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バカップラー茉莉

 ― 控え室 ―



 試合後、私はクラフトスキルを使って作った簡要控え室で頭を抱えていた。


「う~、恥ずかしい!」


 何も大勢の観客の前でNos.の数字が沙耶だとか、惚気てるだとか、言わなくてもいいじゃない。

 意図してやったわけではないのに、あれだけの人数の前でそれを言われたら、さすがの私でも恥ずかしいと思うわけで。


「で、マリちゃんはNos.を38番まで発現せずに順番待ってたの? さすがの私でも、それは引くね」とは双海(アクアニ)談。


「二人のイチャつきっぷりは凄い凄いとは思ってたけど……凄いね」とはハヅキ談。


「恋人が出来た直後ってのは自慢したくなるもんだ。まぁ、キングというラスボスを倒した勇者様だ。惚気くらいは大目に見てやろう」とはヒビキ談。



「ちっがーーう!! 本当の本当に偶然なの! さすがに私だってそこまでしないってば!」

「どーだか」


 ヒビキはニヤニヤしながら言う。

 キングに勝ったという偉業を誉め称えてもらえると思った控え室では、トリデンテ住人による冷やかし責めにあっていた。


「ところで、お姫さまはどこに行ったんですの?」


 控え室の隅で腕を組ながら壁に寄りかかっていた会長が言う。

 ラスボスを倒した勇者が私だと言うならば、お姫様とは沙耶の事か。


「サーヤお母様は、試合があるから選手入場口のほうで待機してます」


 私の試合は終わったが、大会はまだ一回戦の第二試合が終わっただけなのだ。沙耶の試合はもちろん、他にも出場選手は大勢いて優勝を狙っている。

 そして、私はランキング一位になったことで、当然相手はキングとの試合を参考に研究してくるだろう。


「……ちょっと沙耶の様子見てくるね」

「惚気てないアピールした直後にコレだもんなぁ」


 まだ沙耶の試合が終わっていないのに、ここで浮かれているのも悪いかなと思い、ヒビキの言葉に照れ笑いを浮かべながら私は控え室を出た。


 沙耶の試合は全8試合のラストであるため、まだ選手入場口で順番を待ちながら試合を眺めていた。

 私は背後から近付いて沙耶に声をかける。


「さ~やッ!」


 ギリギリまで黙って近付いて、声をかけると同時に背後から抱きつく。


「うわっ! マ、マリ?」

「えへへ、ビックリした?」

「そりゃビックリするってば。どうしたの?」

「気合いを入れにきたの」


 私は沙耶の背中に抱きついたまま答える。

 本当は勝利の悦びを沙耶と一緒に感じたかったから、でもそれは沙耶の試合が終わるまでお預け。

 私の試合前に「絶対に勝てる」と鼓舞してくれた沙耶へ、今度は私からお返ししたい。


「へー、具体的には何してくれるの?」

「え、具体的に? ……ガ、ガンバレーッて応援したり?」

「それじゃ足りないかなぁ、負けちゃうかも」

「なんでー!!」


 じゃあ、何すればいいの? と、私は沙耶の腰に回していた手を解き、解放された沙耶は私に向き直り、小悪魔スマイルで口を開く。

 その言葉を聞いた私は、顔を真っ赤にして沙耶に聞き返す。


「え、ここで?」

「どこでもいいけど」


 そう言われ、私は周囲を見渡す。

 まぁ、周りには誰もいないし、いいか。

 そして私はゆっくりと、沙耶に顔を近付けていき、唇を重ねた。


「うん。気合い入った」

「私の試合前にも、してほしかったなぁ…」

「勝てたんだから良いじゃない。あ、それじゃご褒美に今する?」

「それは今ので十分! 勝ってね、沙耶!」

「もちろん!」



 ◇



 結果、沙耶は余裕を持って勝利した。

 沙耶の対戦相手はNos.24【ライトニングウェポン】のマルアニス。

 武器に雷属性を附加し、通常攻撃+雷属性の魔法攻撃を与えるNos.だ。

 通常攻撃は高い防御力でカット出来るが、ライトニングウェポンで附加される追加攻撃は魔攻依存のため、それなりのダメージが入るらしい。


『らしい』とは、実際に目にする機会がなかったからだ。

 沙耶の装備している盾、ダイヤモンドシールドの専用スキル【アンチマジック】の効果で500以下の魔法ダメージは全て切り捨てられる。

 これにより【ライトニングウェポン】を完封した沙耶は、あっさりとマルアニスさんを撃破し、ベスト8へ駒を進めた。


 沙耶は「試合前にマリが気合い入れてくれたおかげ」なんて言っていたけど、どう考えてもダイヤモンドシールドという強力な装備を手にしたおかげだろう。


 一回戦の全試合が終わり、キングに勝利した事から注目を浴びてしまった私は、迫り来る大量のインタビューやフレンド登録から逃げるために急いでログアウトすることに。


 是非動画配信してほしいとか、サインくださいとか、レア装備取るのに付き合ってくださいとか、沙耶と私の馴れ初めを教えてくださいとか。

 うっかり馴れ初めを語りそうになった私をヒビキが止め、控え室に戻って、そこでログアウトした。

 NW内で暮らしているヒビキとハナビちゃんは、テレポでトリデンテに戻り、私達が次にログインしたときには、また闘技場にテレポで戻ってくることになっている。



 ◇



 ログアウトし、現実に戻った私はお風呂や食事を済ませた後に、いつものようにPCを使ってライブチャットで沙耶と通話する。

 勉強している時やテレビを見ている時は基本的に沙耶と通話しながら、という形が多い。

 おかげで受験勉強も捗り、成績は実感出来るレベルで伸びている


「それにしても凄かったじゃない。マリのマルチNos.」

「沙耶とハナビちゃんのおかげだよ。二人の想いが私に力をくれたの」

「戦闘では役に立たないと思っていたエンゲージリングが、あんな形で力を発揮するとはねぇ……」

「想いの強さは力になるんだよ! あ、でもイヴさんは納得してないみたいだった」

「納得? イヴさんはなんて?」

「どんな想いに反応したのか、わからないって」


 例えば沙耶と会長は私のピンチに、ヒビキはヴォイスのピンチにNos.を発現させた。

 これは仲間を守りたいという想いに反応したNos.だ。

 キングは強くなりたいという意思から。ツルギさんは他人への嫉妬から。様々な感情、想いでNos.は発現する。


 しかし私は自分の想いを力に変えたというよりは、沙耶とハナビちゃんの想いを受け取って発現させた…というのがイヴさんの見解だという。


「想いを受けとるかぁ……ん? つまり私の想いがマリのNos.になったってこと?」

「かもしれない。なんか素敵な考察だったから否定しなかったよ」

「確かに」

「えへへ」

「ふふふ」


 モニター越しに、お互いの顔を見ながら照れ笑いを浮かべる二人。

 モニターに映る沙耶の後ろには白い壁紙に、小さめの本棚。

 本はもちろん様々なゲームソフトが並んでいる。


「……」

「どうしたの? マリ」

「ん、そういえば沙耶の家に遊びに行ったことないな~って思って」

「そういえばそうだね」


 出会ってからそろそろ5ヶ月になるが、実はまだお互いの家に遊びに行ったことがないのだ。

 家はだいぶ近いので、いつでも遊びにいける距離なのだが、NWで遊ぶことが多く、家に招くタイミングは中々ない。

 そもそも友達を家に招いて何をするんだろう?


 勉強? アリかもしれないがモニターを通じて沙耶に家庭教師をしてもらっているので、今更感がある。

 じゃあ、ゲーム? 今の時代はネットを通じて対戦や協力プレイが可能なので、わざわざ家でやる事でもない気がする。


「うーんうーん」


 私は唸りながら考える。

 一体、友達同士で何をすればいいのだろう?

 いや、そもそも私達って友達以上の関係なのでは?

 友達以上の関係の二人がすることって……。


「じゃあ、今度ウチに泊まりに来る?」

「えっ!! ……ええッ!!?」

「え、何、その反応」

「泊まりにって……いやいや! 待って! 心の準備とかあるし、いきなり他所の家にお邪魔するのはハードル高いし…そうだ、まずはウチに来てよ! それなら少しは私も心の準備が」

「そんなに緊張することないのに。まぁ、マリがそういうならマリの家にお邪魔しようかな」

「泊まるって事は、その……当然するんだよね?」

「もちろん」



 ついに、この時が来たのかもしれない。

 でも、私達の関係なら当然だよね。

 いつかは通る道だし、覚悟を決めよう。

 進むんだ! 大人の階段を上って次の世界へ! ネクストワールドへ!!



「楽しみにしてるからね。マリの手料理」

「ですよね」

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