トリデンテ防衛戦
人面虫を倒す。そう宣言してから数日後。私はトリデンテにて戦闘の準備をしていた。
赤い雨は今もなお降り続いて人類に壊滅的な被害を与えている。水は汚染され、植物は枯れ、家畜も弱り果て、地球は死の惑星へとカウントダウンを始めたかのような状態になっている。
雨に打たれた人はどんどん身体が弱り、3日後には死に至ったとの報告もある。学校も休校になって、仕事に行くために外出する人も減った。働く人がいなくなると社会は成り立たない。だが外出したらしたで死が待ち受けている。正直どうにもならない状況なのだ。
「マリっち、本当にトリデンテに向かって来るのか? その人面虫は」
「うん、絶対に来るよ。イヴさんに人面虫の進路を確認してもらってるけど、私達が人面虫から逃げて以降、人面虫はずっと南下してるって」
人面虫はプレイヤーとは別の存在なので本来プレイヤーサーチに引っかからない。だがスノートリトンでツルギさんを取り込んだ事で、人面虫はイヴさんの追跡を逃れられなくなった。
イヴさんの部下であるツルギさんには、不測の事態に対応出来るように常に座標が特定出来るようデータが組み込まれている。現実世界でいうところのマイクロチップみたいなものだ。
ツルギさんを取り込んだことによってマイクロチップは人面虫の位置を特定する追跡マーカーへと変貌した。
『イヴさん、そのまま追跡をお願いします。人面虫がトリデンテの周囲10キロ圏内に入ったら教えてください』
『了解よ、マリちゃん。現在、人面虫は停止中。捕食行動をとっていると思われるわ』
『そうですか。捕食対象がプレイヤーじゃないことを祈るばかりですね……』
人面虫のことは運営が大体的に発表して警告をした。警告によって人面虫を怖がってNWに近付かない者もいるかもしれないが、現実があの状況だ。危機的状況の地球を諦め、NWに希望を託して、人面虫討伐に名乗りを上げる者もいる。しかしこれまで人面虫討伐の旗を揚げて挑んだ者は例外なく喰われたのだ。
「あ、双海さん。バリケードはなるべく人面虫の進路を誘導できるような配置でお願い」
「オッケー、ていうか、神崎さん。なんで人面虫がトリデンテに向かってくるってわかったの?」
「Nos.の殲滅を目的としてるからだよ。トリデンテにはNos.が4人いる。ツルギさんやカーマさんを取り込んだことによってトリデンテの位置も把握してる可能性が高いし、人面虫は必ずトリデンテに向かってくるよ」
「なるほど、つまり狙われてるのは神崎さん、姫、会長、ヒビキさんってことか……大丈夫? この作戦、かなり危険な気がするけど」
「大丈夫。もう誰もやらせたりしない。絶対に倒すよ」
「お……おぉ……なんか胸キュン」
「もう、双海さんも本作戦の一員なんだから、茶化さないでよ」
「わかってる、わかってるって。この瞳子ちゃんにど〜んと任せなさい!」
「うん、期待してるからね!」
◇
「よし、これで終わり。マリちゃん、こっちは準備完了だよー」
「ハヅキさん、ありがとうございます! ハヅキさんは作戦開始後は常にヒビキと行動を共にお願いします」
「了解! てなわけでしっかり守ってよねヒビキ」
「へいへい、ハヅキは初心者なんだから絶対に無茶はするなよ? 下手したら死ぬんだからな。あくまでも緊急時のサポート役だ」
「わかってるって、ヒビキこそ無茶しないでよね。アンタ最近いつも一人でどこかにふらふらいなくなっちゃうんだから」
「それは羽根があると行動範囲が広がってつい冒険したくなるっていうか……」
「はいはい、まったく人の気も知らないで。ヒビキは既にNWの住人なんだから私達より命の危険は多いのよ」
「あ、あのヒビキ、ハヅキさん、お二人とも痴話喧嘩はできれば後で……」
「うわ、マリっちに痴話喧嘩がどうとか言われたくねぇ〜……」
◇
『マリちゃん、間もなくターゲットが10キロ圏内に入るわよ』
イヴさんからの通信が入る。人面虫が全力でスプリントした場合、10キロという距離は数分だろう。私達もすぐに戦闘態勢に入ったほうがいい。
「先陣を切るのはハナビちゃん、よろしくね」
「まかせてください、完璧に遂行してみせます」
「ハヅキさん、ハナビちゃんにありったけの強化魔法をお願いします」
防御力、スピード、魔防の強化魔法をもらったハナビちゃんはトリデンテの入口に立ち、他のみんなも各々配置について人面虫を迎え討つ。
『ターゲット、トリデンテまで残り200メートル』
「ターゲット確認。第一陣、ハナビいきます!」
猛スピードでトリデンテに向かってくる人面虫を視認したハナビちゃんは手裏剣を構え、直進してくる人面虫に向けて三本投げつける。
一投目を目線の高さで。二投目を頭より高く投げジャンプする事を制止する。三投目はやや右側へ狙いをつけて投げた。
人面虫は攻撃を受けて反撃するタイプではなく何よりも回避を優先する。回避する方向を私達で上手く誘導すれば私達に有利な地形へと戦闘場所を移せるだろう。
「ふん、この程度の投擲が俺に当たるとでも? いいだろう、まずはキサマから食い殺す」
「追いつけるものなら追いついてみてください。ハナビは簡単には捕まえられないですよ」
人面虫はハナビちゃんに狙いを定めて走り始める。それと同時にハナビちゃんも走る。
ハナビちゃんにはハヅキさんからの強化魔法に加えてスピード特化の防具、武器を装備してもらっているから簡単には追いつかれないはず。
「ハナビちゃん、足速いな……装備や魔法のバフがあるとはいえ、かなりの速度が出てる」
生まれもっての素質だろうか? くノ一に憧れていると言っていたが、もしかしたらハナビちゃんにとってはくノ一は天職なのかもしれない。
とはいえ人面虫から一人で逃げ切るのは至難の業。私はステルスを使い、ハナビちゃんの進行方向にて待機している。
「ハナビちゃん、ポイントワン通過。援護射撃入ります!」
徐々にハナビちゃんに追いつきつつある人面虫に対して私は矢を撃って牽制する。私の矢に気付いた人面虫は後方にジャンプして回避行動を行う。ハナビちゃんはその間も走り続け人面虫との距離を広げた。
「ほう、Nos.自らが姿を現したな」
私の姿を確認した人面虫は私に襲いかかろうとする。しかしもう遅い。
私が矢を撃った瞬間に、私の後ろに待機していた会長はテレポを唱えている。人面虫が回避行動をおこなって私に気付いた直後にテレポは発動し、私と会長の姿は人面虫の前から消えた。
「ワープ魔法を駆使した戦法だと? くそ、どこに移動した?」
「アナタの相手はコチラです。ノロマなコオロギ」
私を探そうとしている人面に対してハナビちゃんは再び遠距離から手裏剣を投げつけて人面虫の注意を引く。
「一人では俺の速度に勝てないからといって猿知恵を……まぁいい。全員喰い殺せば問題あるまい」
「こちらハナビ。ターゲット、再び前進。このままプランαを遂行します」
ハナビちゃんはトリデンテの外周を迂回するように走り、人面虫との距離を保ったままトリデンテのはずれ、私達の住宅街からは離れた大きめの広場に辿り着いた。その広場には煉瓦で建てられた壁が複雑に張り巡らされており、迷宮のように入り組んでいる。
ハナビちゃんはそのまま迷宮の入り口へ走り込んでいき、待機していた私と沙耶にバトンタッチする。
「ハナビ、誘導ありがとう。あとは私がやるからハナビは人面虫に接触しないように離脱してね」
「必ず成功するって信じてます。あとはお願いします、マリお母様、サーヤお母様!」
「うん。じゃあ会長、ハナビちゃんをお願いします」
「わかりましたわ、くれぐれも無理はなさらないでくださいな」
先程と同じようにテレポを使い、会長とハナビちゃんは迷宮から脱出する。テレポ行き先はトリデンテの中心部。中心部に人面虫が近付かないかぎり、テレポは安全な脱出手段となる。
「よし、いこう! 沙耶」
「来たみたいだね……第二陣いくわよ」
入り口の方向に視線を向けると、人面虫が訝しげに迷宮の入り口を観察している。
「ようこそ、ここがアナタの墓場よ、人面虫さん。足を踏み入れる勇気があるかしら?」
「ふん。複雑に入り組んだ狭い通路に、天井はガラス張りか……なるほど、回避するスペースを限定して俺の俊敏性を制限しようと? だが退路がないのはおまえも同じだろう? Nos.1よ」
人面虫がゆっくりと一歩目の足を踏み入れ、私と沙耶はジリジリと後ろに下がる。まるでスタートのピストルを待っているかのような緊張感が走った。だが私が手に持っているのはピストルでもなければ武器でもない。辺りを照らしてくれる【たいまつ】だ。
武器ではなく、たいまつを手にした私を見て少し戸惑っているのか、人面虫といえど、この空間に誘いこまれた事を警戒しているようだ。どちらが先に仕掛けるのか、どちらがこの状況を有利に戦えるのか、見極める必要がある…と言った様子だ。
「…………沙耶、いくよ!!」
先に動いたのは私達。
私の合図に反応して人面虫は一歩後退る……が、私達がとった行動は前進ではなく後退。
入り口の直線通路の最奥に立っていた私達は曲がり角に入って人面虫の視界から消えると、全力で走る。
「この期に及んで逃げの戦法だと!? バカが、速さで勝てると思っているのか!」
私の後退を見て人面虫は入り口の直線通路を猛スピードで突進する。
そして曲がり角でスピードを緩めた瞬間、曲がり角の壁から大量の矢が飛び出して人面虫を襲った。
完全なる奇襲。今まで全ての攻撃を回避してきた人面虫に始めて攻撃がヒットした瞬間だった。
「ダメージは……?」
「通ってる! やったね、沙耶」
壁矢は完全奇襲型ダメージトラップ。命中率が高いがダメージ自体は高くない。つまり人面虫にとってはかすり傷程度だろう。だが人面虫にもプライドという物はあるらしい。回避に絶対の自信を持っていたのに誘い込まれた迷宮でまんまとトラップにかかってダメージを受けたのだ。
人面虫の顔は怒りに震えている
「ここに誘い込んだ本当の目的はトラップか! 小賢しい真似を」
「どう? これでご自慢のスピードで突進するだけじゃいられなくなったわね」
「ふん、この程度の小細工、全て振り切ってみせよう」
「言うじゃない、どこまでやれるか見物だわ……って!」
言い終わる前に人面虫は私に向かって突進してくる。
人面虫が通った通路の天井と壁からは槍や矢が飛び出るも、人面虫の圧倒的スピードの前に空を切った。
「直線だとやっぱりアイツのスピードが勝るか! 逃げるよマリ」
「う、うん! ていうか、またひとつギアが上がった。さっきより速い!」
「そうだね……でも、あのスピードのままじゃカーブを曲がり切れない。必ずブレーキがかかるはず」
再び曲がり角に差し掛かる人面虫。当然最高速度のままでは曲がれない。スピードを緩めるかと思ったが、怒りで我を忘れているのだろうか、そのままのスピードで壁に激突して壁から発射される矢に加えて天井からは槍が突き出てきて人面虫に刺さる。さらに私は激突した瞬間を見計らって矢を放った。
「やった!初ヒット!」
「マリ、喜んでないで逃げるよ!」
今までの一本道と違い、今度は複数の道がある三股の別れ道。私達は迷わず右の道へ入って先を急ぐ。
「人面虫は?」
「きたよ。トラップは……駄目だバックステップで回避された」
「さすがに学習したかぁ。とにかく目的地まで走るよ! マリ」
「うん! 」
次の別れ道を左、その次をまた、左、右、中央。的確にスムーズに進んでいく。対して人面虫は別れ道が来るたびに一時停止を繰り返すため、私達との距離は縮まる気配がない。
「おかしい……いくらアイツらが自らが作り上げた迷宮だからといって、こんなに迷いなく動ける物なのか? 目印になるような物もなければ常に同じ素材の壁を使っているから景色も変わらん。唯一景色があるとするならばガラス張りの天井から見上げる空くらいか。ん、あれは……羽根付きのNos.? そうか、そういう事か」
迷いなく迷宮を進む私達、振り返ると人面虫は遥か後方で空を見上げている。
「あれ? 距離があきすぎたかな」
『……いや、どうやらウチの存在がバレたらしい。ハヅキは安全な場所に退避させたからいいけど、このままウチが狙われたら厄介だな』
「大丈夫。このガラスの強度はかなり高いから、ちょっとやそっとじゃ割れないし……例え壊されたとしても人面虫のジャンプ力はヒビキの高度には届かないよ」
『それならいいけど……あ、人面虫再び動き出したぞ。距離を詰められないように注意しろよ。次の通路を左だ』
そう、私達がこの大迷宮を迷わず進めたのは上空からヒビキの指示を聞いていたからだ。下からは見えず上からは見えるように、あらかじめ目印をつけておき、目的地までヒビキの指示で最短ルートをいく。
「迷宮に入る前に羽根つきの存在に気付いておくべきだったか……だが迷宮に入ってしまったものは仕方ない。トラップなんぞ全て回避してあの二人を喰い殺す。だが辺りを照らすためにたいまつを手にしたのは失敗だったな、Nos.よ。その灯りのおかげで、例え遅れをとってもおまえらが逃げた方向が丸わかりだ」
人面虫はスピードに物を言わせながらトラップを回避して徐々に私達との距離を詰めてくる。人面虫も全てのトラップを回避しているわけじゃないから何度か被弾しているが、そのダメージ量はひとつひとつが小さくて全てのHPを削り取るにはあまりにも貧弱な威力だった。
「くひひひ、どこまで逃げれるかなNos.。例えトラップを駆使して微弱なダメージを蓄積させても、削り切るには時間がかかる。そりゃこの迷宮が無限に続いているならば、オレに追いつかれない限りいつかオレのHPを削りきれる。だがなぁ…………」
長い長い迷宮の果て、そこは確かに存在する。私と沙耶が走り続けたその先はひとつの小部屋。ここでこの迷宮は終わりだ。
私達が小部屋に辿り着いた数秒後、人面虫も小部屋に侵入してきた。
「そうだ、いつかは終わりがやってくる。この迷宮も、お前達の命もだ。ここがお前達の墓場だ、Nos.」
四方を壁で囲まれた逃げ道のない小部屋。木の床がギシギシと軋む。
そこで私と沙耶は人面虫と向き合い、私達はついに武器を抜き戦闘態勢に入る。
「いいよ、決着をつけよう人面虫。NWの平和も、私達の未来も、全部ここで勝ち取る!」
「くく……はは! 威勢だけはいいようだが、タイミングを見誤ったようだなNos.よ。オレとやりあいたいならば道中の通路で剣を抜くべきだった。あの場所ではオレとて後方にしか回避ができない。だが、この小部屋は前後左右自由自在。まぁ通路でやりあったとしても、多少の攻撃を受けるだけで、おまえらを喰うことくらいは造作もないがな。どの道おまえらはここで死ぬ。おまえらは迷宮という名の墓を建てて自らを弔う準備をしたに過ぎない。 一瞬で終わらせてやる、Nos.!」
そう、勝負は一瞬。
私達の本当の狙いは道中のトラップで人面虫を削り切ることじゃない。
いかにして本来の目的を人面虫に悟られずに、この場所へ誘い込むかだった。そして今がその時……私達が狙っていたのはこのタイミングだ。ここで全てが決まる!
「双海さん、GO!!」
「ガッテン承知のワイルドスネーク! いっけぇぇぇ!!!」
人面虫が私達向かって突進しようと走り出したタイミング、そこで私の合図に反応した声の主は双海さん。その場所はこの部屋でもなければヒビキのいる上空からでもない、地下だ。
私達の真下に掘ってある穴から双海さんは得意武器である蛇流棍のリーチを活かして、私達が立っている木の板で作った床を破壊する。当然そこに立っていた私と沙耶、そして人面虫は崩れた足場がなくなり落とし穴のように掘られた狭い空間へと落下していく。
「バカな!? 落とし穴だと!」
落とし穴に落ち、地面に着地する私達。だが地面と言ってもただの地面ではない。
「な、なんだ!! 何故動けない!?」
着地した地面に敷き詰められていた物、それは双海さんが村人Cさんから買い取ったと言っていたトラップ【ダンボーさん】だ。その粘着力で人面虫も私達も移動が制限される。これにより人面虫にジャンプで落とし穴から脱出されることはない。
「ぐッ、だが、この狭い空間ならば、キサマ達を喰い殺すことくらい……!」
「沙耶! いくよ!!」
「悪いわね、人面虫さん。あなたはここで終わり。さぁ、いくよ【アイギス】!」
沙耶を囮にしたのは、ただなんとなくではない。
前回、手も足も出なかった人面虫戦、唯一通用していたものがある。それが沙耶のアイギスだ。沙耶のアイギスが通用するならば、それを有効活用しようと考えた。そして沙耶のアイギスで守られつつ、人面虫の移動を制限したこの状況ならば……これを使わない手はない!
「これで仕上げだよ!」
私は手に持っていた【たいまつ】を壁に向かって投げつける。
「そんな物を投げて一体なにを……なっ!? この穴を囲っているのは壁じゃなく……」
「そう、部屋に敷き詰められているのはダンボーさんだけじゃない……これが私達の最後の一撃! 爆ぜろ、ビッグバン!」
壁のように四方に敷き詰めらた物、それは敵味方なく全てを吹き飛ばす超高火力の爆弾【ビッグバン】だ。
私の投げたたいまつにより引火したビッグバン。一つが爆発すれば隣接するビッグバンの爆発も誘発して超高火力の連続コンボになる。
「バカな……このオレが! このオレがぁぁぁぁ!!」
いまだかつてないレベルの大爆発。轟音、地響き。
おそらくサイバーフィッシュ辺りまで聞こえているだろう。それくらいは大きな音だった。
爆発の中心にいながらもアイギスに守られて無傷な私、沙耶、双海さん。対して人面虫は跡形もなく完全に消し飛んでいる。
「勝った……の?」
「勝ったよ、マリ!」
「やっっった〜!! やったよ! 神崎さん!」
周囲の地形、私達が作った迷宮、全てが吹き飛んで巨大なクレーターのようになった穴の中で、私達は3人で抱き合って喜びを分かち合う。
「マリお母様、サーヤお母様! お見事でした!」
巨大な穴の斜面を勢いよく滑り落ちてきて私達に抱きついてくるハナビちゃん。任務遂行中は立派に務めを果たしたハナビちゃんだが、どうやら私達の危険な作戦に気が気でなかったようだ。私は「心配かけてごめんね」とハナビちゃんの頭をなでる。
「ったく、よくもまぁこんな大胆な作戦を思いつくもんだよ、マリっちは。下手すりゃ喰われるってのに」
「でも、そうでもしないと倒しきれない難敵、よくやりましたわ」
「そうだね。本当にお疲れ様、マリちゃん」
ヒビキ、会長、ハヅキさんもその輪に加わって、まるで優勝をしたスポーツチームかのように飛び上がりながら喜んだ。
「って、みんな降りてきちゃダメじゃないですか。登るの大変ですよ、これ」
「ウチは飛べるし」
「じゃあ、ヒビキがみんな運んでよ」
「やだよ! 面倒くさい」
クレーターの中で賑やかに笑う声が空に響き渡る。
これでこの世界は平和になったのだろうか? 私達が安全に暮らせる世界になったのだろうか? いや、例え今が安全でも、いつか必ず新たな問題や争いは生まれてくるのだろう。だけど今だけは平和を噛みしめよう。私達は未来を手に入れたんだから。




