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ロスト・メモリーズ

「これ、本当にNWの会見?いたずらなんじゃ……」


 責任者も出てこないで、ノートPCがポツンと置かれた異様な光景の会見に少し不気味さを感じてしまう。

 彼、あるいは彼女の言葉を聞く限り、記憶に混乱があるのはNW社が意図して引き起こした症状なのだろうか。例えそうだとしても、こんな事を自ら公表すれば間違いなく批判を浴びることになる。



「記憶の被害者、”ロスト・メモリーズ”とでも呼びましょうか。あなた達の記憶を回復させる方法は簡単よ。NWに再びログインするだけ、ただそれだけで記憶は元に戻るわ」



 ログインするだけで記憶が……?

 たったそれだけで人の記憶を好き勝手に弄れるのだとしたら、今後NWにログインする人なんていなくなってしまうだろう。こんな事を公表して一体何が目的なんだろうか。



「みなさんも混乱しているでしょう。NWプレイヤー限定で質問を受け付けましょう」


 沙耶は、すかさず自分のユーザーIDでNW社のページへログインする。



「ちょっと沙耶!迂闊だよ!」



 NWにログインするだけで記憶が奪われたのだ。何が起こるかわからないNW社の公式HPにログインするのは危険すぎる行為だと思った。



「大丈夫。マリも傍にいるし、私に何か異常があったらすぐわかるでしょ。念のためマリはログインしないでね」


 既にコメント欄には質問が数百件書き込まれている。そのほとんどはNW社に対する暴言や批判中傷だった。だけど、さすがに私もこの状況を擁護出来ない。



――何故記憶を操作したのですか?

「実験よ。私利私欲のためじゃないわ。人類を救うための一歩なの」



――何の実験ですか?人類を救うとは?

「あなた達のいる世界はもうすぐ終焉を迎える。そこで私は人類を救うために新しい世界を作ったの。その世界がNW――次の世界よ」



――なんで世界終わるって知ってる?嘘バレバレだろ

「世界の外側に存在する者達に接触したからよ。この世界も、元は避難場所だった。創造主が残した小さな芽は生命を生み出し成長した。だけど急激に進化していった人間によって外側に探知されてしまったの」



――ゲームの中に次の世界があるって意味がわからない。いけるわけがない。

「作成したアバターに記憶を移すだけよ。記憶が保存されてる脳の海馬、大脳皮質にアクセスして記憶を移動させるだけ。つまりあなた達が失った記憶はアバターに保存されている状態。ログインすれば元に戻るように設定してあるわ」



――地球が滅びてサーバーがダウンしたら、その世界も終わりじゃね?

「終焉を迎える前にNWをそちらの世界と切り離して完全に独立する。独立した後はそちら側の世界との関わりは一切持てない」



――記憶だけ移してもそれは自分ではないんじゃ?

「紛れもないあなた達自信よ。身体がデータに変わるだけよ。わかりやすく例えるなら乗り物を乗り換える、ただそれだけの事。様々な器官や細胞なんかよりよっぽどわかりやすいでしょう?」



――リアル男でアバターが女キャラなんだけど、どうなるの?

「何の問題もないわ。NWでは好きにように生きなさい」



――なんで日本だけ記憶障害起こしたの?海外では何も起こってないらしいけど

「例え見知らぬ人が家にいても、いきなり銃を撃ったりしないでしょ。良く言えば安全、悪く言えば危機感がないからよ。ちなみに今回は兄弟に関する記憶だけ移させてもらったわ。ある程度騒がれないと今回の件を世界に広められないから、なくしたら大きな影響の出る記憶を使わせてもらったの」



――そんなバカみたいな話に乗ると思ってんの?二度とログインしねーわ

「強制はしないわ。賛同してくれる者だけがこの計画に協力してくれればいい。NWに行くも行かないも自由よ」



 まだいくつも質問が飛び交っている。正直信用している人は少ないと思う。


「マリ、何か質問してみる?」

「沙耶はこの話、信じるの?」

「うーん……信じられるような話じゃないけど、真っ向から否定するのも…って感じかな」


 確かに、コレだけ大規模な事をやっておいて、いたずらや妄想だけで終わる気がしない。私は、この騒動を最後まで見届けたいと思っている。例えそれが、どんな結末でも。



「とりあえず、私も質問してみる」


 沙耶はそういうと、コメントを打ち込んでいく。



――あなたは誰?何故、顔を見せないの?

「顔を見せない理由は私がそちらの世界にいないからよ。私は完全にNW側の住人になったの。私が最初の被験者であり、この計画の発案者よ」



 既に、こちらの世界の自分を捨てたという事だろうか。であれば、世界の終焉は。もうすぐそこまでやってきているのだろうか。


「沙耶、私にも質問させて」


 沙耶が渡してくれた端末でコメントを打ち込む。



 ――世界の終焉はいつやってきますか?他に助かる方法はないんですか?

「正確な期限はわからないわ。早くて数秒後、遅くても5年以内かしら。手遅れになる前に希望する住人を集めたいのよ。

 他に助かる方法があるかはわからない、宇宙へ逃げる計画を立てている者もいれば地下へ逃げる計画を立てている者もいるわ。でも私は宇宙も地球もまとめてデリートされると思っているの。だから外側から手の届かない場所に逃げ道を作ったの。もちろん私の計画も上手く行く保証なんてどこにもないし、こうして賛同してくれる者だけを募ってるの」



 宇宙も地球も消される……にわかには信じがたい話だけど、この計画が本当だとしたら、私はNWを選ぶのだと思う。だけど、残された家族や沙耶は、どの道を選ぶのだろうか。


「とりあえず、今日帰ったらNWにログインしてみようと思う。マリはどうする?」

「わ、私もログインしてみる!記憶が本当に戻るか確かめたいし」


 更に記憶を抜き取られる可能性もあるけど、私はこの正体不明の人物の言葉を信じてみようと思った。

 いや、この人の言葉を信じたいのではなくNWという世界を信じたいのだろう。だって私は、どうしようもないくらい、あの世界に魅入られているのだから。


「あ、マリ。お昼休みとっくに終わってる」

「えぇ~……」

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