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緩急

「え~~~!!? さ、沙耶が元PK……?」


 昨日、マリの部屋で、私がスキルポイントをリセットすると言ったとき、マリは反対した。

 だから私は防御スタイルだけじゃなく、過去にプレイしていたVRMMOでは超攻撃型のスタイルで遊んでいた事をカミングアウトしたのだ。

 そして、そのゲームで私が有名なPKだった事も。


 PKと言っても、そのゲームは運営側がPKを推奨していた部分もあるのでユーザーから叩かれたりはしない。

 賞金首として逆に狙われたりと様々な遊び方の一環として組み込まれたシステムの1つだ。


「そ、そうなんだ。なんか想像出来ないなぁ……沙耶が悪い顔して笑いながら人を殺めていたなんて」

「いや、そこまで危ない人じゃなかったって! むしろ美少女PKとか言われてたし!」


 自分で言わないの! と、マリに頬をつつかれる。

 普段から私の容姿を持ち上げているのに、自分で言った途端に怒られるのは理不尽ではないだろうか。


「で、つまり沙耶は攻撃スタイルの経験もあるから変更しても問題なしってこと?」

「うん。むしろ期間で言えば攻撃スタイルのほうが長いかな、二年近くやってたし」


 中学一年生の頃から始めて二年間プレイしていたゲームなので、まだ半年弱のNWよりは長い期間プレイしたことになる。


「へぇ、引退しちゃったの?」

「引退なんて大々的に言ったわけじゃないけど、NWを始めてからは自然にログインしなくなっていったって感じかな」

「な、なんかリアルだね。そんな感じでやらなくなったスマホゲームとか結構あるし」

「まぁ、あっちは固定で誰かと組んだりしてなかったからね。今はマリやリン、トリデンテのみんながいるから、やめるなんて考えられないよ」



 何よりもハナビを生み出したのは私達だ。

 無責任に投げ出すなんて出来るわけがない。



「でも、なんで沙耶はNWだと防御スタイル……いわゆる盾役をやろうと思ったの?」

「それ、マリが聞く?」

「ん……私を守るため……とか?」




 ◇




 そう、その通りだ。私はマリを守るために盾となった。

 だけど今は1vs1のトーナメントだ。

 守るものがないってわけじゃないけど、思う存分暴れられる。


「蒼海の死神……聞いたことがあるわ。私だってそのVRMMOをプレイしていたもの。現に私も手も足も出ないままPKされたわ。でも、まさかサーヤちゃんが……」


 どうやらクイーンは過去に別のゲームで私と接触したことがあるらしい。

 けど、私には過去に出会った誰がクイーンなのかはわからない。

 数えきれぬほどのPCをPKしたのだから、印象に残っているのは死闘を繰り広げた一部の相手だけだ。

 ただ、過去に私が圧倒したからといって、今現在も圧倒出来るなんて思ってはいない。

 ゲームが変われば当然強さもリセットされ、装備、スキル、ゲームごとの操作の相性などの変化も関わってくる。何よりも大きく影響しているのがNos.だろう。

 勝敗を大きく左右する程の力を秘めたNos.。

 現に強力なNos.を発現させたクイーンは今や闘技場No.2の実力者になったのだ。



「遠慮なくいかせてもらうよ! クイーン!」

「まさか、蒼海の死神にリベンジ出来る機会が訪れるなんて……おもしろいじゃない! 以前の私ではないことを見せてあげる!」



 両者武器を構えて再び戦闘体勢に入る。

 クイーンは相変わらず【疾風迅雷】の効果で速度を保っている。

 だが、もう対応出来ない速度じゃない。

 私はクイーンの攻撃を体を反らして回避し、すれ違いざまに剣で斬りつける。

 攻撃はクイーンの腹部にヒットし、HPゲージを400程減少させた。


「当てられた!? なんで…」


 戸惑うクイーンに対して追い打ちをかけるべく、【縮地】を使って距離を詰めて攻撃を繰り出す。

 しかし、これは単調な攻撃故にクイーンに回避されてしまう…が、私は手にしていた盾をクイーンの進行方向へブーメランのように投げ、ヒットさせるとクイーンの身体は盾の衝撃を受けて吹き飛ぶ。

 盾による攻撃はダメージ判定がないので、ノックバックの効果のみだが、クイーンが倒れた隙にスキルを繰り出してダメージを与える。



「【シャークバイト】!」



 シャーク・オブ・オーシャンの専用スキルであるシャークバイトを叩き込む。

 シャークバイトは上から降り下ろした剣を再び素早く上に切り返す二段攻撃。クリティカル率が5割を超え、そのクリティカルの倍率も通常の3倍というスキル。

 二段攻撃の両方にクリティカル判定が出れば破格のダメージを叩き出せる。



 サーヤの【シャークバイト】が発動 → クイーンに 2800 のダメージ



 結果は大成功。

 クイーンのHPゲージは一気に減少し、残りHPは1000だ。


「こんな戦い方……それに、なんでスピードについてこれるの」


 速度で圧倒出来るはずだったクイーンは、的確にタイミングを見極められ、被弾している。その事実が信じられないといった表情だ。


「クイーンの速さは確かに凄いです。けど、足りない物がある」

「足りない物?」

「緩急、です」


 例えば野球で165キロのストレートを投げる投手がストレートだけで相手を抑える事が可能かといえば無理だろう。

 同じ球種を投げ続ければ慣れてくるのだ。

 カーブやチェンジアップなどの遅い変化球を織り交ぜて配球することで相手は迷い、そしてタイミングも狂わされる。

 サッカーやバスケでも同じだ。

 ドリブルはスピードだけではない。

 例え足が遅い選手でも緩急を駆使することによって相手より優位に立てる。


「なるほど…ね。かと言って、そんな簡単に慣れるものじゃないでしょう。サーヤちゃんの天性の才能もあってのことね」


 今までクイーンと対戦してきた相手は基本的に1分以内に倒されてしまった。これでは慣れる暇もない。

 逆に、何度も対戦しているキングはクイーンと対戦する度に速度に慣れていっただろう。


「サーヤちゃん、アナタ凄いわ。けど、試合が終わる前に相手に助言をしても良かったのかしら」


 参考にさせてもらうわ、と再び速度を上げて私へ突進してくる。そしてアドバイス通り、と言うべきかクイーンは途中でスピードを緩めて緩急をつけようとする。

 その瞬間、私は【縮地】で距離を詰めてスキルを発動した。


「【影縫い】!」


 スピードを緩めた瞬間を見計らって、距離を詰めた私は剣をクイーンの影に突き立て、動きを封じた。

 そして、そのまま剣をクイーンの喉元に突きつきて私は言う。


「勝負あり……ね。クイーン」

「リンちゃんの仕返し? ……はぁ、参ったわ、降参」


 クイーンが降参を宣言した瞬間、闘技場No.2の座が交代した。

 私はマリに一番近い存在になったのだ。

 キング戦に続いてクイーン戦でも波乱が起き、観客も歓喜する。

 闘技場に新たな風が吹く、と。

 私は観客に両手を振って応えた。



  ――PKじゃ味わえないな、こんな充実感。





 ◇





「ハメたの?」


 試合後、クイーンの第一声がそれだった。


「え?」

「緩急が必要だなんて言った直後に緩急を狙い打ちだなんて、完全にやられたわ」

「やだな、ハメたなんて人聞きの悪い。どちらにも対応出来る準備はしてましたから」

「はぁ……確かに、全速力でも緩急を使った時でもサーヤちゃんは私に攻撃を当てていたわね……蒼海の死神は健在か」




 ◇




「沙耶~~! おめでとう! おめでと~~~!!」


 試合後、マリを先頭にトリデンテのみんなが出迎えてくれる。

 私の胸にダイブしてきたマリを受け止めて、後ろにいるリンに向けてVサインで笑顔を向けた。

 

  ――仇は取ったよ、と。

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