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静寂

「ご明察、私に発現したNos.は一つじゃない。沙耶とハナビちゃん、二つの想いで道を切り開いてみせるよ」


【桜花爛漫】は既存スキルを進化させ、更にひとつ上の強力な効果へ引き上げてくれる、スキルを進化させるためのスキルだ。


 透視は対象の弱点属性を表示してくれるが、スキル効果で無効になっている属性までは見えない。これは【金剛不壊】とて例外ではない。

 試合開始前にキングの名前を確認するために【透視】をした時に見えなかったのだから。


 だけど、【桜花爛漫】の効果で進化した【アナライズ】は普段は見えない部分までキッチリと分析してくれた。


 No.411582191892271

 Name 田中 太郎

 PC.Name タナカタロウ・キング

 Gender ♂

 Birthday 09.30

 age 11

 weapon 大剣


 マズイ。このスキルは非常にマズイものだ。

 見えちゃいけないものまで見えちゃってる。

『No.』はアカウント作成時に入力した個人番号

『Name』はリアルネーム

『PC.Name』はそのまんまPCの名前

『Gender』は性別

『birthday』は誕生日

『Age』は年齢


 ん……? 年齢……?


「って、ええ~~~!!?」

「な、なんだ、突然大声を上げおってからに」


 私の発動したスキルがどんな効果かわからずに警戒していたキングは、突然発せられた私の大声に体をビクッと仰け反らせて反応する。


「あ、ごめん……ごめんなさい」


 いや、だって、目の前にいる不敗神話を誇る絶対王者が、まさか……まさか11歳の小学生だなんて誰が予想しただろうか。


 言動や行動を見ても、とても11歳とは思えない……いや、11歳だからこそ、この喋り方なのか……何かを拗らせて。

 って、今はそれどころじゃない。早くキングの弱点を調べないと。

 他にも様々な項目があるが、不要な情報も数多く、私は不要な情報は飛ばして肝心のスキル効果の項目に目をやる。

 あった。今の弱点は……刀。


「チェンジ! 【想刀・雪月花】」

「よかろう。受けて立つ」


 もうお互いに隠し玉はない。

 ここからは小細工なしの殴り合いだ。

 もっとも私は残りHP的に、あと一撃もらえば終わる。とっくにリキャストタイムが回復しているヒーリングアローで回復しておくべきだったか。相変わらず詰めが甘いな、と後悔する。


 今からでも回復すべきか……いや、そんな事をしている暇はない。キングはもう目の前で剣を振りかざしている。

 考えるな、集中するんだ。

 これが最後の攻防になる。



「食らえっ、愚者!!」


 キングは天高く掲げた大剣を縦に降り下ろし、私を真っ二つに一刀両断しようとするも、私はサイドステップで左へ回避。

 縦切りは比較的避けやすい攻撃だから、これを初段に持ってきたのは囮なはず。二次攻撃が来る!


 左に回避した私は当然右側にある降り下ろされた剣が追撃してくるものだと警戒していたが、キングもそこは冷静だ。剣ではなく、警戒の薄い私の左側から【足払い】を発動させて、私は見事に引っ掛かり背中から地面に叩きつけられる。

 幸い相手をダウンさせるためのスキルなのでダメージは発生しないが、倒れ込んだ私は相手にとてつもなく大きな隙を与えることになる。


「死ねぇ!!」

「ひぃ! やばっ…」


 物騒な叫びと共に再びキングは大剣を降り下ろして私を切り刻もうとする。

 キングに勝つと大見得を切った直後に、こんなにもあっさり負けたら笑い者だ。


「爆ぜろ! 【零之太刀・烈花】」


 私は寝っ転がったまま刀を一太刀、想剣・雪月花の専用スキルを発動させた。

 すると、その一刀で周囲に舞った雪のように白い花が赤みを帯びて爆発し、周囲は爆発による煙のエフェクトで包まれ視界が悪くなる。

 私はその隙に寝っ転がったままクルクル回ってキングの攻撃を回避し、距離を取る。


「またしても脱出成功……だね」

「ちっ……Nos.が発現しても変わらぬ小賢しさよ」


【零之太刀・烈花】によるダメージはキングにしっかり通っており、キングの残りHPは2000/3200

 そしてそろそろ【金剛不壊】による属性が変わるタイミングだ。

 私はアナライズを使い、属性変化を見極めて武器を変化させる。


「チェンジ! 【想槍・セイントランス】」


 キングの残りHPが2000なのに対し、私の残りHPは残り50だ。

 一撃でも当てれば勝てるというこの数字がキングの警戒心を薄くさせたのか、問答無用で私に向かって走り込んでくる。


「貫け! 【ホーリーランス】」


 私は向かってくるキングに対して壁際まで後退しながら今度は想槍・セイントランスの専用スキルを発動。

 すると、私の前方の地面から無数の光の槍が現れてキングを串刺しにして大ダメージを与える。



 残り1000/3200



「ぐっ……ありえぬ。我が押されるなど……」


 ホーリーランスによる大ダメージを受けたキングは、たまらず距離を取って態勢を立て直す。


『な、なんと、闘技場始まって以来、初めてキングのHPバーが半分を切った!!』

『キングの金剛不壊は完全に割れているわ。闇雲に突っ込むだけじゃ、テクニカルな戦闘スタイルで相手を翻弄するマリちゃんの餌食になるだけよ』



 私はキングが距離を取った隙に武器を弓にチェンジする。


「チェンジ【想弓・シルフィード】。 【桜花爛漫】エンゼルアロー!」


 武器を弓にチェンジした私は桜花爛漫の効果でヒーリングアローをエンゼルアローへと進化させ、効果を引き上げる。

 先程使用した時は300程度の回復量だったが、エンゼルアローに進化させたことで倍の600HPが回復する。

 これで私のHPは650。


 油断するな、過去の油断で私はどうなった?

 執行者相手に油断から二度戦闘不能にされた過去を忘れるな。

 最後まで集中だ、集中しろ、私!


 再びアナライズで弱点を確認した私は武器を想剣・ダイヤモンドハーツに変化させ、距離を取っているキングに向けてスキルを放つ。


「舞え! 【ダイヤモンドエッジ】」


 八の字形の剣、ダイヤモンドハーツを二つに分離させ、今度は3の字のような剣が二本になり、私は一本ずつブーメランのようにキングへ向けて飛ばす。

 一発目はキングに避けられるが、二発目は避けきれずにヒットする。



 残りHP600/3200



「ぐっ……剣のくせに遠隔攻撃とは、外道が!!」


 ついに残りHPで逆転されたキングは焦りからか、猛スピードで私との距離を詰めて、最後の勝負に出る。

 アナライズでキングを分析すると、弱点は弓。


 そうか、キングは焦りから突っ込んできたわけじゃない。

 私が弓を使うなら近距離で戦ったほうがリスクが少ないと判断した最後の賭けだ。


「でも、私だって!」


 武器を弓にチェンジさせ、迫り来るキングに向けて構えた。


「3、2、1……ゼロ距離! 【桜花爛漫】サイレントアロー・極式!」


 剣を振り上げ突進してくるキングに向けて、【サイレントアロー・零式】を進化させた極式を撃ち込む。

 極式も零式と同じくゼロ距離からの射撃で最高倍率を叩き出すスキル。勝負あった…かのように思った瞬間、キングはクルリと身を翻し極式を回避して大回転斬りを発動する。


「うそ、しまっ……」


 しまった。

 突進の勢いで騙されて、そのまま突っ込んで来るものだと思っていたが、完全にこちらの行動も読まれていた。

 油断はしていないつもりだったが、フェイクに引っ掛かり、大回転斬りの一段目が迫り来る。


 残りHP650、大回転斬りのダメージは約1500。

 被弾すれば間違いなく沈む。

 後ろには壁があり、ステップを踏むことは出来ない。

 なら、飛ぶしかない。


「舞い上がれ! 【(あげは)(ちょう)】」


 私は【エアリアルアロー】を進化させ、空高く舞い上がりキングの攻撃を回避して、上空からキングへ向けて矢を放つ。

 黄金に輝く矢は一直線に対象へと向かい、派手な爆発エフェクトを引き起こした。



 何秒間の静寂があっただろうか。

 10秒、20秒、いや、30秒か。

 正確にはわからないが、それくらい長く感じる静寂だった。

 この試合を見ている実況、解説、観客、全ての者が事態を受け入れるのに時間が掛かったのだ。



 無名の新人である私、マリ・トリデンテが、絶対王者のキングに勝ったのだから。

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