彷徨う槍
ツルギさんやネカマさんに続いて現れたイヴさん。
しかし私達はイヴさんの登場に対しては驚かなかった。だってイヴさんに連絡入れてここに呼んだのは他でもない私達だからだ。
「遅いだなんて失礼ね。ちゃんと間に合ったでしょ。ほら、そこに私の使いがいるじゃない」
"そこ"と指を差されている場所に視線を向けるが、そこにいるのはツルギさん一人。念のため、目を凝らして別の何かがいないか探してみるが、当然そんな物は存在せず、イヴさんが指を差してるのは紛れもないツルギさんであることを確認する。
「え……じゃあ、もしかしてツルギさんをここに寄越したのはイヴさんってことですか?」
「まぁ、そういうことよ」
会長、双海さん、ハヅキさんは今日、用事があるとの事でログイン出来ず、動けるのは私と沙耶、ハナビちゃんにヒビキの四人だった。
連続変死事件の犯人と決着をつけるのは、やぶさかではないが、いくら私達で犯人を倒したとしても私達はリアルではただの中学生であり、このゲームではいちプレイヤーなのだ。正直、犯人と決着をつけた所でなんの解決にもならない。
そこでヒビキ達にはNW運営に携わっているイヴさんに連絡を入れてもらい、私達に協力を仰いだのだが……何故か途中で介入してきたのは引退したはずの元執行者、アカウントブレイクのツルギさんではないか。
「実は今、イヴさんの元でとある仕事をしてるんだ」
私が疑問に思っているのを察したのか。ツルギさんはそう言った。
「イヴさんの元で……ってツルギさん、NW社の社員になったんですか!?」
「いやいや、そんな立派な物じゃないよ。社員でもなければバイトでもない、過去の過ちの尻拭いさ」
聞くとツルギさんはアカウントブレイク事件の後、イヴさんに連絡を取り、自分が破壊したアカウントのプレイヤーに対して謝罪をし、なんとかNWに復帰出来るように解決策を探していくと伝えたそうだがPKされたプレイヤー達はNWに未練もないし復帰したいとも思わない、何よりも移住計画に乗るつもりはないと口を揃えて言っていたそうだ……ただ一人を除いて。
「被害者に謝罪をおこなっている内に、被害者の一人がNWプレイ中に意識不明になっている事を知ったんだ。そしてそれは僕がPKを……その被害者にアカウントブレイクを使った日と一致する」
その人物は、その日、いつものように学校から帰宅し、家族と軽い会話をかわしてからNWにログインして、変わった様子は見当たらなかったらしい。
しかし、NWにログインしてから数時間、いつもならゲームをやめて寝ている時間になってもログアウトしてくる気配はなし。その時は翌日が休日だったので遅くまでプレイしているだけだろうと深く考えずにいたらしいが、翌日になってもその人物はNW専用VRを装着したまま動いていなかった。
さすがにおかしいと思った家族はNW専用VRを強制的に外してみたが、その人物が目覚める事はなかったそうだ。
「家族には僕がアカウントブレイクを使ったせいかもしれないと説明したが、ゲームで攻撃されたからと言ってリアルの人間が意識不明になることはないだろう、って呆れられてしまったよ。ゲームの激しいエフェクトやなんらかの影響で人体に影響があってもそれは君のせいではないってさ」
まぁ、その家族の反応は当然だろう。
普通はゲーム内での攻撃でリアルの体が傷付くなんて思いやしない。だがNos.は使い方次第ではリアルの人間を殺める力を持っている事をイーグルさん達が実戦している。
「それで、どうなったんですか? その意識不明者は」
「いるんだよ」
「え?」
「いるんだ……まだ、このNWに意識だけが」
「意識だけが彷徨っている状態……って事ですか?」
「ああ、そしてこの話はマリ嬢ちゃん達にも無関係じゃない」
「それって……」
そこまで言われて、私はようやく気付く。
アカウントブレイクによってPKされ、現実世界に戻らずにNWを彷徨う魂……。
あれは何曜日だった? 翌日は休日だった? 何時まで遊んでいた?
彼女はNWで暮らしたいと言葉にしていた。
だから……だから現実に戻らなかったんだ。
二度とNWにログイン出来なくなるアカウントブレイクの効果を受けたその時に、意識が現実に戻ることを拒絶したんだ。
「セーラさん……なの?」




