違和感
戦闘後、蘇生方法がなかったので、どうしようか悩んでいたが、戦闘を観戦していたギャラリーの方々が蘇生魔法を習得していたらしく、蘇生を手伝ってくれた。
私と沙耶が最後まで生き残ったので、戦闘不能メンバーのアイテムはロストせずに済んだみたいだ。
ちなみに、戦闘不能時にロストしたアイテムは、PCを倒したモンスターが抱え込み、そのモンスターを倒した時に再びドロップするらしい。
デスサイズ・マンティスが倒したPCの所持品らしき物も、いくつかドロップしている。
「多いですね…ドロップアイテム」
「アイテムの分配について決めてなかったな…どうする?」
ツルギさんも戦闘の事で頭がいっぱいだったので、一番荒れそうなアイテム分配について悩んでいる。
「とりあえず、村に持ち帰ってから決めましょう」
セーラさんが提案し、ツルギさんもそれに同意する。
◇
村に着くと、戦闘に参加しなかったメンバーが出迎えてくれた。
「おかえりなさい!死闘だったんだって?」
「どうやって勝ってか教えてよ!」
「ドロップは?いいアイテム出た?」
次々に質問を投げかけてくる。
私は沙耶の後ろにサッと隠れてやり過ごすことにした。
「マリ、何隠れてるの。一番の功労者なのに」
「そ、そんなことないよ……最後だけだし、沙耶とかセーラさんにも守ってもらったし……」
「それでも、マリちゃんの機転があったから勝てたのよ。壁を作った時は私も驚いちゃった」
「あ、ありがとうございます!でも、セーラさんにも助けてもらったし、みんなのおかげです!」
「そういえば、サーヤちゃんも何かスキルを使ってたよね?あれはどんなスキルなの?」
確か沙耶は【アイギス】というスキルで私を守ってくれた。
「あー、あのスキルは、全ての攻撃を無効化して範囲内にいる味方のHPに変換するスキルなんだけど……」
「へー、凄いじゃない。初期のスキルなのに優秀ね」
「いえ、それが自分で習得したわけじゃなくて……」
「え?じゃあ、どのタイミングで?」
「マリの援護にいこうとしたタイミングで、習得ログが出たの」
「私を…?」
スキルを振り分けて習得したわけじゃなく、自動的に習得したスキル…。例えば、攻撃を繰り返して熟練度を上げた結果、覚えるスキルとかだろうか。
「マリを守りたい、助けたい。そんな私の想いに応えて発現したような、そんな感覚だった……」
「さ、さすがにサーヤちゃんの考えすぎじゃない?いくらなんでも、人の想いに応えて習得出来るスキルなんて」
セーラさんは半信半疑だが、もし沙耶の想いに応えて現れたスキルなら、それはとてもステキだなって思った。
「沙耶は、どう思うの?」
「私は……私の、マリに対する想いに応えてくれたって信じたいかな」
「うん、私もそう思う!沙耶は、いつだって私を助けてくれる王子様だもん」
「……あなた達って、いつもそんなに人前でノロケてるの?」
「そ、そんなことないですよ!会ったのも昨日が初めてですし…リアルで知り合ったのも、ここにログインする前で」
スキルの話よりも、そっちの話のほうが信じられないわ!と驚くセーラさん。
しばらく雑談してると、アイテム分配で悩んでいたツルギさんから召集がかかった。
「とりあえず、ドロップした建築用の素材アイテムは、村全体で使う事にした。デスサイズ・マンティスから直ドロップした装備は初期装備が多かったし、おそらく倒されたPCの物だろうな」
通りかかったPCをどれだけ駆逐したのだろうか、結構な数の木刀やビギナーアーマーがドロップしている。
デスサイズ・マンティスと戦うために、少しランクが上の装備を用意していた私達には必要のないものなので、この村に来た装備を持っていない初心者に無料で提供しようと満場一致で決定した。
「残るはデスサイズ・マンティスからドロップした装備用の素材なんだけど、これは合計18種類、たぶんアライアンスのメンバーと同じ数だけドロップするんだろう。でも、素材によって作れる装備は違うから、欲しい装備の素材アイテムを申告して、ほしい物が被ったら各々話し合いで決めてくれ」
「じゃあ、まずデスサイズ・マンティスの鎌。これは槍or弓に加工出来るらしいけど、ほしいやついるか?」
「はいはーい、私ほしい!」
セーラさんが手をあげた。
デスサイズ・マンティスの鎌は2つドロップしたので、他にほしい人がいないのを確認して、私も手を挙げる
「わ、私も…」
「じゃあ、これはお二人さんで。よし次」
ツルギさんから鎌を受け取って、さっそくクラフトで、この素材を使った弓作成に必要な素材を確認する。
「よし、これなら作れそう」
【風迅弓】
弓から大鎌への形状変化も可能な特殊武器らしい。便利な武器っぽいし、しばらくお世話になりそうだ。
「マリ、武器作れた?」
「あ、沙耶」
沙耶は盾になる素材をもらったらしい。ツルギさんと、かち合うと思ったけど、ツルギさんは自分の名前に因んで剣になる素材を選んだとかなんとか。
「マリちゃーん、見て見て!さっそく作っちゃった」
セーラさんがクラフトで作った槍を装備してポーズを取っている。
「わぁ!かっこいいですね」
「この槍、トリデンテって言うんだけど、専用スキルもついてるみたい」
トリデンテとはスペイン語で三叉の槍という意味らしい。
劇団の人気トップ3や、スポーツの攻撃陣3人を三叉の槍に例えてトリデンテと呼ぶこともある。この形状の槍で一番よく知られているのは、ゲームでよく登場する槍、トライデントだろうか。
デスサイズ・マンティスは、かなり貴重なモンスターだったらしく、素材から作られる武器には例外なく専用スキルが付属されるらしい。
「本当だ、私の盾にも専用WSあるよ」
「ふぇ~……凄い!私も作ってみよう」
必要な素材を選択して、風迅弓をクラフトする。風迅弓は弓矢モードはエアリアルアローが、大鎌状態の時は真空波が使用出来るらしい。
「わぁ、真空波かぁ。試し撃ちしたいかも…」
先程、猛威を振るった真空波を今度は自分が使えると知り、ちょっと興奮してしまう。
「マリちゃん意外と好戦的?私に撃たないでよ」
「そ、そんなことしませんよ!」
「じゃあ、明日は少し狩りしよっか。明日も学校だから今日はそろそろ落ちないとだし」
「サーヤちゃん達って学生なんだ?」
「そうなの、学年は…って、あんまりリアルの情報しゃべらないほうがいいか。マリにも、あっさり特定されちゃったし」
「特定って…マリちゃん何したのよ」
「あ、いえ…ちょっと気になる人に声かけただけで…」
「へぇ…私も、そのうちマリちゃんに声かけられるかしら」
「たぶん、そうなりますよ。マリの趣味はナンパだし」
「えぇ!?それ、沙耶の趣味でしょ」
◇
その後、アイテム配分も終わり、デスサイズ・マンティス討伐PTも解散して、各々自分のホ-ムに帰っていった。
私と沙耶もホームに帰宅し、アイテムを整理する。
「ねぇ、マリ。明日から一緒に登校しない?」
と、不意に沙耶からお誘いがきた。
誰かと一緒に登下校するのは憧れだったけど、私が沙耶と一緒に登下校したら周りはどんな反応するんだろう…。
「沙耶って、いつも囲まれてるからなぁ…」
「誰か特定のパートナーがいれば囲まれずに済むかもしれないじゃん。ね、お願い!」
パートナー……。数日前までは、沙耶が私をパートナーと呼んでくれるなんてこと、想像もしなかったと思う。
でも、思えば沙耶は私に何度か声をかけてくれたっけ。困ってた廊下で、覗きに行った教室で、放課後の下駄箱で。
「う、うん。私でよければ」
「やった!待ち合わせは今日、分かれた所ね」
明日の約束をして、昨日沙耶からもらった言葉を、今度は私から沙耶に送る。
「じゃ、また明日ね。沙耶」
「うん、また明日。マリ」
沙耶に別れを告げて、ログアウトしようとする――と、そこで強烈な違和感を覚えた。頭の中がぐにゃりとするような、嫌な感じ。
(うっ、気持ち悪い…なんだろう)
ログアウト作業が終わり、現実世界へ帰還する。
少し落ち着こうと深呼吸をするが、まだ頭がクラクラする。
(NWに没頭しすぎたせいかな…)
初のVRMMOなので少し酔ったのかもれない。
とりあえず、洗顔でもしてスッキリしよう…とベッドから起き上がり携帯を確認する。
お母さんからメッセ-ジだ…。
「今日は帰りが遅くなるから、冷蔵庫の中にあるもので適当に作って食べてね」
私は「はーい!」と返事をして、スタンプを送信する。
私の家はお母さんが1人で支えている。お父さんは私が小さい頃に事故で他界したらしい。昔の話なので、私にはお父さんの記憶はないんだ。
私は階段を下りてリビングに向かう……そこで不意に声をかけられた。
「あ、ようやく下りてきた!もぉ~、ママが帰ってこないから、ご飯作らないとだよ」
まだ少し幼さの残る声、当たり前のように、この家に居て、私が下りてくるのを待っていたその人影。
おかしいよ…だって、だって私には…
「聞いてる?お姉ちゃん」
妹なんていないのだから――




