再起の剣
意表を突かれた私はマルアニスさんの強烈な突き技で大ダメージを受ける。
「あなた達、コンビじゃなくてトリオ……もう一人仲間がいたんですね」
「切り札はピンチまで隠しておくものだ。残念だったな、マリ・トリデンテ。数的優位を作ったのは私達だったようだね」
私の言葉を聞いて、木の上から降りてくる一人の男性PC。
名前はロイス。
栗毛の髪をオールバックにして、耳には銀のピアス。
服装は白を基調にした清潔感のある服装にマントを羽織っている。
あの装備は確かホーリーコートにマジックケープ。後衛用の装備だ。完全なサポートスタイルのプレイヤーだろうか。
マルアニスさんとイーグルさんが闘技場で面識があったのだが、ロイスさんは初対面が故に情報がない。
「そうみたいですね……ていうか誰ですか、あなた」
「はは、名前くらいは知られていると思ったけど、そうでもないみたいだね」
「名前……ロイス、ロイス……」
記憶を探ってみるが、ロイスというPCに出会ったことはない。
名前くらいは、というくらいだから初対面であるのは間違いないはずだ。
「まぁいいさ、君のおしゃべりに付き合っている内に数的優位をイーブンに戻されたら厄介だ。早めに殺してしまおう」
単純な2vs2ならば、私と沙耶が各々対処すれば勝てる自信はあった。しかし2vs3となれば話は別だ。
相手が決まった動きをするNPCならばともかく、予測不能な対人戦での人数差は大きすぎる。
「形勢逆転だな、いくぜぇ!」
マルアニスさんは再び槍を構えて私に突きを繰り出してくる。
私は突き出された槍をサイドステップで回避するが、避けた先にはロイスさんの一撃が待ち構えていた。
回避しても発生するマルアニスさんのライトニングウェポンの追撃と、ロイスさんの巨大な棍棒による打撃が私に直撃し、一気に畳み掛けるべくマルアニスさんの槍が再度襲いかかる。
「やばっ……」
私のHPは残り500程度。
次に被弾すると戦闘不能になる事は避けられないだろう。
「マリ、危ない!」
攻撃がヒットする直前、私とマルアニスさんの間に沙耶が割って入り、盾でマルアニスさんの槍を弾き且つダイヤモンドシールドのカット効果でライトニングウェポンを無効化し、遠距離から沙耶を狙ってきたイーグルさんの矢を上体を反らして避け、頭上から襲いくるロイスさんの攻撃にはバク宙しながらサマーソルトキックで棍棒を弾き返して私を守ってくれる。
「マリ、大丈夫?」
「あ、ありがと、沙耶」
一人で三人の攻撃を同時に捌く人間離れした戦闘スキルを見せ、闘技場王者の称号が伊達じゃない事を証明する沙耶。
なんとか難を逃れた私はアイテムを使ってHPを回復し、そのまま沙耶と合流して1vs2の状態から2vs3の状態へ移行して敵の攻撃を凌ぐことに集中する。
沙耶の圧倒的な防御力で前方を防ぎ、後方からの攻撃を私が武器で、いわゆるパリィで防ぐ。
しかし鷹の目やライトニングウェポンの特性上、全ての攻撃を完璧に防げるはずもなく当然じり貧になり、私達のHPは減っていく。
「そろそろ仕上げだな、ロイス、イーグル」
来る。
ここまではごく普通に戦っていたが、この三人の目的は私を……私達の息の根を止める事だ。
イーグルさんとマルアニスさんが二人で戦っている時には怪しい行動はなかった。つまり、キーになってるのは三人目、ロイスさんだ。
「ひとつ言っておく。私達とて殺しをしたくて殺しているわけじゃあないんだ」
ロイスさんは左手をイーグルさんの方へ、右手をマルアニスさんの方へ向け、ロイスさんの手から発せられた光がケーブルのように二人を繋ぎ、イーグルさんとマルアニスさんは再び構える。
「さよならだ、トリデンテ! 闘技場では不覚を取ったが今日…ここで…おまえを殺す!」
何が殺しをしたくて殺しているわけじゃあないだ、その姿は暴走した殺人鬼そのものじゃないか。 左右からイーグルさんとマルアニスさんが躊躇なく私達を挟み込むよう攻撃してくる。
「同時攻撃……こっちは私が……って!?」
私は左から来るイーグルさんの攻撃を防ごうとするが、咄嗟に動きを止めて沙耶に叫ぶ。
「沙耶、守って!」
私の慌てたような声を聞いた沙耶は即座にアイギスを発動させる。
「守って【アイギス】」
沙耶が発動したアイギスの効果でマルアニスさんとイーグルさんの攻撃は弾かれ、後ろに吹き飛ぶ。
「マリ、無事?」
「う…うん。けど今、イーグルさんの武器から電撃が発生してた……」
「イーグル? マルアニスじゃなくて?」
「間違いないよ。何かしてる……たぶんロイスさんのスキル……Nos.だ」
電撃使いではないイーグルさんの武器から電撃が発生している理由は、おそらく二人を繋いでいるロイスさんの能力。
そしてイーグルさんが電撃の力……【ライトニングウェポン】の効果を得ているのならば、当然マルアニスさん側も【鷹の目】の効果を得ているのだろう。
イーグルさんの特性は防御をすり抜ける鷹の目。そしてマルアニスさんの特性は回避されても発生する追撃効果。二人の特性が合わされば防御不能な絶対攻撃へと変貌してしまう……防御も回避も意味をなさない厄介なスキルだ。そして何よりもイーグルさん達は明らかに勝負を終わらせに来ている。
つまり、この攻撃を受けると私達のリアル側の体がダメージを受けて変死事件の犠牲者の仲間入りする可能性が極めて高い。
「ふむ、さすがに危険を悟ったか」
アイギスに攻撃を防がれて後退したイーグルさんは服についた汚れを払いながら起き上がる。
「ロイスさんのNos.は他人のスキルを繋げるNos.……つまりイーグルさんとマルアニスさんのNos.を繋げて何らかの異常を引き起こしている……って事ですか」
「まぁ、そういうことさ。僕のスキル【鷹の目】はどんな防壁も……全てをすり抜ける効果を持ったNos.。その効果はリアル側の体にも及ぶ……が、あくまでも扉を開くだけで直接ダメージを与えるスキルではない」
イーグルさんの言っていることは間違いないはずだ。実際に私も闘技場でイーグルさんの攻撃を受けたがリアルの体も、NW専用VRにも傷ひとつついてないし異常は見られなかった
「そこで私がNos.11【ユニゾン】を使う事でNos.同士を繋げ、マルアニスの【ライトニングウェポン】の電気を使ってNW専用VRを操作して内部から特殊な音を発生させる」
音……そうか、以前ニュースで見たことがある。殺人の仕組みは音響兵器だったんだ。
特定の音波を発生させて人の聴覚器官や脳にダメージを与える攻撃で、最近ではアメリカの大使館なども被害にあった例がある。
その音を専用VRから発生させて対象の脳を破壊、殺人に使ったのか。
「これはちょっとマズイかも……」
つまり二人のスキルが繋がっている間に被弾したら、私達は音響兵器によって死を迎える。
防御をしても【鷹の目】の効果ですり抜け、回避をすれば【ライトニングウェポン】で追撃。沙耶はライトニングウェポンを無効化出来るが、私は回避も防御も不可能な状態だ。
アイギスも先程使ってしまったので再使用までは時間がかかる。となれば考えられる打開策は一つしかない。
「沙耶、ロイスさんを狙って!! ユニゾンを解除すればきっと」
この状況を脱するためには二人を繋いでいるロイスさんを倒すしかない。
沙耶に叫ぶと同時に私も武器を弓に変化させてロイスさんに向かって矢を飛ばす。
「させるわけないだろ、こっちは数的優位なんだよ!」
マルアニスさんは矢の進路に入り、イーグルさんは沙耶の前に立ち塞がり私達を妨害する。
そして攻撃モーションに入り、この戦いを、私達の命を終わらせに来る。
そのままマルアニスさんの攻撃は私に被弾し、私はダメージを受けた。
「マリ!!」
このまま死ぬのか……と半場諦め、ログを見る。
だが、そこにはしっかりダメージログが表示されてはいるものの、私の意識はまだハッキリしている。そして視線を戦場に戻すと、そこには予想だにしない光景が広がっていた。
「ホワイトフードが……なんで」
そう、そこには以前、私を見るや否や逃げ出したホワイトフードが、鋭い剣をロイスさんの胸に突き刺して立っている。
「貴様っ……」
「残念だったな、ロイス。おまえの舞台はここで幕引きだ」
ホワイトフードはロイスさんに突き刺した剣を引き抜き、再び斬りかかる。
ロイスさんは棍棒で防御するも、大きくバランスを崩して後退した。
「ホワイトフード、あなたは……一体……」
「おいおい、もう忘れちまったのかよ」
ホワイトフードは被っていたフードをめくると、言葉を続ける。
「相変わらず詰めが甘いな、マリ嬢ちゃん」
その呼び方、声、顔……間違いない。それは以前トリデンテを混沌に陥れた張本人、Nos.4【アカウントブレイク】
「ツルギさん……!?」




