記憶
「お姉ちゃん?」
誰?あなたは誰なの?親戚の子、近所の子、お母さんの知り合いの子?どれだけ記憶を探っても答えは出てこない。
私の記憶に存在しない、この偽りの妹は誰なの?
「ゲームやりすぎて疲れたの?来年から高校生なんだから、しっかりしてよねー」
「え?あ、はい…ちょっと顔洗ってきます」
「なんで敬語?やめてよ」
慌てて洗面所に駆け込む。
何が起きているのか、まだ理解出来ていない。私の記憶に存在しないその少女は、私の年齢も、ゲームをしている事も、お母さんの帰りが遅くなる事も…全部知っていた。
洗面所を見回してみると、見慣れた鏡の前に、歯ブラシが3つ。私と、お母さんと、……偽りの妹の分だ。
まるで最初から三人の家族が居たかのような、私の記憶が間違っていると、そう主張してくるように、この家には三人分の生活が存在している。
スマホのアプリを立ち上げて過去のチャットログを確認してみる。
グループ名:神崎家
【綾乃】
【茉莉】
【雪子】
綾乃はお母さん、茉莉は私、そして見知らぬこの名前、雪子が偽りの妹だ。
いる…ずっと前から存在している。家族で出掛ける予定、夕飯の献立などの日常的な会話を私は過去に何度もチャットでやり取りしてる。
世界が変わってしまった?騙されている?それとも私がおかしくなったのか…答えを見つけられずに、私は恐怖で、この場所を動けなかった。
「お姉ちゃん?大丈夫?」
不意に声をかけられ、体がビクッと反応する。
「う、うん。すぐいく!」
洗面所から出ると、雪子が心配そうに私を覗き込んでくる。
「気分悪いなら私が、ご飯作っておこうか?休んでていいよ」
「大丈夫だよ!お姉ちゃんは元気です!」
ほら!と両手でガッツポーズを作ってみせると、雪子は呆れたような顔をして笑う。
悪い子じゃないみたい…とりあえず安心(?)かな…。
「ハンバーグでいい?」
「そうだね。作ろっか」
私がおかしいのか、雪子がおかしいのか、それとも世界がおかしいのか、それがわからない今は波風を立てずに様子を見ることにした。
夕食の席でも当たり障りのない返答をして、なんとかボロが出ないように過ごした。会話ログを確認すると、私は雪子のことを雪ちゃんと呼んでいるみたいだった。
「そういえばお姉ちゃん。今朝は、なんであんなに早く家を出たの?いつも一緒に登校してるのに」
「えっと……友達と一緒に登校する約束してて…実は明日も約束あるの!ごめんね、雪ちゃん」
「えっ、何?まさか恋人!?だれだれ!?」
私に恋人が出来たと思った雪ちゃんは、物凄い食いつきを見せる。どこにでもいる普通の女の子だなぁ…。
得体の知れない何かが化けてるわけでもなさそうだと思いホッとする。
「ち、違うよ!友達だってば。最近知り合った女の子で」
「な~んだ…ついにお姉ちゃんにも春が来たと思ったのにぃ」
「えへへ、でも優しいし美人だし強いし、いつも私を守ってくれるんだよ」
「うう~ん?やっぱ恋人なんじゃ…ていうか強いって何よ…ヤンキー?」
しばらくの間、学校での出来事や沙耶の事を交えて談笑していると、お母さんが帰ってきた。
「ただいま~」
「あ、ママ帰ってきたよ!おかえり~」
「お、おかえり…」
「ママ、晩御飯出来てるよ!」
「あら、ありがとう。雪ちゃん、茉莉ちゃん」
「う、うん…」
お母さんは、ごく自然に雪ちゃんを受け入れているようで、私はその瞬間、自分を信用出来なくなってしまった。
明日、沙耶に相談してみよう…。
私はお風呂に入った後、早めに部屋に戻り就寝することにした。
雪ちゃんは、私に恋人が出来たとお母さんに熱弁していたけど、違うから!
翌朝、早めに家を出て沙耶との待ち合わせ場所に急ぐ。色々考え込んじゃって少し気分が落ち込んでいるけど、せめて沙耶の前では元気でいよう。
待ち合わせ場所に行くと、既に沙耶の姿があった。
「沙耶~!おまたせ」
「あ…マリ…」
沙耶にあいさつをすると、沙耶は、どこか元気なく答えた。
「沙耶、元気ないね。何かあった?」
「いやー、ちょっとね。昨日の夜、知らない人からメッセがいっぱい送られてきてね。ウイルスでも仕込まれちゃったかな」
「沙耶…もしかして、エッチなサイトとか見てたんじゃ…」
「見てない!見てませんから!もぉ、人が真面目に話してるのに」
「ごめんごめん!で、どんなメッセが来るの?」
「知らない人が近況の報告とかしてくるのよ。気持ち悪い!しかも私の姉を名乗って」
男の人が引っかかりやすそうな手口だ。女性を装って、妙なサイトに誘導したり架空請求されたり…。やっぱり沙耶は、エッチなサイトを見てたに違いない。
「そもそも、私に姉はいないし」
「え?」
姉がいない?
今の発言にも違和感があった。
以前、沙耶と会話した時の内容を思い出す――
あれは確か、出会ってすぐの頃、スタート地点についての話をしていた時だ。
遠く離れてるイギリスの姉に会いに行くのは当分無理そう……確かに、そう言っていた。
沙耶は間違いなく、姉の存在を私に示していた。私が妹を忘れているように、沙耶も…?それとも、沙耶との会話の記憶が偽りなのか。
沙耶との記憶が偽りだと認めたくない私は口にせずにはいられなかった。
「沙耶、お姉さんいるでしょ?前に、お姉さんが海外にいるって私に教えてくれたよ」
「ちょっと、からかわないでよ。私に姉は……ってなんで海外にいるって知って…?確かにメッセージの相手も海外にいるって言ってたけど」
「イギリスに留学してるんだよね?」
「………」
沙耶は、まるで超能力者でも見たかのように、驚いた顔をして私を見つめる。
「ねぇ沙耶、聞いて。実は私も、知らない人が……偽りの妹が家に居たの。沙耶と同じように自分だけが知らない家族が」
「そんなことって…」
「沙耶は、私の口から妹の話を聞いたことある?」
「ううん、ない。リアルの話はまだあんまりしてなかったから」
「そっか…」
沙耶が私の妹の存在を知っていれば、もしかしてって思ったけど、これだけでは、まだ判断出来ない。
私は沙耶に、昨日の夜の事を詳しく説明しながら歩いた。
「まったく見ず知らずの妹が家に…?ちょっとしたホラーだね」
「うん…でも話してみると家に馴染みすぎてるっていうか…本当に、ずっと前から私の家族だったかのようで」
「………とにかく、この話の続きは、また後でね!誰にも言わないように」
学校に到着し、沙耶と別れ、自分のクラスに入る。クラスにも私の知らない人間が存在するのでは?と思い、周囲を見回す。
大丈夫。いつもの風景、いつもの教室、見知ったいつもの顔だ。
だが、朝のホームルームの時間が近付くにつれ、埋まっていく席に、いつもと違う風景があった。
欠席者がいる…それも三人。
別に欠席者がいること自体は珍しくない。風邪だったり、怪我だったり、様々な理由で欠席者は出る。でも、一気に3人が休むなんて、インフルエンザが流行する時期でもないのに珍しいかもしれない。
10人や20人休んでるわけじゃないし、別に気にすることでもないかな、と担任教師が教室に入って来るのを見て頭を切り替えた。
◇
ホームルームでの話の中で、休んでいる三人は病院に行くという理由で欠席していることがわかった。
病院……3人が同時に?仲の良い友達同士で遊んでいる時に、何かしらのトラブルに遭遇したのだろうか?
いや、原因はなんとなくわかってる。ただ、怖くて認めたくないだけもしれない。
私が…私が昨日の一件をお母さんに打ち明けていたら、どうなっただろう?
家族である妹の存在を突然忘れ、混乱している人間を学校に行かせるだろうか。おそらく病院に行く生徒の人数が1人増えていただろう。
沙耶との会話、休んでいる生徒、そして私の妹……。一体、何が起きているの……?
◇
結局、気になることが多すぎて午前中の授業はまったく頭に入ってこなかった。
「お昼でも食べよ……」
うちの学校はクラスで昼食を取る決まりはなく、どこでも好きな場所で食べていいことになっている。
私がいつも、お弁当を食べる場所は視聴覚室だ。視聴覚室ではお昼になるとアニメや映画を流してくれるので、それを見ながら一人で食べている。
周りも1人の子が多いから、結構気楽なんだよね。確か今日のアニメは「美男と野獣」だっけ。見にいかなきゃ!と立ち上がると、教室のドアのほうが騒がしくなった。
「マリ~!お昼一緒に食べよッ」
教室のドアの方から呼ぶ声が聞こえる、沙耶だ。その声に反応してクラスのみんなが一斉に沙耶の方を見る。
学園の姫がうちのクラスを訪ねてきた事で大騒ぎになってしまった。普段から沙耶の周りには人だかりが出来て近付くことも出来ない。そんな人気者が自らやってきてくれたのだ。
男子はもちろん、女子も沙耶に熱い視線を向ける。そして、私も向ける…沙耶に訴えるような視線を。
「どうしたの?もしかして先約あった?」
「な、ないけど…」
「じゃあ、いこ。屋上でいい?今朝の話の続きもしたいし」
学園の姫である沙耶が、クラスで目立たず口下手で地味な私の手を取り、引っ張って走っていく。
それを見たクラスメイト達は、なんで私と沙耶が?と戸惑ったような声を上げた。
「もー、目立つような誘い方しないでよ」
目立つのがあまり好きではない私は、沙耶に悪態をつく。
クラスに戻った時に、沙耶との関係を聞かれたらなんて答えればいいんだろう……沙耶がネットゲームやってることはみんな知っているのかな?
「ごめんごめん!朝はゴタゴタしてたし、お昼の約束するの忘れちゃってね~。慌ててマリの所に来ちゃった」
目立つのは嫌だけど、こうして友達と一緒にお昼を過ごすのはちょっと憧れてたし、嬉しいけどね。
「そもそも、沙耶ってなんであんなに人気なの?」
容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能、性格も良くて人を惹きつけるけど、ちょっと騒ぎすぎというか。
「そっか。マリは知らないんだ」
その言葉に、私は少しムスッとして答える。
「美人で頭が良くて運動が出来るナンパ師ってことしか知らない」
「あれ!?王子様じゃなかったの!?」
「で、沙耶の何を知らないの?私は」
みんなが知っていて、私が知らない沙耶。そんなちょっとしたことで嫉妬してしまう自分が恥ずかしい。まだ出会って間もないのに……。
「小さい頃に芸能界でちょっとした仕事してて、CMとか子役とかね」
この辺りは地元がTVに映っただけで大はしゃぎするくらいだし、CMに出てるような有名人がいたら、確かに物珍しさで人が寄ってくるかもしれない。
「今もしてるの?」
「ううん、今はほとんどしてない。小さい頃だけ」
聞くと、小さい頃に子役として出たドラマがブレイクし、一時期はCMのオファーも殺到したしい。
どんなCMか聞いて動画を検索し視聴してみると、私も見たことのあるCMがいくつかあった。
「これ、沙耶だったんだ……」
「いやー、今見ると結構恥ずかしいんだけどね」
「学校でよくしてるあの変なしゃべり方って……」
「みんなが子役時代の私を期待してるから、ついあのしゃべり方をして期待に応えなきゃって思ったりなんかしちゃったりして」
なるほど。あの喋り方は、子役時代の沙耶なんだ。学園のギャル、もとい姫の最大の謎が解け、私は納得する。
「うーん…かわいい…」
動画をまじまじと見る私から「もういいから!」と沙耶は端末を取り上げて再生を中止する。
「そうだ、沙耶の事をもっと知りたい気持ちもあるけど、今はもっと重要なことがあるんだった」
「そうそう、今はマリと一緒に、お弁当を食べる事が何より重要なの」
「じゃなくて!私の妹と沙耶のお姉ちゃんの件!」
私の記憶が正しいなら、沙耶にはお姉ちゃんが存在するはず。でも記憶にない妹がいる時点で私の記憶はアテにならない。
私と沙耶は同じ症状なのだろうか?一体、どのタイミングで私達の日常が変化したのか。
「別の世界に迷い込んだとか…」
「私達だけが?まさかぁ~」
私と沙耶に共通してる部分ってなんだろう?
性別、年齢、学校、住んでる地域、そしてNWプレイヤーであることだ。
「私はNWからログアウトしたタイミングで、脳に違和感を感じたんだけど…」
沙耶は、そう言った。
私も同じだ。ログアウトした瞬間、何かが歪むような感覚がして、しばらく吐き気が止まらなかった。
「じゃあ、やっぱりNWが原因…?」
「そう判断するのは、まだちょっと早いよ。もう少し何かないかな」
「そういば今日、私のクラスに欠席者が3人いるよ。もしかしたら何か関係あるかもって思ったんだけど……沙耶のクラスは?」
「私のクラスは2人休んでるよ。でも一人は風邪、もう一人は、よくわからないけど病院行ってるって」
また病院……2クラスで4人が病院に行くのは偶然にしては多い気がする。ただ、ありえない数字ではない……なんとも判断が難しい。教師に聞きに行くべきだろうか。
「行こう」
沙耶は、食べかけのお弁当を仕舞って立ち上がる。
「え?」
「休んでる人達が病院行ってる理由、聞かなきゃでしょ?」
確かに、悩んでるよりは行動したほうがいいよね。
「沙耶は本当に決断と行動が早いなぁ、私は自ら職員室に入るなんてムリムリ」
「別に問題起こしたわけじゃないから大丈夫だよ。ほら、行こ」
すたすたと歩いていく沙耶を待ってよー!と言いながらと追いかける。まだ、お弁当食べ終わってないのに!
『失礼します』と職員室に足を踏み入れるけど、こちらを気にする余裕もないくらい忙しい教師が多いらしく、注目を浴びることもなかった。
まずは沙耶がクラス担任の中野先生に話しかける。
「先生、ちょっといいですか?」
「ん?姫宮か」
デスクに座り書類を整理していた中野先生はクルッと椅子を回して振り返る。
「珍しいな、おまえがこの時間にフリーなんて。いつもクラスの奴らに囲まれてるじゃないか」
今日はマリとデートなの♪と、おどけてみせる沙耶に少し呆れながら中野先生がチラッと私を見る。
私はビクッとし、少し怯みながらもペコリと頭を下げて挨拶する。沙耶と二人だけで行動する生徒は先生から見ても珍しいのかもしれない。
「それで、何の用事なんだ?」
「今日、クラスの剣持君が病院行くから欠席って言ってましたよね。どんな病気なんですか?」
「その事か。プライベートな事だから話せないよ」
「話せないようなことなんですか?重い病気とか」
沙耶が少し挑発するような言葉で追及する。
「姫宮、なんなんだ急に…おまえが気にするような事じゃない」
「でもっ!」
「とにかく、この話は終わりだ。早く教室に戻れ」
結局、中野先生からは何も情報は得られなかった。そうなると次は私の担任に聞かないといけないわけで……。
「あ、ぁにょ、しぇんしぇ……す、少しいいですか…?」
しかし声が小さすぎるのか、まったく気付いてもらえない。特別怒られたこともないのだが、教師と話すのはいつも以上に緊張してしまう。
それを見た沙耶は、私の横に立つと代わりに先生に話しかけてくれる。
「あの、少しお時間よろしいでしょうか?」
「あら、あなたは確か隣のクラスの姫宮さん?それと一緒にいるのは……神埼さん?」
肩まで伸びた髪をなびかせながら振り返り笑顔で私を見つめる。この美人で優しそうな人が私のクラスの担任、国枝真由美先生。
「どうしたの?珍しい組み合わせね」
「先生に、お聞きしたいことがあって」
「あら、何かしら?恋人なら、まだいないわよ」
「聞いてないです」
『あら、冷たい』と返す国枝先生に沙耶が本題を切り出す。
「A組って今日、3人欠席者が出てますよね?病院に行ったって聞いたんですけど、理由を教えて頂けないでしょうか?」
しばしの静寂の後、国枝先生は私を見つめる。
「まず、何故あなた達が、3人の欠席理由を聞きたいのか教えてもらえないかしら?ただの好奇心……ってわけじゃないわよね」
「それは、なんというか…」
沙耶が言葉に詰まる。
「神埼さんまで一緒になって聞きに来るんだもの。何かしら理由があるのでしょうけど…」
意を決して私も口を開く。
間違っていたら、おかしな人だと思われるかもしれない。でも、もうリスクを背負って聞き出すしかないと思った。
「き…記憶を失ってるとか…混乱してるとか、そんな症状だったりしませんか?」
「……まさか、あなた達、みんなと同じで記憶を?」
国枝先生は心配そうにつぶやく。
「や、やっぱり記憶の混乱があるんですか?どんな風に……」
「ごめんね。先生も、そこまで詳しく聞いてないのよ」
詳しい内容はわからなかったけど、やっぱり記憶の混乱が原因なんだ。わざわざ病院に行くほど深刻と判断されたのなら、私達と同じく身内に関わってる記憶かもしれない。
「あなた達、大丈夫なの?病院にいったほうが……」
「い、いえ…大丈夫です!私達は症状軽いので!」
正直、病院に行った方がいいのかもしれないが、もうちょっと詳しく今の状況を知りたかった。
原因はわかったので、色々と追及される前に私達は職員室を出て、廊下を歩きながら逃げるように離れると、沙耶が私に問いかけてくる
「マリ、休んだクラスの子達はゲームとかするタイプだった?」
「あんまりお話したことないから詳しくわからないけど、仲良しグループで集まってゲームのお話してたの聞いた事があるよ」
「NWをプレイしてた可能性は十分あるってことね」
「ねぇ、沙耶。NWが原因だとしたら、記憶の障害がうちの学校だけで発生してるだけとは思えないんだけど…」
私と沙耶は顔を見合わせて少し考え込む。NWをプレイしていた事が原因で記憶に障害が出るとしたら……。
スマホを取り出してニュースを検索する。
政治家の不倫、芸能人の交通事故、スポーツの結果……
【全国で大規模な記憶障害、原因はネットゲームか】
「やっぱり…」
「全国規模で症状が出てるなんて……これじゃサービス停止は確実じゃないの」
NWは私と沙耶が出会った場所だ。その世界がなくなってしまうかもしれない事に寂しさを感じた。
「で、でもゲームで記憶がなくなるなんて、有り得るのかな」
「…どうかな。証明出来るかどうかはわからないけど、私達ですら、この短期間でNWが原因じゃないかって疑ってるレベルだもの。言い訳出来るような状況じゃないと思う」
「じゃあNWはやっぱり…」
サービス終了……という事になるのだろうか。
「でも、正直あの世界をこれで終わりにしたくないって思うよね。あんなに魅力的な世界、他にないもの」
その言葉を聞いて、沙耶も同じ気持ちなんだと私は少しホッとする。ゼロから作り上げていく世界は、まだ始まったばかりだ。これで終わりなんて寂しすぎる。
たった数日プレイしただけなのに、私はあの世界に魅入られている。
「見て。NW社の会見始まるって」
私は沙耶のスマホを覗きこみ、画面に映る映像を確認する。そこには机の上にノートPCが置かれ、NW社の人間は存在しなかった。すると、ノートPCから音声が発せられる。
『日本全国のNWプレイヤーのみなさん、この度は多大なご迷惑をおかけして真に申し訳ありません。
ですが、ご安心ください。この記憶障害事件はゲームの不具合ではありません。次の世界へ進むためのステップです』