38
『王座交代! ランキング最下位、数合わせと言われた新人がキングに大逆転勝利だぁ!!』
(数合わせって言ったのはスキュラ氏でしょ……)
実況のスキュラ氏の声を合図に会場が沸いて拍手喝采、スタンディングオベーションで祝福してくれる。
私は心の中でスキュラ氏にツッコミを入れながらも、それに対して私はスタンドにいる観客に向けて360度あらゆる方向へ頭を下げ、感謝の意を表する。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
勝者と敗者の順位がそのまま入れ代わるレギュレーションであるため、ランキング1位は私に、そしてあろうことかキングはランキング最下位に転落する異常事態になってしまった。
観客の中にはキングを煽る言葉を投げかける者もいる。
闘技場スタッフによる蘇生魔法で立ち上がったキングは、ゆっくりと私の元へ歩いてくる。
大丈夫だろうか? 精神的ショックとか色んな意味で……。
だけど、そんな心配は杞憂だったようで、キングは私に右手を差し出してきた。
「我の負けだ。称えよう」
「キング……ありがとうございます」
その手を力強くガッチリと握り、私は応えた。
すると観客は更に沸いて、キングへの心無いブーイングも止み、勝者を称えるキングにも拍手が贈られた。
『美しい光景ですね。イヴさん、新王者についてのコメントはありますか?』
『そうね、マリちゃんについてコメントしたいことは山程あるから長くなるけど……まずは、おめでとう。面白い物が見れたわ』
『イヴさんはNos.について研究しているんでしたよね? 二つのNos.を発現したのはシステム上、可能なことなのですか?』
『仕様上Nos.は一人につき一つ発現するように設定してあるわ。二つなんて異例中の異例。いえ、そもそも本当に二つなのかしら……』
『え?』
『マリちゃんが発現する前に発表されていたNos.の数を覚えてる?』
『え~と、確か36人……あれ?』
『そう、確認されたNos.は36人。そしてマリちゃんが発現したのはNos.38』
『37が……飛んでる?』
『もしかしてマリちゃん。アナタは3つのNos.が発現しているんじゃないかしら?』
イヴさんの発言と共に、まだ闘技場の中央にいる私にスタジアム中の視線が集まる。
アドレナリンが出まくりの試合中は気にならなかったけど、試合が終わって徐々に興奮が冷めてきた今、数万の視線を一斉に浴びて少し怯んでしまう。
「えっと……私に発現したのはNos.38とNos.39で、Nos.37のことは知りません。ごめんなさい」
嘘ではない。本当に知らないのだ。
試合の最中、イヴさんが何かを気にする素振りを見せたのは二つのNos.……つまりNos.39にも発現したことに気付いたからだと思った。けど、気にしていたのはNos.37のほうだったとは。
『そう……それならいいの。ただ……ふふっ、アハハハハッ』
『イ…イヴさん? どうしたんですか? 突然笑いだして』
会話の途中で突然、口を抑えながら笑い出すイヴさん。
あの感じだと、笑いたくなるのを必死に堪えていたけど、堪えきれずに吹き出してしまった、という風にも見える。
な、なんだろう? 私、何かおかしな事を言った?
笑いを取るような発言をしていないので、何故イヴさんが笑っているのかが理解出来ない。
それは会場の皆も同じようで、ポカーンとしてイヴさんを見ている。
『ふふ……ふふふっ。いえ、ごめんなさい。だって、まさか…………』
まさか……? 『まさか』の次に出てくる言葉が何なのか、会場中が息を飲んで見守る。
『だって、まさか、数字で惚気られるなんて思っていなかったから』
『え?』
『マリちゃんが最初に発現したNos.の数字を見てごらんなさいよ』
『38ですか? これがどうかしたので? ……あ! ハハッ、そういうことですか』
イヴさんが何が言いたいのか理解し、実況のスキュラ氏も笑いだす。
『38……つまりサーヤってことですね』
それを聞いた会場はドッと笑いの渦に包まれた。




