策略
「なんだ、気付いていたのかい? ボクが犯人であることを」
巨大な弓を構えながらイーグルさんは私達に言った。
「確信はありませんでしたけど、なんとなくは……」
「それは残念。正体を明かす楽しみがなくなった」
「何が目的なんですか、こんな事して!」
「選択肢なんてないのさ、僕達にも」
「何を言って……」
「マリ! 危ないっ!!」
「えっ……!」
会話の途中、沙耶の言葉で身構えるが、目の前のイーグルさんは動いていない。そう、イーグルさんとは別の方向からの攻撃を沙耶がすんでのところで受け止めた。
「ちっ、またお前が立ちはだかるのかよ、サーヤ・トリデンテ」
「あんた……ライトニングウェポンのマルアニス? なんであんたが私達を!」
沙耶が盾で受け止めた槍はジリジリと電気を纏っている。
そう、こちらも闘技場で沙耶が対戦した相手、【ライトニングウェポン】のマルアニスだ。
「サーヤ・トリデンテ、あんた達の相手はイーグル一人じゃないって事だよ!」
「アンタも殺人の協力者って事? じゃあ、やっぱり電気を使って……」
闘技場で完封された恨みからか、マルアニスさんは酷く興奮した様子で沙耶に突っ掛かっている。
「落ち着くんだ、マル。キミではアイギスのサーヤには勝てないよ。こちらは私に任せてキミはマリ・トリデンテを頼む」
「……ちっ、わかったよ」
渋々といった表情でマルアニスさんはイーグルさんと入れ替わり私と対峙する。
私になら勝てるって事だろうか……いや、違う。
相性の問題なのかもしれない。
本来、物理防御力の高い沙耶には魔法攻撃がセオリーだろう。
だがマルアニスさんのライトニングウェポンは沙耶の持つ盾、ダイヤモンドシールドとはすこぶる相性が悪い。
以前、闘技場にて完封されてしまったことを考えたら、すり抜けの効果を持つイーグルさんを沙耶に当てたほうがマシという判断だろう。
「さぁ、マリ・トリデンテ! おまえと戦うのは初めてだったなぁ……キングに勝った実力ってのを拝ませてもらうぜ」
水色と白のボーダーのシャツに頭には赤いバンダナを巻いているせいだろうか、マルアニスさんは海賊の下っぱにしか見えない。
しかし、これでもマルアニスさんはれっきとしたNos.なのだ。
隙を見せぬように【変幻自在のマリアージュ】で武器を具現化し、構える。
私の選択した武器は想槍・セイントランスだ。
「んだよ、同じ土俵で戦おうってか。いいねぇ、いいぜぇ! そういう心意気は!」
お互い同じ武器のため、間合いによる優劣はない。
純粋に己が持つ瞬発力と反射神経で勝てるかどうかだ。
数秒間、お互いに槍を構えたままタイミングを計り、風が吹いた瞬間、マルアニスさんが動いた。
槍を突きだして私の顔面を狙うが、私は左方向へサイドステップで回避、更に追撃してきたマルアニスさんの槍を、武器を使って受け流す。
しかしマルアニスさんの武器から発生した電撃は回避した私を捉えてダメージを発生させる。
ライトニングウェポンの追撃効果のダメージは400。
私の最大HP4500。2回の攻撃で発生した追撃効果で合計800のダメージをもらう形になってしまった。
沙耶はダイヤモンドシールドの効果で完封していたから、闘技場でライトニングウェポンを見た時には実感出来なかったライトニングウェポンの効果。
回避しても追撃で確実に400のダメージを与えてくるのは正直かなり厄介だ。
だが、私自身もやられたままでいるわけじゃない。攻撃を回避されて体勢を崩しているマルアニスさんに槍スキル【エアロスラスト】を撃ち込んだ。
エアロスラストはダメージを与えつつ、素早さと防御力が25%上昇する攻防一体のスキル。
バフが破格な分、ダメージ量はかなり少なく、通常攻撃以下のダメージしか入らない。
「なんだぁ? おまえは防御タイプのスタイルじゃねぇだろ。それによぉ、俺のライトニングウェポンは防御を上昇させても意味ないぜぇ!」
マルアニスさんは再び槍を構えて私に突進してくる。
一発目は回避。しかし、武器に付与されているライトニングは回避した私を追撃してダメージを与える。
魔攻に依存するライトニングウェポンの効果は物理防御を上昇させてもダメージを減少させる事は出来ない。
結果、先程と変わらぬダメージを受けてしまう。
だが、一つわかった事がある。
マルアニスさんの発生させたライトニングウェポンの追撃を受けても即座に死に直結するわけではないらしい。
沙耶の方を見ると、鷹の目の効果で盾をすり抜ける攻撃により、わずかにダメージを受けているようだが、あちらも無事なようだ。
もちろん私が闘技場でイーグルさんと対戦し、鷹の目の効果を直に受けているので、イーグルさんの通常攻撃では死なないという事はある程度わかっているので、そこまで心配はしていない。
「沙耶、お願い!」
「オッケー!」
私の合図で沙耶はスキル【ナイトウォール】を発動する。
ナイトウォールはPTメンバー全員の防御力を20秒間の間、40%上昇させる効果。
これで私の防御力はエアロスラストとナイトウォールの効果により、飛躍的に上昇した状態になる。
「ちっ、何かありやがる!」
防御スタイルではない私が防御を極限まで上昇させるのを見て、さすがのマルアニスさんも警戒して距離をとった。
しかし、今度は私が前に出て、逃げるマルアニスさんを追撃する。
ひと突き、ふた突きと通常攻撃を繰り出しマルアニスさんを攻撃し、マルアニスさんが二度サイドステップをし、着地するのを見計らって同時に【影縫い】を発動して動きを止めた。
「くっ、誘われたか」
「貫け!【ホーリースラスト】」
影縫いを入れたのは防御バフの効果が残ってるうちに、確実に【ホーリースラスト】を命中させたかったからだ。
ホーリースラストは自身の防御力が上がれば上がるほど威力の増す防御依存のスキル。
通常攻撃の威力を捨てる変わりにスキルによるダメージの爆発力は相当な物になる。
ホーリースラストを被弾したマルアニスさんのHPは残りわずか。
ここで一気に勝負を決めたい私は、防御力75%を攻撃力に変換するスキル【背水の陣】を発動させ、マルアニスさんにトドメを刺すべく斬りかかった。
私が勝負を急ぐ理由は、マルアニスさんを早く倒せば、それだけ早く沙耶に合流が出来て数的優位を作り出せるからだ。
待っててね、沙耶。すぐ行くから!
しかし、私の槍がマルアニスさんの胸元に届くかという瞬間、マルアニスさんの体が一瞬で消える。
避けられた? いや違う。
マルアニスさんは避ける動作をしていなかった。
それ以前に影縫いの効果で動ける状態ではなかったはずだ。
左右を確認するが、マルアニスさんの姿はない。
後ろを確認しても沙耶とイーグルさんが一進一退の攻防を繰り広げているだけで、当然マルアニスさんの姿はない。
そして再び前に向き直った次の瞬間、木の上からマルアニスさんがジャンプして私に槍を突きだし、急降下してくるのが見えた。
「しまった…くっ!」
武器で受け流そうとするが、反応が遅れたため防御は失敗して、マルアニスさんの槍は私の肩を貫いて大ダメージが入る。
先程、勝負を急いで背水の陣を使用したのは間違いだったのかもしれない。
防御を切り捨てて攻撃にシフトしていた私はマルアニスさんの一撃で致命傷とも言えるダメージを受けたので、残りHPはわずかだ。
そして何よりも動けなかったマルアニスさんが瞬間移動したカラクリ。
その理由は一つしかない。
「仲間を瞬間的に術者の元へ移動させるスキル【エスケープ】……もう一人仲間がいる……」




