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だから、ありがとう

 清めの間を出て、大部屋に戻った私達は寿さんに案内されてダイブ装置に触る。普段は家でダイブする時はベッドに体を横たえてログインするので、イスに座ってダイブするのって少し新鮮。しかし、この椅子、物凄いふかふかで座り心地が良すぎる。思わず寝てしまいそうなくらいに。

 私の隣には沙耶が座り、他のみんなも、家族も、それぞれ装置に座り終えたようだった。


「沙耶、お姉さんは海外から?」

「うん。無事に移住できたらメッセ飛ばすって言ってた」


 NW社は海外展開もしているので、ここと同じような施設が世界各地にある。沙耶のお姉さんはイギリスのニューカッスル支部からログインするらしい。


「そっか。じゃあ、この世界に心残りはない?」

「今はないね。まぁ、あっちに行ってからは色々と思うところは出てくるんだろうけどね。マリはどうなのよ」

「そうだよね。私は何もできずに逃げるしかない現状は悲しいし、寂しい。だから心残りがないと言えばウソになるかも。でも……」

「でも?」


 今、この時点では世界の終焉を救ってくれる勇者はいない。だから、逃げるしかない。

 だけど、NWに移住した人達は力を手にする。その力は善にもなるし悪にもなる。例え悪意に満ちたNos.が生まれようとも、もし、また人面虫のようなイーターが来ようとも、守り抜いてみせる。世界を救う勇者とまでは言わないけど、目の前の仲間を守れる勇者でいたい。


「でもNWでは、みんなを守れたらいいな」

「じゃあ、私はみんなを守るマリを守るよ」

「うん。これからも私の隣にいてね、沙耶」


 最終確認を終えて、寿さんからログインするよう合図が入る。

 私と沙耶はお互いを見つめ合い、この世界で最後になるであろう最愛の人の姿を目に焼き付けた。


「それじゃあ、また後でね。マリ」

「うん、またね。沙耶」


 NW専用VRで視界が塞がる寸前、最後にお互いの口の動きが揃う。『愛してる』

 きっと沙耶も同じ事を口にした。


 視界が暗転して、私は地球に最後の別れを告げる。

 この先、私達は地球に戻ることはないと思う。

 けど、神崎茉莉という存在を生み出してくれたこと、姫宮沙耶という存在に引き合わせてくれたこと、美しい景色を見せてくれたこと、生きる意味を教えてくれたこと、全てに感謝をしている。


 だから、ありがとう。

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