超越
「これが私の想い!【変幻自在のマリアージュ】」
キングの攻撃がヒットする瞬間、私の左手薬指にはめられているエンゲージリングが輝き、光の盾へと形を変え、ダメージを軽減する。
「何事だッ!?」
突如現れたシールドにキングも戸惑いの声を挙げる。
一撃500ダメージだったエンドレスソードは、変幻自在のマリアージュの効果で具現化した盾によりダメージが激減し、50程度のダメージで抑えられた。
それでも10回攻撃中9回のダメージを受けた私の残りHPは50/4500
追い詰められている状況に変わりはない。
「……貴様も発現したというのか、Nos.を。……しかし、どうやら盾を具現化させるだけの弱小Nos.のようだな、愚者よ!」
シールドへと形を変えたエンゲージリングを見てキングは笑う。
指輪を盾に変化させるだけのスキル……一見そう見えるかもしれない。けど、その程度で終わるはずがない。だってこのNos.は私だけの想いに反応したわけじゃないから。
『マ……マリ・トリデンテ! この土壇場でNos.発現させた! イヴさん、あのNos.は一体……?』
『指輪を盾を変化させるだけのスキルに見えるけど……いえ、それよりも気になるのは……』
会場にスキュラ氏の実況とイヴさんの解説が響き渡る。
イヴさんが何を気にしているのかは分かっている。けど、今はその解説をしている暇はない、目の前の絶対王者を倒すことが先決だ。
「キング、あなたのNos.の性質が分かったよ」
「戯れ言を。盾を具現化させただけの無能が偉そうに吠えるでない」
キングは私の言葉を鼻で笑い、切って捨てると、再び剣を構える。と、そこで私に異変があることに気付き、怪訝な表情に変わる。
「貴様、武器はどうした。我は武器破壊などしていないはずだ……」
私の左手にはエンゲージリングが変化した盾【プリンセスシールド】を構えているが、右手には通常あるはずの武器がない。
つまり今の私は盾だけを装備した間抜けな状態になっている。
「武器は外しました」
「愚かな。勝負を捨てたか」
「風迅弓は私が初心者の頃から一緒に戦ってきた大切な武器だけど、今はこっち! チェンジ!【想剣・ダイヤモンドハーツ】」
私の合図と共に、今度はプリンセスシールドが形を変えて、虹色に輝く八の字形の歪な形状の剣へと姿を変えた。
「シールドが剣に……? そうか、貴様の能力は盾を具現化させるスキルではなく……」
「そう、変幻自在のマリアージュは11種類の武器を自在に使いこなすイレブンスウェポン。そして、この能力はアナタのNos.を破ることが出来る」
キングの能力は恐らく属性無効。
現在実装されている武器は剣、槍、斧、爪、弓、刀、鎌、混、鞭、杖、盾。
剣にも片手剣や両手剣、刀には忍刀や日本刀などの細かな種類はあるが、攻撃属性としては同じカテゴリーとして扱われている。
おそらくキングの【金剛不壊】は、これらの武器属性をほとんど無効化するスキルだ。
そしてダメージが通るのは一種類か二種類。一度ダメージが通った属性で再び攻撃しても無効化されたのを見るに、無効化属性と弱点属性は刻一刻と変化している。
「試合中、アナタは距離を取って対戦相手と言葉を交わすことが多々ある。それは相手を挑発する言葉だったり、演説じみたものだったり。最初は場を盛り上げるためのパフォーマンスかと思った……けど、そうじゃない。相手の装備している武器が【金剛不壊】の無効対象からハズレた時に間を取っていたんだ」
試合開始直後、キングは私の武器が無効属性の弓であることを確認し、私へと突っ込んできた。
一か八かでキングへ奇襲をかけようとした私は慌て武器を弓から大鎌へチェンジし、それが幸運にも有効属性に当てはまったんだ。だから、あの瞬間にキングは焦って緊急後退したが、追尾効果のある真空波は逃げる事を許さずに見事にヒットし、ダメージが通った。
だけど、刻一刻と属性を変化させている【金剛不壊】の効果で、次の攻撃の時には大鎌は無効属性になっていてダメージが通らなかった。
その後、私が粘りながら耐えた結果、再びキングは私から距離を取って警戒する素振りを見せた。
私は大鎌による真空波で奇襲の再現を狙ったけど、こちらはハズレ。今度は弓にチェンジしてキングへ向けて矢を射った。おそらくキングは私が弓を射る前に会話を始めたかったのだろう。
キングへ向けて撃ったこの一投は、何か意図があったわけでもなければダメージが通るとも思っていなかった。ただ、なんとなく放った弓だけど、私は矢を無効化するのではなく回避したキングを見て、今なら弓によるダメージが通ると確信を持ったんだ。
「だから不意打ち同然の乱れ撃ちを使ったんですけど、文句はないですよね。キング」
「そこまで理解していたか。ご明察……我の【金剛不壊】は武器属性無効化の能力だ。正確には貴様が指摘した武器に加えて魔法も無効化する。弱点属性は我の意思とは無関係に30秒ごとに入れ替わる」
「まるでゲームのラスボスですね……」
「ふっ、それはそうだろう。我は何者も寄せ付けぬ強さを願った。強さへの想いが、この【金剛不壊】なのだ!」
キングは改めて武器を構えて戦闘態勢を取り、私にトドメを刺すべく歩み寄る。
「愚者よ、多彩な武器を操る貴様のNos.の効果は確かに我の【金剛不壊】相手には相性がいいのかもしれぬ……だが、貴様が勝つためにはひとつ、大事なピースが抜けておる…………わかるのか? 我の弱点属性が」
そう、【変幻自在のマリアージュ】の効果でキングの【金剛不壊】の効果外である弱点属性に合わせて武器を変化させていけばダメージは通り、キングも今までのような被弾を恐れぬ特攻は出来ないだろう。
しかし、刻一刻と移ろい変わる肝心の弱点属性がわかるのか、キングが言っているのはそういうことだ。
「答えはyesだよ。さぁ、決着をつけよう、キング! アナタの敗北という形で!」
私は、とあるスキルと共に【透視】を発動させる。
「狂い咲け! 【桜花爛漫】アナライズ!」
すると今度はハナビちゃんからもらったペンダントが輝きだし、【透視】は【アナライズ】へと名前を変えて、私の顔面にゴーグルが現れ、相手の情報をより深く分析し始める。
ソレを見たキングは一瞬の静寂の後、足を、手を、震わせ、動揺した様子で私に問いかける。
「待て、待て愚者よ!!! 我はそのようなスキル、見たことも聞いたこともないぞ…………まさか、まさか貴様……!!」
そしてキングと同時に解説のイヴさんも声を上げる。
『――まさか、マルチNos.だとでも言うのかしら、マリちゃん』




