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「じゃあ、あの専用のVR機器で、プレイヤーの脳とPCアバター間の記憶をやり取りしてるってこと?」


 放課後、沙耶と並んで歩き、その後のコメントと回答をチェックする。私達が授業に遅れて参加した後も、かなりのやり取りがされていたようだった。


「そうだね。専用VR機器を配布したのは、NWプレイヤーの脳とやり取りする特殊な機能を使うためみたい」


 VR機器なんて高価な物を無料でプレイヤーに配っている……この計画にかかっている資金は一体どれほどの額になっているのか想像もつかなかった。国ぐるみ…いや、世界全体で資金援助でもしたのだろうか。


「沙耶は今回の件、家族に相談する?自分がロスト・メモリーズだって……」

「しばらく様子見かな。NWにログインする事を止められちゃうと思うから」

「そうだよね……私も家族には内緒にしておく。昨日は上手くごまかせたと思うし」



 ◇




 沙耶と別れ帰宅すると、さっそくNWにログインするためにVR機器を手に取る。


(この小さな機械1つで人間の記憶をアバターへ転送してるなんて……)


 私がNWにログインしようとしたその瞬間、コンコンッ!とドアをノックする音が響いた。


「お姉ちゃん、いるー?」


「えっ、いないよ!」

「いるじゃん。入るよ?」

「う、うん……」


 しまった。記憶を取り戻すまでは、なるべく妹と顔を合わせたくなかったのに……。



「何慌ててるの、やらしー事でもしてた?」

「そ、それをいうなら、やましいだよ……何か用事?雪ちゃん」

「今日、私の誕生日だから一緒にケーキ買いにいこうよ」



 よりによって今日が誕生日なんて……記憶がないので全然知らなかった私は、とっさに言い訳を探す。姉が妹の誕生日を忘れていたなんて知ったら、絶対に悲しむだろう。しかし、沙耶との約束も無視出来ない。


「そ、そういえば今日だったね!1時間くらい待ってもらっていい?どうしても外せない用事が……」

「ウソ」


 私の言葉は、冷たい視線を向ける妹によって遮られた。


「私の誕生日は今日じゃないよ。毎年祝ってくれるのに忘れてる?」

「ご、ごめん!ド忘れしちゃってて」

「一週間前に祝ってくれた誕生日、忘れるわけないよね?」

「雪ちゃん、なんで……」

「お姉ちゃん、NWにログインしてたでしょ。昨日のお姉ちゃん、何か変だった。話していて違和感があった。私の記憶……ある?」


 バレていた……。上手くごまかしたつもりでも、接し方がいつもと違ったんだ。

 ただそれだけなら、ごまかせたかもしれない。でも、NW社の発表であれだけの騒ぎになっている今、記憶を疑われるのも当然だ。


「ご、ごめん……実は昨日の夜から雪ちゃんの記憶がなくて……」

「はぁ~、やっぱり。じゃあ今の私は、お姉ちゃんにとっては見知らぬ他人なんだ?」

「で…でも、たった一日の記憶だけど、雪ちゃんは凄くいい子だってわかったし、雪ちゃんの事、全然知らなくても安心出来たよ!」

「……NWにログインするの?」


「身内の記憶を奪ったNWに昨日の今日ログインするなんて正気の沙汰でないことはわかってるよ。

 雪ちゃんが心配してくれるのも理解出来る。でも、止められてでも絶対に行かなくちゃいけないんだ。このまま記憶が抜け落ちたままだなんて、もっと嫌だから!」



 雪ちゃんは、ため息をついて、冷めたような目つきで私を睨みつけてくる。


「別に心配なんてしてない。本当に記憶がないのか確かめたかっただけだから。さっさと行ってきなよ」


 予想と違う言葉が返ってきて、あれ?と、困惑してしまう。

『お姉ちゃんをこれ以上危険に晒せない!』みたいな事を言って全力で止めてくるものだと思っていた。


「も、もしかして怒ってる?」

「怒ってないけど……あの言葉、信じてるの?世界が終わるとか、ゲームの中で暮らすみたいな話」


 どうやら雪ちゃんは、私がNW社の言葉通りにNWの世界への移住を考えているのか、そこが不安だったらしい。

 確かに、あの説明だけ聞いてるとバカバカしいかもしれない。世界の終焉なんてまったく実感がないし、世界の外側の事もわからない。宇宙が作られた理由も、地球が誕生した意味も、確かな事は全然わからない。

 でも、こんな知らない事だらけの世界だからこそ、いつ終わりが来ても不思議じゃない。だから私はNW社の言い分に少し傾いているのだと思う。


「とりあえず記憶が戻ったら、またお話しよ?今後の事」

「うん……いってらっしゃい」


『いってきます』と返事をして私はNW専用のVR機器を身につける。このVR機器で記憶がやり取りされると、思うと少し緊張する。記憶だけではない。もしかしたら魂ごと持っていかれる可能性だってある。現にNW計画最初の被験者は、既に電脳世界の住人になっているのだから。


 視界が変わる寸前、雪ちゃんが何か呟いた。


 ――ここで見守ってるから。


 なんだ、やっぱり心配してくれてたんだ。

 私は少しホッとして、電脳空間へのダイブに身を委ねる。

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