コンビネーション
「マリ嬢ちゃん、サーヤ嬢、先にロイスを叩くぞ」
「え…あ、はい」
「突然出てきて偉そうに」
沙耶は少し不満を漏らしながらもツルギさんに続いてロイスさんに向かい剣を向ける。
まぁ、引退宣言した執行者が何の前触れもなく目の前に現れて私達のピンチを救ったのだ。私だってわけがわからないし文句の一つでも言いたい。
だが、状況が状況なだけに説明している暇もないのだろう。まずは自分達の命を守るのが先決だ。
どうやらユニゾンは術者が被弾すると解除されるらしい。
詠唱中に被弾すると詠唱が中断される魔法に似た性質だ。
「おいおい、俺達は無視かよ!」
「当然、無視よ! まずはロイスを叩く!」
イーグルさんとマルアニスさんをパスして真っ先にロイスさんに向かったので後ろからは二人の罵倒と攻撃が降り注ぐ。
だが肝心のロイスさんは私達三人による集中攻撃を受け、ユニゾン状態を維持出来ていないので私達がイーグルさんとマルアニスさんの攻撃によりリアル側で死ぬ心配はない。
「切り裂け!【真空剣】」
どうやらツルギさんはデスサイズ・マンティスから入手した素材で作ったあの剣を今も使っているらしい。
斬撃と同時に風の刃がロイスさんの身を切り裂く。
「舞い踊れ!【キリングステップ】」
沙耶は防御スタイル時に好んで使うキリングステップで舞うように剣で切り刻む。
沙耶は以前、闘技場に挑む時にスキルをリセットして振り直し攻撃スタイルになったが、今は再び防御スタイルの沙耶に戻っている。その影響で使える攻撃スキルの種類は減っているので、キリングステップは唯一の攻撃スキルだ。
「【桜花爛漫】サイレントアロー・極式!」
私は変幻自在のマリアージュで想弓・シルフィードを具現化し、ロイスさんの後ろに回り込み、桜花爛漫の効果でサイレントアロー・零式を極式に進化させてロイスさんに撃ち込む。
零式は対象の後方ゼロ距離から撃ち込むと爆発的な火力を発揮するがスキルで、極式は後方ゼロ距離に加えて狙う部位次第で更に火力を底上げすることが出来る。
モンスターの弱点部位は種族ごとに決まっているみたいだが、どうやらプレイヤーには個性が存在するらしく、人によって弱点部位が変わる。
しかし私は迷わずにロイスさんの後頭部を撃ち抜く。するとサイレントアロー極式は見事に最高倍率のダメージを叩き出してロイスさんは瀕死になった。
弱点部位を予め把握している理由はもちろん【アナライズ】の効果だ。ロイスさんが木から降りてきた最初の会話の時点で、私はこっそりとロイスさんの情報を透視させてもらった。
ロイスさんは私とおしゃべりしてる間に数的優位をイーブンに戻される事を気にしていたが、【アナライズ】にて情報を抜き取って弱点を把握する時間は、あの短い会話の中でも十分に稼げた。
「くっ……イーグル、マルアニス! 早くコイツらを倒すんだ」
「わかってるさ! 」
私達三人の集中砲火を受けたロイスさんは一気に瀕死になって焦りの色が見える。
必死に回避を試みたりはしているのだが、相手が三人となっては回避した先で追撃されてどうにもならない。それこそ沙耶レベルのプレイヤースキルが必要だろう。
「くそっ、無視をするな! トリデンテッ!!」
ロイスさんに攻撃を集中させていたため、完全に無視を決めこまれていたマルアニスさんは憤怒して沙耶に槍を突き立てているが、ダイヤモンドシールドのカット効果によりライトニングウェポンの追撃は無効化され、無駄撃ち状態だ。
「無視するなって? いいよ、相手をしてあげる」
冷静さを失っているマルアニスさんに対して沙耶は冷静に、そして冷徹な視線を向けて振り返る。
それと同時に振り返った沙耶の後ろでロイスさんの体はゆっくりと倒れ、戦闘不能エフェクトが展開した。
「ちっ、ロイスがやられたらどうしようもねーじゃねぇか……イーグル、どうすんだ!」
「蘇生するしかないよ、とにかくこの三人を倒すんだ」
ロイスさんのユニゾンの効果を失った事により、死の攻撃を受けることはなくなったが、結局はこの二人も倒さないといけないらしい。
私達はまだ諦めていないイーグルさんとマルアニスさんへと攻撃を仕掛けようとするが、ロイスさんに攻撃を集中していた私達は無防備に二人の攻撃を受けていたのでHPがかなり減っていた。
「待って、回復アイテムを」
「いや、それには及ばないさ」
「え?」
攻撃を受けていたのは沙耶とツルギさんなので、私は二人に回復アイテムを使おうとするが、ツルギさんはそれを制止して右手をあげ、指をパチンッと鳴らして合図らしき物を送る。
すると、どこからともなくツルギさんに向かって回復魔法のヒーリングが飛んでくるではないか。
「え、なんですかそれ」
「説明は後だ。僕はイーグルをやる。二人はマルアニスを」
「え、あ、はい」
手品の種明かしはひとまず置いておき、とりあえずは目の前の敵を倒す事に集中する。
沙耶と私はマルアニスさんを挟み込むように立ち、今度はこちらが数的優位を活かす陣形。
ライトニングウェポンを無効化出来る沙耶が先に前に出てマルアニスさんと交戦し、私は遠くから弓を撃ち、機を見て一気に接近して武器を大鎌に変化させて振り回す。
接近戦の武器は剣や槍など様々な物があるが、やはり使い慣れた鎌が一番しっくりくる。もちろん攻撃範囲が広いので味方を巻き込まないよう注意は必要だが、そこは慣れたもの。
私が沙耶の後ろから敵の足下へ鎌を振り回すと同時に沙耶は巻き込まれまいとジャンプで回避、ジャンプした沙耶の下から現れた鎌にマルアニスさんの反応は遅れて鋭い刃が足を切り裂く。
更に下に気を取られたマルアニスさんに対して沙耶はジャンプしたままマルアニスさんの頭上から唐竹割りのように剣を降り下ろしダメージを与える。
遠近からの攻撃で先手を取り、そこから上下への攻撃へと移行した私達のコンビアタックはマルアニスさんを混乱させ、正常な判断力を奪い、反撃を許すことなくマルアニスさんを沈黙させた。
「さすがだな、二人とも」
振り返るとツルギさんもイーグルさんに勝利したらしく、ツルギさんの足下にはイーグルさんが横たわっている。
「ツルギさん、アカウントブレイクは……」
「使ってないさ、今はね」
「今は…?」
以前のアカウントブレイクは罪のないプレイヤーに対して使われていたが故に問題になった。だが、今はどうだろう? 目の前にいるのは連続変死事件の犯人。だからアカウントブレイクを使ってしまうのも一種の解決策ではないかと思った。
「使うかどうかは……この人の判断に従うしかないんだ」
まるで誰かの許可をもらわないとアカウントブレイクを使用出来ないと言った口ぶりのツルギさん。そもそもツルギさんがここに現れたのは何故だ? まさか、ツルギさんのバックにはツルギさんを使って何かを企んでいる誰かがいるのだろうか。
そして、ツルギさんの言葉を聞いて、ツルギさんの後ろから現れたのは私達もよく知る人物だった……。
ツルギさんと同じく白いロープを羽織り、手には後衛用の杖。
そして肩まで伸びたブロンドの髪の女性PC。
だが、私は知っている。外見も声も女性でありながら、中身は男性のこのPCを。
「ネ……ネカマさん」
「やぁ、久しぶりだね。仔猫ちゃん達」
「え……じゃあ、ネカマさんがツルギさんを操ってる黒幕なんですか?」
「そんなわけないだろ! カーマ、おまえは呼んでないから下がってろ!」
しっしっと野良猫を追い払うような仕草を向けられ『そりゃないぜ』と言いつつも道を開けるカーマさん。
そしてそこに新たに現れた人物もまた私がよく知る顔であり、その顔を見た瞬間、私と沙耶はようやく納得のいく答えを導き出し、その人物に少し呆れたような声をかけ、笑いかけた。
「遅いですよ。イヴさん」




