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村人C

「ここが村人Cさんの家かな」


 私達はスノウさんの言っていた声の噂を確かめるために、スノートリトン内の北東側にある村人Cさんの家を尋ねる。


「すみませ~ん。村人Cさんはいますか?」


 スノウさんの話によると、村人Cさんは最近、NWにログインしても自分の家に籠って何かをしている事が多く、あまり外を出歩かないので家を訪ねれば高確率で会えるよと教えてくれた。


「いないのかな」


 沙耶が扉の前で村人Cさんを呼ぶも反応がない。


「もしかしたら居留守かも」

「居留守? なんで?」

「私もリアルでよくするから」


 口下手だった私は、家に一人でいる時に予定のない来訪者が来ると居留守を決め込む癖がある。

 いざ出てみると、やれ変な会への勧誘だ新聞の勧誘だ、更には悪徳セールスマンの可能性だってある。

 もちろんネットで注文した物が届く時などは、しっかり対応するがアポなし訪問は面倒な事が多いので基本、居留守を使っている。


「一応ノックしてみて駄目なら帰ろうか」


 と言って私は村人Cさんの家の扉にノックをしようと近付いたその時、扉から無数の針が飛び出してきた。針というか槍というか。まるで扉の向こうに数十人の槍兵がいて、扉越しに私を貫こうとしているかのような勢いである。


「へ!?」


 私は思わずバックステップをして後退するが、今度は屋根に設置されている木製の土台から矢が飛んでくる。


「ひぃ!」


 こちらの矢はシンプルに一本だけ。ギリギリで回避した矢は私の足元の地面へ刺さる。


「な…なにこれ!?」


 あまりにも唐突に訪れたトラップコンボに私も沙耶も呆気に取られて立ち尽くす。

 すると次の瞬間、先程は呼びかけても反応がなかった村人Cさんの家の扉が勢いよく開いた。


「ついにやったか!? 幽霊を仕留めたのか!? ……ん?」


 扉を開けて出てきたのは、ブラウンを基調とした民族衣装に身を包んだ男性。短めの髪にも、ゲームの村人NPCが着ているような衣装にも派手な特徴はなく、まさに村人といった風貌をしている。


「えっと、村人Cさんですか?」

「あ、ああ。君達が幽霊かい?」

「いや、私達どっから見ても普通のプレイヤーですよね」

「……そのようだね。だが君達とは初対面のはずだ。見知らぬ美少女が二人も訊ねてくれば疑いもするさ」

「ごめんなさい、突然訊ねてしまって。実はお聞きしたいことがあって」



 ◇



 私達は先程スノウさんから聞いた話を元に、村人Cさんの聞いた声が気になり、詳しく調べたいという理由で訊ねた事を説明する。


「ということは君達が真相を暴いてくれるのか!? あのゴーストボイス事件の真相を!」

「ええ、まぁ……ちょっと気になる事もあるので」


 たった一度、正体不明の声を聞いただけで随分と大袈裟な名称をつけた物だと思い、私は少々戸惑いながら返事をする。


「よ、良かった! 実は恐ろしくなってスノートリトンから退去しようか迷っていたんだよ」

「そこまで深刻なんですか? サーバーの不具合で別の場所にいたプレイヤーの音声が聞こえた、なんてことも……」

「もし、そうならばそれでいい。とにかく調べてほしいんだ」


 まずは村人Cさんに案内されて、声が聞こえた場所まで移動する。

 案内と言っても目的地はこの町で一番目立つホワイトランスの根本なので、案内されずともわかる。だがしかし現場検証するにあたって本人がいたほうが聞ける事もあるだろうと思い同行してもらう事に。トラウマを抱えて現場に行くのを渋っていた村人Cさんは、よほど現場に行きたくないのか、私達を盾にするように隠れて歩いている。案内人である村人Cさんの前を私達が歩いて先導する、案内人を案内しているかのような奇妙な光景が出来上がった。


「あ、この先ですよ。私が声を聞いたのは!」


 ホワイトランスの根本の少し手前で村人Cさんは立ち止まり、ホワイトランスの根本を指して言った。どうやらこれ以上は進みたくない、足を踏み入れるのは絶対に御免だと言わんばかりに後ずさる。

 ホワイトランスの根本の周りには、いくつものベンチや出店などが設置してあり、賑わいを見せている。


「とてもオバケが出る雰囲気じゃないですね」


 そこはパレードでもしているのか? と思うほどに人が多く、左を見れば客を呼び込む店員のハキハキとした声。右を見れば、まるで広場で遊ぶ子供のようなフレンド同士の無邪気な明るい会話。そしてカップル達と思われる男女ペアはベンチで爽やかに談笑している。


「私が来たのは夜、しかも深夜だからね。雰囲気はまるで違うよ。だからこそ、そのギャップで余計に怖いんだ。ほら、日中は生徒で賑わう学校だって夜になれば一気にホラーの象徴みたいな空間になるだろ」


 言われてみれば、確かにそんな気がしないでもない。


「じゃあ、また夜に来ましょうか」

「なななに言ってるの君! 私の話を聞いてなかったのか!? 夜はヤバイんだって!!」


 聞いていたから夜に調査をしたいのだが、この調子では深夜に同行してもらうのは無理かもしれない。そもそも翌日が休みじゃないと深夜にログイン出来ないだろうし、深夜の同行は諦めて個人で調査をすることにした。


「あ、でもその前に声が聞こえた方向や時間、曜日なんかも詳しく教えてもらっていいですか? 覚えている範囲で」

「あ、ああ……ちなみに依頼料とかってかかるの?」

「個人的に気になる事があるだけですから、お金は取りませんよ」

「そうか、良かった。実はあれからマイホームの防衛家具を商人から買い漁ったせいで金欠なんだ」

「ああ、それであの家……。でもお金を払う価値のある立派な防衛機能でしたよ」


 先程、その防衛家具の恐ろしさを身をもって知った私はそう答えたのだった。その言葉を聞いた沙耶は、さっきの私の姿を思い出しているのか、クスクスと笑っているのだった。



 ◇



「それじゃ、今日は落ちようか」

「そうだね。お疲れ様、沙耶」


 さすがに今日は色々とあって疲れた。

 村人Cさんの話によると声が聞こえたのは水曜日の深夜。

 なるべく条件を合わせて調査をするために今日の深夜の調査は見送って水曜日を待つことにした。

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