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真実

 三日前、私を見て逃げ出したホワイトフードを見失った後、私達はこれまでの事を少し整理してみることにした。



「あのホワイトフードは私達が探していたホワイトフードだと思う?」

「わからない……でも、私や沙耶を見て逃げ出した事を考えたら、私達の事を知っている人物だというのは確かだよね……」



 何かしら事件に関係している可能性は高い。

 私の【アナライズ】を使えば逃げる前に情報を得る事が出来たかもしれないが、使う前に行方を眩ませてしまったのは想定外だ。



「即座にアナライズしなかったのは失敗だったなぁ……」

「あれは仕方ないよ。予告状の文面からして相手が即逃げるなんて思わないし」

「うん…だからこそ、あのホワイトフードは予告状を送ってきた人物とは別人だと思う……私を見て逃げ出した以上、私の事を知っている人物だと思うんだけど……」



 とはいえ、私を見ただけで逃げ出す人に心当たりはない。



「う~ん……犯人は誰なんだろう?」

「ホワイトフードに気を取られすぎてたけど、どのNos.が人を殺める可能性を秘めているか確かめていったほうが早いかもしれないね」



 確かに沙耶の言う通り、私達はホワイトフードという人物にとらわれすぎていたかもしれない。

 犯人は犯行手口にNos.を使っているであろう可能性が極めて高い。

 ならばいっそNW社にNos.全員を調査してもらいたいものだが、この調査はNW社でもごく一部の人物にしか知らせてないらしい。

 犯人がNW社の社員であるから……との事でNW社員との接触は避けてほしいと言われたのだ。

 まぁ、コンタクトを取れる程の親しい間柄のNW社員なんてイヴさんくらいなのだが。





 とりあえず、各自のNos.の効果を復習してみることに。

 まず、トリデンテの住人である私達のNos.


 沙耶の【アイギス】は、あらゆる攻撃を無効化するスキル。

 犯人であるはずがない。



 会長の【ファストアリア】は、魔法のリキャストと詠唱時間をゼロにして連続魔法を叩き込むスキル。

 強力な効果だが、こちらも犯行に使える効果ではない



 ヒビキの【ベルカントタイム】は、対象の動きを止めるスキル。

 NWキャラの動きを止めたところでリアルの心臓が止まるわけではない。人によっては怪しまれるスキルかもしれない。

 だが、ヒビキをよく知っている私からすればヒビキのNos.にそのような効果がないとわかっている。

 よって可能性はゼロだ。



 そして私の【変幻自在のマリアージュ】と【桜花爛漫】

 スキルを進化させて効果を引き上げる桜花爛漫はスキルによっては想像を遥かに越える効果を発揮する。

 例えば【アナライズ】は相手のリアル情報まで見えてしまう非常に危険なスキルだ。


 何よりもマルチNos.の私は運営側が把握していないNos.37の発現を疑われている。

 正直、私が私でなければ、真っ先にマリ・トリデンテは怪しいと疑いの目を向けるだろう。

 だが、私が犯人じゃないことは私自身がよくわかっている。




 次は闘技場で出会ったNos.達。



 キングの【金剛不壊】は武器属性無効化

 こちらも超防御型のスキルであり、犯行は不可能


 クイーンの【疾風迅雷】はスピードを極限まで上昇させるスキル

 こちらもやはり犯行には向かない



 そして沙耶が対戦した【ライトニングウェポン】のマルアニスさん

 彼のスキルは武器に雷攻撃を付与するNos.

 そのスキルは沙耶のダイヤモンドシールドにて完封されたので詳しくはわからない。



「雷か……」

「どうしたの? 沙耶」



 ライトニングウェポンの話題が出た所で沙耶は顎に手を当てて考え込む。



「電気を操るNos.……もし、リアル側に干渉する事が出来るのならば、電気を使った犯行が可能になるかもしれない」



 もしも【ライトニングウェポン】が私達の把握している効果以上の物ならば、VRを装着している私達の脳になんらかの影響を与える事が可能なのかもしれない。



「でも、あくまで可能性があるってだけだよ。リアル側に干渉するなんて……」



 沙耶はそこで言葉に詰まる。

 沙耶の言いかけた言葉は私にもなんとなくわかっている。

 リアル側への干渉……それに一番近いNos.といえば、Nos.4【アカウント・ブレイク】だろう。

 そして、そのアカウントブレイクの発現者であるツルギさんは現在何をしているのかも不明なのだ。



「引退したとは言うけど、やっぱりちょっとチラついちゃうよね」

「まぁね。けど、アイツのNos.はアカウント破壊であってリアルのプレイヤーを破壊するわけじゃない。Nos.が進化したっていうなら可能性もあるけど……さすがにマリ以外にそんな超能力がいるとは考えられないかな」


「え~! それじゃ、やっぱり私が疑われる流れじゃ~ん!!」

「ふふふ。まぁ、いない人を疑ってもしょーがないってね」

「そうだね。いない人は……いない人…………」

「マリ?」


 先程の沙耶と同じように、今度は私が考え込む。

 私が戦ったNos.にも一人、可能性を秘めた人物がいるからだ。



「可能性? 誰?」

「えっと……イーグルさんのNos.ってさ、もしかしたらって…」



 イーグルさんのNos.【鷹の目】

 その効果は『すり抜け』だ。

 壁などの障害物を無視してブレイヤーにダメージを与えるスキル。



「鷹の目のイーグル? 鷹の目は至って普通のスキルに思えるけど…………あ!」


「もしも……もしも電脳と現実の垣根を越えるレベルのすり抜けが可能ならって、さっき沙耶が言ったのと同じで、あくまでも可能性の話だけど……ってイーグルさんはもう亡くなってるんだもんね、不謹慎すぎたかも」


「…………いや、もしかしたら生きているのかも」

「え?」

「私達はイーグルさんの本名を知らないわ。だから連続変死事件の被害者が実名報道されても、誰がどのPCなのかは知りようもない」

「でも……イーグルさんは亡くなったって……ホームズさんは」



 そうだ。あの時、私達にイーグルさんの死を告げたのはホームズさんだ。

 もしも誤報ならば、PCとリアルの情報に間違いが? いや、そんなはずはない。NWは個人番号とPCが結び付いている以上、その情報は絶対だ。



「佐藤サクラ……初めて会った時からずっと怪しいとは思ってたけど……あと、佐藤サクラって名前も、たぶん偽名だよ」

「えっ?」



 沙耶いわく、自分のリアルネームを知られたくはないが、偽名を用意していなかったホームズは、探偵の助手ならば答えを導き出せるはず、なんて口から出任せで私達に名前を考えさせた可能性が高いらしい。

 そりゃ一発で名字も名前も正解になるわけだ。そもそも私達は探偵の助手ではないのだから、あんなに簡単に答えを導き出せるはずがない。



「最初に出会った時も、私が一人になったタイミングで接触してきた……あの人、本当は何者なんだろう」



 イーグルさんが亡くなったという話はフェイクで、ホームズの正体がイーグルさんのリアルで、佐藤サクラは偽名。

 何かしらの理由で私の殺害を目的とし、予告状も送りつけた。



「でも、結局は可能性止まりね。何か確信出来る物があれば……可能ならばイヴさんに調べてもらいたいところだけど」



 イヴさんいう私達にとっての切り札は是非とも使いたいところだが、第一次移住計画が目前に迫った今、NW社員達はとにかく忙しいらしく、私達に構ってる暇はないと思われる。


 ましてや私達の推理はただの想像に過ぎない。

 証拠すらないのだから。



 私のNos.を使えばイーグルさんの本名もわかるはずだが、むやみに個人情報を盗み見てしまうのは気が引けて、闘技場ではアナライズしていなかったのだ。

 もしもホームズがイーグルさん本人ならば、死んだ事になっているイーグルさんは、私を手にかける時までNW内では接触してこないだろう。



「証拠を引き出すしかないかな……」

「マリが囮になるってこと?」

「うん、もしも私をPKしに来たのがイーグルさんなら、この推理はほぼ確信に変わるから」



 何よりも、この事件のタイムリミットは12月24日になるだろう。

 私の予想では、犯人はおそらくNWに移住することによってリアルでの裁きを回避するつもりだ。

 私が逃げ続ければ、私自身は助かるかもしれない。けど、放置してしまったら犯人は電脳世界で再び殺戮を繰り返すかもしれない。


 世の中の悪を全て正すなんて自惚れた事は言えないけど、せめて私の目に見える範囲の世界は守りたい。



「わかった。当然、私もいくからね」

「もちろん、沙耶が一緒だからこその強気だよ」





 そうして私達は、その三日後にホームズと接触し、北の地にて決着をつけることになった。

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