遭遇
ホワイトリトン周辺を冒険して、ある程度北海道地方を満喫した私達は、とりあえず一旦解散することに。
リアルで予定のある双海さん、ハヅキさん、会長はログアウトし、残った私、沙耶、ヒビキ、ハナビちゃんはとりあえずPKが多発しているポイントを調べてみることにした。
「ここがPK多発ポイント……通称、死のホワイトロードか。ちょっと上から見てみる」
木々が生い茂っている場所に細い道が切り開かれており、視界が良いとは言えない。
ヒビキが上空から辺りを見渡してみるも、人影はないらしい。
多発と言うくらいだから人はそれなりに通るとは思うのだが……。
「少し張り込むか?」
「張り込むって……ここに?」
ヒビキは木の上から、私達は草木に紛れ、この辺りをしばらく張り込むことになった。
「地道だね……調査するのって」
「そうだね。というかこれって私達がPKだと疑われないか」
「う~ん、確かに。怪しすぎる……」
「あ、来ましたよ。マリお母様、サーヤお母様」
張り込む事10分、ハナビちゃんの声を聞いて振り返ると、木々に覆われ、あまり陽も当たらない薄暗い獣道を男女二人のプレイヤーが楽しそうに歩いてきた。
「カップルかな?」
私は小声で沙耶とハナビちゃんに聞いた。
「ぽいね。PKがどんな層を狙うのか参考になるかもしれない」
「周りに人は見当たらないですが……」
すると楽しく歩いていたカップルの女性が立ち止まり、男性プレイヤーに妖艶な笑みを浮かべ語りかける。
「ねぇねぇダーリン。この辺り人気が少ないね」
「うん? あぁ、そうだね。モンスターも少ないし、あんまり人はいないらしい」
「そうなんだぁ……じゃあ、思う存分イチャイチャ出来るねぇ……」
うん? なんだなんだ。女性プレイヤーは上目遣いで人差し指を男性プレイヤーの胸の辺りに当てると、ゆっくりとなぞるように徐々に下へ下へと這わせていく。
「あ、あの……?」
「ふふ、大丈夫。誰も来ないわ……」
これは、もしかして……いや、もしかしなくてもそういう行為だ!
「見ちゃダメーーーッ!!」
私は慌ててハナビちゃんの目を防ぎ、沙耶は耳を塞ぐ。
「お母様方、大丈夫です。そういう知識もしっかり受け継いでいるので」
「なっ…!!」
なんという……まさかハナビちゃんにそんな知識まで遺伝していたなんて。
「も~、沙耶ってば…なんて物をハナビちゃんに継承させてるの!」
「違ッ…私じゃなくてマリでしょ!!」
「私じゃない! 絶対私じゃないもん!!」
なんて会話をしている間にカップルの女性プレイヤーは男性プレイヤーを押し倒し、馬乗りになっており、男性プレイヤーは成すがままにされている。
しかし、そこで女性プレイヤーの様子がおかしい事に気付く。
一瞬の出来事だった……女性は右手に持ったナイフで瞬時に男性を八つ裂きにし、HPゲージを刈り取ったのだ。
「マリっち!!」
上空からのヒビキの声を合図に私達は草むらから飛び出し、PKを決行した女性を取り囲む。
「なっ…なによ、あんた達」
「動かないで、聞きたいことがあるの」
「……なに?」
私達四人に囲まれた女性は、抵抗しても無駄だと判断したのか、両手をあげて大人しく私達の質問に答えはじめた。
「白いロープ……貴女がホワイトフード?」
「言ってる意味がわからないんだけど……貴女達、何者?」
沙耶の問いに訝しげな表情を浮かべて答える女性。
どうやら彼女は噂のPKではないらしい。
話を聞くと、彼女…もとい彼は女性を装って男性プレイヤーに近付き、仲良くなったところで人気のない場所へ男性プレイヤーを誘導してPKを実行してレアアイテムを奪い取るという手口のハニートラップPKらしい。
「しょーもないPKしてるわね……」
「えげつねぇ……」
沙耶とヒビキもさすがに引き気味だが、PKそのものは禁止されている行為ではない。
誉められた行為じゃないにしても、これ以上口を挟むのも野暮かもしれない。
とはいえ、さすがに被害にあった男性をこのまま見捨てるのも忍びないので、とりあえず男性を蘇生して今後は気を付けるようにと伝えたのだが、ヒビキを見てデレデレしている様子から、これはまた同じような被害に合うんだろうなと思いながら見送った。
「さて、おまえももう男を騙して身ぐるみ剥がすなんて外道なやり方でPKなんてするんじゃないぞ」
「わかったよ、ったく……せっかく楽して稼げる手口が上手くいってたのによ」
悪態をついてその場を後にする女性プレイヤー、正直ハニートラップPKなんてしなくても、あのネカマスキルで姫を演じて貢がせたほうが稼げるのでは、なんて思いながら見送っていると、女性プレイヤーと入れ代わりで、十字架のような赤い刺繍の入った白いロープに身を包んだPCが歩いてきた……が、そのPCは私達を見ると立ち止まり、5秒ほど硬直した後で一気に加速し、まるで私達から逃げるように今来た道を戻っていく。
「あっ! ま、待って!」
瞬間的に叫ぶが、ホワイトフードが止まるはずがない。
「追いましょう、マリお母様」
ハナビちゃんの言葉に頷いて私達も急いで後を追うが、獸道から逸れて草木が生い茂った視界の悪い方向へと入っていったホワイトフードは私達の前から完全に姿を消してしまった。
「ダメだ、上空からもわからん」
「完全に逃げられたわね……」
翼を使って空から探そうとしたヒビキからも見えないらしく、森から出てくるのを待ったが、結局この日は逃げ出したホワイトフードを見つけることは叶わなかった。
そして今回の件で、ひとつだけ疑問が残る。
ホワイトフードは何故、私を見て逃げたのだろうか?
脅迫状には私を殺すと書いてあったはずだ。ならば逃げる必要はない。獲物が目の前に現れたのだから。
私は……私は一体誰を追っているんだろう……。




