開花する才能
スキュラ氏の実況を皮切りに観客が叫び、沸き、耳に響く。
歓声が向けられた先はキングじゃない、私だ。今度は確かに私へ向けられた歓声なんだ。
私は右手をグッと握りしめると空高く突き上げて歓声に応える。
それを見た客は更に盛り上がって闘技場は地鳴りのような歓声に包まれた。
(これが……闘技場なんだ)
「まさか愚者に傷をつけられようとはな……」
開始直後はキングの特攻を回避するためにバックステップしろとクイーンからアドバイスを受けていたけど、いきなりセオリー外の行動に出てしまった事を心の中で詫びながら、キングを見据える。
ダメージを受けたキングは多少動揺があるようだ。畳み掛けるなら今……!
「もう一度ッ!!」
マリの【真空波】が発動 → タナカタロウに 0 のダメージ
「甘いわ! まぐれは二度起きぬ!!」
キングの【大回転斬り】が発動 → マリに 1500 のダメージ
キングは巨大な大剣をぐるりと一回転させて勢いそのまま私に攻撃がヒットする。
止まることなく、そのまま二回転目が迫りくるが、私はバックステップで、剣が触れるか触れないかギリギリのタイミングで攻撃範囲外へ脱出した。
大回転斬りはダメージも大きいが隙も大きいスキルだ。
回避した私は、その隙に武器を大鎌から弓に可変させ、先日習得したばかりのスキル【ヒーリングアロー】を使い、自身を回復する。空に放たれた光の矢が恵みの雨のように降り注ぎ、虹を作って私の体力ゲージが微量回復する。
マリの【ヒーリングアロー】が発動 → マリのHPが 300 回復
被ダメージの半分も回復しないか。
ヒーリングアローは魔攻依存だから、魔攻を完全に切り捨てている私とは相性が悪いかもしれない。
魔攻といえば……キングは魔攻も攻撃力と同等の数値なはず……距離を取っても安心出来る相手じゃない!
なんて思った時には既にキングによる魔法詠唱は始まっており、すぐさまファイヤーボールが勢いよく飛んできた。
「やばっ…!」
「休む暇など与えぬわ! 愚者!」
回避は厳しいが、再び1000近いダメージをもらっては厳しい。
ファイヤーボールは一直線に私に向かって飛んできて、ド派手な爆発のエフェクトが起こる。
『キング怒涛の波状攻撃でマリ・トリデンテを攻めたてる!!』
「やったか!?」
「翔べ! 【エアリアルアロー】」
私は爆発によって舞い上がった粉塵の中から上空へジャンプしてキングの上方からエアリアルアローを発動する。
マリの【エアリアルアロー】が発動 → タナカタロウに 0 のダメージ
『あーっと、ファイヤーボールが直撃したかと思われたマリ・トリデンテ、なんと無傷!』
私はいつも通りの緊急回避でキングの攻撃を凌ぐ。
私が持ち込んだアイテムは【石材】。影縫いを使用すれば回復アイテムを使える余裕があるかもしれないが、私はあえてクラフト素材の石材を選んだ。
この選択は正解だったはずだ。おそらく影縫い中は魔法を使って遠距離攻撃をしてくるので、回復アイテムを使うよりもクラフトで石の壁を作ったほうが比較的安全なはず。
『可変武器による奇襲の次はクラフトで防御壁を作っての奇策!! これはファンタジスタ…いや、トリックスターとでも呼ぶべきか! 今までに見たことがない戦い方でキングに食らいつく!』
なんとか回避はしたけど、最初の大鎌による攻撃以来ダメージが通らない。
もしかして【金剛不壊】は常時発動型ではなく、開始直後はキングが発動し忘れていただけとか……いやいや、ランキングトップがそんなミスをするわけがない。
キングは止まらずに、今度は大剣を振りかざしてくる。
私は頭上から振りかざされた一撃目をサイドステップで回避、大振りの隙に攻撃するもダメージが通らず、更にバットのように振り回された次の一撃もバックステップで回避して、最初にダメージが通った時のように武器を可変させてから攻撃、しかし0ダメージ。
そしてついに三回目にして壁際に追いやられ、逃げ場を失い被弾する。
タナカタロウの攻撃 → マリに 800 のダメージ
痛い……痛覚があるわけじゃないから本当に痛いわけじゃないけど、ダメージ量が痛すぎる。
その後、私は何度かキングに向けて弓を射るがダメージは0、キングが前に出てきた所を狙って大鎌で攻撃をするが、こちらもダメージは通らない。
キングの魔法攻撃は石の防壁で、近接攻撃はステップで回避するが、ジリジリと追い詰められて結局被弾してしまう。
タナカタロウは【大回転斬り】を発動 → マリに 1500 のダメージ
私の残りHPは1000/4500
キングの残りHPは2640/3200
「30秒も耐えれば上出来と言われた愚者が3分も耐えたか。だが、いよいよ終わりのようだな」
キングは再び近接攻撃で私を壁際に追いやると、大回転斬りの構えに入る。
大回転斬りはサイドステップで回避してもリーチが長く追撃されるのが目に見えてる。ならばバックステップで後ろに下がり距離を取りたいが壁際に追いやられている今の状況では下がるに下がれない。横も後ろも無理なら、玉砕覚悟の特攻で前に出るしかないのか……いや違う。私の取り柄はそんな投げやりな戦法じゃなかったはずだ。
「王手!」
叫んだキングは手にした大剣を勢い良く振り回し、大回転斬りを発動する。
私の残りHPとキングの大回転斬りのダメージ量を考えると、この攻撃を受けた瞬間ゲームセットだ。
だけど、まだ諦めたくない。
「逃げ道は作ればいい!」
私はクラフトで石の階段を造り上げて登ると、大回転斬りの直撃と共に階段からジャンプしてキングの背後へ脱出する。
大回転斬りの直撃を受けた階段は粉々になるが、私はなんとか生き延びることに成功した。
『終わりかと思われたマリ・トリデンテ、またもや機転を利かして窮地を脱出! 』
「ちょこまかとわけのわからん戦略を立ておってからに!」
脱出成功したはいいいが、ここからどうすべきか。
キングは既に剣を構えて勢い良く私に向かってきている。
頭上から振り下ろされる縦斬りはサイドステップ、横斬りバックステップ、下から角度をつける斜めへの斬り上げは体を反らして回避。
やばい、さすがに限界……。
トッププレイヤーであるキングの攻撃を回避し続けるには、とてつもない集中力が要求される。試合開始から5分程度経過しただろうか、私の集中力も限界に達しようとしていた、その時だった。
(キングが……止まった)
キングは連続攻撃を中断して、私から少し距離を取る。
キングも集中力が切れたから一息つこうと…? いや、確か試合開始直後も距離を取ろうとして……なら、今しかない!
「切り裂け!【真空波】」
マリは【真空波】を発動 → タナカタロウに 0 のダメージ
私は先程ダメージが通った状況を思い出して【真空波】を発動させるも、ダメージは通らない。魔法を唱えるために距離をとっただけか?
「チェンジ! 風迅弓」
わざわざ近付いて追撃するメリットがないと判断した私は大鎌を弓に可変させて遠距離攻撃を試みるが、キングはサイドステップで私の弓による単発攻撃をあっさりと回避する。
「愚者よ、いい加減諦めたらどうだ」
「……」
「喋る気力すらないか。我に一矢報いただけでも称賛に値するであろう。これ以上何を求めるというのだ」
「…………」
「結局、我の【金剛不壊】を見破れずに、ひたすら逃げるだけではないか。長引けば長引くほど醜態を晒し、客も飽きようぞ」
キングは喋り続けているが、私は先程のキングがとった行動に違和感を覚え、喋り続けているキングへ不意打ち同然に矢を放つ。
「降り注げ!【乱れ撃ち】」
「っ…! 人が喋っている最中に、この愚か者が!」
私のスキル発動を見たキングは慌て回避行動を取るが、降り注ぐ矢の雨を全て回避するには至らず一発だけ被弾を許す。
マリは【乱れ撃ち】を発動 → キングに 200 のダメージ
『なんとなんとマリ・トリデンテ、キングに対して二度目のヒットを奪う!』
ダメージが……通った!
けど、喜んでいる場合じゃない、ダメージが通る今がチャンスなんだ!
「翔べ!【エアリアルアロー】」
空中からのエアリアルアローは避けられるが、そのまま空中で回転しながら落下してキングの背後へ着地する。
「吹き飛べ! 【サイレントアロー・零式】」
「甘いわ!!」
「なっ…! 避けられた!?」
ゼロ距離からの射撃はそう簡単に避けられるものではない。ましてや私は今日ここまでサイレントアローを一度も見せていない。ここぞの勝負どころで使うと決めていたからだ。
それを避けたんだ、キングは。
「チャンスと見て踏み込んできたようだが、不用意であったな、愚者! 地獄を見せてやろう!【エンドレスソード】」
キングの大剣が神々しく光り、怒涛の連続攻撃が始まる。
エンドレスソードは合計10回の連続斬りを高速で仕掛ける多段攻撃。大剣の最上位スキルだ。
真っ直ぐに突きだされた一段目は回避、そのまま横斬り繋げた二段目は避けきれずにヒット、500ダメージを受ける。斜め上から三段目が襲いかかってくる。攻撃速度は思いのほか速く、タイミング的に回避は出来ない。
終わる
瞬間、そう思った。
一矢報いた、善戦した、よくやった。だから、もう終わりでもいい。
自分に言い聞かせるように思う。実際観客の声も似たようなものだった。
試合開始前は負けて当たり前だから、負けてもいいやって……。
でも違うんだ
勝ちたい
絶対に勝ちたい
芽生えた想いにウソはつけない
思い描いた未来を掴み取るんだ
― skill No.38 ―
【変幻自在のマリアージュ】




