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かえるのお気楽短編集

年暮れの忖度(そんたく)くん!

作者: かえる


       ※


 忖度そんたくとは……相手の気持ちをおしはかること。


 おしはかるとは……見当をつける、推測する。


 俺はスマホをポケットへ。

 そして車の外へ視線を移せば、夕焼けの中、コンビニの駐車場を小走る友人。

 ばむる、とドアが開く。


「おう、お待たせ」


 そう言って、持ち主が運転席にどっこら座る。

 それから、俺の顔の前に缶コーヒーを突き出してきた。


「なんだ、これ」


「コーヒー。喉乾いてそうだったから。おごりだ。もしくは、クリスマスプレゼントでもいいな」


 クリスマス、

 男二人で、

 車のなか――字余り。


「……さんきゅ」


 ずずず……こんな状況下でプレゼントをもらうはめになるとは。

 ま、それはそれとして。

 俺の顔がそんなにも物欲しそうな感じだったのだろうか、と思う反面――、


「なるほど、これが『そんたっく』というやつか」





「何だよ、ソンタックって」


「今年の流行語大賞をアレンジをつけてお届けした」


「ああ、忖度そんたくな」


 特に強い関心も惹けず、ぬぽぽと車は走り出す。

 運転手こと友人に、今年ももうすぐ終わりだから、年が暮れる前にその流行りに乗らねばと思い至った、と隣から告げた


「ふーん、んで、これからドコに――」


「待てっ。次は俺がそんたっくする番だ。しばし待て。シャラップだ、友よ」


 そう、次は俺が忖度してやる番だ。

 何かと世渡りが上手い友人からは、先程「喉が渇いた俺」を推し量られ先手を打たれてしまった。

 ちくしょうめ。


「キーになるのは、これからドコに、か……」


 うむ。

 クリスマスという世間のなんかラブな風。

 また年頃の男子である俺達。

 これらのことを考慮すれば、友人はさぞや「女子」を求めていることだろう。

 ゆえに。


 夕暮れの、

 色合いがいと、

 寂しい――字足らず、と、心の俳句を詠んでいるはず。


 ならば、答えは一つ。

 ここはやったこと無いが「ナンパ」とかを促してみるか。


「車もある。アミューズメントな場所とかで異性にお声掛けをするイベントとかはどうだろうかと」


「ゲーセンでナンパかあ……。そりゃ、彼女とか欲しいけどさ、ちょっと遠慮しようかな。それに硬派らしいお前はなんだか無理しそうだし。ナンパとか嫌いだろ?」


「ぐぬ。まさかの、そんたっく返し、とは」


 忖度しようとした俺の忖度を忖度つきで返しやがった。

 ちくそんたっくっ。


「チッ……だが、さすがと褒めておこう。そして、俺は確かに硬派で押し通してきた23の素数男児だ。そんな俺は、お前のそんたっく返しに更に上のそんたっくで返してやるうっ」


「そんなに忖度がブームメントなのかよ」


「俺は流行という流れに、今この時、ちょっくら乗りたいだけだ。それ以上でも以下でもない。あなどるなよ……」


 俺が素直な気持ちを吐露しいるというのに、友は目も合わさず外を眺めていた。

 そして、のぞき見るその瞳はどこか。


「友よ。哀しみの色に染まるその瞳で何を見ている」


「どちらかと言えば、信号機のほうが青に染まった感じだろうか。それを見ている」


 ふむ。

 そうして、ぶろろんと車は曲がり、その間しばし会話が途切れた。






「……忖度かあ。本来は悪い意味で使われるものじゃなかったんだろうけどな」


 友は遠き日の思い出を語るようにして、ぽつりと言う。


「悪い意味とは」


「自分の都合のために相手の気持ちを汲んだとか、物事の良い悪いの判断を奪うとか、あんまりいい意味では使われないな」


「そうなのか?」


「浮世離れのお前と違って、世間はそんな認識だと思う」


 そこまで言って、友は『けど』と接続助詞を付け加えた。


「元々は相手を思いやる気持ちからの忖度そんたくなんだろうから、忖度が悪い訳じゃないだろうな……」


「思いやる……少し前、無理にでも流行らせようとした感満載だった、おもてななしを思い出すな」


「なかなか目のつけどころが良いんじゃないのか。和の心。『忖度』と『おもてなし』は通じるものがあるかもな……大切にしなきゃいけない日本の心というか……」


 褒められた。

 そして、俺を賞賛した友のほうといえば、相変わらずどこか憂いていた――そんな気がする。

 そんな気がする友を、俺は思いやる。


 俺と違って世渡りが上手い友だが、世間のけがれにめっぽう弱い。

 粉雪のような繊細ともいうべき優しさが要因だろう、と長い付き合いの俺はいともたやすく分析している。


「なあ、友よ。これから飲みに行こう」


「ん? マジか。……まあ、別にいいけど。車は代行を使えばいいし」


「代行の事は考えていなかったが、マジだ。そして、喜べ。なんと今回の飲みは俺のおごりだ。もしくは、俺からのおもてななしと言い換えてもいい」


「今度は、おもてなしブーム到来なのか」


 そう言って、友は微笑む。

 甘いな。

 俺のおもてなしは、その顔を更に破顔させるプランを用意してある。


「友よ。居酒屋で飲んだ後は、その酔った勢いでキャバクラに行く」


「ま、マジか。珍しいな。……それもおごりか?」」


「もちろん、キャバクラは割り勘だ」


「おもてなしはどうした」


「友よ。俺の財布の中をそんたっくしろ」


 つーつーつー。

 行く先が決まった車はどこか軽快に走るのだ。



目を通していただき、ありがとうございました。(`・ω・´)ゞ

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