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短編集 詰め合わせ

死にかけ勇者と無関心な魔法使い

作者: 忍者の佐藤

「くそっ、どうすれば良いんだ……!」

 もう既に下半身をデスワームに飲み込まれていた俺は途方に暮れて天を仰いだ。木々の間から木漏れ日が漏れてきているが、「綺麗だなぁ」とか「癒される」とか考える余裕はない。

 先ほどから何回も大声で助けを呼んでいるが返答はなく、ただただ虫の声と鳥のさえずりを聞きながら迫る死を感じるしかなかった。

 今はなんとか両手を地面について踏ん張っているものの、このままでは腕に力が入らなくなって飲み込まれるのも時間の問題だ。

「こんな山奥にデスワームが潜んでいるなんて……」

 デスワームというのはミミズの形をした大型の肉食モンスターだ。地面に潜み、近づくものは人間でも動物でもモンスターでさえ捕食してしまう貪食な奴である。


「メイ……、早く帰ってきてくれ……」


 俺は全身から大粒の汗を流しながら、情けない声で(うめ)いた。

 メイというのはパーティーメンバーの魔法使いだが、今は川へ釣りに出ている。少し人格的に問題を抱えている女だが、今は四の五の言っていられない。

 山奥というこの状況で出来ることは、ただただメイが帰ってくる事を祈って耐え続けることだけだった。


 その時だった、正面の低い木立の向こうから人の気配がした。


「勇者さーん、どこですかー?」

 透明感とハリのあるこの声、メイだ!


「こっちだ! 早く来てくれ!」

 俺の声とほぼ同時に正面の茂みが揺れ、一人の少女が現れた。

 彼女は濃紺のローブに目深くかぶった三角帽子を見に(まと)い、右手には短い木の杖を、左手には麻袋を持っている。


「メイ、助けてくれ! デスワームに喰いつかれて死にそうなんだ!」


 俺は最後の力を振り絞って叫んだ。もう既に手の感覚は無く、小刻みに痙攣(けいれん)している。

 メイは眉をハの字に下げ、整った顔立ちからジットリした視線を俺に向けて言った。


「勇者さん、なんで火を起こしてくれてないんですか」

「言ってる場合か!」


 俺はもう少しで手の力を抜いてしまう所だった。


「言ってる場合ですよ! 何のために私が魚を捕ってきたと思ってるんですか! 新鮮なうちに焼いて美味しく食べるためですよ!」


 顔を真っ赤にして必死にこらえている俺に向かって平然と言い返すメイ。


「ところで勇者さん、何か地面に埋まってません?」

「今!? もしかして今気づいたの!?」


「もー、砂風呂に入ってないで早く火を起こしてくださいよ」

「違うわ! ほら、俺の胴体を見ろ!」

「ん? もしかして何かに噛み付かれてます?」

「そうだよ、だから……」

「砂風呂のオプションですよね?」

「そんなわけあるかっ! なんで追加料金払った上で死にかけなきゃいけないんだよ!」

「じゃあ釣りですか? 勇者さんがエサになって」

「こんな命がけの釣りがあってたまるか!」


 するとまるで他人事のように「へー」と言いながら杖と麻袋を地面に下ろすメイ。


「そういえば勇者さん。釣り人に聞いたんですけど、この辺にデスワームが出るらしいから気をつけた方がいいですよ」


「え? そうなんだ怖いね。ってアホかぁああ! イッツショータイム!! 今まさに食い付かれてるんだよ!!」


「そうなんですか? そんなに喜んじゃって、よっぽど嬉しかったんですね」

 今度は満面の笑みを向けてくるメイ。こんな状況でなければ可愛いと思っただろうが今は殺意しか込み上げてこない。


「ところで勇者さん、なんでそんなに苦しそうなんですか?」

「アルツハイマーか! つい30秒前にデスワームに食われて死にそうだって言っただろうが!」


「落ち着いてください勇者さん。私が信用出来ないのかもしれませんが、もし勇者さんがモンスターに襲われてピンチになったら必ず助けますよ」

「だから今! ナウ! イッツナァアアアアアアウ!!」

「なんかめっちゃテンション高いですね」

「だいたいお前のせいじゃああ!! FOOOOOOOOO↑↑↑」




 叫んだところで腕に限界の来た俺は、ジワジワと上半身も地面に飲み込まれ始めた。クソっ、こんなんで最後かよ……!


「! ゆ、勇者さん!」


 さすがに俺が飲み込まれ始めて焦ったのか、メイは俺のそばまで走って来てしゃがみ込んだ。


「勇者さんの必死な顔、すごく可愛い……」

「言ってる場合か!!! もう無理無理!」

 どんどん地面に埋まっていく俺を見て恍惚(こうこつ)の表情を浮かべるメイ。


「アハハ! 勇者さんナイスリアクション!」

「何笑ってんだテメェ! 死ぬ! 死んじゃうぅ!!」

「良かったっですね、最後に私の顔が見れて」

「呪い殺すぞテメェ!!」


「残念ながら私は呪われませんよ。だって今助けますから」

 そう言うとメイは、やっと地面から出ている俺の胸ぐらを掴んで一気に

 引き上げた。

 どんな腕力してんだコイツ。

 俺は死の(ふち)から助けられた安心感で一気に脱力してしまっていた。


「ありがとう、お前が居なかったら死んでたよ……」

「ふふっ、これで私を少しは信用してくれましたか?」

「うん、助かった……」

 なお、俺はまだメイに胸ぐらを掴まれたままだ。


「それにしても死にかけた勇者さんの顔は素敵でしたよ」

「……え?」

「だからもう一回デスワームに突っ込みますねー」

「イヤァアアア!!!」




 おわり


お読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] おもしろかった。この会話のかみ合わない具合は、絶妙。 魔法使いちゃんは、すごい能力があって、他人のピンチが理解できないんですよ。きっと。それに鳥頭な可哀想な人かもw
[一言] 勇者と魔王~もそうですが、作者様の勇者をみているとこう思います、 勇者って、なんだっけ(遠い目 そして魔術師がひどいw 強く生きて!勇者ぁぁぁぁ!!!
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