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白銀の町

 4時間という長時間の船旅を終えて上陸した北海道地方は、一面雪に覆われた白銀の世界だった。


 港町の住宅の屋根にも雪が降り積もり、町中には雪だるま等の雪で作ったオブジェクトも多数存在している。


 そして中央には町全体を覆う巨大な木が生えており、その木には様々な飾りつけがされていた。



「飾りがバリエーション豊富だね。ポーション、コウモリの羽、それに……剣? 武器まで飾ってある」

「それはホワイトランスという樹でね。町のシンボルなの」



 巨大な木に飾られているアイテムを眺めていると、不意に声をかけられる。

 その女性は銀髪をなびかせながら、体のラインがくっきり出てしまうようなタイトなスカート、上半身は動きやすそうな革の鎧を着ている。



「はじめまして、私はこの港町の長、スノウよ」

「は、はじめまして。飾りつけられてるこの剣やアイテムは……」


 私は巨大な木に吊るされている一貫性のない様々なアイテムを指差して聞いた。


「ああ、これね……最初はこのホワイトランスをクリスマスツリーみたいにライトアップしようと思ったのよ。でもね、綺麗に光る電球なんてないじゃない? だからとりあえず様々な色のアイテムを飾ってみようなんて試した結果がこれ。そしてアイテムが吊るされてるのを見た観光客や通行人が変な噂を広めちゃってね……ホワイトランスにアイテムを吊るして願い事をすると願いが叶うとか、アイテムのドロップ率が上昇するだとか」


「つまり、特別な意味はないんですね」

「そういうこと。噂が一人歩きした結果がこれよ」


 両手を広げて呆れた、とジェスチャーをするスノウさん。

 しかし、私の横で話を聞いていた双海さんはその話に食いついた。



「へぇ、でも素敵じゃないですか~!! 私も何かお願い事しよっかな」

「欲深い人の願いなんてそう易々と届きませんわよ」

「え~、ひどいなぁスズ。私はただ億万長者になりたいだけなのに」

「煩悩の塊みたいな願いですわね……」

「スズは何かないの? 願い事」

「ワタクシの願いはまだ見ぬ世界、異世界に行くことですわ。つまり、もう成就する手前まで来てるのです」

「ほ~ん……でもそうか、NW移住したらリアルで億万長者になっても意味ないな……」

「どのみちなれませんわよ」



 誰が言い出したかもわからない言い伝えなので結局は叶うはずもないのだが、双海さんにとってそんな事はおかまいなしだろう。

 既に両手を合わせて願い事を繰り返している。



「運命の人に出会えますように!」

「さっきと願い変わってる……」

「おっと、うっかりうっかり。でもさぁゲームの中の世界でしょ? だから案外システムが願いを叶えてくれるかも~なんてね」

「システムが決めた運命の相手でいいの」

「そう言われると、う~ん……じゃあやっぱ億万長者か」

「結局そこなんだ」



 その後、町を案内してくれるというスノウさんの厚意にあずかり巨大な樹に覆われた町、ホワイトリトンを歩くことになった。


 町には武器屋と防具屋、道具屋、家具専門店、更には味覚が実装されたことにより賑わいを見せる飲食店がある。

 そして多数の住宅が存在し、その数は100軒を超える。かなり大規模な町だ。

 その数の建物全体をホワイトランスが覆っているのだからとんでもない大きさな樹だということがわかる。

 



「と、まぁこんなところかな。どう? ホワイトリトンは気に入った?」

「はい! 凄く素敵な町ですね。特に樹に覆われた町っていうのが特徴的で他では見ないですね」

「そうなのよ。それが理由で観光客も増えるし、そのまま町に永住する人もいるのよ。あなた達もどう? まだまだ住人募集中」

「あ~……ごめんなさい。私達はマイタウンがあるので」

「そうなの? ざ~んねん。なんて町? 同盟とか結ばない?」

「トリデンテって町です」

「トリデンテ……どこかで聞いたような……あ~!? あ、あなたまさかマリ・トリデンテ!? 闘技場でキングを倒したマリ・トリデンテじゃない!!」

「え……あ、はい」



 闘技場のナンバーズカップはニュースになっていたのである程度は知っている人もいるだろう。しかしこういう扱いをされるのはどうにも慣れない。どう反応していいかわからないのだ。



「あ~!? そっちにいるのはクイーンに勝利してマリ・トリデンテとの歴史に残る決勝を制したサーヤ・トリデンテ!? サーヤ・トリデンテじゃない!!」

「あはは、ど~も~」


 現実世界でも人気者だった沙耶は馴れたもんて、まるでアイドルのような笑顔で対応している。


「NW最強の二人がなんでホワイトリトンに……ま、まさか領土を奪いに……?」

「そんなわけないじゃないですかッ! とある人物を探してるんですよ」

「あら、どんな人? この町なら情報は集まりやすいはずよ」


 確かにこれだけ大規模な町なら情報量はかなりの物だろう。

 私はダメ元で聞いてみることにした。


「ホワイトフードって呼ばれてる……白いロープを身にまとった人です」



 さすがに殺人者とは言えないが。

 そもそも証拠なんて何もない。



「あ~……白いロープね。言いにくいんだけどさ……」

「知ってるんですか!?」

「いや、白いロープを装備してる人はホワイトリトンだけでも20人はいるよ」

「あぅ……」


 そりゃそうだ。前にも言われたけど白いロープってだけでは特定は不可能に近い。

 何かもっとわかりやすい特徴がなければ、そう、例えば……



「Nos.……白いロープをまとったNos.発現者です」

「Nos.か……そういえば以前、Nos.にPKされた人がいたわね……それで嫌になっちゃったのかわからないけど、その子はそれ以来ログインしていないのよ」

「ッ……! それは……」




 それはログインしなくなったのではなく、ログイン出来なくなったのかもしれない。一連の事件の被害者の可能性もある。

 だが、確証もないままいたずらに動揺させるような事を言うわけにもいかないと思い、口から出かかった言葉を呑み込んだ。




「それは?」

「い、いえ……ちなみにそのNos.の名前はわかります?」

「私もフレンドに聞いた話だから、そこまではわからないなぁ」

「そうですか……でも貴重な情報ありがとうございます!」

「いいってことよ。まぁ、また何かあったら相談してよ! 私もトリデンテとパイプがあると何かと便利だし」



 とは言っているが私達がトリデンテ住人じゃなくても親切にしてくれるのだろう。

 実際、私達をトリデンテだと知る前から町を案内してもらっていたし、スノウさんが長を務めている事もホワイトリトンが大規模な町になった理由の一つだと思う。

 この人の下でなら安心して過ごせると思い、永住を決めた人も多数いるはずだ。



 そう、かつてトリデンテを作ろうと立ち上がったセーラさんのように。

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