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三杯目、嵐は唐突に、

 大きな雲が空を漂っている、予報では5時ごろから雨、しかもかなり強いらしい。 午後の授業ほど憂鬱なものはない、きっと多くの人がそれを経験してきただろう。 極度の眠気とのタイマン、その最中に教師の不意打ちの質問、これほどタチが悪いものはあるだろうか、いや、ない。

「なー、有。 ノート見せて」

 春馬が後ろの席からポンポンと肩を叩きそう囁いてきた、奴は前回の授業はガッツリと寝ていた、春馬が悪いことに変わりはないが友のために犠牲になろう。

「ほら、写したらさっさと返せよ」

「サンキュー!」

 ノートを失い聞く授業、これほどまでに退屈とは。 先生は基本的に黒板しか見ていない、まあ現代社会なんて板書してなんぼなところはあるから。


 授業はつつがなく終わり、書けなかった分の板書をほかの子にノートを借りて写し終える。 さて、放課後までもう少々頑張ろう。

 俺はそう思い自動販売機まで向かった、コーヒーのブラック、これは基本的に買っている人がいないため売り切れになることが少ない、俺は小銭を持っていないことに気づき千円札を取り出しそのまま自動販売機に入れた。 ボタンを押そうとしたその時だった。

「やあやあ、昨日ぶりだね」

 突然後ろから声をかけられ驚きのあまりとなりのミルクティーを押した。

 ガコンという音とともにミルクティーが落ちてきた、俺はそのまま動じずにブラックを押した。

「あの、後ろから声をかけるのやめて」

「そこに有くんが立ってたから悪いんだよ?」

「えぇ、あっはい」

 俺はため息をつきながらもミルクティーを後ろの彼女、秋雨さんへと手渡した。

「え? 欲しいって言ってないけど、」

「間違えたから、どうせなら」

「へぇー、じゃあありがとうございます」

 秋雨さんは礼を言いながら両手でミルクティーを受け取った。

「今日は嵐になりそうなんだって」

「そういえば言ってたな、傘壊れないか心配だな」

「なんなら私の傘に入れてあげようか、子猫ちゃん?」

「誰が猫やねん」

 そんな他愛無い会話をしていると予鈴が鳴った。

「じゃあ、放課後に」

「うん、また」

 俺は秋雨さんと別れたあとに小走りで教室へと向かった。


「じゃーね、有も気をつけて」

「春馬もな、気をつけて」

 雨が降り始めてすぐの放課後、これから雨風が強まるであろうと誰もがわかるほどどんよりとした空気とジトジトした雨、ドス黒い雲が気分を暗くさせる。

 俺は傘をさし小走りで駅に向かい、そのまま改札を抜けた。

「雨すごいね、やばかったよ」

 改札を抜けホームへ向かった俺を待っていたのは雨に打たれたのか、少し濡れている秋雨さんだ。

「ていうか、傘は?」

「無事お亡くなりに、」

「マジ?」

「マジ」

 俺はカバンからタオルを取り出し秋雨さんに手渡した。

「女子力オバケだ、なんでタオル持ってんの?」

「体育の時間に使うと思ったけど、今日体育なかったし、それで使ってないから」

「じゃあありがたく借ります」

 電車が来るまでの数分、その間に彼女は髪を吹いたりして時間が過ぎた。


「おはようございます」

「おはよーございます!」

「おはよ、二人とも大丈夫だった?」

 店のドアを開け出迎えてくれたのは店長だった。

「ええ、なんとかなりました」

「外の雨がヤバーイ、先に着替えるねー」

 秋雨さんはタオルを片手にそそくさと更衣室へ向かった。 店内は弱めの暖房がつけられており冷えた体に心地いい暖かさだった。

 俺は事務所に移動してタイムカードを先に押した、着替えの時間も勤務時間と店長がそういう方針なのでありがたい。 するとドアが開き秋雨さんが着替えて出てきた。

「ごめんね、先に着替えちゃって。 更衣室の暖房つけといたから」

 秋雨さんはそういうとパタパタと髪の毛を揺らしながらフロアへと行った。 俺も着替えることにした。 そして更衣室の札をひっくり返し更衣室へ入った。

 出迎えてくれたのは濡れた靴下(床に落ちているもの)だった。

「マジか、」

 俺は見て見ぬ振りをして着替える、しかし男の子たるものそこが気になってしょうがない、そう考えると俺は特殊な性癖をもっているのかもしれない。

 俺はそっとその靴下を手にして、暖房の前のたこ糸にかけようとした。

「その靴下で何をしようとしているのかな?」

 俺は声のする方にゆっくりと振り向くと扉の陰から水野さんの顔が見え、今の状況を整理した。

 濡れた女子高生の靴下を持った変態。

 だめだ、言い逃れできねぇ。

「それ、秋雨ちゃんの?」

「...誤解です」

「いやいや、そんな靴下を掲げられてる状態で誤解だなんて、むしろ確信犯だよ?」

「俺は、ただ、善意で」

「善意で何をしようとしてたの?」

「干してあげようかと、」

「うん、知ってる。 君ならそんなことしてあげるだろうなって思ってからかっただけだよ」

 水野さんはそう言って更衣室へと入ってきた。

「秋雨ちゃんはこういうところ無関心というか、アホだから。 代わりに謝るよ、ごめんなさい」

 水野さんは丁寧に頭を下げた。 俺としては誤解が解けただけでもいいのだが。

「いや、水野さんが悪いわけじゃないから、それならほら、黙っててくれたらいいよ」

「そんなこと言いふらさないから、貸して」

 水野さんはそう言って俺の手から靴下を取ると躊躇いなくロッカーの中へと叩き込んだ。

「これでカッターシャツもビチャビチャだね!」

「まあ、うん、そだね」

 俺は何も言えなかった。


「よし、それじゃあ今日は有くんは昨日教わったことをやってみようか、秋雨ちゃんと水野ちゃんはいつも通りの業務かな? 僕は事務作業をやるよ」

 そう言って店長はノートパソコンを開いた、秋雨さんと水野さんは各自の仕事を始めた。

 俺もコーヒー豆の量を確認してメモを取り、そのまま豆の保管庫まで向かった。

 コーヒーの匂いを体に染みつかせ豆を探す、とある人がコーヒーの匂いは落ち着くと言っていたが、今は軽くむせ返りそうになる。

 コーヒー豆の袋を持って補充、そしてダンボールを潰す、昨日教えてもらった基本的な事をこなしてホールの清掃、そして食器洗いと自分のできる仕事を片していく。

 そうこうしているとバンという豪快な音とともに窓ガラスが大きく揺れた。 外を見ると雨が強まり風で木が大きく揺れている。 雨風ともに強まってきた。

「帰りは大変そうだなぁ」

「まあ駅まで行ければなんとかなりそうだけどね」

「三人とも、悲報が、」

 秋雨さんと何気なく話していると店長が口を開いた。 さっきまでパソコンとにらめっこをしていたが表情が変わっている。 どこか切なそうな表情だ。

「電車、運休ですって」

 一瞬にして心が折れた。


「運休って、一体いつまで?」

「まだわからないって、三人とも大丈夫そう?」

「おかーさんに電話したら、どーすんのって言われた、どーしようかぁ」

「俺は親に電話しましたけど、無理せずかえっておいでって言われましたんで、それなりに落ち着いてから帰ります」

「私もやばいかも、家の窓割れてないと良いけどなぁ」

「いや、家の心配よりまず帰りの心配を、」

「あー、僕も窓しめたか不安だなぁ」

「私もー、窓からクローゼット近いから濡れてたら服が、」

「なんなのみんな、心配するの自分の身より家の方?」

 やはりここのバイトメンバーは思っていた通りにどこか感覚がズレている。

「まあまあ、冗談はさておき本格的にどうしようか」

「最悪はタクシーで帰る?」

「まあ、その時は僕が経費でお金出すよ?」

「やった、遠回りしよう」

「いや、まっすぐ帰ってね?」


 ゴオゴオと音を立て風が強く吹き抜ける、窓ガラスもガタガタ音を立てて今にも外れそうに揺れている。

「お客さん、雨で避難してきたんですかね?」

「そうだろうね、うちは駅から近いし、なんならタクシーも呼びやすいところだからね」

 先ほどまで静かだった店内を見渡すと濡れたサラリーマンや主婦など様々な人で賑わっており水を出したり注文を聞いたりなどみんな忙しく走り回っていた。

 俺は手早く水をグラスに入れお盆に乗せる。 そして水野さんと秋雨さんに渡す。 注文が入れば店長が作りそれ俺はまたお盆にミスの無いように乗せていく。

「あー、疲れた。 ねぇー、変わってよー」

 秋雨さんがパタパタと手で風を起こしながらこちらに来る。 急に忙しくなりバタバタとしていた店内もそれなりに落ち着いてきた。

「雨やみそうに無いね、どうしよっか?」

 水野さんがお盆をクルクルと回しながら外の様子を伺う。 風は弱くはなったものの雨が強まり更に悪化しているように見えた。

「まあ、なんとか、なる?」

 苦し紛れにしかならない俺の言葉に水野さんが目を細める。

「うわー、冷たいわー。 もーすこしさ、俺が送ってやるよ、とか言えないわけ?」

「言えないな、俺の力じゃどうしようもないもの」

「えぇ〜、男の子としてそれはどーなのー?」

 脇腹を小突いて来ながら水野さんは俺にジト目を向ける。

 カランカランの扉のベルが鳴る、お客さんが来たため一旦逃げられる。

「いらっしゃいませ」

「あ、どうもー。 逢崎有の姉、逢崎幸です。 弟がお世話になっております」

 そこにいたのは姉ちゃんだった、スーツ姿で深々とお辞儀をした、きっと仕事終わりに車のナビを出して迎えに来てくれたのだろう。 有難い。 実にいい姉だ。

「有ー、接客は?」

 否、嫌な姉である。

「あ、お席の方に案内します」

 姉をあえてカウンターから遠い席に案内した。 俺はお盆にホットサンドとブレンドコーヒーを乗せて姉のところに行く。

 笑顔で、最高の接客を、姉に届けようと。

「お待たせいたしました、」

「ハハハハハ! なにそれ、似合わなすぎ!」

 あー、やばい。 本気で殴りたい。

「なんなんだよ、冷やかしなら帰ってくれ」

「あー、そうそう。 迎えに来たのはいいんだけど、あんた以外の子を乗せて行ってあげようと思って」

「は? よく意味がわからん」

「あの女の子たち、同い年でしょ? ならこの雨の中年頃の女の子を置いて帰るなんて私はできないよ」

 なんと、あの姉からこんな言葉げ聴けるとは。

「じゃ、読んできて」

「りょーかい、ありがとな」

「いえいえ」

 俺は顔をお盆で隠しながらカウンターへと向かう。 あんな姉だけど、本当に自慢の姉であることは間違いない。


「というわけで、姉が送ってくれるらしいです。 どうしましょうか?」

「んー、じゃあ私は送ってもらおうかね」

 秋雨さんはそう言って姉の方に歩いて行った。

「水野さんは?」

「うん、じゃあお言葉に甘えようかな」

 水野さんと姉のところに行く、姉はなぜか秋雨さんと話し込んでいた。

「ねーちゃん、できれば二人とも送ってもらいたいんだけど」

「うるさい、私は美人な女子高生と話しているの、後に……」

 姉は水野さんを見て固まった。 何かを見つけたように。

「おーい、ねーちゃん?」

「ん? ああ、君も家は遠いいの?」

「あ、はい。 申し訳ないんですが、お願いいたします」

 水野さんはそう言って姉にお辞儀した。

「うん、わかった。 じゃあみんな着替えたら声かけてね」

「ありがとうございます」

「いやー、助かります。 ありがとうございます」

 二人はそう言ってロッカールームへ向かった。

「なんか、あったの?」

「ん? なにが?」

 俺は姉の挙動に疑問を感じてそう聞いたが、何にもないと言わんばかりの態度だった。

 ただ、それは俺の知っている姉の姿ではなく、明らかに何かあった時の反応に他ならない。

「いや、別に」

 おそらく姉はなにも話さない、だとしたら水野さんに聞いてみるだけだ。

「俺も着替えてくるよ」

「うん、気をつけてね」

 気をつけてね、その言葉に違和感を感じ、さらに俺も気持ちにモヤがかかる。


「あ、ねえー! カッターシャツがー!」

 事務所に入るとカッターシャツを抱えた秋雨さんと笑っている水野さんが居た。 ああ、例の……

「ジャージなら貸すけど、いる?」

「ありがとー、ごめんね?」

「いやいいよ、気にしないから」

 俺はロッカーを開け、ジャージを取り出し秋雨さんに渡す。 トイレで着替えると言って秋雨さんは事務所を出た。

「水野さんさあ、姉と知り合い?」

「え? 何? 急に」

「なんとなく」

 ぶっきらぼうにそう言い放って俺は身支度を整える。 モヤモヤが募り、気持ち悪い。

「……そうだね、今じゃなきゃダメ?」

「ダメ」

 隠そうとする水野さんの手を掴み俺は壁に押し付けた。 自分でも嫌なやつだとわかる、ただこうでもしないと彼女はまた逃げていく。 そんな気がした。

「そう、じゃあ」

 水野さんはそう言って俺の顔に顔を近づけた、そして、

「そのことはいまは知らないほうがいいから、ごめんね」

 彼女はそう言い残し去って行った。 俺は唇に手を当て、少し戸惑っていた。

遅くなりすぎました、生活が多少変わり忙しいのです。

それを言い訳にしたくないので、今後も頑張っていきます!


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