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疑惑

「で……あなた達、なんでワタクシの家にいますの」


 モダンなカフェで偽ホームズと話し合った翌日、私と沙耶は久しぶりに会長の部屋を訪れていた。


「調査よ、調査」

「なんですの? 調査って……ワタクシ、やましいことなどありませんわ」

「そりゃアンタが人殺しだなんて思ってないわよ。身近なNos.だから、とりあえず何か知らないか調べるように言われたの」

「ひ、人殺しって……穏やかじゃないですわね」


 沙耶は会長のベッドに腰掛けると、ここへ至るまでの経緯を会長に説明する。


「探偵の助手ぅ? ……アナタ達、中学生ですわよね?」

「まぁ……確かに中学生に助けを求める探偵ってあり得ないかもしれないけど、理由はNos.だからねぇ」

「Nos.がなんですの?」


 ホームズさん……本人の希望もあり、サクラさんではなくホームズさんと呼ばせてもらうが、そのホームズさんに聞いた話によると、連続殺人に関わっている人はNos.発現者である可能性が高く、まずは身近なNos.のリアルを調査するとのこと。


 私達にとっての身近なNos.と言えば当然会長のわけで、形だけでも調査に来たというわけだ。


「まぁ、ワタクシもNos.ではありますが、殺人事件について問われても心当たりはありませんわね……」

「まぁ、そりゃそうだよね。私達もリンが何かを知ってるなんて思ってきたわけじゃないし」

「姫宮さん、あなた最近ワタクシをNWネームで呼ぶ事が多くなってませんこと?」

「あ~、まぁいいじゃない、沙綾だと紛らわしいし。あ、いっそあだ名でも考える? サーちゃん? スーちゃん?」

「それなら、異世界ちゃんとかが良いですわね」

「いや、その名を呼ぶのは私達がイヤなんだけど……」



 あだ名の件は一旦保留し、とりあえずホームズさんから聞いた事件の件を整理することに。

 まず、死因は不明であり、VRMMOをプレイしている最中に突然意識を失い、そのまま帰らぬ人となるらしい。

 そして被害者は例外なくNWプレイヤー。他のVRMMOで同様のケースの死者は確認されていない。

 外傷などは見当たらず、司法解剖でも死因の特定は出来ずにお手上げの状態らしい。



「それで犯人は……犯行手口にNos.を利用した発現者が濃厚というわけですの?」

「そうらしいです。私が発現した後に5人発現したので、容疑者候補は44人……いや、私が38と39の連番だから43人ですね」

「そして発現しているはずなのに運営ですらその存在を把握出来ていないNos.37か……一番怪しいのは、やっぱりNos.37よね」



 Nos.4のアカウント・ブレイク事件があって以降、発現者の名前とNo.は公表されるようになった。

 しかし、私の前に発現したであろうNos.37は運営がどんなに調査をしても、キャラ名やリアル情報も何もかもが不明なのだ。



「ひ、非常に言い辛いのですが……マリさん」

「なんですか? 会長、改まって……あ、もしかして!」



 もしかして、Nos.37は会長? なんて思ったのだが、どうやら違うらしい。



「いえ、Nos.37はワタクシではありませんし、Nos.37の情報も何もありませんわ……ただ」

「ただ?」

「Nos.37が疑われているのならば、マリさんも危ないのではなくて?」

「えっ?」



 会長が言いたい事はつまりこういう事だ。

 マルチNos.である私は、もしかしたら2つのNos.ではなく3つのNos.に発現しているのでは? と疑われる可能性が高い。

 現にイヴさんも真っ先にその可能性を考えて闘技場で私に疑問を投げかけたじゃないか。


 別にNos.37に発現しているかどうかの疑いをかけられるのは問題ではない。

 問題はNos.37が連続殺人事件の犯人だと疑われていることだ。


「私が犯人だって……そう思われる可能性があるって事ですか?」

「もちろん一般に捜査状況が伝わった場合の話ですわ。現状はただの連続変死事件と報道されているだけで、他殺と断言するような報道はなかったはずですわ」


 それを聞いて私は少し安堵する。

 自分が殺人犯だなんて疑われたらイヤに決まってる。

 形だけとはいえ、会長だって捜査という名目で私達が訪れたのは、あまり気持ちの良いものではなかっただろう。



「マリ、おかしくない?」

「ふぇ?」


 沙耶の言葉に私は間の抜けた声を出してしまう。


「おかしいって……何が?」

「あの探偵だよ。Nos.を疑ってる状況でNos.であるマリに助けを求めるのはどうなんだろうって」

「言われてみれば……あ、じゃあ……私、既に疑われてる?」


 捜査に協力してほしいなんて言うのは真っ赤な嘘で、私に接近するために声をかけ、近くで監視するために協力を申し出る。

 もしも私がNos.37だと疑われているなら、ありえない事ではないかもしれない。


「とにかく、あの探偵にも気をつけないとね。やましいことがあるわけじゃないけど、冤罪で犯人にされたら洒落にならないからね」


 確かに、痴漢や万引きは冤罪も数多く存在するらしいが、殺人事件にも冤罪のケースは何件も確認されているのだ。

 自分が巻き込まれるかもしれない状況になるとは想像していなかったが。



「でも、仮にそうだとして、マリはどうする? このまま調査続ける? やめる?」

「う~ん……」



 探偵に監視されながら生活するのは正直イヤだ。

 でも、なんだろう。この事件、何か引っ掛かる。

 引っ掛かるというべきか、ただの勘なのかは自分でもよくわからないのだが、事件の先にあるものが……凄く気になるというか、予感めいたものがあるのだ。


「続ける……続けるよ」

「そっか、じゃあ、とことん付き合うよ」

「うん! ありがとう、沙耶」


「ワタクシにも手伝えることがあったら言ってくださいね」

「はい! ありがとうございます、会長。移住の件もあって忙しい時に」



 移住の時期はすぐそこまで迫っている。だからこそ、NWに関する事件は速やかに解決して移住者を安心させてあげたい。

 そんな思いも少なからずある。



「あ、その事なんだけどさ、リン」

「なんですの?」

「第一次移住計画じゃないとダメなの?」

「ダメという事はありませんけど、速く移住したいのは本心ですわ。 何か問題が?」

「いやさ、第一次移住計画が12月、そこから3ヶ月後に第二次移住計画があるんだとしたら、卒業してからいけるし丁度良いんじゃないかなって」



 以前の会見で移住者は3ヶ月周期で募集すると明言している。つまり第二次移住計画を待てば、学校を卒業してから移住出来るのだ。



「移住するのですから、別に学歴に拘る理由もないのですけど……そもそも中学生ですし」

「違う違う。そんな理由じゃなくてさ、気持ちの問題だよ。リンと一緒に卒業したいなっていうね。ちなみにこれ双海ちゃんが言ってたことね」

「一緒に……そうですわね。少し考えてみますわ」


 もちろん会長がNWに行くという強い思いは変わらない。

 だけど、ほんの少し、残りわずかな時間を一緒に過ごせば中学生活を無事に終える事が出来る。

 だから最後に一緒に卒業して最高の思い出を作りたいっていう双海さんの提案は凄く素敵だなって、私もそう思った。

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