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改良

 トリデンテにログインした私はダメ元でヒビキにホワイトフードの情報を求めたのだが……


「ホワイトフード? 見たことあるぞ」

「ええ? どこ? どこッ!?」

「いや、結構頻繁に見かけるだろう。白いフード装備したPCなんて」

「そういうことじゃないよぉ」


 まぁ、確かにホワイトフードに関しては、もうちょっと具体的な特徴がほしい。

 男か女か、武器や戦闘スタイル、そして名前など。


「マリお母様、サーヤお母様、危ないことに首を突っ込みすぎです」

「あはは、ごめんねハナビちゃん。でも私に関わった人が被害にあってるから、もう後には退けないんだ」



 闘技場準決勝で対戦したイーグルさんがリアルで亡くなった。

 それほど親しい友人ではないし、闘技場で一度戦った後に何度かメッセージのやり取りをした程度の関係だ。

 それでも、私に関わった人が誰かに殺められたというのならば、出来る限りの事はやって犯人を捕まえたい。

 それが私の今の気持ちだ。


 何よりも気になるのは、イーグルさんも追っていた白いロープのPC、ホワイトフードの存在だ。

 イーグルさんがPKされた時に側に立っていたという事はホワイトフードがイーグルさんをPKして、リアル側のプレイヤーの息の根を止めたということだろうか。


 以前、トリデンテにて起きた悲劇と状況が似ている……似すぎている。

 しかも今回はアカウントが破壊されるだけではなく、リアル側のプレイヤーの脳に影響を与えて殺している可能性が高い。


 まさか――

 私は脳裏に過った可能性を否定する。

 ツルギさんはあの『今度は間違えない』確かにそう言ったのだ。その言葉を信じよう。


「どうしました? マリお母様」

「あ、ううん、ちょっと昔を思い出して……」


 考え込んでいた私の顔を心配そうに覗き込むハナビちゃん。

 そうか、ハナビちゃんやヒビキはアカウントブレイク事件があった時はまだトリデンテにいなかったんだよね。

 思い返すと、もう随分と長いことNWを旅してきた気がする。


「しかし仮にNos.の力を使ってリアルの人間をPKするってのが本当だとしても、それって証拠になるのか」

「う~ん、どうなんだろう」


 電脳犯罪とでも言うべきか、VRMMOの中で行われた戦闘でリアルの体にダメージが与えられた場合のことなんて想定しているとは思えないけど……。


「法律上裁けないなら尚更放っておけないでしょ」

「あ、おはよう! 沙耶」


 私とヒビキが会話をしていると、沙耶がログインしてきた。


「おはよ、マリ、ヒビキ先輩」

「サーヤっち、先輩はやめろって」

「でも実際に先輩ですし」

「もう少しでウチのほうが年下になるぞ」

「え?」

「だってウチは永遠の高校一年生だし」

「それ言ったら私達も移住した時点で年齢止まりますよ」

「ということはサーヤっちは永遠の後輩になるのか」

「どんな人も後輩は永遠に後輩ですってば」


 二人の言っていることもわかるが、NWに移住したら年齢が止まるというよりは年齢がなくなるイメージに近い。

 もちろん生きてきた長さで情報量の差は出てくるが、肉体の成長や老化が廃止され、自由な容姿を手に入れることが出来るNWでは年齢を判断するのは難しくなるだろう。

 極論を言えば生まれたてのNCが身長200cmの高身長ということもあり得る。



「それでマリ、北海道地方いく?」

「う~ん……」



 北海道と言っても別にリアルで北海道旅行に行くわけじゃない。NWでの北海道地方に行くかどうかって話だ。



「いくら捜査のためとはいえ、ちょっと遠いよね」

「じゃ、闘技場が終わってからゴタゴタしてて先送りにしてた船の改良、やっちゃおうか」



 沙耶はそう言って倉庫から大量の船改良素材を取り出す。

 闘技場優勝賞品として手に入れた温泉を作るマグマストーンや船改良素材は未だに手付かずで放置されていたのだ。



「おぉ! ついにトリデンテにも高速船?」

「だね!」



 以前、沖縄地方に行く時クイーンに乗せてもらった高速船は普通の船とは段違いの速さで、かなりの時間を短縮出来た。

 今回もクイーンに助けを求めるのも1つの手だが、せっかく闘技場で優勝して改良素材を入手したのだから、トリデンテ専用高速船を開発することにした。




 ◇




「まずは大きさを決めないとね。大型、中型、小型……どれにしようか」



 今までトリデンテで使っていた船は小型。

 4人乗るのが精一杯で、かなりぎゅうぎゅう詰めで乗っていた。



「はいはーい!! 大型! 大型が良いと思いま~す!!」



 沙耶の問いに元気良くそう答えたのは私でもハナビちゃんでもヒビキでもない。



「双海さん、いつの間にログインしたの」

「船作るんでしょ? んもー、こんな面白そうなことするなら呼んでよね~!」

「まだ朝早いし迷惑かなって……でも双海さんの言う通り大型が良いかなぁ」



 トリデンテの住人は7人と2匹。

 この人数ならば中型船に乗れる人数ではあるのだが、今後増えるかもしれないし来客を乗せる可能性もある。



「まぁ、大きくて困ることはないだろ。幸い海が目の前にあるから管理も楽だ」



 海に面した町なので船から目を離すことなく管理出来るというのも大きい。

 海から離れた町に暮らすプレイヤー達の船が知らぬ間にモンスターに破壊された報告も多数あるが、トリデンテはその点に関しては問題ないはずだ。


 その後、ハヅキさんや会長もログインしてきて、みんなで意見を出しあい、材料は木材で大きさは20人乗りの大型。

 部屋は二段ベッドが両脇に配備された狭い部屋が5部屋。



「なんか違う……」



 双海さんは腕を組みながら首を傾げる。



「違うって?」

「いや……なんかこう、マグロ漁船的な船ではなく豪華客船に乗りたいのだよ」

「言いたいことはわかるけど、さすがに豪華客船は無理が……」



 確かに私達が作ろうとしている船は、優雅とは程遠い漢の船というイメージだ。

 言いたいことはわかるのだが、これ以上の船は現在のクラフトスキルでは作れそうもない。



「そういえば、ずっと思ってた事があるんだけど……」


 そう切り出しのはハヅキさん。


「マリちゃんのNos.の……なんだっけ、スキルの効果をレベルアップさせるやつ」

「Nos.39【桜花爛漫】ですね。桜花爛漫がどうしたんですか?」

「あ、うん。それを使ってクラフトしたらどうなるのかなって」



 ――!


 考えてもみなかった。

 ついつい戦闘スキルにばっかり目がいっていたがクラフトに桜花爛漫を乗せることも出来る……のか?



「た、試してみますね」



 船のクラフトは木工スキルに位置する。

 私は試しに木工スキルを桜花爛漫の効果で引き上げてみることにした。

 すると、木工スキルは【ウッドマスター】へと変化し、見たこともない様々なレシピがずらりと並ぶ。



「お、おぉ~……!?」

「ど、どうなの? マリ」



 一体どんな事が起きているのか、沙耶達は息を飲んで見守る。



「凄いかも……超大型船が作れるみたい!!」

「お、おおぉ~!!」



 トリデンテ住人が一斉に驚きと歓喜が入り交じった声をあげ、しばらくの間、どんな超大型船を作るか議論しながら村が賑やかな声で包まれた。


 近隣を歩いていた人の話によると、響き渡るその声の8割は双海さんの声だったとかなんとか。

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