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犯人って沙耶なんじゃ……

 私と沙耶が今トリデンテにいるのは、村を作ることを率先していたセーラさんのおかげだろう。

 だからこそセーラさんが執行者であるツルギさんにアカウントブレイクをされて、二度と会えないと知った時に涙した。

 だが、そのセーラさんの意識は現実に戻らず、今もこのNWを彷徨っているとは……。



「どこにいるんですか? 会えるんですか?」


「この地域のどこかにセーラちゃんの魂があることは把握しているわ」



 そう答えたのはツルギさんの横に立っていたイヴさん。

 PKされたプレイヤーが意識不明になったという話を聞いて、事態を重く見たイヴさんは独自に調査をしていたらしい。



「ツルギくんには各地の調査をお願いしていたのよ。彼、どうしても償いをしたいって聞かないもんだから、私の使いとして派遣してるわけ。Nos.は貴重な研究対象だし、側に置いておけば何かと便利だしね。カーマくんはおまけみたいなもの」


「おまけって、酷いじゃないですか! ボス」


「そのボスって言うのやめなさい」



 どうやらネカマさんはイヴさんの事をボスと呼ぶらしい。

 ノリがチャラいのは相変わらずだな。

 ネカマさんは以前、執行者のツルギさんに手を貸して私達と対峙したヒーラー特化の後衛プレイヤーだ。



「あ!」


「うん? どうしたの、マリちゃん」


「いえ、さっきツルギさんが合図した時に回復魔法が飛んできたのってネカマさんが回復してたんですね」


「はは、手品の種がバレちゃったか。あとネカマじゃなくてカーマな」


 聞くとネカマさんはツルギさんが償いをするのを手伝っているらしい。アカウントブレイク事件の時も「親友だから」って理由だけで手を貸していたっけ。



「それで、セーラさんの詳細な居場所は特定出来るんですか?」



 少し脱線した話を元に戻すべく沙耶がイヴさんに問う。



「魂だけがNWを彷徨っている状態だから特定が難しいわね。彼女のPCは完全にNWから消えてしまった状態だから器がないのよ」


「器……イヴさんは以前、会見の時に魂の乗り物を乗り換えるようなものって言ってたけど、今はその乗り物がなくて困っている状態ってこと?」


「そういうことよ。もしかしたら何か別の物を依り代にしている可能性もあるわ」


「別の何か? 例えば……モンスターとか?」


「モンスターはないわね。あれには個々に魂がある、つまりモンスターも私達と同じでしっかり生きてるのよ」


「同じ器に二つの魂は入れないって事か……じゃあ武器とか?」



 沙耶が"武器"という言葉を口したのを聞いて私はハッとする。

 武器を依り代にするとしたら以前セーラさんが使用していたトリデンテはどうだろうかと思い、それを沙耶に伝える。


「トリデンテか……あるかも。イヴさん、どうです?」


「残念ながらトリデンテではないわね。あの槍はあなた達の村の中央にあるでしょ? 私の調べでは魂はこの地方にあるのよ」


「ああ、そっか。だからイヴさんの使いであるツルギさんがこの地方を調査してたのか」


「その通りよ。そして噂話を利用して、あたかもホワイトフードを犯人に見せかけたってところかしら」



ツルギさんはNos.としての悪評が広まっているため、むやみやたらに顔を晒せないから顔を隠しやすいロープにフードで怪しげな雰囲気を醸し出していたのか。そして殺人犯を調査する私、セーラさんを調査していたツルギさん。偶然鉢合わせてしまったツルギさんは私を見て逃げた、と。


「なんで逃げたんですか?」


「引退宣言までしたのに、どの面下げてマリ嬢ちゃん達に会えばいいのさ」


「あぁ……でも、イヴさん言ってましたよ。ネトゲで引退宣言する人は絶対戻って来るって」


「耳が痛いよ。でも言い訳させてもらえるなら、僕は楽しむために戻ってきたわけじゃないんだ」


「はぁ……」



まぁ、そりゃそうだろう。

アカウントブレイクをした執行者がゲームを楽しむために戻ってきたら批判の的になって大炎上するかもしれない。



「ところで、どうするんです? こいつら」



 こいつら、と沙耶に言われているのは先程から戦闘不能になったまま放置されているイーグルさん、マルアニスさん、ロイスさんの三人だ。



「そうね……リアルで警察につき出したいところだけど、そうすると直接取り調べが出来ないわ。この三人には聞きたいこともあるし、エンゼルケアの檻に閉じ込めて取り調べをした後にツルギくんのアカウントブレイクでこの世界から排除して、リアルで裁きを受けてもらおうかしらね」


「エンゼルケアってヒビキのお父さんですよね? 仕事に復帰してるんですか?」



 以前、ヒビキの記憶を取り戻す際に戦ったヒビキの父親であるエンゼルケアさんは、事態を重くみたNWが処分をくだして、しばらくは仕事に復帰出来ない状態だったと聞いたので私は質問してみた。



「ええ、まぁ正式に復帰したわけではないけど私の監視の元で使わせてもらっているわ。ツルギくんと一緒ね」



 ようはツルギさんもエンゼルケアさんも女王イヴさんに仕える騎士みたいなものか。



「ツルギくんとエンゼルケアのNos.は違反者を裁くのに便利なのよ。【ディープ・シー・ゲージ】は逃走不可の絶対監獄。【アカウント・ブレイク】はアカウントの永久凍結」


「あぁ~……なるほど」



 つまり他のMMOで言うところのGM(ゲームマスター)の役割をやらされているわけだ。



「その二人がGMって言うのも皮肉な話だけど」


「マリちゃん、声に出てる」


「はっ!!」



 うっかり口に出してしまったことに焦り、慌てて口を押さえるが時既に遅し。ツルギさん本人にもバッチリ聞かれていた。



「はは、でも、その通りさ。だから僕は死ぬまでイヴさんやNWに使われる事を決めたんだ」


「死ぬまでって……大袈裟な」


「いや、それが今の僕が出来ること、罪滅ぼしなんだ」



 NWでは老化も寿命もなく、残機システムが採用されるので、死ぬまでと言ったら半永久的な意味にも聞こえるが、本人がそれでいいなら私が口を挟むような問題でもないだろう。


「さてと、それじゃあこの殺人犯達の処分と尋問があるから私達は一度退散するわ」


「え……あの、セーラさんのことは?」


「後日また連絡するわ。暇があればアナタ達も独自に調査をしてもいいわよ。ああ、それとヒビキちゃんとハナビちゃんには安全な場所で待機してもらってるから、トリデンテに帰ってもいいように私から伝えておくわ」


 そう言うとイヴさんは戦闘不能状態のイーグルさん達を担いだツルギさんとカーマさんを連れてワープで次元の狭間に消えていく。



「あぁ~……えぇ~……まだ聞きたい事いっぱいあったのに」


「まぁ忙しいっぽいからね、イヴさん」


 随分と賑やかだった場所に二人だけポツンと残されて随分と寂しい場所へと早変わりしてしまった。

 そして一応殺人犯を特定して倒すという大仕事をしたのだが、随分と雑な扱いで終わったことに苦笑する私と沙耶。



「それにしてもトリデンテから随分と遠い場所だよね、ここ」


 沙耶が一面の雪景色を見渡しながら言う。


「うん、そうだね。雪だるまでも作る? それともかまくら?」


「そうじゃなくてさ、セーラさんのこと、どうするの?」


「もちろん探すよ! 半年間も意識がないなんて知らなかったし……」


 アカウントブレイクの効果によってNWにログイン出来なくなっても現実世界では元気にやっていると思ってた。ところが半年間も意識がない状態が続いていたなんて。


「それじゃ、このままスノートリトンへデートにでも行こっか」


 沙耶は私に右手を差し出してそう言った。

 突然のお誘いに慌てながらも私は右手を取る。


「ええ!? うん、うん! 行く行く! えへへ、なんかデートって久しぶりだね」


「いや、本当にデートしようって意味じゃなくて情報収集しようって話だってば」


「あぅ……」


「そんな落ち込まないの! わかったわかった、情報収集しながらデートね」


「さすが沙耶! 優しいなぁ」


「ていうか、そんなに久しぶりだっけ? デート」


「沙耶ってば覚えてないの!? 久しぶりだよ~、最後にデートしたのは……いつだっけ?」


「マリも覚えてないじゃん!」


「覚えてないくらいしてなかったの! ほら、いくよ沙耶」



 私は繋いだ手を引っ張りながら雪道を歩く。

 なんだか恋人と雪道を歩くのってロマンチックというか、少し憧れていたシチュエーションなのでテンションが上がってしまう。私の住む地域は雪が積もる事は稀だったから尚更だ。


「マリ、はしゃいで転ばないようにね」


「も~、子供じゃないんだから転ばないよ。ていうかさっきから私ばっかり喜んでるみたいじゃん。沙耶は嬉しくないの? 久しぶりのデート。しかも雪景色での!」


「んー? 嬉しくないように見える? 私の今の心境がわからないなら……そうだね、行動でわからせてあげる」


「へ? きゃっ……」


 沙耶はそう言うと繋いだ手を私の体ごと勢い良く引き寄せる。

 腰に手を回され、顔と顔の距離はゼロ距離。

 そのまま唇を重ねると、一面の雪に押し倒されてしまった。


「んっ……沙耶……」


「わかった? 私の心境」



 雪の布団に包まれて身体を寄せ合い、お互いの温もりを感じていた私達。しかしそれも長くは続かない。



「って、さむーーい! 凍死しちゃうよ!」



 そう、とてつもなく寒い。ゲーム内なのに寒い。いや、正確には寒いと言うより冷たいと表現すべきだろうか。

 それもそのはず。味覚と同時に様々な感覚を試験的に導入したNWは温冷感もきっちりと実装され、季節や地域によって暑さや寒さを感じるようになっているのだ。最も、不快指数を上げすぎて生活しづらくなるのは誰も求めていないだろうから、暑いというよりは暖かい、寒いと言うよりは涼しい程度の過ごしやすい環境を作っている。

 だがそれは普通に生活していればの話だ。積もった雪に埋もれたら冷たさは何倍にも膨れ上がるし、もしも火山に近付いたら暑いだろう。



「さすがに雪原では無理があるか」



 立ち上がった沙耶は私の手を掴んで、雪に埋もれた私を引き上げ、体についた雪をお互いに払い落とす。



「も~、本当に沙耶ってば、いつもいつもこんな所で……あ! やっぱりハナビちゃんに変な知識を遺伝させた犯人って沙耶なんじゃ……」


「まだそれを言うか、違うよ…………たぶん」



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