行った。

多分今じゃ最終決戦って呼ばれてる最後の戦いに出向いたんだろうな。


前線の状況は分からなかったが、二週間ぐらいの間、砲兵が大砲や重ロケットをばら撒いてた音が聞こえてた辺り、かなりの激戦だったってのは理解できたよ。


基地も後方からの物資を前線に送り届ける為にフル稼働してた。

俺も梱包だの荷運びだの手伝わされて参ってたね。



だが、三週目に入るとそれがぷっつりと途絶えちまったんだ。

そっから世界もおかしくなっちまった。


最初に起きたのは大きな地震だった。

今考えると、地震だったのかも怪しい、その後に帰ってきた前線帰りの連中が死人みたいな表情で『世界が割けた』なんて事をうめいてやがったな、そういえば。


ともかく、いつもみたいに朝から晩まで荷物運びの手伝いさせられてヘロヘロだったところに大地震だ、積み上げてた物資が崩れて何人も犠牲者が出たし、飛び立とうとしてた航空機が離陸に失敗して滑走路に激突したり、格納庫に突っ込んで周囲一帯を火の海にしたりと基地中がひでぇ事になった。



どうにか最低限の復旧と事後処理を終えたその日の夜、寝てたら同僚のジャックに起こされた。

空が流れ星で一杯だってな。


バンカーの外に出て空を眺めたら本当にすげぇ量の流れ星が降ってやがった。

その時に誰かが叫んでたよ、『衛星軌道上で戦ってた宇宙艦隊と戦闘衛星がどんどん地上に落ちて来てる』ってな。


その日から、ワシントンとの連絡が不能になった。



――――


それからの数日間はまあ、前線から友軍がどんどん帰ってくるのを見る事になった。

最初に出くわしたのは中国軍のウォーカーを装備した機動歩兵部隊だった。


大半の機体が歩くのがやっとの大破状態、乗騎を失って仲間の機体にしがみついてる奴や徒歩で移動してる奴もいた。


その日もいつも通りに歩哨をしてた俺は聞いたよ、『戦いはどうなったっ?』ってな。

基地の皆も同じことを思ってた筈だから、いの一番に聞いてやろうと思ったんだ。

そしたらあいつら、汚染のひどい前線では絶対に外さない装甲ヘルメットを投げ捨てて中国訛りの英語でこう言ったんだ。


『剣は敵に届いた。全ては終わった、終わってしまった。もう何もかも…』


って絶望しきった死人みたいな表情で俺に言いやがった。

その時はまだ、そいつがどうしてそんな事言ったのか理解できなかった。


少なくとも、戦争は終わったんだってのは理解出来た。

喜ぶべきかそうでないのかまでは分からなかったが。


『俺たちは…故郷の帰るんだ…帰って、それで…』


そこまで言ってそいつは更に何か言おうとしてたのを飲み込んだみてぇに押し黙って部隊に戻っていったよ。

俺はそいつに何も声をかけてやれなかった。



それからも前線からは色んな物や奴らが戻ってきた。

戦車、ウォーカー、ガンシップ、歩兵を乗せたトラック、それ自体は割と見慣れた光景だ。


前線に行くときは新品みてぇに磨かれた兵器や兵士達が、残骸や死体袋として帰ってくる。

自走出来るならば基地に戻って修理と補給を受けるし、負傷者は輸送機で後方送りだ。


外国の軍隊でもそれは変わらない、北米が戦場で外国の奴らには助けに来てもらってるんだ。

むしろ助けるのは当然ってもんだろう?


だってのに、あの時に限ってはどいつもこいつも基地を素通りしてどこかへと向かっていった。

正直、不気味だったね。



それからしばらくして米軍の生き残りも帰ってきた。

やっぱりそいつらも浮かない顔つきだった。


『タッチダウン作戦は成功した。だが、正直な所世界はもう駄目かもしれん』


開口一番に行ったのがこれだ。

前の話でも似た事を聞いたから俺は問い詰めたよ、何が起きたんだって。


『次元門が崩壊して世界が裂け始めている、もう我々には止められない。補給が終わったら俺はその足で故郷に帰るよ。最後は故郷が良い』



どうやら、あの日空を飛んでた飛行戦艦に決戦兵器が積んであって、それで次元門をぶっ壊して敵をこの世界から追い出すつもりだったのが、裏目に出て世界丸ごとぶっ壊れそうだって話だ。


スケールがデカ過ぎて俺らにはどうにもできない。

結局、そいつらも補給だけ受けて各々好き勝手にどこかへ去って行ったよ。


――――


世界が壊れたなんて言われてから一月ほどが経った、ようやく出だしに追いついたな。


現状は正直な所、やはり良くはない。

まず、通信がほぼ死んだ。

衛星通信が使えないのは仕方ない、全部落ちちまったみたいだからな。

だが、無線機を使った長距離も最近じゃ通じなくなりつつあるらしい。


勤務中の娯楽だったテレビやラジオも全然聞こえやしねぇ。


地震も大きめのがまだ定期的に続いている。

そろそろ多少の揺れでもビビらなくなっちまった。


なんとか伝わってきた政府の最後の発表では『戦争は終わった、我々は勝利した』って言ってるらしいが、状況は決戦前よりも悪くなりつつある様に俺には見える。


どうも基地で内勤してる連中の話では地域司令部とも連絡が取れねぇらしいし、補給部隊もこっちに来なくなった。

当分基地の物資には余裕があるみてぇだが、最悪自給自足しねぇと駄目らしい。


ここは何もない北米のど真ん中だ、流通が死んだら割とマジで餓死が待っているかもしれねぇ、やべぇぞこりゃ。

近くには一応そこそこの街があるが、やっぱり流通は止まってるらしい。


街の噂じゃ見えない壁みたいなのにトラックが飲み込まれただとか、道を走っていた車両が突然押しつぶされたみたいなオカルト話まで流れ始めてるらしい。

だが、各所で物理的に流通が寸断しつつあるのは事実みてぇだ。


これじゃあ無政府状態になるのもそう遠くないかもしれねぇな。


ついでに、前線の方から霧がやってきた。

広範囲にわたって霧に覆われたらしく、街の方も霧に飲まれてるらしい。

周囲一帯の視界がまるで効かない。

内勤連中が内循環式防護服を着ろと煩いのも気にかかる。


んなもん、前線部隊でもないと着ないってんだよ。

すげぇ身動きしにくいし苦しいし、何より暑苦しい。

ウォーカーに乗ってるジャックは機体の仕様上、前線用の外骨格装備しないといけないから『暑苦しい』だの『ケツが痒くても何も出来ねぇ』って毎日文句を言いまくっている。


だけどあいつら、アレ以降は急に外に出てこなくなりやがった。




――――


おかしい、何かがおかしい。

二か月経ったっていうのに霧は未だに晴れないでいる。

霧の中にいると何かがいるように感じるようになってきた。


何もいない筈なのに、すぐ近くで何かが這いずり回る音が聞こえる。

何かが耳元で囁くような声がする。


遠くから聞こえてくる絶叫は本物なのか?


ウォーカーに乗ってるジャックに確認取って貰ったらセンサーにも収音機にも何も反応が無いと言ってきやがる。

頭がどうにかなりそうだ。


部隊の中でも精神を病んだ奴らがどんどん増えて行っている。

だってのに内勤のお偉方連中、基地の一部を封鎖して籠り切ってやがる。

内勤の奴らは何か隠してるんじゃないのか?


俺も体の節々が内側から蠢くような不快感に時々襲われている。

この霧、マジで何かあるんじゃないのか?


噂によると街の方じゃ、よりパニックは顕著に出てるみたいで、今や霧を崇拝するカルト宗教まで出来つつあるらしい。

奴ら、毎日公園とかに集まっては人形を焼いて踊り狂ってるらしい。

その内、本当に人を燃やしだすかもな。


それと、段々と夜が来るのが早くなってきたように感じる。

夜になると霧も相まって真っ暗で何も見えない、ここ最近の夜間の巡回は暗視装置だよりになってる。


実を言うともう一人じゃ出回る勇気が無くてジャックや仲間の誰かしら一緒について来てもらってるんだ。

大の大人が情けねぇと思うかもしれないが、今の夜は凄く…怖い。



―――


霧に飲まれて四か月、とうとう俺は正気を失ったらしい。

歩く死体と遭遇した、早い話がゾンビだ。

いや、頭が無いってのに歩いてきやがるからゾンビよりも質が悪いな。


ライフルで撃ったが構わず前進してきたのでウォーカーの57mmで吹き飛ばしてようやく始末が付ける事が出来た。


街の方から来たらしい、あっちは一体どうなってるんだ。

霧のせいでまともに動けないでいる、救援も連絡も不可能だ。


こんな濃霧の中で下手に基地周辺から動いたら絶対に帰ってこれない。

俺たちはもう、ここから動けない。



街から命がけで救援を求める市民がやってきたが、それ以外に言ってやれることは無かった。

そいつが持てるだけの水と食糧をやって追い返すしか無かった。


俺たちは聖人じゃない、軍人だが後方でグダグダやってる三流だ。

他人を助けてやれるほどの力も度胸も無い。



小隊長が自殺したので、自分が指揮を引き継ぐことになった。

他の下士官も精神を病んでたり錯乱したり、既にいなくなったりしてて俺が一番偉いらしい。

正直、やってられないがやるしかない。


基地の防衛は諦めて自分たちの身を守る事を優先する様に指示を出す。


バンカーを強化し、残っている機材で全周防御陣地を構築して立て籠もる事にした。

基地は物資を取りに行く以外にはもう関わり合いにはならない。

夜のパトロールも無しだ。


夜間の巡回が無くなった事に皆一番喜んでいるようだった。


―――

五か月目


とうとう、霧の中から怪物が出てくるようになった。

種類はバラエティに富んでいて、昔やったハロウィンを思い出す賑やかさだ。


元は人だった見てぇだがもう人じゃなくなっている奴、単純に巨大化した昆虫、目玉が顔面にたくさんついてる肥大化した豚みてぇな奴、そしてこんな所まで来るはずの無い来訪者(ヴィジター)の騎士の成れの果てみたいなのまでバンカーの防衛ラインに入ってきやがる。


中には単純に頭のおかしくなった人間の集団なんかも奇声を上げながら襲い掛かってきたりもする。

恐らくはカルト化した街の連中だ、目当ては俺たちの生肉らしい。

捕まったら生きたまま解体されて食われちまうから自決用の拳銃の携帯を仲間に徹底させることにしようと思う。 


現状では、ジャックのウォーカーと何両かいる装甲車で撃退はしてるが、弾薬の消費が激しい。

視界も効かないから不意の接近戦になって仲間が何人もやられている。


もう上からの指示が無いから皆無断で倉庫を破って備蓄してる武器や食料を使っている状態だ。


見切りをつけた奴が物資を持てるだけ持って夜逃げするのも珍しくなくなってきている。

整備工場のメカニックや輸送機のパイロット連中はとっくの昔に機材ちょろまかして脱出済みだ。


組織としてはもう駄目そうだな。

最も、まだ軍や政府がまともに残ってる場所なんてあるんだろうかね?


―――


もう、あれから半年か。

月日は早いもんだ、なんだかんだまだ生きている。


霧はようやく消えた、霧に頭をやられた奴らも霧と一緒にどこかへと消えたらしい。

だが、街の連中はもうこちらを敵としてしか見ていない。

無理もない、俺たちは彼らを助けなかった。

そしてまだたくさんの物資を抱え込んでいる。

俺たちもそれを無償で渡すつもりはない。


あの霧のせいでまともな奴らは殆ど消えちまったみたいだな。


先日なんてどこから調達したのか、街の連中が爆薬を満載した車両で自爆特効仕掛けてきやがった。

ジャックのウォーカーが突っ込む直前に57mmで吹っ飛ばしてくれたから助かったが、あと少しで全員吹き飛ぶところだった。



同僚達の大半は死んだか、もうここにいる事に見切りをつけていなくなった。

手元にはもう分隊規模程度の仲間しか残っていない。



内勤の奴らがあんまりにも外に出てこないし、音沙汰がないから壁をぶち破ってこんにちわしてみたら、あいつら一室に集まって集団自決してやがった。

あまりにひどいんでその周辺区画は封鎖する事にした。


どうやら、あの霧には前線の汚染物質が混じってたらしい。

ゾンビも化け物もそれが原因らしく、あいつらはそんな風になるよりはと自殺を選んだようだ。

気付かぬうちに俺たちは人間卒業して仲間と同士討ちしてた訳だ。


俺たちもいずれああなると思うと頭がおかしくなりそうな反面、もうどうでも良いかという諦観にも支配されてきている。


ある意味、身内が化け物になる奴が発生する瞬間と出会わなくて幸運だったんだろうな。

そんな事になってたらもっと早く皆殺し合いをしていなくなっていただろう。


もうこのバンカーにいるのもジャックとあと何人かの親しい奴だけだ。

皆、帰る場所が無いんだ。


俺の両親は、実は州兵だったんだ。

ガキの俺を置いて召集された挙句、東部戦線の消耗戦の中で消息不明、死体すら戻ってこなかった。


他の奴らも似たようなもんだ。

俺たちが後方に置かれたのは一種の計らいや同情だったのかもしれない。

そのせいで世界の終わりからも若干取り残されている。


ともかく、ここまで来たら意地でもここを守り抜こうと思う。

食い扶持が減って俺たちの寿命まで物資が持ちそうだし、割と悪い判断でもないと思うんだ。

街の連中さえなんとかすればだが。


さて、外がまた騒がしくなってきた。

お客さんが来たらしい、これからまた仕事だ。


ジャックの奴が『こんなご時世に真面目に日記かよ』って呆れた顔で笑ってやがる。

今、『もう帰る場所も無いし、他にやる事も無いんだからしょうがないだろ』って言ってやってる所だ。


さて、今日は何が出て来るのか。

化け物か、ゾンビの群れか、はたまた武装した暴徒の集団か、どの道やる事は一つだ。

俺たちは軍人だ、ここから先は正規の軍人以外立ち入り禁止、誰であれ通したりはしない。


また何かあったら続きを書こうと思う、最近はこれを書くのが俺の生き甲斐になっているのだから。





――――



荒廃した軍施設の跡地の手前、朽ちた検問所のバンカー前に一台の装甲トラックが停車している。

そこから十数歩先に残された検問所のバンカーの中には錆取りされた金属製のアーマーを着込んだ巨躯の男、左肩に下げたスリングの先にぶら下がる巨大なM2ブローニング重機関銃が男の肩の動きに合わせて前後して小刻みに揺れている。


アーマーでは隠せない顔や腕の一部から覗く青い肌と人間離れした分厚い筋肉がその男が人間でないという事を明確に示していた。


その巨躯の男は、バンカーに入るといつもそうしている様に居住区となっている部屋を物色していた。

ロッカーや机の引き出しをこじ開けて中身を地面にぶちまけ、めぼしい物が無ければ外に放り出し、同じ動作を何度も繰り返し、そうして出てきた古ぼけた日記を見出して読みふけっていたのだった。


「100年以上前の日記か…」


読み終えた後に男は静かに呟いた。

人から大きく逸脱した体躯と見た目であっても、男にはまだ人間としての理性と知性が残っていた。


全てが終わり、変わった世界でも人間は『かつて人間だったモノ』として生き続けている。

戦前の遺物を奪い合い、食料を奪い合い、残された僅かな土地を奪い合い生きている。

今日も人は今日を生き残る為に過ちを繰り返し続けている。


「レオちゃーん、そろそろ行こうよ~。燃料が無駄になるってクトーちゃんが怒ってるよ~」


ふいに、外から待ちくたびれた様に扉の外から顔を出した短い青髪の少女が文句を言いながら現れた。

男とは正反対と言って良い程に小さい背丈、華奢な体つき、そしておかしくなってしまった世界には不釣り合いの白いワンピースを着たどこか抜けた調子の言葉遣いをしていながら、その瞳には鋭く光る何かが潜んでいるようだった。


「ああ、すぐ行くと伝えてくれ。最後にやる事が有る」

「早くしてね~。本命はこの先の基地なんだからね~」


男に小言を言って満足したのか、少女は顔を引っ込めてトラックへと戻っていき、それについていくように男も腰を上げた。


そして、小屋から出て僅かに歩を進めた後に立ち止まり、既に木に飲み込まれて自然に還りつつある一機の各坐した重強化外骨格 に向き直り敬礼した。


「最後まで義務を全うした兵士に」


静かに短く、しかし礼儀深く、姿勢と背筋を正した軍人らしい敬礼を行うと、男は拾った日記を携えて装甲トラックへと乗り込んだ。


「それ、何の本?面白い?」

「検問所の兵士が残した日記だ、英語で書かれてる」

「へぇ~お金になるの?」

「ならないが貴重で大切な物だ、いずれはしかるべき場所に保管されるべきものだ」

「ふぅ~ん」


隣に座る青髪の少女は面白くも無ければ金にもならない、何より自身が読む事も出来ない本であると知ると早々に興味を失ったのか、外の景色に興味の対象を移したようだった。



男はそれに構う事無く、再び最初のページから日記を読みなおし始めた。


自分は決して忘れない、この無念を、この絶望を、取りこぼされていった人々の記憶を。

そしていつか取り戻すのだ、人類が再び地上で生きていける世界を。

異形となった自分が地上から、生き残っている同胞達が地下から、いつか地上に人類の文明を復興させるのだと。


文字を読み進める毎に男は己に課した責務を再び心に焼き付けていく。


「しかし、タイトルが思いつかないからってこれは無いんじゃないかな」


『終末なのに仕事かよ』、本文とは違う人物が書いたであろう、そんな書きなぐられた文字が掛かれた表紙を見て男は苦笑いを浮かべた。

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